衛星インターネットとは？仕組みをわかりやすく解説
衛星インターネットとは、その名の通り、宇宙空間に浮かぶ人工衛星を経由してインターネットに接続する通信サービスのことです。従来のインターネット接続方法である光回線やモバイル回線（4G/5G）が、地上のケーブル網や基地局を利用するのに対し、衛星インターネットは空を通じてデータをやり取りします。これにより、地上インフラの整備状況に左右されず、広範囲でインターネット環境を構築できるのが大きな特徴です。
自宅やオフィスに専用のアンテナ（送受信機）を設置し、そのアンテナが上空の人工衛星と通信。人工衛星は受け取ったデータを地上のインターネット網に接続された「地上局（ゲートウェイ）」へと中継し、逆に地上局からのデータをユーザーのアンテナへ送り返すことで、双方向の通信を実現しています。
人工衛星を利用して通信するインターネット
衛星インターネットの仕組みは、以下の3つの要素で成り立っています。
- ユーザー宅のアンテナ（ユーザーターミナル）：データを送受信するための、お皿のような形をした専用アンテナです。空の開けた場所に設置します。
- 人工衛星：宇宙空間でユーザーのアンテナと地上局の間を中継する役割を担います。いわば「宇宙のルーター」のような存在です。
- 地上局（ゲートウェイ）：地上のインターネット網と接続されている大規模な基地局です。人工衛星からのデータを受け取り、インターネットの世界へと繋ぎます。
通信の流れを簡単に説明すると、以下のようになります。
【ユーザーからインターネットへの通信（上り）】
自宅のアンテナ → 人工衛星 → 地上局 → インターネット網
【インターネットからユーザーへの通信（下り）】
インターネット網 → 地上局 → 人工衛星 → 自宅のアンテナ
この一連のデータのやり取りを高速で行うことで、私たちはウェブサイトの閲覧や動画のストリーミングなどを楽しむことができるのです。
従来の衛星通信との違いは通信速度と遅延
「衛星通信」と聞くと、「速度が遅くて不安定」という昔のイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、近年の衛星インターネットサービス、特に「低軌道衛星」を利用したサービスは、従来の衛星通信とは性能が大きく異なります。
その違いは、利用する人工衛星が地球からどれくらいの高さ（軌道）を周回しているかによります。従来の衛星通信は主に「静止衛星」を、新しいサービスは「低軌道衛星」を利用しています。
新しい低軌道衛星を利用したサービスは、地球との物理的な距離が短いことで、データ通信の往復にかかる時間（遅延・レイテンシ）を劇的に短縮し、光回線に近い快適な通信速度を実現しています。これにより、これまで衛星通信では難しいとされていた高画質な動画視聴やビデオ会議などもスムーズに行えるようになりました。
光回線が引けない場所でも利用できるのが最大の特徴
衛星インターネットが最もその価値を発揮するのは、光回線などの有線インターネットが利用できない環境です。山間部や離島、あるいは都市部であっても物理的にケーブルの引き込みが困難な場所では、これまで快適なインターネット環境を諦めざるを得ないケースが多くありました。
しかし、衛星インターネットは宇宙の人工衛星を経由するため、物理的なケーブルを必要とせず、空が開けていてアンテナが設置できる場所であれば、原理的に地球上のどこでも高速インターネットを利用できます。光回線の提供エリア外であることや、回線引き込み工事ができないといった理由でインターネット導入を断念していた方々にとって、衛星インターネットは画期的な解決策となるのです。
また、この特徴は災害時にも大きな強みとなります。地震や台風などで地上の通信インフラが寸断されてしまった場合でも、衛星インターネットは影響を受けにくく、重要なライフラインとしての役割を果たすことが期待されています。
衛星インターネットを利用する5つのメリット
衛星インターネットは、従来の光回線やモバイル回線では解決が難しかった課題をクリアする、多くの魅力的なメリットを備えています。特に、利用できる場所の自由度や災害時の強さは、他の通信手段にはない大きな利点です。ここでは、衛星インターネットを導入することで得られる5つの主要なメリットを詳しく解説します。
