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企業価値を高める内部統制体制の作り方|失敗しないための重要ポイントを学ぶ

投稿日:2025年9月29日 /

更新日:2025年9月30日

企業価値を高める内部統制体制の作り方|失敗しないための重要ポイントを学ぶ
● 組織運営

内部統制体制は、単なる法令遵守や不正防止の仕組みではなく、企業価値を高めるための重要な経営基盤です。本記事では、内部統制の目的や6つの基本的要素といった基礎知識から、金融商品取引法(J-SOX)対応も見据えた具体的な構築手順を5つのステップで解説します。形骸化させず、攻めの経営に繋がる体制づくりのポイントと、失敗しないための秘訣の全てがわかります。

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目次

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内部統制体制とは

内部統制体制とは、企業が自らの事業活動を健全かつ効率的に運営するために、社内に構築・運用する仕組みやルールの総称です。これは、一部の部署や役員だけが取り組むものではなく、経営者から従業員一人ひとりに至るまで、組織全体で遵守・実践されるべきものです。具体的には、社内規程の整備、職務分掌の明確化、業務プロセスの標準化、そしてそれらが適切に機能しているかをチェックする体制などが含まれます。

しばしば「コーポレートガバナンス(企業統治)」と混同されがちですが、内部統制はコーポレートガバナンスを構成する重要な要素の一つです。経営者が株主をはじめとするステークホルダーに対して適切な経営を行うための大きな枠組みがコーポレートガバナンスであり、その枠組みを実効性のあるものにするための具体的な手段・プロセスが内部統制体制であると理解すると良いでしょう。つまり、内部統制体制を整備・運用することは、企業の透明性を高め、社会的な信頼を得るための基盤となるのです。

内部統制体制が求められる4つの目的

金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」において、内部統制には達成すべき4つの基本的な目的が示されています。これらは互いに独立しているわけではなく、密接に関連し合っています。

目的内容と具体例
1. 業務の有効性及び効率性事業活動の目的を達成するために、業務上の無駄をなくし、資源を効果的かつ効率的に活用することを目指します。
(例:業務マニュアルの整備による作業の標準化、購買プロセスの見直しによるコスト削減、目標管理制度の導入)
2. 財務報告の信頼性株主や投資家、金融機関などが意思決定に用いる財務諸表(決算書など)が、不正や誤りのない正確な情報であることを保証します。
(例:経理規程の整備、勘定科目の承認プロセスの設定、会計システムへのアクセス権限管理)
3. 事業活動に関わる法令等の遵守(コンプライアンス)会社法、金融商品取引法、労働関連法規、個人情報保護法といった法律や、社会規範、倫理などを遵守する体制を構築し、企業の社会的責任を果たすことを目指します。
(例:コンプライアンス研修の実施、内部通報制度の設置、契約書のリーガルチェック体制の構築)
4. 資産の保全企業の資産(現金、在庫、有形固定資産、知的財産など)が、不正な取得、使用、処分から保護されることを保証します。
(例:棚卸しの定期的な実施、現金出納のダブルチェック、情報セキュリティ対策の強化)

これら4つの目的をバランスよく達成することが、企業の持続的な成長と発展の土台となります。

企業価値向上になぜ内部統制体制が必要なのか

内部統制体制の構築は、単に不祥事を防ぐための守りの施策ではありません。むしろ、企業の価値を積極的に高めていくための攻めの経営基盤です。内部統制が企業価値向上に繋がる理由は、主に以下の4点に集約されます。

  • 社会的信用の獲得
    財務報告の信頼性が高く、コンプライアンスが徹底されている企業は、投資家、金融機関、取引先、そして顧客からの信頼を獲得できます。この信頼は、円滑な資金調達、有利な取引条件、ブランドイメージの向上に繋がり、企業の競争力を高めます。
  • 経営の効率化と意思決定の質の向上
    業務プロセスが標準化・可視化されることで、非効率な業務が改善され、生産性が向上します。また、正確で信頼性の高い情報が経営層へ迅速に伝達されるため、変化する経営環境に対して的確かつスピーディーな意思決定が可能になります。
  • リスクへの対応力強化
    事業活動には、不正、情報漏洩、災害、法改正など様々なリスクが伴います。内部統制体制は、これらのリスクを早期に識別・評価し、適切な対応策を講じるための枠組み(リスクマネジメント)を提供します。これにより、事業継続性を確保し、潜在的な損失を最小限に抑えることができます。
  • 健全な組織風土の醸成
    明確なルールと責任の所在が示されることで、従業員は安心して業務に集中できます。公正な評価や規律ある行動が促されることで、従業員の士気が高まり、組織全体のパフォーマンスが向上します。これは、不正行為の抑止にも繋がります。

