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IT人材不足の解決策は社内にあり!リスキリングで実現する採用に頼らない組織作り

投稿日:2025年9月26日 /

更新日:2025年9月27日

IT人材不足の解決策は社内にあり!リスキリングで実現する採用に頼らない組織作り
● 人材定着● 人材育成

「DXを進めたいがIT人材がいない…」多くの企業が抱えるこの深刻な経営課題。本記事では、IT人材不足の原因とリスクを明らかにし、採用だけに頼らない根本的な解決策として「リスキリング」を解説します。社内人材を育成する具体的なステップや成功のポイント、活用できる国の補助金まで網羅的に紹介。貴社のIT人材不足を解消する道筋が見つかります。

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目次

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深刻化する日本のIT人材不足|その現状と原因

現代のビジネスにおいて、ITの活用は企業の競争力を左右する重要な要素です。しかし、多くの日本企業が「IT人材不足」という深刻な課題に直面しています。これは単なる採用市場の問題ではなく、事業の成長を停滞させ、イノベーションを阻害する経営上の大きなリスクとなりつつあります。

まずは、客観的なデータをもとに日本のIT人材不足がどれほど深刻な状況にあるのか、その現状と背景にある構造的な原因を詳しく見ていきましょう。

経済産業省の調査で見るIT人材の需給ギャップ

日本のIT人材不足の深刻さを示す最も代表的なデータが、経済産業省が公表している「IT人材需給に関する調査」です。この調査では、将来のIT需要の伸びに対して人材供給が追いつかず、需給ギャップが年々拡大していくと予測されています。

特に注目すべきは、2030年時点での予測です。IT需要の伸びが中位のシナリオで推移した場合でも、2030年には約45万人のIT人材が不足すると試算されています。さらに、生産性の向上があまり進まず、IT需要がより高く推移する高位シナリオの場合、その不足数は約79万人にものぼるとされています。

IT人材の需給ギャップ推計(中位シナリオ)
IT人材需要IT人材供給需給ギャップ(不足数)
2020年約109万人約92万人約17万人
2025年約122万人約91万人約31万人
2030年約132万人約87万人約45万人

このデータが示すのは、もはやIT人材の確保が「待ったなし」の状況であるという厳しい現実です。企業がこれまで通りの採用活動を続けるだけでは、必要な人材を確保することは極めて困難であり、事業戦略そのものの見直しを迫られる可能性が高いことを意味しています。

なぜIT人材不足は起きるのか 3つの主な原因

IT人材の需給ギャップは、単一の理由ではなく、社会構造や技術トレンドの変化といった複数の要因が複雑に絡み合って生じています。ここでは、その中でも特に大きな影響を与えている3つの原因を解説します。

DX推進による需要の急拡大

IT人材不足の最も大きな要因の一つが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速による需要の爆発的な増加です。AI、IoT、ビッグデータ、クラウドといった先端技術を活用し、業務プロセスの効率化や新たなビジネスモデルの創出を目指す動きが、あらゆる産業で活発化しています。

従来はITと縁遠いと考えられていた製造業、建設業、農業、医療・介護といった業界でもDXが推進され、これまでIT人材を必要としてこなかった企業までが、こぞって人材獲得に乗り出しているのです。特に、データサイエンティストやAIエンジニア、クラウドアーキテクトといった専門性の高い先端IT人材への需要は著しく高まっていますが、その供給は全く追いついておらず、極端な需要過多の状態に陥っています。

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少

日本の社会全体が抱える構造的な課題である少子高齢化も、IT人材不足に深刻な影響を及ぼしています。労働力の中核をなす生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年をピークに減少を続けており、今後もこの傾向は続くと予測されています。

これは、IT業界に限らず、労働市場全体で人材の供給母数が縮小していることを意味します。特に、新しい技術や知識を吸収する意欲の高い若手人材の確保は年々難易度が上がっています。さらに、これまでIT業界を支えてきたベテランエンジニア層が定年退職を迎える「2025年の崖」も目前に迫っており、需要が増加する一方で、供給サイドは先細りになっていくという二重苦に直面しているのです。

IT技術の高度化と多様化

IT業界は技術革新のスピードが非常に速く、求められるスキルも常に変化し続けています。かつては特定のプログラミング言語やインフラの知識があれば対応できた業務も、現在ではクラウドネイティブな開発手法、マイクロサービスアーキテクチャ、コンテナ技術、サイバーセキュリティ対策など、より専門的で広範な知識が求められるようになりました。

