360度評価のよくある失敗例
360度評価とは、これまで上司が部下を評価するだけでしたが、同僚同士や部下が上司の評価を行うなど多面的に人事評価ができる制度です。人事評価の公平性が高まるだけでなく、評価される従業員の納得度や仕事に対してのモチベーション向上の効果が期待できると注目されています。
しかし、一方で360度評価は失敗しやすい人事評価制度であるとも言われています。そこで、よくある失敗例として4つ紹介していきます。それぞれ詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
- 社内の人間関係が悪化した
- 社員納得度が下がった
- 費用対効果が期待通りではなかった
- 上司の顔色を窺うようになった
事例1:社内の人間関係が悪化した
まずは、360度評価の運用に失敗し社内の人間関係が悪化した事例です。360度評価の運用においては以下の2種類あり、部署内の人間関係の雰囲気などから適正な方法を選択することが重要となるでしょう。
- 記名式
- 匿名式
記名式は誰からの評価か分かってしまうため、相性の悪い従業員同士で評価を行う場合はその後の雰囲気が悪化してしまう可能性があります。一方で匿名式の場合、ネガティブな評価に対し一体誰が評価したのか気になり疑心暗鬼になってしまう人も出てくるでしょう。
心理負担的に少ないのは記名式の方ですが、360度評価をきっかけにこれまで良好だった関係がギクシャクしてしまい、業務などに支障が出てしまったケースがこの失敗例です。
事例2:社員納得度が下がった
社員の納得度が向上するメリットが期待できる360度評価ですが、この失敗例は逆に社員納得度が下がってしまうケースです。その理由として、普段から評価を行っていない部下が上司や同僚の評価を行う際に、慣れてないことから評価点のばらつきの発生が挙げられます。
評価に慣れていないと、相手への好き嫌いの私情や主観を反映させてしまうなど公平性が保たれなくなる可能性があります。例えば、上司からの評価が総じて高いが部下からは極端に低い評価が多かった場合、評価された側の社員は納得度が下がり、不満を増幅させてしまう結果となるでしょう。
事例3:費用対効果が期待通りではなかった
360度評価を実施することで、全従業員の負担が発生し評価にかかる工数や時間が会社全体で増加してしまいます。また、すぐに効果がでるものではないことから、費用対効果に対し「期待通りでなかった」と感じてしまい失敗と捉えられるケースがこの失敗例です。
360度評価に対する費用対効果はすぐに見えないので、PCDAを回しながら長期的に運用していくものであることを理解しておきましょう。
事例4:上司の顔色を窺うようになった
前述した社員納得度が下がってしまった事例の中で説明した「評価に慣れていない部下が上司や同僚の評価に対しばらつきが発生する」と似ている事例として「上司の顔色を窺うようになった」という失敗事例があります。
360度評価は上司に対しても評価を行いますが、その際にネガティブな評価をすれば「対立を生むのではないか」や「関係が悪化し今後の業務に支障が出るのではないか」と考えてしまう人も少なくないでしょう。その結果、評価に率直な意見を書くことができず、部下の上司に対しての評価が高くなる傾向にあります。適正な評価がされないことは、360度評価の導入の失敗事例とも言えるでしょう。
360度評価導入が失敗してしまう理由は?
前述の失敗例のように360度評価導入が失敗してしまうのにはどのような理由があるのでしょうか。ここからは、失敗してしまう理由を5つ紹介します。
- 導入目的が明確でない
- 別評価基準に組み込んでしまう
- 社員がいい加減に取り組んでしまう
- アフターフォローがない
- 社員への事前説明がない
失敗となる理由をしっかり理解し対策することで、適正な360度評価が運用でき、社員間連携や上司と部下の意思疎通が上手くいくなどの効果が現れるなど成功へとつながるでしょう。それぞれの理由について詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
理由1:導入目的が明確でない
導入目的が明確ではないと、360度評価の失敗へとつながってしまいます。企業が360度評価を導入する目的は以下の2つであり、どちらを目当てとして導入するかで運用方法が違います。
- 公平な評価を行うため
- 人材育成や社員のモチベーションを向上させるため
やみくもに360度評価を導入してしまっては、前述した失敗例となってしまう可能性が高いです。目的を明確にした上で、360度評価をどのように運用していくかを決めることが重要となるでしょう。
理由2:別評価基準に組み込んでしまう
360度評価は「能力開発」や「スキルアップ」の評価基準としてのみ活用するものであることを理解しておきましょう。「業績評価」や「人事考課」に組み込んでしまうと、以下のように適正なフィードバックが行われない可能性があります。
- 従業員間や上司に対し忖度が起こってしまう
- 仕事のパフォーマンスに関係なく意図的に低い評価をつける
本来組み込まれる評価基準ではなく、別評価基準に組み込んでしまったために社員の能力開発の妨げになったり、社員のモチベーションを下げてしまうなど360度評価が失敗に終わってしまいますので、導入の際は注意してください。
理由3:社員がいい加減に取り組んでしまう
360度評価は多面的に評価することから、導入することで必然的に社員の負担が大きくなります。上司・同僚・部下とそれぞれに評価を行う場合、設問が多すぎるといい加減に取り組んでしまう社員もでてくるでしょう。そうなると、公平な評価や役立つフィードバックが受けられず失敗となる可能性があります。
- 質問数は全体で30問程度
- 一人当たりの回答時間が15分以内
上記のようにできるだけ社員に対する負荷を減らすなどの注意を払いながら、360度評価を導入していきましょう。
理由4:アフターフォローがない
評価に対するアフターフォローがないことも360度評価導入の失敗へとつながります。アフターフォローがない代表的な失敗例は以下です。
- 受けた評価を「PCDAサイクル」に巻き込まない
- 振り返り面談を実施しない
フィードバックを受けっぱなしで終わってしまうと、社員の能力向上やモチベーション向上にはつながらず、ただ流されてしまうだけとなってしまいます。上記のような失敗例を生まないためにも、アフターフォローをしっかり行い、360度評価導入の成功へとつなげていきましょう。
理由5:社員への事前説明がない
360度評価を導入する際、社員への事前説明が前もって行われていないことも失敗の要因となるでしょう。前述した導入目的を理解していないと、公平な評価が行われず社員のモチベーションの低下や社員の納得度の低下へとつながってしまいます。
360度評価を導入する目的や、メリットなど企業にとって必要な制度であることを事前に説明し、社員への理解や納得を得た上で360度評価の実施を行うことが重要となります。
360度評価導入を成功させるポイントは?
