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失敗しないハイパーオートメーションの始め方|概念から具体的な推進ステップまで網羅

投稿日:2025年10月28日 /

更新日:2025年10月30日

失敗しないハイパーオートメーションの始め方|概念から具体的な推進ステップまで網羅
● AI

DX推進が企業の重要課題となる一方、「RPAを導入したが部分的な自動化に留まっている」「人手不足が深刻で、より抜本的な業務改革が必要」といった悩みを抱えていませんか。その解決策こそが、AIやRPAなどの多様なテクノロジーを組み合わせ、業務プロセス全体を高度に自動化・最適化する「ハイパーオートメーション」です。本記事では、ハイパーオートメーションの基本的な概念やRPAとの違いから、導入によって得られる具体的なメリット、成功に不可欠な主要テクノロジーまでを網羅的に解説します。

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目次

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ハイパーオートメーションとは何か

ハイパーオートメーションは、単なる業務の自動化を意味する言葉ではありません。これは、企業がビジネスプロセス全体を迅速に特定し、精査し、そして自動化するために、AI(人工知能)や機械学習、RPA(Robotic Process Automation)といった複数のテクノロジーを組み合わせて活用する、戦略的かつ包括的なアプローチを指します。

個別のタスクを自動化するだけでなく、業務の発見から分析、設計、自動化、測定、改善までの一連のサイクルを回し続けることで、組織全体の最適化を目指す点が最大の特徴です。

ハイパーオートメーションの基本的な概念

ハイパーオートメーションという概念は、米国の調査会社であるガートナー社によって提唱されました。その中核にあるのは、「自動化できるものはすべて自動化する」という思想です。しかし、これは無秩序に自動化を進めることではありません。

重要なのは、RPA、AI、機械学習、プロセスマイニング、iPaaSといった先進技術をオーケストラのように連携させることです。これにより、従来は人間の判断が必要だった非定型業務や、複雑な意思決定を含む業務プロセスまでを自動化の対象とすることが可能になります。人間が介在する作業とデジタル化されたプロセスがシームレスに連携し、あたかも組織全体がひとつのインテリジェントなシステムとして機能する状態を目指します。この継続的な改善サイクルを通じて、組織は変化に強く、より俊敏なビジネス遂行能力を獲得できるのです。

RPAとの違い

ハイパーオートメーションとRPAは、しばしば混同されがちですが、その目的と範囲において明確な違いがあります。RPAは、主に人間がPC上で行う定型的な繰り返し作業をソフトウェアロボットに代行させる「タスク自動化」のツールです。一方、ハイパーオートメーションは、RPAを構成要素の一つとして含みつつ、より広範な業務プロセス全体を対象とする「アプローチ」や「戦略」を指します。

両者の違いをより明確にするために、以下の表にまとめました。

比較項目RPA (Robotic Process Automation)ハイパーオートメーション
目的個別の定型業務の自動化による効率化業務プロセス全体の自動化と継続的な最適化
対象範囲ルールベースで遂行可能な個別のタスク(データ入力、転記など)非定型業務や意思決定を含む、エンドツーエンドのビジネスプロセス全体
利用技術主にRPAツール単体RPA、AI、機械学習、プロセスマイニング、iPaaSなど複数の技術の組み合わせ
アプローチ戦術的・ボトムアップ型(現場主導の個別改善)戦略的・トップダウン型(全社的な変革アプローチ)

このように、RPAはハイパーオートメーションを実現するための強力なツールの一つです。RPAが「デジタルワーカーの手足」としてタスクを実行するのに対し、AIやプロセスマイニングが「頭脳」としてプロセスを分析・判断し、全体を最適化していくのがハイパーオートメーションの姿と言えるでしょう。

DX推進でハイパーオートメーションが注目される社会的背景

近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を経営の重要課題として掲げる中で、ハイパーオートメーションへの注目が急速に高まっています。その背景には、日本が直面する深刻な社会課題と、ビジネス環境の劇的な変化があります。