このように、内部統制体制は企業の足元を固め、健全な成長サイクルを生み出すためのエンジンとして機能し、結果として企業価値の向上に大きく貢献するのです。

会社法と金融商品取引法(J-SOX)における要求事項

内部統制体制の整備は、企業の自主的な取り組みであると同時に、法律によっても求められています。特に重要なのが「会社法」と「金融商品取引法」です。両者では、対象となる企業や目的が異なります。

会社法における内部統制

会社法では、取締役会を設置する大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)に対して、取締役会が「内部統制システム構築の基本方針」を決定することを義務付けています。これは、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保するための体制や、損失の危険の管理に関する規程・体制など、コーポレートガバナンス全般に関わる広範な内容を含みます。

金融商品取引法における内部統制(J-SOX)

一方、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度は、通称「J-SOX」と呼ばれます。これは、すべての上場企業とその連結子会社を対象とし、特に「財務報告の信頼性」を確保することを目的としています。対象企業の経営者は、自社の財務報告に係る内部統制が有効であるかを自ら評価し、その結果を「内部統制報告書」として内閣総理大臣に提出することが義務付けられています。さらに、この報告書は公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません。

J-SOXは「財務報告」という特定の目的に特化した制度であり、会社法の内部統制はより広範な経営全般の適法性や効率性を対象としている点が大きな違いです。

比較項目会社法金融商品取引法(J-SOX)
根拠法会社法金融商品取引法
主な対象企業取締役会を設置する大会社すべての上場企業およびその連結子会社
主な目的業務の適正を確保するための体制整備(経営全般)財務報告の信頼性の確保
義務の内容内部統制システム構築の基本方針を取締役会で決議経営者による内部統制評価と「内部統制報告書」の提出、および公認会計士等による監査

これらの法的要求事項を遵守することはもちろん、その本質的な目的を理解し、自社の実情に合った実効性のある内部統制体制を構築することが、真の企業価値向上への第一歩となります。

内部統制体制を構成する6つの基本的要素

企業の内部統制体制は、単一のルールや部署だけで成り立つものではありません。組織全体で機能させるために、相互に関連し合う6つの基本的要素が存在します。これらは金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で示されており、効果的な内部統制を構築・運用する上でのフレームワークとなります。ここでは、それぞれの要素が持つ役割と重要性について詳しく解説します。

統制環境|組織の基盤となる風土

統制環境とは、組織の気風を決定し、統制に対する組織内の全ての人の意識に影響を与える、最も基本的な要素です。他の5つの要素全ての土台となるものであり、この統制環境が脆弱であれば、どれだけ精緻なルールやシステムを構築しても形骸化してしまいます。

具体的には、以下のような要素で構成されます。

  • 誠実性および倫理観:経営トップが誠実性や高い倫理観を示し、それが行動規範や社内規定として明文化され、組織全体に浸透している状態。
  • 経営者の意向と姿勢:内部統制の重要性を経営者が深く認識し、その整備・運用に積極的に関与する姿勢。
  • 取締役会および監査役(または監査委員会)の機能:経営者を適切に監督・牽制する機能が有効に働いていること。独立性と専門性が求められます。
  • 組織構造および職務権限:事業の特性に合った適切な組織構造が整備され、各役職の権限と責任が明確に定められていること。
  • 人事方針と人材育成:公正な人事評価や報酬体系、そして内部統制の担い手となる人材を育成するための研修制度が整備されていること。

