今回はハンコ出社をめぐるデジタルトランスフォーメーションをテーマに解説していきます。
ここでは、
- 今回のハンコ出社騒動から脱ハンコに至るまでの経緯
- ハンコ普及の歴史的な背景と日本のハンコ偏重文化の経緯
- これからの「ハンコ」の行方
という流れで解説していきます。
「ハンコ」の終わりの始まり
そもそも「ハンコ」の現状はどのようになっているのでしょうか。
また、「ハンコ出社」が社会問題として取り上げられています。この問題とハンコ廃止についての流れを解説します。
ハンコ出社が社会問題に
新型コロナウイルス感染拡大を背景にテレワークという働き方が急速に進むなか、4月7日に「緊急事態宣言」が発令されてもなおハンコのための出社を余儀なくされ、日本独特の「ハンコ文化」がテレワークを阻む壁となっています。社内文書をいくら電子化しても、契約書や請求書に押印するためには出社せざるを得ない状況があるからです。
このような現象を「ハンコ出社」と呼ばれ、現代の社会問題として取り上げられました。
ハンコ出社の現状
ペーパーロジック社が実施したアンケート調査によると、44.8%の会社員が緊急事態宣言下においても、契約書や稟議書等への押印のために1回以上会社に出社をしていることがわかっています。
ハンコ廃止の流れが加速
このような状況を受け、GMOインターネットの熊谷正寿社長は4月15日、Twitterで印鑑の完全廃止を宣言、電子契約のみとする旨を公表しました。
同twitterのコメント欄でグロービズの堀義人氏も印鑑の完全廃止を追随するとコメントしており、さらにはフリマアプリのメルカリは取引先との契約で押印ではなく、権限者の署名や電子署名などに切り替える方針を発表しています。
政財界でも、経団連の中西宏明会長は4月27日、「ハンコはナンセンスで、デジタル時代に合わない」と述べています。安倍首相も同日の経済財政諮問会議においてデジタル化に向けた法制度や慣習の見直しを指示しました。
上記のように、新型コロナウィルスが拡大している状況下でのハンコ出社問題を受け、官民ともにハンコ廃止に向けた流れが始まりました。
ハンコ廃止に反対している層
一方で、ハンコ廃止に反対している層もおり、ハンコ業界とハンコが正式な手続きには必須と信じて疑わない一般の層となっており、ハンコ廃止への抵抗勢力となっています。
ハンコが必須かどうかを考えるためには、そもそもどうやってハンコ文化が根付いたのかといった歴史的な背景を振り返ればよいのです。
次の章では、ハンコ文化の歴史的な背景について振り返ります。
ハンコの歴史的な背景【当時は合理的な手段だった】
ハンコは、さかのぼると紀元前7000年ごろの古代ギリシアでそれに類する文化が存在しています。日本では、西暦57年に中国から贈られた金印(漢委奴国王印)が最古とされており、当時は押印するものではなく外交における贈答品だったようです。
日本でハンコが実用として庶民に広まったのは江戸時代に入ってのことで、町人は売買契約や借金などでハンコが必要となり、現在と同じように役人に印鑑証明を届けなければならなかったのです。
しかしながら、本人認証における日本の伝統は必ずしもハンコだけではなく、むしろ花押(かおう)と呼ばれる崩し文字のサインの方がハンコよりも当時は一般的だったようです。
ハンコはなぜ必要だったのか
こうした歴史のおいて、現在のハンコ文化の大きな転機となったのが明治時代のハンコ論争です。これは公文書などの認証において、ハンコを使うかサインを使うかという論争です。
これまではサインの方が一般的だったのですが、一転してハンコが認証ツールとして採用されました。
当時の識字率が今ほど高くなく、かつ大量の処理が必要だった(株券など)という時代背景もあり、サインよりも簡便なツールが必要だったからです。
現代ではハンコは意味をなさない
しかしこれらの理屈は現代ではまったく通用しません。現在は、ほとんどの人が読み書きはできますし、技術革新によりわざわざ紙面上で認証する必要もありません。
また、ハンコに関して、当時では起こりえないような偽造リスクも高くなっており、印影のコピーも容易ですし、同じようなものが安価に手に入るハンコはもはや本人認証の意味をなさなくなりました。
現状としては、形式的に必要とされているだけです。
ハンコ偏重文化の経緯
そもそもハンコ偏重文化はどのようにして生まれたのでしょうか。
日本のハンコ偏重文化の一因
日本のハンコ偏重文化の一因となったのは1964年の最高裁の判例があります。この判例では、「私文書に本人の印鑑があったら、その押印は本人の意思によるものと推定する」とされました。