第一に、少子高齢化に伴う労働人口の減少です。限られた人材でこれまで以上の成果を出すためには、生産性の抜本的な向上が不可欠です。ハイパーオートメーションは、人間を単純作業から解放し、より創造的で付加価値の高い業務に集中させるための強力な解決策となります。

第二に、市場の不確実性(VUCA)と顧客ニーズの多様化が挙げられます。変化の激しい現代において、企業が競争力を維持するためには、データに基づいた迅速な意思決定と、ビジネスプロセスの柔軟な見直しが常に求められます。ハイパーオートメーションは、業務プロセスを可視化・分析し、変化に即応できる俊敏な組織体制の構築を支援します。

そして第三に、DXの深化です。DXは単なるツールの導入に留まらず、ビジネスモデルや組織文化そのものを変革する取り組みです。この変革を成功させるには、サイロ化された部門ごとの業務プロセスを横断的に見直し、全体最適を図る必要があります。ハイパーオートメーションは、まさにこの全社的な視点での業務改革を実現するための鍵となるアプローチであり、真のDXを達成するためのエンジンとして期待されているのです。

ハイパーオートメーション導入がもたらす主要なメリット

ハイパーオートメーションは、単に特定の業務を自動化するRPAの概念を拡張し、組織全体のプロセスをエンドツーエンドで変革するアプローチです。そのため、導入によって得られるメリットは、単なる業務効率化に留まらず、経営基盤の強化や企業文化の変革にまで及びます。

ここでは、企業がハイパーオートメーションを導入することで得られる3つの主要なメリットを詳しく解説します。

業務プロセスの全体最適化と生産性向上

多くの企業では、部署ごとや業務ごとにシステムが導入され、部分的な最適化は進んでいるものの、組織全体としてはデータが分断(サイロ化)され、非効率な手作業が介在しているケースが少なくありません。ハイパーオートメーションは、こうした課題を根本から解決します。

RPAが個々の定型作業(点)を自動化するのに対し、ハイパーオートメーションはAI、プロセスマイニング、iPaaSといった複数のテクノロジーを組み合わせることで、部門やシステムを横断する複雑な業務プロセス全体(線・面)を自動化・最適化します。これにより、これまで見過ごされてきたボトルネックを解消し、組織全体の生産性を飛躍的に向上させることが可能です。

表1:RPAによる部分最適とハイパーオートメーションによる全体最適の違い
比較項目RPA(部分最適)ハイパーオートメーション(全体最適)
自動化の範囲特定の担当者や部署内の定型業務(例:請求書のデータ入力)部門やシステムを横断するエンドツーエンドの業務プロセス(例:受注から請求・入金確認まで)
主な目的個々の作業の効率化、作業時間の短縮業務プロセス全体の効率化、リードタイム短縮、コスト削減、品質向上
アプローチボトムアップ型(現場主導)トップダウン型(経営戦略と連動)
得られる効果限定的な生産性向上、ヒューマンエラーの削減全社的な生産性向上、継続的な業務改善、データに基づいた経営

例えば、受注から生産、出荷、請求までの一連のサプライチェーンプロセスにおいて、各工程で発生する手作業や確認作業を自動化することで、リードタイムの大幅な短縮と人的ミスの撲滅が実現します。結果として、コスト削減だけでなく、顧客満足度の向上にも直結するのです。

データに基づいた迅速かつ正確な意思決定の支援

ハイパーオートメーションは、業務を自動化する過程で、これまで組織内に散在していた膨大なデータを収集・統合します。そして、AIや機械学習(ML)といったテクノロジーがそのデータを分析することで、ビジネスにおける意思決定の質とスピードを劇的に向上させます。

具体的には、プロセスマイニングによって業務プロセスの実績データを可視化し、非効率な箇所や問題点を客観的に特定できます。また、AIを活用すれば、過去の販売データから将来の需要を高い精度で予測したり、顧客データを分析して解約リスクのある顧客を事前に検知したりすることも可能です。