山間部や離島など提供エリアが広い
衛星インターネット最大のメリットは、光回線などの地上インフラが整備されていない場所でも高速なインターネット環境を構築できる点です。地上の基地局やケーブル網に依存せず、上空の人工衛星と直接通信を行うため、物理的な制約を受けにくいのが特徴です。
これまでインターネットの利用を諦めていた、あるいは低速な回線で我慢していた以下のような場所でも、快適な通信が可能になります。
- 山間部の集落や一軒家
- 電波が届きにくい離島や半島地域 –
- 農地や牧場、工事現場
- キャンプ場や別荘などのレジャー施設
このように、物理的なケーブル敷設が困難なエリアや、携帯電話の電波が不安定な場所でも、空が開けていればどこでもブロードバンド環境を手に入れられる可能性が広がります。
災害時の通信手段として活用できる
地震や台風、豪雨といった自然災害が発生すると、地上の通信ケーブルが断線したり、基地局が停電や浸水で機能停止したりして、通信障害が起こることがあります。しかし、衛星インターネットは宇宙空間の衛星を経由するため、地上のインフラがダメージを受けても影響を受けにくく、非常時の通信手段として非常に有効です。
実際に、災害時の避難所での情報収集や、被災地の自治体の通信網確保、企業のBCP（事業継続計画）対策の一環として導入されるケースが増えています。個人利用においても、万が一の際に家族の安否確認や最新情報の入手に役立つ、心強いライフラインとなり得ます。
| 活用主体 | 具体的な活用例 |
|---|---|
| 個人・家庭 | 停電・通信障害時における安否確認、災害情報の収集、緊急連絡 |
| 自治体・公共機関 | 避難所のWi-Fi環境構築、災害対策本部と現場との連絡手段確保 |
| 企業・法人 | BCP対策としてのバックアップ回線、被災した事業所の業務継続 |
高速なデータ通信が可能
「衛星通信」と聞くと、「遅くて不安定」という過去のイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、Starlink（スターリンク）に代表される新しい低軌道衛星を利用したサービスでは、その常識が覆されています。多数の衛星を地球の低い軌道に配置することで、通信の遅延を大幅に削減し、光回線に匹敵する高速通信を実現しています。
サービスやプランにもよりますが、下り速度で100Mbpsを超える通信も可能で、高画質な動画ストリーミングの視聴、オンライン会議、大容量データのダウンロードなどもストレスなく行えます。リモートワークやオンライン学習など、安定した高速通信が求められる現代のライフスタイルにも十分対応できる性能を持っています。
アンテナ設置が比較的かんたん
光回線のような大掛かりな引き込み工事が不要な点も、衛星インターネットの大きなメリットです。多くのサービスでは、契約後にアンテナやルーターなどが一式入ったキットが送られてきます。
利用者は、説明書に従ってアンテナを空の見える場所に設置し、ケーブルを接続するだけで準備が完了します。Starlinkのように、専用アプリが最適な設置場所や角度を案内してくれるサービスもあり、専門的な知識がない方でも比較的かんたんに導入できます。業者との日程調整や工事の立ち会いといった手間が省けるため、手軽にインターネット環境を整えたい方にとって魅力的です。
移動中の車や船でもインターネットが使える
衛星インターネットは、固定された場所だけでなく、移動体での利用にも対応し始めています。専用のプランとアンテナを利用することで、キャンピングカーやRV車での旅行中や、クルーザーや漁船といった船舶の上でも、安定した高速インターネットが利用可能になります。
これまで携帯電話の電波が届かない海上や山間部ではインターネットから切り離されていましたが、衛星インターネットによって、移動中でもリモートワークを行ったり、エンターテイメントを楽しんだりといった、新しいライフスタイルが実現します。アウトドアやレジャーの可能性を大きく広げるだけでなく、業務用の車両や船舶における通信環境の改善にも貢献します。
契約前に知るべき衛星インターネットの4つのデメリットと注意点
衛星インターネットは、光回線が利用できないエリアでも高速通信を可能にする画期的なサービスですが、契約前に知っておくべきデメリットや注意点も存在します。メリットだけでなく、これらの点を総合的に理解することで、ご自身の利用環境や目的に合った最適な選択ができるようになります。
