登壇者プロフィール
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)にて販売促進や顧客戦略を担当後、ソニーのIT部門に入社し、製版物流の戦略を担当。独立後は大手企業の新規事業開発やネット戦略を行う。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科創設時に社会人として入学し、初代首席で修了。同大学院の研究員として次世代産業の研究を行いつつ、地域活性に特化した事業をスピンオフさせてオークツ株式会社を創業。全国で産学官金プロジェクトを企画。
1969年、大阪府生まれ。甲南大学法学部を卒業後、広告代理店の営業部長を経て、2000年にインターネット広告を手掛けるアイブリッジ株式会社へ入社。
2007年9月、アイブリッジ株式会社、アドデジタル株式会社、アカラ株式会社、ブランド総合研究所という4つの会社を束ねるグループ会社へと成長した同社の社長を辞し、株式会社コミクスを設立し、代表取締役社長に就任。
大企業における地方創生のトレンドとは?
大企業の地方創生はどのように行っているところが多いですか?
我々は大学の研究員でありつつ、アカデミックに地域活性を行っているチームです。
これまでは、課題解決というアプローチで大企業が地方へ行っていたと思います。ですが今一番多いものは「企業自身のサービス・商品がそもそも地方や世界に実際に適しているかを実証し、本当に自分のサービスが役立ってるかを検証したい」というアプローチです。
今までは自分の商品を通じていかに地方を活性化させるかが主でしたが、逆になってきた点が新しいトレンドですね。
新しいですね!
例えば、今沖縄の国頭村で我々は道の駅を運営しているのですが、5Gどころか4Gすら入らないという場所でNHKと実証実験を行っています。
NHKでは、大容量のインターネットサービス展開の準備をしています。そういったものは渋谷や東京など都市部での大量データかつ恵まれてるところで開発したがると思いますが、それを実際に地方に持って行った時に本当に使えるサービスなのかが分からなかったりするんです。
また日本郵便とエシカル配送のサービスを今準備していて、その実証実験をしています。CO2削減のプロジェクトを全世界、地方も含めて進めようとした時に、本当に沖縄のような移動距離が長いところで CO2コストをそのまま乗せてしまっていいのか。地方創生といいながら国が進めているCO2削減というのは、結果的に地方を切り捨ててしまうことにならないかという問題があります。
パラドックスが起こる可能性があるわけですね。
そうです。実際にはCO2コストが増えてしまうわけですから。
「SDGsをやろう、誰一人取り残さないようにやろう」と言いながら、自社の商品を利用することで、地方や弱者を切り捨てるという可能性が出てきてしまう。
そこを地方のフィールドで実際に使ってもらって本当に地域の活性化ができるのか、 あるいは地方でもサービスを使ってもらえるのかをきちんと実証しましょう、というプロジェクトが最近増えてきています。
若手のベンチャーや投資家の方からお願いされている例だと、そのベンチャーが考えているサービスが本当に長く続くのかという検証があります。
東京だけで設計したサービスを地方に展開すると絶対に穴がありますよね。セカンドラウンドに行く前に地方も含めてサービスが回るのかを実証しようとか、海外も含めて展開する時に地方という自動車社会であり、高齢化社会である厳しいフィールドでストレステストし実証しようという案件が増えています。
実際にそれを使ってみて検証した結果、「地方を切り捨てることになってしまう」というようなこともありますか?
結構ありますね。一番有名なのが ITサービスです。
地方はお年寄りが多いので、スマホでないと利用できないサービスはそもそもが使えません。
スマホに対するリテラシーが低いということもありますよね。
デジタル庁などが「スマホを使える人を増やそう」という発想になっています。ですが高齢者は「今さらスマホなんかやらないよ」という人が一定の割合でいらっしゃいます。その方をどうするのかというところが抜けていますね。
SDGsを宣言ではなく実行するという過程において、大企業や投資を呼ぼうとしてるベンチャーなどが一度、地方という場所でストレステストをきちんとします、あるいは誰一人取り残さない設計ですよと言ってみようという、案件が増えています。
これらが今大企業のアプローチでもちょっと変わってきたなと思っています。
きちんと利用者を見ようという流れになっているのですね。
例えばデータがたくさんある都心部で開発したけれど地方は見ていなかった。実際にそれが本当に地方にとって役に立つのかという実証実験をしたら、意外と役に立っていないという生々しいデータが出てきているんですね。
上から目線で「俺たちのサービスで地方創生を!活性化を!」と言っておきながら全然使えない、ということもあります。特に IT企業はSDGsのリアルをきちんと理解した方がいいですね。
企業版ふるさと納税プロジェクトのきっかけは?
地方創生に企業としてどう取り組めば良いのか分からないこともあると思います。
このあたり福井さんにお聞きしたいのですが、今企業版ふるさと納税が進んでいると聞いていますがいかがでしょうか?