これにより、経営層や管理職は、個人の経験や勘に頼るのではなく、客観的なデータという事実に基づいて、より迅速かつ正確な戦略的意思決定を下せるようになります。市場の急な変動や新たなビジネスチャンスに対しても、データドリブンなアプローチで素早く対応できるため、企業の競争優位性を高める上で極めて重要なメリットと言えるでしょう。

従業員の創造的業務へのシフトとエンゲージメント向上

「自動化が人間の仕事を奪う」という懸念を耳にすることがありますが、ハイパーオートメーションが目指すのは、人間とテクノロジーの協働です。単純なデータ入力、書類作成、定期的なレポート作成といった反復的で付加価値の低い業務をテクノロジーに任せることで、従業員を本来注力すべき創造的な業務へとシフトさせます。

従業員は、単純作業から解放されることで、企画立案、顧客との関係構築、新たなサービス開発、業務プロセスの改善提案といった、人間にしかできない高度な判断や創造性が求められる仕事に多くの時間を費やせるようになります。これは、従業員一人ひとりのスキルアップやキャリア形成を促進するだけでなく、企業全体のイノベーション創出にも繋がります。

表2:ハイパーオートメーション導入による従業員の業務内容の変化
 導入前(Before)導入後(After)
主な業務データ入力、転記、定型レポート作成、システム間の情報連携などの反復作業データ分析、改善提案、戦略立案、顧客折衝、新規事業開発などの高付加価値業務
求められるスキル正確性、忍耐力、作業スピード課題発見力、分析力、創造性、コミュニケーション能力
仕事への意識「作業をこなす」という意識が強くなりがち「価値を創造する」という意識が高まり、やりがいを感じやすい

自身の仕事が企業の成長に直接貢献しているという実感は、従業員のモチベーションとエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を大幅に向上させます。結果として、従業員満足度の向上や離職率の低下にも繋がり、優秀な人材が定着・活躍する好循環を生み出すことができるのです。

ハイパーオートメーションを構成する主要テクノロジー

ハイパーオートメーションは、単一のテクノロジーで実現されるものではありません。複数の先進的なテクノロジーを戦略的に組み合わせ、それぞれが持つ強みを連携させることで、組織全体の業務プロセスをエンドツーエンドで自動化する統合的なアプローチです。

ここでは、ハイパーオートメーションの実現に不可欠な4つの主要テクノロジーについて、それぞれの役割と特徴を詳しく解説します。

RPA (Robotic Process Automation)

RPAは、ハイパーオートメーションにおける「手足」として、具体的な作業を実行する役割を担います。人間がPC上で行う、ルールに基づいた定型的な繰り返し作業を、ソフトウェアロボットが代行するテクノロジーです。具体的には、データ入力、アプリケーション間の情報転記、ファイル操作、定型メールの送信といったタスクを自動化します。

ハイパーオートメーションの基盤技術であり、多くの自動化プロジェクトの出発点となります。RPAは、明確な手順が決まっている業務を高速かつ正確に処理することを得意とし、ヒューマンエラーの削減と作業時間の大幅な短縮に直接的に貢献します。しかし、RPA単体では、予期せぬエラーへの対応や、手書き文字の読み取り、状況に応じた判断といった非定型業務には対応が難しいという側面もあります。

AI (人工知能) と機械学習 (ML)

AIと機械学習は、ハイパーオートメーションに「頭脳」の機能を与え、より高度で知的な自動化を実現します。RPAが苦手とする、非構造化データの扱いや自律的な判断を可能にし、自動化の適用範囲を飛躍的に拡大させます。

ハイパーオートメーションで活用されるAI技術には、以下のようなものがあります。

  • AI-OCR(光学的文字認識): 従来のOCRでは難しかった手書きの文字や、請求書・注文書などの非定型帳票から、高い精度でテキストデータを抽出します。
  • 自然言語処理 (NLP): メールや問い合わせの内容を解析して意図を理解し、適切な担当者へ振り分けたり、FAQチャットボットが顧客の質問に自動で回答したりします。
  • 画像認識: 製品の外観検査で傷や不良品を検知したり、図面から特定の情報を読み取ったりします。
  • 予測分析: 過去の販売データや市場トレンドを機械学習モデルで分析し、将来の需要を予測して在庫の最適化に繋げます。

