価値観や働き方、ニーズが変化している時代を迎え、会社という組織にも変化が求められている。変化を実現するために必要とされるのが「自燃型人材」だ。
今回は、株式会社ジェックの代表取締役である松井氏を迎え、自燃型人材とはどのような人材か、そして自燃型人材を育成するにはどのようなマネジメントが必要なのか、詳しい話をうかがった。
従来通りの「指示型」では変化に対応できない時代を迎えている
<中條氏>
本日は、株式会社ジェックの代表取締役である松井さまを招き、組織を変革する令和型のリーダーシップについてうかがっていきたいと思います。まずは松井さまの自己紹介をお願いいたします。
<松井氏>
株式会社ジェックの代表取締役を務めております、松井達則と申します。得意分野は幹部育成とマネジメント改革でして、そうした仕事を通じて47都道府県すべてに行った経験がございます。本日はよろしくお願いいたします。
<中條氏>
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
松井さまの得意分野に関連してお聞きしたいのですが、現場のマネージャーやリーダーは、部下や後輩の育成・指導に悩んでいるという話をよく耳にします。松井さまから見て、どのような課題が多いと感じていますか?
<松井氏>
現代のリーダーの多くはプレイングマネージャーとして、自分の仕事をしながらマネジメント業務もしている状態です。そのため非常に忙しく、マネジメントをする余裕がなくなり、部下との会話も少なくなっている傾向にあります。
そのため、どのようなことが起きるかと言うと、忙しいために「早く終わらせたい」という思考になり、部下に指示して丸投げしたり自分自身でやってしまったりするため、部下が育たない・成長しないということが起きやすくなります。その結果、部下が育たないため仕事を任せられず、自分の仕事が増えてしまうという悪循環に陥るでしょう。このような状態を、我々は「指示型リーダーシップ」と呼んでいます。
こうした課題があることから、リーダーには「人を育てる」という視点が必須であると言えます。
<中條氏>
このようなことが起きる要因や背景には、どのような要素があるのでしょうか?
<松井氏>
現代の日本の「人手不足」があるかと考えています。どの企業も人が足りていない状況のため、リーダー層はマネジメント以外の仕事もこなさなければならず、必然的に忙しくなっています。そのため、先ほど解説したリーダー層の課題は、多くの企業で実感していることかと思います。
<中條氏>
指示型リーダーシップのマネジメントでは、組織にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。
<松井氏>
指示型リーダーシップの場合、部下たちは指示待ちになってしまうため、変化の激しい現代においては限界を感じる場面もあるでしょう。
コロナ以降、顧客ニーズの変化を強く感じている企業様は多いのではないでしょうか。さらに、DX化やAI活用も求められています。それに伴い、経営方針や業務内容も変化していっています。
こうした変化の中で、リーダーの指示を待っているとスピードが遅くなり、変化に対応しきれない組織になりかねません。また、リーダーが苦手な分野のことも自身で判断しなければならなくなり、誤った意思決定を引き起こすリスクもあるでしょう。
つまり、現代のビジネスでは、部下たちに主体的に考えて動いてもらうチーム作りが必要となっています。
<中條氏>
こうした課題があることから、次世代のリーダーにはどのようなことが求められているのでしょうか。
<松井氏>
時代が変化している中では、変化に対応できるチームづくりが必須です。変化がなかなか訪れない時代は安定的なチームをつくる必要がありましたが、今は臨機応変に動けるチームづくりが求められています。
そのためには、一人ひとりの個性や強みを伸ばし、それぞれを「とんがった人材」に育てなければなりません。そうすることで、時代の変化が訪れても、誰かのとんがりが刺さる可能性がありますよね。また、とんがり同士がぶつかり合うことでシナジーが生まれ、新たなイノベーションに発展します。
さまざまな要素や角度のとんがりを創っていくために、現代のリーダーは「傾聴」と「共感」の対話を行い、メンバーの個性・強みをとんがらせていく必要があるのです。
<中條氏>
一人ひとりが強みを活かせる組織づくりが必要なのですね。
次世代に求められる「自燃型人材」とは
<中條氏>
松井さまは「自燃型(じねんがた)人材」を提唱されていますが、具体的に教えていただけないでしょうか。
<松井氏>