これらの要素が一体となって、従業員一人ひとりが「ルールを守ることが当たり前」と考える企業文化、すなわち強固な統制環境が醸成されるのです。

リスクの評価と対応|事業リスクをどう管理するか

リスクの評価と対応とは、企業の目標達成を阻害するあらゆる要因(リスク)を識別・分析・評価し、そのリスクに対して適切な対応策を選択する一連のプロセスを指します。リスクを放置すれば、不正やミスの温床となり、最終的には企業の存続を脅かすことにもなりかねません。

このプロセスは、以下のステップで進められます。

  1. リスクの識別:全社的な視点(例:自然災害、法改正、風評被害)と、各業務プロセスの視点(例:入力ミス、不正な経費精算)の両面から、潜在的なリスクを洗い出します。
  2. リスクの分析:識別した各リスクについて、「発生可能性」と「影響度」の2つの軸で分析します。
  3. リスクの評価:分析結果に基づき、対応すべきリスクの優先順位を決定します。リスクマップなどを作成して可視化すると効果的です。
  4. リスクへの対応:評価したリスクに対し、以下の4つのいずれかの対応策を選択し、実行します。
対応策内容具体例
リスクの低減リスクの発生可能性や影響度を下げるための対策を講じる。承認プロセスの追加、ダブルチェック体制の導入、システムによる入力制限。
リスクの回避リスクの原因となる活動そのものを取りやめる。リスクの高い事業からの撤退、コンプライアンス上問題のある取引の中止。
リスクの移転リスクを第三者に転嫁する。損害保険への加入、業務の一部を外部委託(アウトソーシング)。
リスクの受容(保有)リスクが許容範囲内であると判断し、特段の対策を講じずに受け入れる。発生可能性も影響度も極めて低いリスクに対する静観。

重要なのは、これらのプロセスを一度きりで終わらせるのではなく、事業環境の変化に応じて定期的に見直し、継続的にリスク管理を行うことです。

統制活動|リスクを低減する具体的な手続き

統制活動とは、前段で評価したリスクを低減するために、業務プロセスの中に組み込まれる具体的な方針や手続きのことです。経営者の命令や指示が、組織の隅々まで適切に実行されることを保証する役割を担います。これは内部統制の「実行」部分であり、日々の業務の中で最も意識される要素と言えるでしょう。

統制活動は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

統制活動の種類内容と目的
権限および職責の明確化各担当者の権限と責任範囲を明確に定め、無許可の業務遂行や責任の所在が不明確になることを防ぐ。
職務分掌(相互牽制)業務の担当者と承認者を分離するなど、一連の業務を複数の担当者で分担させることで、不正やエラーを防止・発見しやすくする。
承認・照合・検証取引や業務処理が正当な手続きに則って行われているかを確認する。稟議書の承認、請求書と納品書の照合などが該当する。
物理的な資産管理現金、在庫、固定資産などの物理的資産へのアクセスを制限し、盗難や不正使用から保護する。施錠管理や棚卸などが含まれる。
継続的な記録の作成と保管全ての取引や事象を正確かつ網羅的に記録し、適切に保管することで、トレーサビリティ(追跡可能性)を確保する。

これらの統制活動は、業務マニュアルや規定として文書化され、全ての従業員が同じルールに基づいて業務を遂行できるようにすることが不可欠です。

情報と伝達|必要な情報が正しく伝わる仕組み

情報と伝達は、組織が活動を行うために必要な情報が識別・把握され、組織内外の関係者に正しく、タイムリーに伝達されるための仕組みを指します。情報がなければ適切な意思決定はできず、伝達されなければ統制は機能しません。いわば、組織の神経系統のような役割を果たします。

この要素は、以下の2つの側面から成り立っています。

  • 情報:財務情報(売上、利益など)だけでなく、非財務情報(コンプライアンス遵守状況、顧客満足度、従業員の士気など)も含まれます。これらの情報は、信頼性が高く、かつ事業運営に関連性の高いものでなければなりません。
  • 伝達:情報の流れを確保する仕組みです。経営層から現場への指示(トップダウン)、現場からの問題点や改善提案の報告(ボトムアップ)、部門間の情報共有(水平方向)といった、あらゆる方向へのコミュニケーション経路が円滑に機能していることが重要です。社内イントラネット、定例会議、報告書などが伝達の手段となります。