ここまで失敗事例や失敗となる理由などを説明してきました。では、360度評価導入を成功させるためにはどのようなポイントがあるのでしょうか。以下の4つについて詳しく解説していきますので、しっかり理解しておきましょう。
- 導入目的を明確にする
- 事前にスケジュールを立てておく
- 社員に寄り添う
- 評価基準を均一にする
ポイント1:導入目的を明確にする
360度評価の導入で人材育成やマネジメント強化の効果をしっかり感じるためにも、導入目的を明確にすることは必要不可欠です。
- 公平な評価を行うため
- 従業員の能力開発を行うため
- 仕事への取り組み姿勢を改善するため
上記のように企業の現状や課題を理解した上で導入目的を明確にすることで、360度評価の導入で企業が大切にしている行動指針やとってほしい行動を社員に意識してもらうことができるでしょう。
ポイント2:事前に全体スケジュールを立てておく
前述で「アフターフォローがない」ことが失敗の理由となることを解説しました。360度評価導入を成功させるには、事前に全体スケジュールを立てておくことがポイントとなります。全体スケジュールの大まかな流れは以下となりますので、ぜひ参考にしてください。
- 社員説明会の実施
- 社員が実施した評価の集計・フィードバック
- 振り返り面談など上司との面談
- 具体的なアクションリストの作成(計画)
- アクションリストに沿った業務遂行(実行)
- 1ヶ月単位で自己評価や上司評価の実施(確認)
- 評価に基づいてアクションリストの修正・追加(実行)
どのステップも360度評価の導入を成功させる重要な要素となりますので、しっかり理解した上で360度評価の設計を行なってください。
ポイント3:社員に寄り添う
360度評価を導入することで、全社員の負担が発生することは前述でも説明しました。360度評価の導入を成功させるためにも、社員に寄り添うことは必要不可欠です。そのためにも、社員説明会では実施目的の他にも以下についてしっかり説明し社員の理解を得ることが重要となります。
- 評価方法に関するガイドライン
- 全体的なスケジュール
- 評価項目・記入方法
- 人事考課や業績評価への反映の有無
また、社員数が多い場合は部署ごとに実施したり疑問がある社員に対し質問会や意見箱の設置を行うなど、第一段階である社員説明会の実施は特に意識して行う必要があります。
さらに評価に対して質問や不公平な評価を受けたと感じる社員の発生に備え、気軽に相談が行える「相談窓口」を設置するのも効果的であると言えるでしょう。社員に寄り添って360度評価を実施することで、導入の効果が期待できるでしょう。
ポイント4:評価基準を均一にする
360度評価導入の際は、評価基準を均一にすることが重要となります。あらかじめガイドラインの作成を行い、評価制度の基盤を整えておくことで、公平な評価にもつながるでしょう。360度評価を導入する際の評価基準において以下の項目が参考となります。
能力評価 企画力 実行力 知識 情意評価 責任性 協調性 積極性
また、360度評価制度の基盤を整えておくと担当者が変わった際にもスムーズに運用できることからも、評価基準は均一にしておきましょう。
まとめ
この記事では、360度評価制度でよくある失敗事例の紹介や、実際に導入した際の失敗する理由と対策について詳しく解説しました。「失敗しやすい人事制度」とも言われている360度評価ですが、適切な導入を行うことで、企業にとって大きな良い効果をもたらす可能性があります。
また、360度評価制度の導入のメリットとして社員のモチベーションの向上が期待されますが、他にもモチベーション向上の効果があるとされる方法がいくつかあります。以下の記事「モチベーションとは?モチベーションが下がる理由と上げる方法を徹底解説します!」では、モチベーションについて徹底的に解説していますのでぜひ参考にしてください。
【SNSフォローのお願い】
kyozonは日常のビジネスをスマートにする情報を毎日お届けしています。
今回の記事が「役に立った!」という方はtwitterとfacebookもフォローいただければ幸いです。
twitter:https://twitter.com/kyozon_comix