RPAという「手足」に、AIという「頭脳」が組み合わさることで、これまで人間にしかできなかった判断や認識を伴う複雑な業務プロセスまで自動化の対象とすることが可能になります。

プロセスマイニングとタスクマイニング

プロセスマイニングとタスクマイニングは、ハイパーオートメーションにおける「目」の役割を果たします。業務の現状をデータに基づいて客観的に可視化し、どこに自動化の機会や改善の余地があるのかを発見するためのテクノロジーです。

これまでの業務改善では、担当者へのヒアリングや経験則に頼ることが多く、実態との乖離が生じやすいという課題がありました。プロセスマイニングとタスクマイニングは、この課題を解決します。勘や思い込みではなく、客観的なデータ(ファクト)に基づいて自動化の対象領域を特定し、投資対効果(ROI)を最大化するための羅針盤となります。

両者は似ていますが、分析の対象と粒度が異なります。

 プロセスマイニングタスクマイニング
分析対象ERPやCRMなどの業務システムに残されるイベントログ(誰が、いつ、何をしたかという記録)従業員のPC上で行われるデスクトップ操作(クリック、キーボード入力、アプリケーション利用など)
可視化するもの複数の部門やシステムにまたがる、エンドツーエンドの業務プロセス全体のフロー個人またはチーム単位で行われる個別のタスクや作業手順
主な目的業務プロセスのボトルネック、非効率な手順、標準プロセスからの逸脱を発見し、BPR(業務プロセス改革)の機会を見出すRPAによる自動化に適した、定型的で反復的な作業を発見する

iPaaS (Integration Platform as a Service)

iPaaSは、組織内に散在する様々なシステム、アプリケーション、データを連携させる「神経系」の役割を担います。クラウドサービス、オンプレミスの基幹システム、SaaSアプリケーションなどをつなぐハブ(中核)となるクラウドプラットフォームです。

現代の企業では、顧客管理にSalesforce、コミュニケーションにSlack、会計にfreee会計など、目的ごとに最適なSaaSを導入するケースが増えています。しかし、これらのシステムが個別に運用されるとデータが分断され(サイロ化)、部門間の連携が滞る原因となります。iPaaSは、API連携をノーコードまたはローコードで容易に実現し、この問題を解決します。

iPaaSを活用することで、RPAやAIといった個別の自動化ツールをシームレスに連携させ、特定のタスクの自動化に留まらない、真にエンドツーエンドの業務プロセス自動化、すなわちハイパーオートメーションを実現することが可能になります。例えば、「顧客からの問い合わせメールをAIが解析し、iPaaSがCRMの顧客情報を更新、RPAが基幹システムで対応履歴を登録し、Slackで担当者に通知する」といった一連のワークフローを自動で実行できます。

失敗しないハイパーオートメーションの始め方

ハイパーオートメーションは、単一のツールを導入すれば完成するものではありません。組織全体の業務プロセスを変革し、継続的に改善していく壮大なプロジェクトです。そのため、場当たり的に進めるのではなく、明確な戦略と計画に基づいたステップを踏むことが成功の鍵を握ります。ここでは、失敗を避け、着実に成果を出すための5つの基本ステップを具体的に解説します。

ステップ1|現状の業務プロセスを可視化する

ハイパーオートメーションの第一歩は、「As-Is(現状)」の業務プロセスを正確に把握し、課題を洗い出すことから始まります。感覚や思い込みで自動化を進めると、部分最適に陥ったり、効果の低い業務にリソースを割いてしまったりする危険性があります。客観的なデータと現場の声に基づき、業務全体を俯瞰することが不可欠です。