この結果、企業が求めるスキルセットと、労働市場に存在する人材が持つスキルの間に乖離が生まれる「スキルミスマッチ」が深刻化しています。企業は即戦力となる高度な専門スキルを持つ人材を求めますが、教育や実務経験がその変化の速さに追いついていないため、採用市場には「求める人材がいない」という状況が生まれています。この技術の高度化と多様化が、人材不足感をさらに加速させる一因となっているのです。

IT人材不足が企業にもたらす深刻なリスク

IT人材の不足は、単に「開発が遅れる」「システム担当がいない」といった局所的な問題にとどまりません。放置すれば経営の根幹を揺るがし、企業の持続的な成長を阻害する深刻な経営リスクへと直結します。デジタルトランスフォーメーション(DX)が事業の成否を分ける現代において、IT人材の欠如は致命的な弱点となり得るのです。

ここでは、IT人材不足がもたらす3つの具体的なリスクについて詳しく解説します。

事業機会の損失と競争力の低下

現代のビジネス環境において、ITは新たな価値を創造し、競争優位性を確立するための重要な武器です。しかし、その担い手であるIT人材が不足すると、企業は深刻な機会損失と競争力の低下という二重苦に直面します。

まず、AI、IoT、ビッグデータといった最先端技術を活用した新商品やサービスの開発が停滞します。市場のニーズが目まぐるしく変化する中で、革新的なアイデアがあってもそれを形にするエンジニアがいなければ、絵に描いた餅に過ぎません。競合他社が次々とデジタル技術を駆使したサービスをローンチするのを、指をくわえて見ているだけになってしまうのです。結果として、市場シェアを奪われ、収益拡大の絶好の機会を逃すことになります。

さらに、既存事業の非効率化も深刻な問題です。業務プロセスのデジタル化や自動化が進まず、多くの業務が手作業や古いシステムに依存したままになります。これにより、生産性が上がらないだけでなく、人為的なミスが頻発し、無駄なコストが発生し続けます。顧客体験(CX)の向上も望めず、顧客満足度の低下から顧客離れを引き起こす可能性も高まります。このように、IT人材不足は「攻め」の新規事業創出と「守り」の業務効率化の両面で企業の成長を阻害し、市場における競争力を根本から削いでしまうのです。

既存社員の業務負担増加と離職率の上昇

IT人材の不足は、今いる社員、特にIT部門の担当者に深刻な影響を及ぼします。限られた人員で増え続ける業務をこなさなければならず、一人ひとりの負担が極端に増大します。本来注力すべき戦略的な業務ではなく、日々のシステム運用・保守や、社内からの問い合わせ対応といった業務に忙殺され、長時間労働が常態化しやすくなります。

このような状況は、社員のモチベーションを著しく低下させます。自身のスキルアップやキャリア形成につながる新しい挑戦の機会がなければ、優秀な人材ほど、より良い環境を求めて転職を考えるようになるでしょう。結果として、知識やノウハウが豊富な中核人材が流出し、組織全体の技術力が低下するという事態を招きます。

一人の離職は、残された社員の負担をさらに増大させ、さらなる離職を誘発するという「負のスパイラル」に陥る危険性をはらんでいます。この悪循環は、組織の活力を奪い、採用コストを増大させ、事業運営そのものを困難にします。

IT人材不足が引き起こす負のスパイラル
段階状況企業への影響
ステップ1IT人材の不足・欠員特定の社員に業務が集中し始める。
ステップ2既存社員の業務負担増・長時間労働心身の疲労が蓄積し、エンゲージメントが低下する。
ステップ3スキルアップ機会の喪失キャリアパスが見えず、将来への不安が増大する。
ステップ4優秀な人材の離職ノウハウが失われ、組織の技術力が低下する。
ステップ5さらなる人材不足の深刻化残された社員の負担が限界に達し、連鎖的な離職につながる。

サイバーセキュリティリスクの増大

IT人材の不足は、企業の最も重要な資産である「情報」を危険に晒します。セキュリティ対策は専門的な知識を要するため、専任の担当者がいなければ、適切な防御体制を構築・維持することは極めて困難です。システムの脆弱性が放置されたり、最新のサイバー攻撃への対応が遅れたりする可能性が飛躍的に高まります。