後悔しないためにも、以下の4つのポイントをしっかり確認しておきましょう。
料金が光回線などより高額になる傾向
衛星インターネットの最も大きなハードルの一つが、料金です。一般的な光回線やモバイルWi-Fiサービスと比較して、月額料金およびアンテナなどの機材購入にかかる初期費用が高額になる傾向があります。
例えば、代表的なサービスである「Starlink（スターリンク）」では、個人向けの標準プランでも月額料金が数千円台後半からとなり、さらに初期費用としてアンテナやルーターを含むハードウェアキットの購入に数万円が必要です。これは、人工衛星の開発、打ち上げ、運用・維持管理に莫大なコストがかかるため、その一部がサービス料金に反映されていることが背景にあります。
もちろん、光回線の敷設工事ができない場所で高速インターネットが使えるという価値は非常に大きいですが、単純なコストパフォーマンスを重視する場合、もし利用できる環境であれば光回線の方が安価に済むケースがほとんどです。ご自身の住んでいる場所で他の選択肢がないかを確認した上で、予算と照らし合わせて検討することが重要です。
悪天候時に通信が不安定になることがある
衛星インターネットは、宇宙空間にある人工衛星と地上のアンテナとの間で電波を送受信して通信を行います。そのため、ゲリラ豪雨や大雪、雷雲といった極端な悪天候時には、通信が不安定になる可能性があります。
これは「降雨減衰（こううげんすい）」と呼ばれる現象で、大気中の雨粒や雪の結晶が電波を吸収・散乱させてしまい、アンテナまで届く電波が弱くなるために起こります。その結果、通信速度が一時的に低下したり、最悪の場合は接続が途切れたりすることがあります。
近年の技術向上により、耐候性は大幅に改善されており、多少の雨や曇り空で影響が出ることは稀です。しかし、台風が直撃している最中など、気象条件が著しく悪い状況下では、通信品質が低下するリスクがあることはあらかじめ理解しておく必要があります。常に安定した接続が求められる重要なオンライン会議や、一瞬の途切れも許されない金融取引などでの利用を考えている場合は、特に注意が必要です。
オンラインゲームで重要になる遅延が大きい場合がある
通信速度（スループット）と並んで重要な指標に、「遅延（レイテンシ）」または「Ping値」があります。これは、データを送信してから応答が返ってくるまでの時間を示すもので、この値が小さいほど快適な通信とされます。衛星インターネットは、物理的な距離の問題から、光回線に比べてこの遅延が大きくなる傾向があります。
Starlinkのような低軌道衛星を利用したサービスは、従来の静止軌道衛星（地上から約36,000km）よりもはるかに低い高度（約550km）を周回しているため、遅延は大幅に改善されています。それでも、地上をケーブルで結ぶ光回線のPing値（数ms〜20ms程度）と比較すると、衛星インターネットは20ms〜50ms、あるいはそれ以上になることがあります。
Webサイトの閲覧や動画視聴、一般的なビジネス用途ではほとんど問題になりませんが、コンマ数秒の反応速度が求められる一部の用途では影響が出る可能性があります。特に、FPS（ファーストパーソン・シューティングゲーム）や格闘ゲームといった、リアルタイム性の高いオンラインゲームでは、この遅延が「ラグ」として体感され、プレイに支障をきたす場合があります。
ご自身の主なインターネット利用目的が、遅延にシビアなオンラインゲームである場合は、この点を慎重に検討する必要があります。
アンテナの設置には開けた空が必要
衛星インターネットを利用するためには、専用のアンテナを屋外に設置する必要があります。このアンテナは、人工衛星からの電波を直接受信するため、設置場所の上空に、電波を遮る障害物がない「開けた空」を確保することが絶対条件となります。
アンテナの指向する方向に、高い建物、山、樹木、電柱などがあると、電波をうまく受信できず、通信が頻繁に途切れたり、全く接続できなかったりする原因となります。サービスによっては、申し込み前にスマートフォンの専用アプリを使って、設置予定場所の空が十分に開けているかを確認できる機能が提供されています。