主な可視化の手法には、以下のようなものがあります。

  • プロセスマイニング・タスクマイニング
    専用ツールを用いて、PC上の操作ログや業務システムのイベントログを自動で収集・分析します。これにより、「誰が、いつ、どのシステムで、どのような作業を、どれくらいの時間かけて行っているか」をデータに基づいて定量的に可視化できます。人間が気づきにくい非効率なプロセスやボトルネックを客観的に発見できる強力な手法です。
  • 現場担当者へのヒアリングとワークショップ
    実際に業務を行っている従業員へのヒアリングや、関係部署を交えたワークショップを実施します。業務フローには現れない例外処理や、担当者が感じている課題(ペインポイント)、部門間の連携における問題点など、定性的な情報を収集するために重要です。
  • 業務フロー図の作成
    収集した情報を基に、業務の開始から終了までの一連の流れをフロー図にまとめます。これにより、業務の全体像や部門間の依存関係が明確になり、関係者全員の認識を統一することができます。

このステップのアウトプットは、自動化の対象を検討するための基礎資料となります。時間をかけてでも、丁寧に行うことが後のステップの精度を大きく左右します。

ステップ2|自動化の対象領域と優先順位を決定する

業務プロセスの可視化によって洗い出された課題の中から、どの業務から自動化に着手すべきか、戦略的に優先順位を決定します。すべての業務を一度に自動化することは現実的ではありません。費用対効果と実現可能性のバランスを考慮し、最もインパクトの大きい領域を見極めることが重要です。

優先順位付けには、一般的に以下の2つの評価軸を用いたマトリクスが有効です。

  1. 業務改善効果 (Impact)
    自動化によって得られる効果の大きさです。コスト削減額、労働時間の短縮、生産性向上、リードタイム短縮、品質向上(ヒューマンエラー削減)といった観点から評価します。
  2. 実現可能性 (Feasibility)
    自動化を実現する上での容易さです。業務ルールが標準化されているか、扱うデータは構造化されているか、技術的な難易度、関連部署の協力体制といった観点から評価します。

この2軸で評価し、下表のように4つの象限に分類することで、取り組むべき業務が明確になります。

自動化対象業務の優先順位付けマトリクス
 実現可能性:高実現可能性:低
業務改善効果:高【最優先領域】
いわゆる「クイックウィン」。ROIが高く、早期に成功体験を積むことができるため、まずここから着手すべき。
【中長期的な検討領域】
大きな効果が見込めるが、技術的ハードルが高い、または大規模な業務改革が必要。将来的な目標として計画に組み込む。
業務改善効果:低【後回しでよい領域】
容易に自動化できるが、得られる効果は限定的。リソースに余裕があれば検討する。
【対象外領域】
効果も低く、実現も困難。現時点では自動化の対象から外す。

最初に目指すべきは、左上の「最優先領域」です。ここで小さな成功を積み重ね、その効果を社内に示すことで、全社的な協力体制を築きやすくなります。

ステップ3|スモールスタートで効果を検証する (PoC)

優先順位が決まったら、いきなり大規模な開発に着手するのではなく、対象を限定した「PoC(Proof of Concept:概念実証)」から始めることが失敗を避ける鉄則です。PoCは、小規模な環境で自動化を試行し、技術的な実現可能性や期待される効果を事前に検証するプロセスです。これにより、本格導入後の手戻りや想定外のトラブルといったリスクを最小限に抑えることができます。

PoCを成功させるためのポイントは以下の通りです。

  • 明確なゴールと評価指標(KPI)を設定する
    「処理時間を50%削減する」「入力ミスをゼロにする」など、PoCの成否を判断するための具体的かつ測定可能な目標を設定します。
  • 期間と範囲を限定する
    PoCはあくまで検証が目的です。1〜3ヶ月程度の短期間に設定し、対象業務も特定のプロセスに絞り込みます。完璧を目指さず、スピード感をもって進めることが重要です。
  • 現場のキーパーソンを巻き込む
    PoCの段階から、実際に業務を行う現場の担当者に参加してもらうことで、より実践的な課題の洗い出しや、導入後のスムーズな定着につながります。
  • 「失敗」から学ぶ姿勢を持つ
    PoCの結果、期待した効果が得られないこともあります。しかし、それは「なぜうまくいかなかったのか」という貴重な学びを得る機会です。その知見を次の計画に活かすことが、プロジェクト全体の成功確率を高めます。