近年、企業の規模を問わず、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)や標的型攻撃メールによる被害が急増しています。セキュリティ人材が不足していると、これらの脅威に対する防御策が不十分になるだけでなく、万が一インシデントが発生した際の検知や復旧作業も遅れ、被害が拡大してしまいます。

一度セキュリティインシデントが発生すれば、その被害は甚大です。事業停止による直接的な金銭的損失はもちろん、顧客情報や機密情報が漏洩すれば、多額の損害賠償や行政からの罰則が科される可能性があります。しかし、それ以上に深刻なのは、長年かけて築き上げてきた企業の社会的信用が一瞬にして失墜することです。IT人材の不足は、もはや単なる業務上の問題ではなく、企業の存続そのものを脅かす経営リスクであることを強く認識する必要があります。

採用だけに頼らないIT人材不足の新たな解決策「リスキリング」

激化するIT人材の採用競争。多額のコストと時間をかけても、自社にマッチする人材を確保できないケースは少なくありません。このような状況を打破する鍵は、外部からの採用だけに頼るのではなく、社内の人材に目を向けることにあります。それが、今注目を集めている「リスキリング」です。

リスキリングは、既存の社員が新たなデジタルスキルを習得し、変化する事業環境や新しい職務に対応できるようにする人材育成戦略です。これは、単なる研修とは異なり、企業の成長戦略と直結した、計画的かつ戦略的な「学び直し」を意味します。採用市場の不確実性に左右されず、自社の未来を担うIT人材を計画的に育成する。リスキリングは、持続可能な組織作りを実現するための、現代企業にとって不可欠な一手と言えるでしょう。

リスキリングとは何か?DX時代の必須戦略

リスキリング(Reskilling)とは、経済産業省の定義によれば「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」を指します。重要なのは、既存の業務の延長線上にあるスキルを伸ばす「スキルアップ」とは異なり、デジタル化や事業モデルの変革といった大きな変化に対応するため、これまでとは異なる新しいスキルを意図的に習得する点にあります。

特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、リスキリングは中核的な戦略となります。なぜなら、DXは単なるツールの導入ではなく、ビジネスプロセスや組織文化そのものを変革する取り組みだからです。この変革を担うのは、AIやクラウド、データ分析といった最新技術を理解し、活用できる人材に他なりません。外部から専門家を採用するだけでは、社内の業務や文化を深く理解した上でのDX推進は困難です。既存の社員がリスキリングによってデジタルスキルを身につけることで、自社の強みや課題を深く理解した「社内DX推進人材」となり、真に価値のある変革を主導できるのです。

なぜ今リスキリングが注目されるのか

近年、リスキリングという言葉を耳にする機会が急増しました。その背景には、企業を取り巻く環境の劇的な変化があります。なぜ今、これほどまでにリスキリングが重要視されているのか、その主な理由を解説します。

  • 技術革新の加速とスキルの陳腐化:AI、IoT、5Gといったテクノロジーは日進月歩で進化しており、ビジネスで求められるITスキルも常に変化しています。昨日まで最先端だった技術が、今日には時代遅れになることも珍しくありません。この変化の速さに対応し、企業が競争力を維持するためには、従業員が継続的に新しいスキルを学び続ける仕組みが不可欠です。
  • DX推進の本格化:多くの企業が経営の最重要課題としてDXを掲げるようになりました。しかし、その推進を担うデジタル人材の不足が深刻なボトルネックとなっています。外部からの採用だけに頼っていては、DXのスピード感に対応できません。そこで、社内人材を育成し、DXに必要なスキルセットを内製化するリスキリングが、現実的かつ効果的な解決策として注目されています。
  • 政府による強力な後押し:日本政府も「人への投資」を重要政策と位置づけ、リスキリングを強力に推進しています。企業や個人がリスキリングに取り組むための補助金や助成金制度が拡充されており、国を挙げて学び直しを支援する体制が整いつつあることも、注目度を高める大きな要因です。

リスキリング導入のメリットとデメリット

リスキリングは多くの可能性を秘めていますが、導入にあたってはメリットとデメリットの両面を正確に理解し、自社の状況と照らし合わせて検討することが成功の鍵となります。ここでは、具体的なメリットと注意すべきデメリットを整理して解説します。