特に、不正や法令違反の疑いがある情報を従業員が安心して報告できる「内部通報制度(ヘルプライン)」の整備は、情報伝達の仕組みを実効性のあるものにする上で極めて重要です。

モニタリング(監視活動)|体制を継続的に評価改善する

モニタリング(監視活動)とは、構築された内部統制体制が、意図したとおりに有効に機能しているかを継続的に評価し、必要に応じて改善していくプロセスです。一度体制を作って終わりではなく、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を回し続けることで、内部統制の実効性を維持・向上させます。

モニタリングには、大きく分けて2つの種類があります。

  • 日常的モニタリング:通常の業務プロセスに組み込まれて行われる監視活動です。例えば、管理者が部下の業務報告を日々チェックすることや、経理部門が定期的に勘定残高の照合を行うことなどが該当します。問題の早期発見に繋がります。
  • 独立的評価:業務から独立した視点で、客観的に内部統制の有効性を評価する活動です。代表的なものに、内部監査部門による定期的な監査や、外部の専門家による評価があります。日常的モニタリングでは気づきにくい、より広範で根本的な問題点の発見を目的とします。

モニタリングによって発見された内部統制の不備や問題点(「開示すべき重要な不備」など)は、速やかに経営者や取締役会に報告され、適切な是正措置が講じられる必要があります。このプロセスこそが、内部統制を「生きている」仕組みにするための鍵となります。

ITへの対応|テクノロジーを活用した統制

ITへの対応は、現代の企業経営において避けては通れない、6つ目の基本的要素です。事業活動におけるITへの依存度が高まる中で、IT環境そのものや、ITを利用した業務プロセスを適切に統制することを指します。会計システム、販売管理システム、人事システムなど、多くの業務がITなしには成り立たなくなっており、IT統制の不備は事業全体に深刻な影響を及ぼします。

ITへの対応は、主に2つの領域に分けられます。

IT統制の分類内容具体例
IT全般統制(ITGC)情報システム全体の信頼性を確保するための基盤となる統制。複数の業務システムに横断的に影響を与える。システムの開発・変更管理、アクセス管理(ID・パスワード管理)、システムの運用管理、外部委託先の管理。
IT業務処理統制(ITAC)個別の業務プロセスに組み込まれたITシステムが、承認された業務を正確に処理することを確保するための統制。入力データの完全性・正確性・正当性を確保するチェック機能、エラーデータの修正と再処理の管理、マスターデータの維持管理。

サイバー攻撃や情報漏洩といったリスクが日々高まる中、IT全般統制の重要性はますます増しています。また、RPA(Robotic Process Automation)などの新しいテクノロジーを導入する際にも、そのプロセスが適切に統制されているかを評価することが不可欠です。ITを有効活用しつつ、それに伴うリスクを適切にコントロールすることが、現代の内部統制には強く求められています。

企業価値を高める内部統制体制の作り方

内部統制体制の構築は、闇雲に進められるものではありません。金融庁が公表している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」などを参考に、体系的かつ段階的に進めることが成功の鍵となります。ここでは、企業価値向上に直結する、実効性のある内部統制体制を構築するための標準的な5つのステップを具体的に解説します。

ステップ1|基本方針と計画の策定

内部統制構築の第一歩は、プロジェクトの全体像を定義し、進むべき方向性を明確にすることです。この初期段階での計画が、後の全工程の質を左右します。まずは経営者が主導し、自社の事業内容や規模、企業文化に合った内部統制の基本方針を策定し、社内外に表明することが重要です。

次に、具体的な構築計画を立てます。以下の項目を明確にしましょう。

  • 目的と対象範囲の決定:なぜ内部統制を構築するのか(J-SOX対応、業務効率化、不正防止など)を明確にし、対象となる事業拠点や子会社、業務プロセスの範囲を決定します。特に上場企業やその準備企業の場合、売上高などの財務的指標に基づいて評価範囲を決定する「評価範囲の絞り込み」が重要なプロセスとなります。
  • プロジェクトチームの組成:経営層をトップに、経理、法務、情報システム、内部監査室、そして各事業部門からメンバーを選出し、専門性と現場感覚を両立させたプロジェクトチームを組成します。責任者と各メンバーの役割分担を明確にすることが不可欠です。
  • スケジュールと予算の策定:各ステップの完了時期を定めた詳細なマイルストーンとスケジュールを作成します。同時に、コンサルタントへの依頼費用やシステムの導入費用など、必要な予算を確保します。