PoCを通じて得られた定量的・定性的な結果を基に、本格導入の是非や、導入範囲の拡大について経営層や関連部署と合意形成を図ります。

ステップ4|目的と規模に合ったツールを選定する

PoCで得た知見や、将来的な全社展開のビジョンを踏まえ、自社に最適なテクノロジーやツールを選定します。ハイパーオートメーションは、RPA、AI、プロセスマイニング、iPaaSといった複数の技術を組み合わせるアプローチであり、単一の製品で全てをカバーしようとするのではなく、自社の課題解決に必要な機能を備えたプラットフォームを構築する視点が求められます。

ツール選定の際には、以下の比較検討項目を参考に、複数のベンダーや製品を評価しましょう。

ハイパーオートメーションツール選定の比較項目
評価観点具体的な確認ポイント
機能性RPA、AI-OCR、チャットボット、プロセスマイニングなど、自社が必要とする機能が網羅されているか。
連携性・拡張性既存の基幹システム(ERP, SCM等)やSaaSと容易に連携できるか(APIの豊富さ、iPaaS機能の有無)。将来的な全社展開に対応できるスケーラビリティがあるか。
操作性・開発容易性IT部門の専門家でなければ開発できないのか、現場の業務担当者(市民開発者)でも扱えるローコード/ノーコードのインターフェースを備えているか。
ガバナンス・セキュリティロボットのバージョン管理や実行監視、アクセス権限設定など、全社で統制を効かせるための機能が充実しているか。セキュリティ基準を満たしているか。
サポート・コスト導入支援やトレーニング、日本語での技術サポートは充実しているか。ライセンス体系(ユーザー数、ロボット数など)は自社の利用規模に合っているか。

日本国内では、UiPath、Automation Anywhere、Microsoft Power Automateなどが代表的なプラットフォームとして知られていますが、それぞれに強みや特徴があります。自社のIT環境や組織文化、目指す自動化のレベルに合わせて、最適なパートナーを選定することが重要です。複数のベンダーから提案を受け、トライアルなどを活用して実際の使用感を確かめることをお勧めします。

ステップ5|導入効果を測定し改善サイクルを回す

ツールの導入はゴールではなく、新たなスタートです。ハイパーオートメーションの価値を最大化するためには、導入後の効果を継続的に測定し、その結果を基に改善を繰り返す「PDCAサイクル」を回す仕組みが不可欠です。

効果測定では、定量的な指標と定性的な指標の両面から評価します。

  • 定量的指標
    投資対効果(ROI)、コスト削減額、削減できた作業時間、生産性向上率、エラー発生率の低下など、数値で客観的に測定できる指標。経営層への報告や、さらなる投資判断の材料となります。
  • 定性的指標
    従業員満足度(ES)の向上、業務負荷の軽減感、単純作業から解放され創造的な業務へシフトできたか、といったアンケートやヒアリングを通じて把握する指標。従業員のエンゲージメントを高める上で重要です。

これらの測定結果を分析し、「Check(評価)」した上で、次の「Act(改善)」につなげます。例えば、自動化プロセスのさらなる効率化、エラー発生時の対応ルールの見直し、そして成功事例の他部署への横展開などが考えられます。このサイクルを継続的に回すことで、ハイパーオートメーションは一過性の施策ではなく、企業の競争力を高め続けるための強力なエンジンとなります。

また、全社的にハイパーオートメーションを推進するためには、CoE(Center of Excellence)と呼ばれる専門組織の設置も有効です。CoEは、社内のベストプラクティスの共有、開発標準の策定、ガバナンスの維持、人材育成などを担い、組織全体の自動化レベルを着実に引き上げていく役割を果たします。