判例の拘束力は強く、実際にこの判決以後、手続きや契約に本人の印鑑があると「本人が自分の意思で関与した」とみなされるようになっています。
日本の民法上のハンコの意味
民法などさまざまな法律上では、ハンコに次の意味を持たせています。
- 真正さがあること
- 文書完結であること
また、法人は民事の定めにのっとり、印鑑証明と印鑑で実在証明にしています。
海外との違い
そもそも海外ではハンコはなく、契約にはサイン(署名)が使われます。前出の経団連の中西会長も「ハンコ屋さんには怒られるかもしれないが、私は海外生活も長かったのですべて署名でいい」「電子署名でもいい。ハンコは美術品で構わない」と述べています。
「ハンコ」は手段に過ぎない
真正さの証明は必要ですが、それを証明する手段として「ハンコ」でなければいけない理由はどこにもありません。
現在は、ハンコの偽造や不正利用は容易にできてしまうため、ハンコは特殊な「意味」を持たされただけの形骸化した仕組みでしかないと考えています。
「ハンコ」が担っていた認証機能のこれからの行方
現在では、法律が整備されており、契約書を電子署名で真正さを証明することは既に認められています。
遺言書など一部の文書を除けば、大部分の文書は既にハンコである必要はまったくありません。
そもそも認証に求められる機能は「真正性の担保」と「改ざんリスク・不正利用リスクの回避」ですので、そういった意味では現代では電子署名の方がハンコよりは適切といえるではないでしょうか。
コロナ禍では「ハンコ」のデジタルトランスフォーメーションは急務
民間企業と同様、国にとっても、省コストできるデジタルトランスフォーメーションは急務であり、「Stay Home」がコロナ対策の一つとされるコロナ禍においては、ハンコ出社をはじめとするテレワークの障壁となる仕組みは取り除く必要があります。
次の章で、ハンコ出社を具体的に回避する方法についてご紹介します。
ハンコ出社を回避する方法
ではハンコ出社をどのように回避すればいいのでしょうか。
方法:電子契約サービスを利用する
電子契約サービスとは、合意したい書類をあらかじめクラウド上に保管しておき、両者が「合意」のアクションをすることで「電子署名」と「タイムスタンプ」を書類に付加してくれるという仕組みのサービスです。
メリット
- コストがあまりかからない
- スピーディーに契約事務を進める
- 契約済みのファイルをクラウド上で保管ができる
おもな電子契約サービス
おもな電子契約サービスに次のようなものがあります。
- BtoB プラットフォーム 契約書(インフォマート)
- クラウドサイン(弁護士ドットコム)
- Agree(GMOクラウド)
- DocuSign(DocuSign)
- Adobe Sign(Adobe)
- NINJA sign (サイトビジット)
- セコムあんしんエコ文書サービス(セコム)
- 電子契約サービス(アイテック阪急阪神)
- リーテックスデジタル契約サービス(リーテックス)
- クラウドスタンプ(E-STAMP)
- ペーパーロジック(ペーパーロジック)
この中でも弁護士ドットコムのクラウドサインは2019年5月時点で80%のシェアを誇っております。
とはいえ、まだ1%ほどの企業しか電子契約サービスを利用していない状況を踏まえると、まだまだシェアの巻き返しが起こる可能性はあるといえます。
まとめ
今回はハンコ出社をめぐる「ハンコ」のデジタルトランスフォーメーションというテーマでご紹介しました。
実際のところ、私は今回の問題の本質は「ハンコ」ではなく「80年代から変わらぬ紙文化」の方だと考えています。日本ほど経済規模の割にデジタル化が遅れた国はありません。「ハンコ」をはじめ、非合理なものがコロナ対策としてのテレワークの壁になっているのであれば、早急に運用を変えるべきです。
日本政府としても「ハンコ」を認証機能とする慣習の変革を求めています。また、今回のコロナ情勢は長期化することが予想され、このままハンコ出社を続けるわけにもいかないのではないでしょうか。コロナ情勢に適応するためにも、電子契約サービスなどの新しい認証の仕組みを活用して、ハンコ出社のない完全なテレワークを実現してみてはいかがだろうか。
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記事執筆・編集:中條 優
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