社会保険の出産手当金とは?
出産手当金とは、女性の労働者が出産のために会社を休んだ場合、社会保険のなかの健康保険(医療保険)から支給される手当金です。
労働基準法第65条では、出産を予定している女性労働者が「産休」と言われる産前休業・産後休業の期間内に休業を申請した場合、承認しなければならないと定められています。
参考:労働基準法
産休を取得すると、心身ともに安定した状態で出産に臨むことができ、産後も充分な休養を取って体調の回復に専念できます。
しかしながら、産休中の給与の支払いについては労働基準法で定められていません。就業規則によって給与の支払いが定められている企業もありますが、義務ではないため、給与を支払わないとしている会社もあります。
つまり、産休中は収入がゼロの状態になってしまう可能性もあります。
そんなときに活用したいのが、出産手当金です。産休を取得している期間内に給与の支払いを受けなかった場合に支給されるお金です。
なお、産休と併せて理解しておきたいのが「育休(育児休業)」です。育休の詳しい内容については、以下の記事で解説しています。ぜひご参考ください。
支給条件・期間
出産手当金はすべての従業員が対象になるのではなく、勤務先の社会保険に加入していることが条件です。たとえば、以下のように、働いている会社の社会保険に加入していない場合は受け取れません。
- 学生のアルバイトで、親の扶養に入っている
- パートタイマーで、夫の扶養に入っている
この場合、被扶養者として加入している社会保険は、当人が働いている会社のものではありません。そのため、勤務先を休んだとしても、出産手当金の対象とはならないのです。
また、妊娠期間中すべてが対象となるわけではありません。対象期間は、以下になります。
- 産前休業期間:出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日 ※多胎妊娠の場合は98日
- 産後休業期間:出産の翌日以後56日目
出産日は「産前期間」に分類され、実際の出産が予定日よりも遅れた場合、遅れた日数分も支給の対象となります。
<例>出産日が予定日より3日遅れた:予定日前42日+遅れた日数3日+産後56日
この期間内に、会社を休んで業務に従事していない日数分が出産手当金の支給対象となります。
参考:働く女性の心とからだ応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート|厚生労働省
支給額
出産手当金の支給額は、会社を休んだ1日につき、労働者の標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給されます。
標準報酬日額とは、標準報酬月額を30で割った金額です。
なお、標準報酬月額とは、会社から支給される基本給のほか、通勤手当や残業手当などの各手当を加えた総支給額(報酬月額)を、保険料額表の1等級から32等級に分け、該当する等級に割り当てられた金額を言います。
出産手当金の支給額を算出する際に参考とされる標準報酬月額は、労働者がその会社で働いたすべての期間が該当するわけではありません。「支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額」とされているため、それより前の期間の標準報酬月額は、出産手当金の金額に影響しません。
ちなみに、入社してからまだ12カ月経過していない場合は、次の計算を行って金額が低いほうが用いられます。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 標準報酬月額の平均額(支給開始日が平成31年3月31日までの方は28万円/支給開始日が平成31年4月1日以降の方は30万円)
なお、産休期間内に勤務先から給与を支払われている場合にも、出産手当金の支給を受けることができます。ただし、出産手当金の金額が給与額よりも低い場合に限って差額のみが支払われるため、給与額のほうが高ければ出産手当金は支給されません。
出産一時金との違い
出産手当金と混同されやすい制度が「出産一時金(出産育児一時金)」です。
出産一時金とは、保険加入者が出産する際に支払われるお金で、1度の出産について1度のみ支給されます。出産に際して膨大な入院費がかかりますが、出産一時金を活用することで自己負担分を抑えることが可能です。
支給額はかつて42万円でしたが、2023年4月から50万円へと引き上げられました。(48.8万円の場合もある)
出産一時金は、出産した産院・クリニックなどに直接支払われることが一般的です。 出産手当金と違い、出産一時金は会社の社会保険に加入している被保険者本人だけでなく、扶養になっている被保険者も利用できます。また、国民保険加入者も活用可能です。
社会保険の出産手当金 申請の流れ
基本的な申請の流れを解説します。
条件と現状の確認
まずは条件と自分の現状を確認します。
- 勤務先の社会保険に加入しているか
- 産休中の給与の支払いについて就業規則で定められているか
- いつからいつまでが支給対象期間か
産休直前になると業務の引継ぎなどでバタバタするため、スケジュールに余裕を持って申請準備をしておくと安心です。
会社側は、産休中に有給休暇を取得するのか、いつからいつまで産休を取得する予定か、などヒアリングしておきましょう。
申請書の用意
申請書の記入が必要です。
申請書が勤務先にない場合は、従業員本人が用意しましょう。
全国健康保険協会では「健康保険 出産手当金 支給申請書」を用意しています。
申請書には、従業員本人が記入する書面、医師・看護師が記入する書面、勤務先が記入する書面があります。
従業員
従業員本人は、以下の項目を記入します。
- 被保険者証や氏名・住所などの個人情報
- 振込先口座の情報
- 期間や出産予定日などの申請内容
医療施設
以下の項目は、医師・看護師に記入してもらい、証明する必要があります。
- 出産予定日 出産年月日
- 出産児数
- 死産児数
- 死産の場合の妊娠日数
そして、医療施設の情報や医師・看護師の氏名も記入します。
企業側
申請書には、企業側の記入が必要な項目があります。
- 被保険者の勤務状況
- 出勤していない日に報酬等を支払った場合は、その日と金額
そして事業所情報などを記入します。
申請書の提出
申請書を勤務先に提出します。
従業員から申請書を受け取った企業側は、全国健康保険協会などの団体組織に提出しましょう。
支給
申請から、約1~2カ月ほどで指定口座に振り込まれます。
何カ月も振り込まれない場合は、書類などの不備がある可能性もあるため団体組織に問い合わせてみましょう。
社会保険の出産手当金の対象外になる場合
社会保険に加入している女性従業員は、自身の出産の際に出産手当金が受け取れるため、一時的に収入が減少しても安心です。
しかし、すべての女性が受給できるのではないため注意しましょう。
国民健康保険に加入している
出産手当金は、企業の社会保険に加入している従業員のみが対象です。国民健康保険に加入している女性は対象となりません。
ただし、出産一時金は国民健康保険加入者でも対象です。
健康保険加入者の扶養家族である
出産手当金が受給されるのは、企業の健康保険に加入している被保険者本人のみです。夫や親などが健康保険に加入しており、出産する女性自身は扶養家族の場合は支給されません。
健康保険の任意継続をしている
健康保険には「任意継続」という、退職しても要件を満たした場合に限り元勤務先の健康保険に継続して加入できる仕組みがあります。
任意継続の被保険者は、原則として出産手当金の対象ではありません。
ただし健康保険法第104条の要件を満たしている場合は受給対象のため、全国健康保険協会などに問い合わせてみましょう。
給与が出産手当金の日額を超える
産休で勤務できなくても給与を支払うと規定している企業もあります。ただし支給される給与の日額が、出産手当金の日額以上の場合は、出産手当金は受給できません。
一方、給与が出産手当金よりも低い場合は、差額分を受給できます。
まとめ
働く女性にとって、産休中の収入源は痛手です。しかし出産手当金を受け取ることができれば、勤務先から給与の支給がされなくても、安心して出産や育児に臨めます。
ただし、受給できる条件があるため注意が必要です。まずは自社の就業規則を確認し、産休中の給与の支給について把握してから受給を検討しましょう。
また、企業側は制度について理解し、申請があった際には速やかに対応できるように社内体制を整えておきましょう。
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