ステップ2|全社的な内部統制の整備

個別の業務プロセスを検討する前に、会社全体に影響を及ぼす基盤としての統制(全社的内部統制)を整備します。これは、組織の風土や文化を醸成する「統制環境」を整えることに他なりません。全社的な内部統制が脆弱なままでは、個々の業務レベルの統制(業務プロセスに係る内部統制)が有効に機能しないため、極めて重要なステップです。

整備すべき主な項目は以下の通りです。

  • 取締役会・監査役等の機能:コーポレート・ガバナンスの要として、取締役会や監査役(または監査等委員会)が経営を適切に監督・監視する体制が機能しているかを確認・強化します。
  • 企業倫理と行動規範:コンプライアンス遵守の基礎となる企業理念や行動規範を策定し、全従業員に研修などを通じて周知徹底します。
  • 職務権限と組織構造:職務分掌規程や権限規程を整備し、各役職員の権限と責任を明確化します。これにより、適切な牽制機能が働く組織構造を構築します。
  • 内部通報制度の整備:不正や法令違反を早期に発見・是正するため、実効性のある内部通報制度(ヘルプライン)を設置し、その利用を促進します。
  • IT全般統制の整備:システムの開発・運用・保守、アクセス管理、セキュリティ対策など、情報システム全体に関わる統制方針を整備します。

ステップ3|業務プロセスの可視化と文書化

全社的な内部統制の整備と並行して、具体的な業務プロセスにおける統制の整備を進めます。このステップの目的は、日々の業務の流れを「可視化」し、そこに潜むリスクと、リスクを低減するための統制(コントロール)を文書に落とし込むことです。特に、財務報告の信頼性に影響を与える重要な業務プロセス(例:売上、売掛金、棚卸資産、決算・財務報告プロセスなど)が対象となります。

まずは現場担当者へのヒアリングや関連規程のレビューを通じて、業務の現状を正確に把握します。その上で、一般的に「3点セット」と呼ばれる文書を作成し、業務内容を客観的に記録します。

3点セット(業務フロー図・業務記述書・RCM)の作成ポイント

3点セットは、内部統制の状況を誰もが理解できるようにするための重要なツールです。それぞれの役割と作成時のポイントを理解し、相互に整合性の取れた文書を作成することが求められます。

3点セットの概要と作成ポイント
文書名役割作成のポイント
業務フロー図業務の開始から終了までの一連の流れ、担当部署、システム間の情報のやり取りを視覚的に表現する図。
  • JIS規格などで定められた標準的な記号を使用し、誰が見ても理解できるように作成する。
  • 業務の流れだけでなく、作成・参照される書類やデータ、システム処理を明記する。
  • 承認や照合といった統制活動(コントロール)がどこで行われているかを明確に示す。
業務記述書業務フロー図の内容を補完し、各プロセスの詳細な内容を文章で説明する文書。
  • 「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行っているかを具体的に記述する。
  • 使用する帳票やシステムの画面名なども記載し、客観的な記述を心がける。
  • 業務フロー図と番号などを対応させ、相互に参照しやすくする。
RCM(リスク・コントロール・マトリックス)業務プロセスに潜む財務報告虚偽記載リスクと、それに対応する統制(コントロール)を一覧形式で整理した表。
  • 考えられるリスクを網羅的に洗い出す。
  • リスクとコントロールを明確に対応付ける(1対1または多対1)。
  • 統制の目的(アサーション:実在性、網羅性、権利と義務の帰属など)を明記する。
  • 統制の種類(手動/自動、予防的/発見的)や頻度を記載する。

ステップ4|内部統制の運用とテスト

文書化された内部統制が、絵に描いた餅になっていないかを確認するステップです。設計された統制が実際にその通りに、かつ継続的に運用されているかを客観的な証拠に基づいて検証(テスト)します。この評価は、主に内部監査部門などの独立した部署が担当します。