自燃とは「自ら燃える」という意味なので、自分自身で動機づけをして熱意を持って動き、周りに火をつける人材を「自燃型人材」と呼んでいます。以前から「自律型人材」という言葉はありましたが、自律型人材がさらに強まったとイメージしていただけると良いかと思います。
自律型人材とは、組織の方針の意味を理解して、自分で考えて動くことができます。また、周りと協力し合いながら自分の目標を達成できる人材を指します。
一方の自燃型人材は、組織の方針を理解するだけでなく、自分のビジョンと結びつけて考えることが可能です。そして、自分の強みを活かして動けるため、強みや得意分野を自身でとんがらせていけます。自分とチームの目標を達成したいという想いも強いため、周りに火をつけてチームのモチベーションを上げられる人材です。
<中條氏>
自律型人材でも組織にとっては非常にありがたい存在ですが、それよりも上位の自燃型人材がいると、チームとしても楽しく働けそうですね。
なぜ自燃型人材が必要とされているのでしょうか。
<松井氏>
時代の変化が大きな要因であると考えます。時代の変化が激しいと、これまでのビジネスモデルやオペレーションでは立ち行かなくなってしまうため、チーム自体の変革が求められます。チームの変革のためには、メンバー同士でアイデアを出し合い、今までなかったやり方や価値を創造していく化学反応が必要となります。自燃型人材が一人でもいると、ディスカッションが建設的になり、イノベーションを牽引してくれるのです。
<中條氏>
具体的に、どのようなイノベーションが期待できるのでしょうか。
<松井氏>
強みで「とんがる」ということができるようになるのは、大きな特徴のひとつですね。自燃型人材が一人でもいるとイノベーションが生まれやすくなりますが、さらに二人、三人と増えれば、それだけイノベーションの可能性は広がるでしょう。また、自燃型人材が率先して動くため、周りも能動的に動くようになります。
つまり、自燃型人材がいることによって、イノベーションが生み出され、そしてそのイノベーションを実現するためのアクションも発生するのです。
<中條氏>
挑戦の数が増える、行動の数が増える、その結果イノベーションが生まれるということですね。
自燃型人材を育てるには、リーダー自身の「自燃」が必要
<中條氏>
自燃型人材には、どのような心持ちが求められるのでしょうか。
<松井氏>
「お役立ちの心」であると考えています。この「お役立ちの心」は、弊社、株式会社ジェックが創業当時から提唱しているのですが、自分ならではの役立ち方を追求し続ける心を指します。
社会や顧客、さらには自分のチームの役に立ちたいという意欲を持つことで、役に立つためのアイデアが出やすくなり、組織を動かす原動力にもなります。これが、自燃型人材の源泉であると考えています。
<中條氏>
自燃型人材を育成するためには、リーダーは何をすべきなのでしょうか。
<松井氏>
「傾聴」と「共感」がキーワードになります。メンバーの話に傾聴して、意見に共感することで、部下のアイデアを引き出して「やってみたい」と思わせることを後押しします。
ただし、リーダーとしての素質がある人は自分の話をしたくなったり意見を言いたくなったりする傾向にあるため、実は傾聴と共感は難しいことです。そのため、リーダーは傾聴と共感のスキルを磨く必要があるでしょう。
また、単に傾聴と共感をすればよいわけではなく、場面に応じて対話を使い分けていくことも重要です。たとえば、期初は目標の統合対話、日々の業務の中ではチェック&フォロー対話、部下が落ち込んでいるときやうまくいっていないときは指導の対話、さらに定期的にフィードバック対話をしなければなりません。場面に応じた対話を行い、傾聴と対話をうまく使いこなす必要があります。
<中條氏>
傾聴と共感が重要であることは理解できたのですが、部下が意見やアイデアを持っていない場合はどうしたらよいのでしょうか。
<松井氏>
実は、そのようなご相談は少なくありません。
ご回答としては、まずは「必ず意見が出てくると信じる」ということです。「部下は自分よりもよいアイデアを持っている」というマインドを持っているリーダーほど部下のアイデアを引き出すことができ、逆に「どうせよいアイデアは出ないだろう」と思っているリーダーは部下も感じ取って意見を伝えなくなるのです。
また、すべて引き出すのではなく「ヒントを与える」のも重要です。アイデアの種になるヒントを与えることで部下が自ら考えるようになり、形となって完成するでしょう。
<中條氏>
先ほど「指導の対話」や「フィードバック対話」というものがありましたが、その際のポイントはございますか?