企業版ふるさと納税のプラットフォームは、もともと大江さんの研究チームでプロジェクトを行っていました。 自治体に入り込んで、その自治体の課題解決をしていくようなプロジェクトをたくさん立ち上げた体験がありました。
もう少し広い範囲で見ると、自治体には地方再生計画という多くのプロジェクトがありまして。ふるさと納税の大義でいうと、企業のESC投資にもつながっていくと思います。
ただ企業側から見た時に「自治体の課題、地方再生計画が選択できる状況にあるのか」というとなかなか選択できる状況にないということがあります。そこを可視化し、企業側でも「どの自治体の課題に対して寄付していくのかをつなげていこう」ということが、もともとの弊社のサービスのふるさとファンディングのきっかけでした。
その延長線上で見えてきたところで言うと、その企業におけるESCにおいて「ソーシャルに対してどのようなことができるのか」「環境に対してはどうか」というところでSDGsにも近いものがあると思います。
ですが組織として、企業として何ができるのかという課題が見つけられていない、何をしたいか分らないという企業が非常に多いのではないかと思っています。
実際そうですよね。
そこを具体的にコンサルティングサービスとして行なっているのが、ふるさと納税ファンディングの内容です。
マーケットとしても 3.3倍ほど伸びてる状況なので、企業側も自治体側もますます活用が広がっていくと感じています。
企業の地方創生への取り組みの浸透度
上場企業のIR情報には、ESG銘柄やSDGs関連のことは必ず書いてありますよね。
企業版ふるさと納税も踏まえて、企業の地方創生への取り組みはどの程度浸透していると感じていますか?
まだまだですね。正直言うと企業版ふるさと納税に関しても、去年ぐらいからアフターコロナの中でようやく始まり出しました。
大きな声では言えませんが、とある大手銀行さんと話をしていたら、特定の自治体に納税してしまうと他の自治体から「何でうちはやらないんだ」と、クレームになるかもしれないからできないということがあるようです。
難しいですね。
なかなか浸透していないもう1つの理由には、事業部ではないということがあります。
企業版ふるさと納税の担当はコーポレートです。コーポレートが納税行為を通じて寄付をしないといけないので、事業部マターではなく担当は社長室などになります。
そういった背景から去年は企業版ふるさと納税の立ち上がりが遅かったのですが、今年は雰囲気が変わっています。
ふるさと納税は寄附行為です。そうするとESGレポートをする時に、環境とガバナンスについては自分たちでどうにかなります。ですが「ソーシャルにどうあなたが貢献しましたか」というところがなかなか企業は発表できなかったというのがあります。
今回の企業版ふるさと納税は、納税したら自治体から感謝状がもらえます。あるいは自社の関連するマーケットのプロジェクトを指定して寄付することができます。
例えば畜産業の支援で、ミート系の会社が畜産業界のエシカル化というカーボンニュートラルな牛を作ろうというプロジェクトに寄付をします。その寄付を通じて、「環境をケアしながらお肉を売っています」と言えます。
なるほど。
企業版ふるさと納税は9割が控除できます。例えば 1000万 寄付しても事実上100万ぐらいしか キャッシュアウトがないわけです。でも寄付行為は1000万円分しています。
IR的にはこれだけの金額を寄付しましたということもPRでき、かつ自治体として一緒にやったコラボレーション案件として名を残すことができます。
そういった意味では、いわゆる株主や消費者の方々に分かりやすく、自社の商品や自社の商品に関連する市場に貢献してるというのが言いやすくなっています。急激に評価が上がってきたアプローチです。
だから最近、上場企業で「企業版ふるさと納税やっています」とIRに載せているところが増えているのかもしれませんね。
ESGレポートに入れたいということがあるようです。
そこだけで海外の投資家からの評価も上がりますしね。
結局レポートを出さないと評価が付かないですからね。今はどの企業もS(ソーシャル) の部分だけ弱すぎると思います。
自治体連携案件は予算の都合上、年1回しか回らないのでそう簡単に動きません。そうすると、では今月から、来月から、今年度からとか言ってもなかなか難しい。
その時に今期黒字で終わりそうだというのであれば、うまくこれを活用して「地方にこんな貢献しました」で終えることが決算を迎えた企業にとっていいのではないか、という議論が今出てきているところです。
withコロナにおける地方の影響は?
コロナ禍において、それまではインバウンドが日本経済の中でかなり大きな要素をしめていましたがピタッと止まりました。
今後、日本国自体が発展していくためには内需をあげていかなければなりません。その時に地方創生を推し進めていきたい、ということは各方面で政府や自治体も発表しています。
コロナが起きたことで、その地方創生は加速しましたか?それとも逆に止まっている感じでしょうか?