【メリット】採用コスト削減と企業文化の理解

リスキリングを導入することで、企業は以下のような大きなメリットを享受できます。

  • 採用コスト・工数の大幅な削減:IT人材の中途採用には、求人広告費や人材紹介会社への成功報酬など、多額のコストがかかります。リスキリングは、これらの採用コストを大幅に削減できるだけでなく、書類選考や面接といった採用プロセスにかかる時間や人的リソースも節約できます。
  • 企業文化や事業への深い理解:既存社員は、自社の企業理念や文化、事業内容、独自の業務プロセスを深く理解しています。そのため、スキルを習得した後の立ち上がりが早く、外部から採用した人材よりもスムーズに新しい役割へ適応し、即戦力として活躍することが期待できます。ミスマッチによる早期離職のリスクが低い点も大きな利点です。
  • 従業員エンゲージメントの向上:企業が従業員のキャリア開発に投資する姿勢を示すことは、従業員の学習意欲やモチベーションを高めます。自身の成長を会社が支援してくれると感じることで、会社への帰属意識(エンゲージメント)が高まり、組織全体の活性化にも繋がります。
  • 組織全体のITリテラシー向上:特定の部署だけでなく、様々な部署の社員がリスキリングに取り組むことで、組織全体のITリテラシーが底上げされます。これにより、部門間の連携がスムーズになったり、現場から新たなデジタル活用のアイデアが生まれたりと、DX推進の土壌が醸成されます。

【デメリット】育成コストと時間的制約

一方で、リスキリングの導入には、事前に考慮すべきデメリットや課題も存在します。

  • 育成コストの発生:学習プログラムの導入費用、eラーニングサービスの利用料、外部講師への謝礼など、人材育成には相応のコストが発生します。特に、専門性の高いスキルを習得させる場合は、高額な投資が必要になるケースもあります。
  • 学習時間の確保と業務への影響:従業員がリスキリングに取り組むためには、学習時間を確保する必要があります。通常の業務と並行して学習を進める場合、一時的に業務の生産性が低下したり、周囲の社員の負担が増加したりする可能性があります。学習と実務のバランスをいかに取るかが重要な課題となります。
  • 育成効果の不確実性とモチベーション維持:リスキリングは、必ずしも全ての対象者が計画通りにスキルを習得できるとは限りません。個人の適性や学習意欲によって成果は大きく左右されます。また、学習期間が長期にわたる場合、従業員のモチベーションを維持し続けるための工夫やサポート体制が求められます。
  • スキル習得後の離職リスク:時間とコストをかけて育成した人材が、習得したスキルを武器に、より良い条件を求めて他社へ転職してしまうリスクもゼロではありません。これを防ぐためには、スキルに見合った待遇や役割、キャリアパスを用意するなど、リテンション(人材定着)施策を併せて講じる必要があります。

これらのメリット・デメリットをまとめると、以下のようになります。

リスキリング導入のメリット・デメリット
項目メリットデメリット
コスト採用コストや採用工数を大幅に削減できる。研修プログラム費用などの育成コストが発生する。
人材・組織企業文化を理解した人材を育成でき、定着率も高い。学習期間中の業務負担増や生産性低下の可能性がある。
エンゲージメント従業員の学習意欲や会社への帰属意識が向上する。育成効果が個人の意欲に左右され、モチベーション維持が課題となる。
リスク採用ミスマッチのリスクを低減できる。スキルを習得した人材が離職するリスクがある。

社内リスキリングでIT人材不足を解消する具体的な進め方

IT人材不足の解決策としてリスキリングが有効であると理解しても、具体的な進め方が分からなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。

ここでは、採用に頼らず社内でIT人材を育成するための、体系的かつ実践的な4つのステップを詳しく解説します。計画的に進めることで、リスキリングの効果を最大化し、持続可能な組織作りを実現しましょう。

ステップ1|経営戦略に基づいた必要スキルの定義

リスキリングを成功させるための第一歩は、自社の経営戦略や事業目標から逆算して、将来的にどのようなITスキルが、どの部署に、どれくらい必要なのかを明確に定義することです。場当たり的に流行のスキルを学ぶのではなく、事業成長に直結する人材を育成するための羅針盤を作成します。