この条件は、特に以下のような場合に問題となる可能性があります。
- 周りを高いビルに囲まれた都市部の住宅
- 木々が鬱蒼と茂る林間部
- ベランダの向きが限られるマンションやアパートなどの集合住宅
また、集合住宅の場合は、ベランダへの設置が管理規約で禁止されていたり、屋上への設置には管理組合の許可が必要になったりするケースも少なくありません。賃貸物件では、壁や屋根に穴を開けるような固定工事ができない場合もあります。契約を進める前に、必ず設置場所の条件と、建物の規約を確認することが不可欠です。
衛星インターネットと光回線を徹底比較
インターネット回線を選ぶ際、多くの方が光回線と比較検討するでしょう。特に、光回線が提供エリア外だったり、より自由なインターネット環境を求めていたりする場合、衛星インターネットは有力な選択肢となります。しかし、それぞれに一長一短があるため、ご自身のライフスタイルや利用目的に最適なサービスを見極めることが重要です。
ここでは、「料金」「速度・安定性」「エリア・自由度」の3つの観点から、衛星インターネットと光回線を徹底的に比較し、どちらがあなたに適しているかを明らかにします。
月額料金と初期費用で比較
インターネット回線を選ぶ上で、コストは最も重要な比較ポイントの一つです。一般的に、衛星インターネットは専用アンテナなどの機材購入が必要なため初期費用が高額になり、月額料金も光回線より割高になる傾向があります。一方、光回線は多くの事業者で工事費無料キャンペーンなどが実施されており、初期費用を抑えやすいのが特徴です。
コスト面だけを見ると光回線に軍配が上がりますが、衛星インターネットには後述するエリアの広さという、光回線にはない大きなメリットがあります。初期費用や月額料金の差が、そのメリットに見合う価値があるかどうかを判断することが大切です。
通信速度と安定性で比較
インターネットの快適さを左右するのが、通信速度と安定性です。物理的な光ファイバーケーブルで通信する光回線は、非常に高速かつ安定しており、遅延（Ping値）も極めて小さいという強みがあります。高画質な動画ストリーミングや、一瞬のラグが勝敗を分けるオンラインゲームなどをストレスなく楽しみたい場合には、光回線が最適です。
対する衛星インターネットも、Starlinkのような低軌道衛星を利用したサービスでは技術革新により大幅に高速化されています。しかし、衛星との物理的な距離があるため光回線に比べて遅延が大きくなるほか、大雨や大雪といった悪天候時には電波が遮られ、通信が不安定になる可能性があります。
日常的なWebサイトの閲覧や動画視聴であれば衛星インターネットでも十分快適に利用できますが、最高の速度と安定性を求めるなら光回線が優位です。
提供エリアと利用場所の自由度で比較
提供エリアと利用場所の自由度は、衛星インターネットと光回線の最も大きな違いが現れるポイントです。光回線は、都市部を中心に整備が進んでいますが、山間部や離島、過疎地域など、物理的にケーブルを引くことが困難な場所では提供エリア外となっているケースが少なくありません。また、利用は契約した建物内に限定されます。
一方で、衛星インターネット最大のメリットは、その圧倒的なエリアカバー率です。人工衛星からの電波を受信できる場所、つまり空が開けていれば、日本全国ほぼどこでもインターネットに接続できます。これにより、光回線が引けない地域にお住まいの方でも高速インターネットを利用できるほか、ポータブルプランを契約すればキャンプ場や移動中の車、船の上など、場所を選ばずに利用することも可能です。
もしあなたが光回線の提供エリア外にお住まいの場合や、場所にとらわれない自由なインターネット環境を求めているのであれば、衛星インターネットは唯一無二の選択肢となるでしょう。
まとめ
本記事では、衛星インターネットの仕組みからメリット・デメリット、光回線との比較まで詳しく解説しました。衛星インターネットは、山間部や離島など光回線が届かないエリアでも高速通信を可能にする画期的なサービスです。災害時の備えとしても有効ですが、料金が高めであったり、天候や遅延に注意が必要です。Starlink（スターリンク）などの登場で選択肢も増えています。この記事を参考に、ご自身の環境や目的に合うかをしっかり見極め、最適なインターネット回線を選びましょう。