国内企業のハイパーオートメーション導入事例

ハイパーオートメーションは、概念的なフレームワークに留まらず、既に国内の多くの先進企業で実践され、具体的な成果を生み出しています。ここでは、異なる業種における代表的な導入事例を3つ取り上げ、どのような課題を、どのテクノロジーを組み合わせて解決したのかを具体的に解説します。自社の課題と照らし合わせながら、導入後の姿をイメージしてみてください。

製造業A社の事例|サプライチェーンの最適化

国内大手の自動車部品メーカーであるA社は、グローバルに広がる複雑なサプライチェーンの管理に課題を抱えていました。部品の需要予測の精度が低く、過剰在庫や欠品が頻発。また、受発注業務の多くが人手に頼っており、ヒューマンエラーや業務の属人化が深刻な問題となっていました。

導入前の課題

  • 勘と経験に依存した需要予測による在庫の過不足
  • 手作業による受発注処理の非効率性と入力ミス
  • サプライチェーン全体のボトルネックが特定できず、改善が進まない
  • 市場の急な変動に対する対応の遅れ

導入したソリューションとプロセス

A社は、単一のツール導入ではなく、複数のテクノロジーを連携させたハイパーオートメーションのアプローチを選択しました。具体的には、AI、RPA、プロセスマイニングを組み合わせ、サプライチェーン全体の最適化を目指しました。

  1. AIによる需要予測:過去の販売実績や生産データに加え、市場トレンドや天候データなどの外部要因も取り込み、AIが部品ごとの需要を高精度で予測。
  2. RPAによる業務自動化:AIの予測結果に基づき、RPAが自動で協力会社への発注処理や請求書処理を実行。
  3. プロセスマイニングによる継続的改善:各プロセスのログデータを分析し、納期の遅延や非効率な業務フローを可視化。データに基づいた継続的な改善サイクルを構築。

導入後の成果

ハイパーオートメーションの導入により、A社のサプライチェーンは劇的に変化しました。データに基づいた客観的な意思決定が可能となり、サプライチェーン全体の効率性と俊敏性が大幅に向上しました。

指標導入前導入後
在庫削減率約20%削減
欠品率約30%改善
受発注業務の処理時間約40時間/月約5時間/月 (87.5%削減)

担当者は単純な入力作業から解放され、より付加価値の高いサプライヤーとの交渉や新たな調達戦略の立案といった創造的な業務に集中できるようになり、従業員のエンゲージメント向上にも繋がりました。

金融業B社の事例|顧客審査プロセスの迅速化

大手銀行であるB行では、個人向けローンの審査プロセスに多くの時間と人手を要していました。申込書類の確認、信用情報機関への照会、行内システムへの入力といった一連の作業が手作業中心で行われており、顧客への回答に数日を要することが常態化。これが顧客満足度の低下や機会損失を招いていました。

導入前の課題

  • 審査プロセスの長時間化による顧客体験の悪化
  • 担当者の手作業によるデータ入力ミスや確認漏れのリスク
  • 審査基準の属人化による判断のばらつき
  • 増加する申込件数に対する審査体制の逼迫

導入したソリューションとプロセス

B行は、審査プロセスのスピードと正確性を両立させるため、AI-OCR、RPA、AIスコアリングモデル、iPaaSを統合したハイパーオートメーション基盤を構築しました。

  1. AI-OCRによるデータ化:顧客から受け取った申込書や本人確認書類をAI-OCRで読み取り、テキストデータを自動で抽出。
  2. RPAとiPaaSによる連携・入力:抽出されたデータをRPAが審査システムへ自動入力。同時にiPaaSを介して外部の信用情報機関へデータを連携し、情報を自動で照会。
  3. AIによる与信スコアリング:蓄積された膨大な審査データと顧客属性をAIが分析し、与信リスクをスコアリング。担当者の判断を支援。