2つありまして、1つは体力がないところは今回感じていました。具体的に言うと高齢者の方がやっていたところですね。これは負の側面で、コロナを機に商売を畳んでしまったところが多くありました。本来であれば事業承継でノウハウをきちんと地域に継承する必要がありましたが、それをやる間も無く今回の景気を受けて店を閉じてしまった。老舗の旅館さんやレストランさん、町工場などですね。ノウハウの継承という意味においては大きな痛手でした。
倒産件数はデータが発表されますけど、廃業件数は発表されませんよね。
実は休業が多かったです。
一方で新規の参入が結構ありました。今まで旅行業をやっていなかった、あるいは地域に貢献していなかった人達やIT企業などが入ってきました。
そういった意味では、よくも悪くも新陳代謝が起きたなという感想です。
企業と地方をつなげる共通項とは?
話題を変えますが、大企業も踏まえて お金・情報・人という3軸で地方創生はどういう流れになっていますか?
地方で言うと都心部より情報がなかなか入ってこない、そもそも財源もあまりない、適切な人がいるけど 働き口がないという問題もあると思います。
その辺りの流れをスムーズにして行かないとうまく回らないと思いますが、どうすれば大企業が考える地方創生がうまく回るでしょうか?
地域課題解決で非常に重要だと思っていることは人・金・物(サービス)です。地方では地域再生計画という、国で言うところの骨太の方針をまとめています。その中でSDGs対応は地方をあげて取り組んでおり、企業側も実はSDGs対応やESGアクションをあげています。ここでようやく地方と企業において共通のワードが出てきました。
今までは企業が自治体へどうアプローチしていいか分からない、自治体も特定の企業を贔屓できず、企業とどう接点を持てばいいのかが分かりませんでした。
お互いに分からない同士だったのですね。
今回国連が掲げたSDGsやESGのキーワードは、お互いの共通項を探るきっかけになったと思っています。
例えば農業系の部署であれば、農林系のナンバー15番「森林を守ろう」があります。そこで林業の企業がこの林業のプロジェクトを通じて、地方と連携することができます。
副業支援の形で人を派遣したり、企業版ふるさと納税を使ってお金で寄付したり、あるいはサービスで寄付もできるのでサービスを使って地域に役立ちます。その過程を通じて自社の商品も鍛えることができる。
SDGsやESGを1つのキーワードにしながら、地方に入り込んでいく、地方で自社の商品を磨いていくということが、1つのキーになってきたのが今の流れかと思います。
企業と地方自治体が、SDGsのこの17の項目を接着剤にピタッとハマったということですね。
これがなかったので、今までESGと言われてもなかなか共通点がなかったのだと思います。サービス1つとっても、部署に持っていく共通の話題がなかったわけです。
ESGを切り札にしながら、企業やベンチャーが地域にアクセスしていけると思います。地方に企業がアプローチできるようになってきたことは、1つ大きな流れなのかもしれませんね。
企業版ふるさと納税におけるコンサルティングの必要性
企業版ふるさと納税についてどういうことをしているか、使用感など教えてください。
私たちがしている企業版ふるさと納税は、SDGsの17のルール、設定ごとにプロジェクトを探せるようになっています。
例えば1番を押すと1番に紐付いたプロジェクトが出てきて、そこから各自治体の再生計画を確認、寄付するかしないかが選べるようになっています。
また、ただ単純に寄付の可否だけでなくその前後の動きがあります。自治体においては、そもそも地域再生化計画のどれをプロジェクト化するのか、そのプロジェクトをどのような見せ方で市場に浸透させていくかという面でのサポートも必要です。
それは企業さんも同じです。今どのような課題があるか、それに対してどのようなメニューと紐付ける必要があるかというところです。
そのプロジェクトのコンサルティングをしていくサービスをしています。
例えば「企業で地方創生をやりたいと思っているけれど、どこから手をつけたらいいか分からない」または「自治体で企業との取り組みでいまいちうまく進んでいない」などの場合は、どちらに相談したらよいでしょうか?
補助金ポータルの中の、ふるさとファンディングのサイトに相談フォームがありますので、そこで相談していただければそれぞれ対応しています。
さいごに
最後に一言ずつ大江様と福井様からお願いします。
大企業はやろうやろうとしながらも、なかなかアクションにつながっていないと思います。今日お話したようにSDGsを担当してる部署と連携すればやりやすくなってきました。
オークスという会社は実は大学が作った大学ベンチャーでアカデミックな会社でもあります。
そういったアカデミックなアプローチができるところと連携しながら、実りある地域活性をしっかりと回していったらいいなと思いますので、ぜひアクセスしてください。
補助金ポータルについても話をさせてください。
地方創生、 地方活性化という立ち位置の中でも、この7月8月9月は補助金が使える年度の最終スケジュールに来てるタイミング です。
その中で地方のみなさまに活用できる二次公募や、新たに補正予算が組まれているところもありますので、ぜひ有効的に活用していただければと考えています。
今日はありがとうございました。
まとめ
『地方創生サミット2022』5日目
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