<松井氏>
フィードバックは、ポジティブコメントとポジティブコメントの間に改善点を伝える「ポジティブサンドウィッチ」がおすすめです。具体的には、まずは小さな成功や努力をポジティブな言葉で褒め、そのうえで「この点とこの点がうまくいっていなかったようだね」と確認し、次のアクションを共に考えます。そして「○○さんなら~~が得意だから、きっとできるよ」とポジティブな言葉で締めくくり、アクションを促します。
ポジティブサンドウィッチを行うためには、日ごろから部下の小さな成功や努力を見つけることが重要です。そうすると、部下は「そんなところまで見てくれていたのか」という気持ちになってモチベーションが上がり、自燃型人材として育っていくでしょう。
<中條氏>
リーダーの努力も必要なのですね。つまり、リーダー自身の意識改革も求められますね。
<松井氏>
そもそも、リーダー自身が自燃型人材である必要があります。部下はリーダーのことをよく見ているので、リーダーが自燃型になればチーム内に連鎖していき、自燃型人材が増えていくのです。
その結果、挑戦をするようになり、お互いに協調し合い、お役立ちが強まっていくという、よき組織文化が育っていきます。
自燃型リーダーを育てるジェックの人材育成サービスを紹介
<中條氏>
このようなリーダーを育成するサービスを、御社が提供されているのですよね。
<松井氏>
まずはリーダーとしての軸を明確化するところから始めます。会社の方向性・理念や、リーダー自身の価値観・強みを踏まえ、自分ならではの「お役立ち」を描いていただきます。リーダーとしての自覚を持つことができるフェーズのため、自燃のスタートとなります。
リーダーとしての意欲が高まった段階で、次はリーダーとして必須のマインドと行動をセットしていきます。リーダーとしての役割・責任、期初・期末にやるべきこと、メンバーの育成、チームの問題解決、良き組織文化づくりなどのやり方やナレッジを学んでいただきます。
知識を身につけてマインドセットや行動セットができたところで、実際に「傾聴」と「共感」をする対話スキルを習得していきます。トレーニングや現場で実践していき、リフレクションしていくことで、スキルの向上と定着を目指します。
<中條氏>
こうして体系的にプログラムを立てて取り組むことでスキルの定着が期待できますが、障壁になりやすいポイントはございますか。
<松井氏>
よくご相談を受けるのが、1on1ミーティングなどで対話をしてもうまくいかないという内容です。
しかし、私は1回や2回程度対話をしただけでは、あまり変わらないと思っています。最初の頃は、部下も「面倒だな」という気持ちがあり、対話に前向きな姿勢でないことが多いでしょう。ただし、5回、6回と繰り返していくことで、部下にとっても対話の時間が当たり前のようになっていき、発言も増えていきます。
そのため、1回や2回対話をして「うまくいかなかった」と諦めてしまうのは、もったいないことです。やめずに継続していき、乗り越えることで良い結果につながります。
<中條氏>
対話の内容だけでなく、回数も重要なのですね。
<松井氏>
回数を増やしていくためには、ルールづくりが重要だと思っています。たとえば「月に1度行う」というようにルールを決めると、仕組みとして組織に定着できるでしょう。
また、対話の内容をブラッシュアップしていくには、対話の内容を客観的に評価することも必要です。リーダーと部下の対話の内容を、さらにその上の役職者がチェックしてフィードバックしていくと、内容のクオリティも高まっていくでしょう。
<中條氏>
対話はリーダーのスキルに左右されやすいかと思いますが、リーダー経験のある役職者がフィードバックすることでブラッシュアップしていけますね。
<中條氏>
こちらのプログラムを受けた企業様からは、どのような効果があったというお声がありましたか?
<松井氏>
多いのは、部下から話しかけてくれるようになったという事例です。たとえば、お客様への提案内容やアプローチ方法などを部下から相談を受け、リーダーとともにディスカッションして、より良い方法を実行できているという企業様が多く見られます。
<中條氏>
他社のリーダー育成サービスとはどのような点が違うのか、御社ならではの強みを教えてください。
<松井氏>
我々が大事にしているのが、一人ひとりの強みや特性を踏まえたリーダー像を明確にできることです。世間一般で言われているような理想のリーダー像ではなく、それぞれの個性を発揮したリーダーを育成できます。
また、当社は、とことんお客様にカスタマイズしてコンテンツを提供しています。お客様の社内や現場に最適化し、「さっそく明日からでも使える」というコンテンツ設計にこだわっています。
さらに、プログラムを受けていただくだけでなく、現場での実践を踏まえてフィードバックさせていただき、さらに実践をしていただく……というプロセスを繰り返すことで、確実にマインドや行動を変化させていけるのも強みです。
<中條氏>
本日は貴重なお話、誠にありがとうございました。