評価手続きは、大きく2つの観点で行われます。

  1. 整備状況の評価:そもそも統制がリスクを低減するために有効な形で設計されているかを確認します。特定の取引が一巡する過程を追跡する「ウォークスルー」という手法が一般的に用いられます。
  2. 運用状況の評価:設計通りに整備された統制が、期末まで継続して有効に機能しているかを確認します。母集団からランダムにサンプルを抽出して検証する「サンプリングテスト」や、担当者への質問、関連文書の閲覧、業務の観察といった手法を組み合わせて実施します。

テストの結果は、実施した手続きや収集した証拠とともに、評価調書として詳細に記録しておく必要があります。この記録が、後の経営者による評価や監査法人による監査の基礎となります。

ステップ5|評価と改善点の是正

最終ステップでは、テストの結果明らかになった統制上の不備(ディフィシエンシー)を評価し、必要な是正措置を講じます。これは、内部統制を継続的に改善していくためのPDCAサイクルの根幹をなすプロセスです。

まず、発見された不備について、その内容と発生原因を分析します。その上で、不備が財務報告に与える影響の大きさ(金額的・質的重要性)を考慮し、「開示すべき重要な不備」や「重要な欠陥」に該当するかどうかを判断します。この判断は、経営者が最終的な責任を負います。

不備が確認された場合は、速やかに是正計画を策定し、実行に移します。是正措置が完了したら、再度テストを行い、不備が解消されたことを確認する必要があります。期末日までに是正が完了しない「開示すべき重要な不備」は、有価証券報告書と同時に提出する「内部統制報告書」において、その内容と是正方針を開示しなければなりません。

これらのプロセス全体を通じて、経営者は自社の内部統制が有効であるという合理的な心証を形成し、最終的に内部統制報告書でその評価結果を表明します。この一連のサイクルを回し続けることが、実効性のある内部統制体制を維持・向上させ、ひいては企業価値を高めることに繋がるのです。

内部統制体制の構築で失敗しないための重要ポイント

内部統制体制の構築は、企業の持続的な成長と信頼性確保に不可欠ですが、その道のりは決して平坦ではありません。多くの企業が形骸化や現場の反発といった課題に直面します。

ここでは、数々の企業が陥りがちな失敗を避け、実効性のある内部統制体制を築き上げるための3つの重要ポイントを、具体的なアクションと共に解説します。

経営トップの強いコミットメントが成功の鍵

内部統制体制の成否は、経営トップの姿勢にかかっていると言っても過言ではありません。なぜなら、内部統制は単なる管理部門の業務ではなく、組織全体の文化や価値観に根差した全社的な取り組みだからです。経営トップが内部統制の重要性を深く理解し、その構築と運用を主導する強い意志を示すことが、すべての出発点となります。

トップのコミットメントが欠如していると、従業員は「やらされ仕事」と捉え、協力が得られにくくなります。結果として、ルールが遵守されず、不正やミスの温床となりかねません。経営トップは、明確なメッセージを発信し、自らが率先して行動することで、内部統制を組織文化として根付かせる必要があります。

経営トップが果たすべき役割と行動例
役割具体的な行動例
方針の明確化と発信内部統制の基本方針を策定し、全従業員に向けて繰り返しメッセージを発信する(年頭挨拶、社内報、全体会議など)。「なぜ内部統制が必要なのか」を自らの言葉で語る。
リソースの確保内部統制の構築・運用に必要な人材、予算、時間を十分に確保する。専門部署の設置や、外部専門家(公認会計士やコンサルタント)の活用を承認する。
責任と権限の付与内部統制推進の責任者を明確に任命し、必要な権限を委譲する。取締役会や監査役会で定期的に進捗報告を受け、適切な監督を行う。
率先垂範経営トップ自らが倫理規範や社内規程を遵守する姿勢を示す。内部統制に関する研修や会議に積極的に参加する。

経営トップが内部統制をコストではなく、企業の信頼性を高め、持続的な成長を支えるための重要な投資であると位置づけることが、プロジェクトを成功に導くための最も重要な鍵となります。