まずは、現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップを分析します。現在の従業員のスキルを棚卸しし、3〜5年後を見据えた事業計画を達成するために不足しているスキルを洗い出しましょう。このプロセスには、経営層、人事部門、そして現場の事業部門の責任者を巻き込むことが不可欠です。全社的なコンセンサスを得ることで、その後の施策がスムーズに進みます。

定義したスキルは、「スキルマップ」や「人材要件定義書」といった形で可視化すると良いでしょう。

スキルマップの作成例

職種/領域必須スキルスキルレベル1(基礎)スキルレベル2(応用)スキルレベル3(専門)
データアナリストデータ分析Excelでの集計・可視化ができるSQLやBIツール(例: Tableau)を用いてデータ抽出・分析ができるPythonやRを用いて統計モデルの構築や機械学習の実装ができる
クラウドエンジニアクラウド基盤構築・運用主要なクラウドサービス(AWS, Azure, GCP)の基本概念を理解している仮想サーバーやネットワークの設計・構築ができるコンテナ技術(Docker, Kubernetes)を用いたインフラ構築・運用ができる
DX推進担当プロジェクトマネジメント基本的なタスク管理と進捗報告ができる小規模プロジェクトの計画立案と実行管理ができるアジャイル開発手法を理解し、部門横断プロジェクトを牽引できる

このようにスキルを具体的に定義することで、育成目標が明確になり、後の育成計画やプログラム選定の精度が格段に向上します。

ステップ2|対象者の選定と育成計画の策定

育成すべきスキルが定義できたら、次に「誰を」育成するのか、対象者を選定します。選定方法には、全社員に機会を提供する「公募制」と、上司などが適性を見極めて推薦する「推薦制」があります。それぞれのメリットを活かし、組み合わせて運用するのが効果的です。

  • 公募制: 社員の自発的な学習意欲を引き出し、モチベーションの高い人材を発掘できます。キャリアチェンジを望む潜在的な才能を見つけるきっかけにもなります。
  • 推薦制: 現場の業務内容や本人の素養を理解している上司が推薦するため、スキル習得後の活躍が見込みやすいという利点があります。

対象者を選定する際は、これまでの業務経験だけでなく、論理的思考力や学習意欲、変化への適応力といったポテンシャルも評価することが重要です。適性検査ツールなどを活用するのも一つの手です。

対象者が決まったら、一人ひとりに合わせた個別の育成計画(ロードマップ)を策定します。画一的なプランではなく、現在のスキルレベルと目標とするスキルレベルの差を埋めるための具体的な道筋を示すことで、学習者は迷うことなく学習に取り組むことができます。

育成計画の策定項目

項目内容具体例
育成目標(ゴール)育成期間終了後に到達すべき状態を具体的に設定します。「6ヶ月後にPythonの基礎を習得し、データ集計・可視化を自動化するツールを作成できる」
学習期間とマイルストーン全体の学習期間と、中間目標(マイルストーン)を設定します。「1ヶ月目: Progateで基礎文法習得 / 3ヶ月目: 資格『Python 3 エンジニア認定基礎試験』合格」
学習方法eラーニング、集合研修、OJT、メンタリングなど、最適な学習手段を組み合わせます。「eラーニング(Udemy)と週1回のメンターとの1on1を併用」
評価指標(KPI)学習の進捗と成果を客観的に測るための指標を設定します。「研修の修了率、資格取得、成果物(ポートフォリオ)の提出」

この計画は、対象者本人と上司、人事部門が三位一体となって作成し、定期的な面談を通じて進捗確認や軌道修正を行うことが成功の鍵です。

ステップ3|学習プログラムの選定と実施

育成計画に沿って、具体的な学習プログラムを選定し、実行に移します。現代では多様な学習手段が存在するため、単一の方法に固執せず、複数の学習方法を組み合わせた「ブレンディッドラーニング」を取り入れることが極めて効果的です。