導入後の成果

この取り組みにより、B行のローン審査プロセスは抜本的に改革されました。これまで数日かかっていた審査が最短で即日回答可能となり、顧客体験が飛躍的に向上しました。

指標導入前導入後
平均審査時間2〜3営業日最短30分
手作業による入力工数90%以上削減
審査プロセスのエラー率ほぼゼロに

また、データに基づいた客観的なスコアリングモデルが審査担当者の判断をサポートすることで、審査品質の標準化とコンプライアンス強化にも繋がりました。担当者は複雑な案件の精査や顧客へのコンサルティングに注力できるようになり、専門性を高めることができました。

小売業C社の事例|在庫管理と需要予測の自動化

全国に店舗を展開する大手総合スーパーC社は、店舗ごとの発注業務を各担当者の経験と勘に頼っていました。そのため、商品の欠品による販売機会の損失や、過剰在庫による廃棄ロスが経営上の大きな課題となっていました。特に天候や地域のイベントによって需要が大きく変動する商品の管理は困難を極めていました。

導入前の課題

  • 経験頼みの発注による欠品と過剰在庫の発生
  • 食品廃棄ロスによるコスト増と社会的信用の低下
  • 発注業務に多くの時間を割かれ、接客や売場づくりが疎かになる
  • 店舗間の在庫の偏りと非効率な店舗間移動

導入したソリューションとプロセス

C社は、店舗運営の根幹である在庫管理の高度化を目指し、複数のテクノロジーを組み合わせたハイパーオートメーションを導入しました。

  1. AIによる高精度な需要予測:POSデータや在庫データに加え、気象情報、SNSのトレンド、周辺地域のイベント情報などをAIがリアルタイムに分析。商品ごと・店舗ごとに最適な販売数を予測。
  2. RPAによる発注業務の完全自動化:AIの予測結果に基づき、RPAが適切なタイミングで適切な数量を自動的に発注システムへ入力。
  3. タスクマイニングによる現場業務の可視化:店舗スタッフのPC操作ログをタスクマイニングで分析し、発注業務以外にも非効率な作業がないかを可視化。さらなる自動化領域の特定に活用。

導入後の成果

AIとRPAの連携により、C社の発注業務は人の手を介さない「自動発注」へと進化しました。これにより、廃棄ロスと機会損失を同時に削減するという、従来はトレードオフの関係にあった課題を解決することに成功しました。

指標導入前導入後
食品廃棄ロス率約15%削減
欠品による機会損失約10%改善
店舗スタッフの発注業務時間平均2時間/日ほぼゼロに (確認作業のみ)

発注業務から解放された店舗スタッフは、接客や商品の陳列、売場づくりといった顧客満足度向上に直結する業務に多くの時間を充てられるようになり、店舗全体の売上向上にも大きく貢献しています。

まとめ

本記事では、ハイパーオートメーションの基本的な概念から、DX推進における重要性、具体的な導入ステップ、そして国内企業の成功事例までを網羅的に解説しました。ハイパーオートメーションは、単にRPAで定型業務を自動化するだけでなく、AIやプロセスマイニングなどの先端技術を組み合わせ、業務プロセス全体を自律的に改善していく戦略的なアプローチです。

その導入がもたらすメリットは、生産性の飛躍的な向上に留まりません。データに基づいた正確な意思決定を支援し、従業員を単純作業から解放することで、より創造的で付加価値の高い業務へシフトさせることを可能にします。成功の鍵は、本記事でご紹介した「現状プロセスの可視化」から始まる5つのステップを、計画的に、そして着実に実行することにあります。特に、スモールスタートで効果を検証しながら段階的に適用範囲を広げていくアプローチは、投資対効果を最大化し、失敗のリスクを最小限に抑える上で極めて重要です。

労働人口の減少という構造的な課題に直面する日本企業にとって、ハイパーオートメーションは、競争優位性を確立し、持続的な成長を遂げるための不可欠な経営戦略となりつつあります。この記事を参考に、まずは自社の業務を見直し、自動化による変革の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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