現場の負担を考慮した現実的な制度設計

崇高な理念を掲げても、現場の実態とかけ離れた制度は機能しません。失敗する内部統制の典型的な例が、過剰な文書化や複雑な承認プロセスを導入し、現場に過度な負担を強いてしまうケースです。日常業務に追われる従業員にとって、煩雑な手続きは生産性を低下させる要因となり、次第に形骸化していきます。

重要なのは、リスクベース・アプローチに基づき、統制の重要度に応じてメリハリをつけることです。すべての業務に同じレベルの統制を求めるのではなく、企業の事業内容や規模、潜在的なリスクの大きさを評価し、重要なリスクが潜む業務プロセスに重点を置いて統制を設計します。

制度設計における配慮事項

  • 既存業務の尊重:全く新しいルールを作るのではなく、まずは既存の業務フローを可視化し、それをベースに統制の仕組みを組み込むことを検討します。現場の知見や慣行を活かすことで、スムーズな導入が可能になります。
  • ITツールの活用:承認ワークフローシステムや経費精算システム、内部統制評価支援ツールなどを活用し、手作業によるチェックや書類作成の手間を削減します。これにより、統制の正確性を高めつつ、現場の負担を軽減できます。
  • シンプルで分かりやすいルール:誰が読んでも理解できる、シンプルで明確なルール作りを心がけます。マニュアルや規程類は、図や表を多用し、直感的に理解できるよう工夫します。
  • スモールスタート:最初から全社で完璧な体制を目指すのではなく、特定の部門や重要な業務プロセスから試験的に導入し、フィードバックを得ながら段階的に範囲を拡大していくアプローチも有効です。

内部統制は、業務を縛るためのものではなく、業務を円滑かつ適正に進めるための仕組みです。現場との対話を重ね、実効性と効率性のバランスが取れた現実的な制度を設計することが、形骸化を防ぎ、生きた内部統制を実現する上で不可欠です。

形骸化を防ぐための継続的な見直しと教育

内部統制体制は、一度構築したら終わりではありません。事業環境の変化、組織改編、新しいテクノロジーの導入など、企業を取り巻く状況は常に変化します。これらの変化に対応できなければ、構築した体制はすぐに陳腐化し、形骸化してしまいます。

内部統制を「生き物」と捉え、継続的に評価・改善していく仕組み(モニタリング)を組み込むことが極めて重要です。また、従業員の意識を高く保つための教育・研修も欠かせません。

形骸化の兆候と具体的な対策
形骸化の主な兆候有効な対策
チェックリストの形骸化(中身を見ずに押印・承認)内部監査部門による定期的なサンプリングテストの実施。セルフチェックだけでなく、上長や関連部署による相互牽制の仕組みを導入する。
ルールと実務の乖離(ルールが守られていない、実態に合わない)現場からのフィードバックを収集する仕組み(定期的なヒアリング、意見箱など)を設ける。事業環境の変化に合わせて、規程やマニュアルを年次で見直すプロセスを定着させる。
目的意識の低下(「何のためにやっているのか」が不明確になる)新入社員研修や階層別研修で、内部統制の目的や重要性を繰り返し教育する。不正事例やヒヤリハット事例を共有し、リスクへの感度を高める。
担当者の異動によるノウハウの喪失業務マニュアルの整備と定期的な更新を徹底する。担当者任せにせず、部署内で業務知識を共有する体制を構築する。

内部監査部門は、独立した立場から客観的に内部統制の有効性を評価し、経営者や取締役会に改善点を提言する重要な役割を担います。内部監査を有効に機能させ、その指摘事項を真摯に受け止め、業務改善に繋げていくサイクルを回すことが、体制の形骸化を防ぎ、継続的な進化を促します。

まとめ

本記事では、企業価値を高める内部統制体制の作り方を解説しました。内部統制は、会社法や金融商品取引法(J-SOX)で求められる義務であると同時に、リスク管理の強化や業務の効率化を通じて、企業の持続的な成長を支える重要な経営基盤です。

成功の鍵は、経営トップの強いコミットメントと、現場の実態に即した継続的な改善活動にあります。ご紹介した5つのステップと重要ポイントを参考に、実効性のある体制構築を進めましょう。

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