以下に代表的な学習プログラムの種類と特徴を挙げます。

  • eラーニング: 時間や場所を選ばずに自分のペースで学習を進められます。Udemy for Business、Coursera for Business、Schooといった法人向けサービスは、豊富な講座ラインナップと学習管理機能が魅力です。基礎知識のインプットに適しています。
  • 集合研修(オンライン/オフライン): 講師から直接指導を受けられ、受講者同士でディスカッションやグループワークを行うことで理解が深まります。実践的な演習やチーム開発の疑似体験に適しています。
  • OJT(On-the-Job Training): 実際の業務を通じて、経験豊富な先輩社員から直接指導を受けます。学んだ知識を実務に結びつける上で最も重要なプロセスです。
  • メンター制度: 育成対象者一人ひとりに対して、指導役となるメンターを配置します。技術的な疑問の解消はもちろん、キャリアに関する相談やモチベーション維持の面でも大きな支えとなります。
  • 社内勉強会・ハッカソン: 社員が自発的に知識を共有したり、チームで短期間にプロダクト開発に挑戦したりするイベントです。学習意欲の高い文化を醸成し、部署を超えた交流を促進する効果もあります。

プログラムを選定する際は、「計画したスキルが習得できるか」「学習者のレベルに合っているか」「学習の進捗状況を可視化・管理できるか」といった観点を重視しましょう。外部の研修サービスを利用する場合は、助成金の対象となるかどうかも事前に確認することをおすすめします。

ステップ4|実践機会の提供と評価

リスキリングにおいて最も避けなければならないのは、知識をインプットしただけで終わってしまう「学びっぱなし」の状態です。学んだスキルを定着させ、企業の戦力として開花させるためには、実践の場を提供し、その成果を正当に評価するサイクルを確立することが不可欠です。

研修や自己学習で得た知識を試す場として、以下のような機会を意図的に創出しましょう。

  • 小規模プロジェクトへのアサイン: まずは影響範囲の少ない小規模な開発案件や、既存業務の改善プロジェクトに参加させ、成功体験を積ませます。
  • サンドボックス環境の提供: 失敗を恐れずに新しい技術を自由に試せる検証環境(サンドボックス)を用意することで、社員の挑戦を後押しします。
  • 業務効率化ツールの開発: 自身の部署の業務を効率化する簡単なツールやスクリプトの開発を課題として与えることも、実践的なアウトプットにつながります。

そして、実践した結果に対しては、適切な評価とフィードバックを行います。定期的な1on1ミーティングで、上司やメンターが進捗を確認し、課題や次の目標について話し合います。作成したプログラムやツールといった成果物(ポートフォリオ)は、スキル習得の客観的な証明となります。

最終的には、リスキリングによるスキルアップを人事評価制度に明確に紐づけることが重要です。新たに習得したスキルや、それによってもたらされた業務改善への貢献度を、昇進・昇給に反映させる仕組みを構築しましょう。これにより、社員の学習モチベーションはさらに高まり、リスキリングの取り組みが組織全体に根付いていきます。

リスキリングを成功させるための3つの重要ポイント

社内でのリスキリングは、IT人材不足を解消する強力な一手となり得ます。しかし、ただ研修制度を導入するだけでは、期待した成果は得られません。計画倒れに終わらせず、着実に組織の力へと変えていくためには、いくつかの重要な成功要因が存在します。

ここでは、リスキリングを成功に導くために不可欠な3つのポイントを、具体的なアクションと共に詳しく解説します。

経営層の強いコミットメント

リスキリングの成否を分ける最大の要因は、経営層が本気でコミットしているかどうかです。リスキリングは単なる人材育成施策ではなく、企業の未来を創るための「経営戦略」そのものです。現場の社員や人事部に任せきりにするのではなく、経営トップが自らの言葉でその重要性を語り、全社を巻き込んでいく姿勢が不可欠です。

経営層のコミットメントが欠如していると、「通常業務が優先され、学習時間が確保できない」「新しいスキルを身につけても、それを活かす場がない」といった事態に陥りがちです。これでは社員のモチベーションは低下し、制度は形骸化してしまいます。

経営層が具体的に取り組むべきアクションには、以下のようなものが挙げられます。

  • ビジョンの明確化と発信:なぜ今リスキリングが必要なのか、それによって会社と社員の未来がどう変わるのかというビジョンを、社長メッセージや全社集会などで繰り返し発信する。
  • 経営計画への組み込み:中期経営計画や年度目標の中に、リスキリングに関する具体的な目標(例:データサイエンティストを〇名育成、クラウドエンジニア資格取得率〇%など)を明確に位置づける。
  • 予算とリソースの確保:学習プログラムの導入費用、外部講師の招聘費用、そして何よりも社員が学習に専念するための時間(人件費)といった、必要な投資を惜しまない。
  • 経営層自らの実践:経営層自身がDX関連のセミナーに参加したり、新しいツールを積極的に試したりするなど、率先して学ぶ姿勢を示すことで、全社の学習意欲を高める。

リスキリングは、未来への投資です。経営層がその覚悟を明確に示し、強力なリーダーシップを発揮することが、成功への第一歩となります。

学習を推奨する社内文化の醸成

トップダウンの旗振りだけでは、リスキリングは浸透しません。社員一人ひとりが自発的に学び、挑戦することを楽しめるような「文化」を育むことが極めて重要です。「新しいことを学べば評価される」「失敗を恐れずに挑戦できる」という心理的安全性が、持続的な学習の土台となります。

学習を推奨する文化を醸成するための具体的な施策は多岐にわたります。

    • 学習時間の確保と制度化:業務時間内に週数時間の学習時間を設ける「スタディタイム制度」や、資格取得のための学習休暇などを導入し、会社として学習を公式にサポートする。

人事評価制度との連携:

    習得したスキルや取得した資格を、昇給・昇格の評価項目に明確に組み込む。また、学習プロセスそのものを評価の対象に加えることも有効です。スキル習得者には、資格手当や一時金といったインセンティブを支給し、モチベーション向上を図ります。
  • ナレッジシェアの仕組み作り:社員が学習した成果を発表する社内勉強会(LT会など)を定期的に開催する。また、ビジネスチャットツール上にテーマ別の学習コミュニティ(例:「#python勉強会」「#AWS資格取得」など)を作り、社員同士が気軽に質問し、教え合える環境を整える。
  • ロールモデルの可視化:リスキリングを通じて新たな部署で活躍している社員や、難関資格を取得した社員を社内報やイントラネットでヒーロー/ヒロインとして紹介し、他の社員の目標となる存在を創出する。

これらの施策を通じて、「学ぶことが当たり前」という風土を根付かせることが、組織全体のITスキルを底上げする鍵となります。

国や自治体の補助金・助成金の活用

リスキリングの推進には、研修費用や学習ツールの導入など、一定のコストがかかります。特に体力に限りがある中小企業にとっては、このコストが大きな障壁となることも少なくありません。しかし、国や地方自治体が提供する補助金・助成金を活用することで、企業の負担を大幅に軽減することが可能です。

これらの公的支援制度は、企業のDX推進や人材育成を後押しするために設けられており、活用しない手はありません。代表的な制度には以下のようなものがあります。

IT人材育成・リスキリングに活用できる主な助成金・補助金
制度名管轄概要ポイント
人材開発支援助成金厚生労働省労働者のキャリア形成を促進するため、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための訓練等に要する経費や、訓練期間中の賃金の一部を助成する制度。複数のコースがある。DX推進や事業展開に伴うリスキリングを対象とした「事業展開等リスキリング支援コース」は特に注目度が高い。eラーニングや外部研修費用などが対象となる。
キャリアアップ助成金厚生労働省有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度。「正社員化コース」では、非正規雇用の従業員を正社員に転換する際に、並行して職業訓練(リスキリング)を行うことで助成額が加算される場合がある。
地方自治体の独自制度各都道府県・市区町村各自治体が独自に設けているDX推進や中小企業支援を目的とした補助金・助成金。内容は自治体によって様々。例えば、東京都の「DXリスキリング助成金」など、地域の実情に合わせた手厚い支援が用意されている場合がある。自社の所在地の自治体のウェブサイトを確認することが重要。

これらの制度を利用するには、事前に計画書を提出し、認定を受ける必要があります。また、制度の内容は年度によって変更される可能性があるため、申請を検討する際は、必ず管轄省庁や自治体の公式ウェブサイトで最新の情報を確認するようにしてください。専門家である社会保険労務士に相談するのも有効な手段です。

IT人材不足を解消するリスキリング以外の選択肢

社内でのリスキリングは、IT人材不足に対する根本的かつ持続可能な解決策ですが、成果が出るまでには一定の時間とコストを要します。緊急性の高いプロジェクトや、特定の高度な専門知識が求められる場面では、リスキリングと並行して、あるいは代替案として他の選択肢を検討することも重要です。

ここでは、採用やリスキリング以外でIT人材不足を補うための具体的な方法を2つご紹介します。

外部リソースの活用:アウトソーシングとオフショア開発

自社でIT人材を確保・育成するのではなく、業務の一部または全部を外部の専門企業に委託する方法です。必要なスキルを持つ人材を迅速に確保し、自社の社員はコア業務に集中できるという大きなメリットがあります。代表的な手法として「アウトソーシング」と「オフショア開発」が挙げられます。

アウトソーシングは、主に国内の企業へ業務を委託することを指し、システムの運用・保守やヘルプデスク業務、特定の開発プロジェクトなどで活用されます。一方、オフショア開発は、開発コストの削減を主な目的に、システム開発などを海外の企業や現地法人に委託する手法です。

それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の目的や状況に合わせて慎重に選択する必要があります。

 アウトソーシング(国内)オフショア開発(海外)
メリット
  • 専門性の高い人材を即時に確保できる
  • 言語や文化の壁がなく、円滑なコミュニケーションが可能
  • 物理的な距離が近く、品質管理がしやすい
  • 日本の商習慣への理解が深い
  • 人件費を抑え、開発コストを大幅に削減できる
  • 豊富な労働力を背景に、大規模な開発体制を構築しやすい
  • 日本では採用が難しい先端技術を持つエンジニアを確保できる場合がある
デメリット
  • オフショア開発に比べてコストが高額になる傾向がある
  • 業務を丸投げすると、社内にノウハウが蓄積されない
  • 委託先への情報共有に伴う、情報漏洩のリスクがある
  • 言語や文化、商習慣の違いによるコミュニケーションコストが発生する
  • 時差があるため、リアルタイムでの連携が難しい場合がある
  • 物理的な距離があり、プロジェクト管理や品質管理の難易度が高い
  • 政治・経済情勢(カントリーリスク)の影響を受ける可能性がある

特定の分野で即戦力が必要な場合は国内アウトソーシング、コストを抑えつつ大規模な開発リソースを確保したい場合はオフショア開発など、プロジェクトの特性に応じて最適なパートナーを選定することが成功の鍵となります。

ノーコード・ローコードツールの導入

ノーコード・ローコードツールは、プログラミングの専門知識をほとんど、あるいは全く必要とせずに、アプリケーションや業務システムを開発できるプラットフォームです。これらのツールを活用することで、IT人材不足を補う新たなアプローチが可能になります。

  • ノーコード:ソースコードを一切記述せず、画面上のパーツをドラッグ&ドロップするなどの直感的な操作で、アプリケーションを開発できるツール。
  • ローコード:最小限のコーディングで、より複雑で拡張性の高いアプリケーションを高速開発できるツール。

これらのツールを導入する最大のメリットは、これまでIT部門に集中していた開発業務の一部を、現場の業務を熟知した非IT部門の従業員が担えるようになる点です。これにより「市民開発」が促進され、IT部門はより高度で専門的な業務にリソースを集中させることができます。

例えば、営業部門が自ら顧客管理アプリを作成したり、経理部門が経費精算システムを構築したりといったことが可能になり、業務効率化とDX推進を加速させます。日本国内で広く利用されている代表的なツールには、サイボウズ社の「kintone」やMicrosoft社の「Power Apps」などがあります。

ただし、ノーコード・ローコードツールは万能ではありません。非常に複雑なロジックを持つ基幹システムの開発や、大規模なデータ処理には不向きな場合があります。また、プラットフォームに機能が依存するため、実現したいことへの制約や、セキュリティポリシーの確認も不可欠です。まずは、社内の定型業務や簡単な情報共有ツールなど、スモールスタートで導入し、その効果を見極めながら適用範囲を広げていくのが良いでしょう。

まとめ

日本のIT人材不足は、企業の競争力低下や事業機会の損失に直結する深刻な経営課題です。この課題に対し、外部からの採用だけに依存するのではなく、既存社員の能力を再開発する「リスキリング」が極めて有効な解決策となります。リスキリングは、採用コストを抑えつつ、自社の事業や文化を深く理解した人材を育成できるため、持続的な組織成長の基盤を築きます。

本記事で解説した具体的な進め方や成功のポイントを参考に、未来への投資として社内リスキリングの導入をご検討ください。

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