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部下の成長を促す中堅社員パフォーマンスレビューの極意|効果的なフィードバックと目標設定

投稿日:2025年11月17日 /

更新日:2025年11月18日

部下の成長を促す中堅社員パフォーマンスレビューの極意|効果的なフィードバックと目標設定
● 人事評価

「部下の評価面談、何をどう伝えればいいのだろう…」「ただ評価を伝えるだけでなく、部下の成長やモチベーション向上につなげたい」中堅社員として初めて部下を持ち、パフォーマンスレビューを任されたあなたは、そんな悩みを抱えていませんか。本記事では、部下の納得感を引き出し、行動変容を促すためのパフォーマンスレビューの極意を、事前準備から具体的な面談の進め方、効果的なフィードバックの技術、未来志向の目標設定、そして面談後のフォローアップまで、一連の流れに沿って徹底解説します。

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なぜ今中堅社員のパフォーマンスレビューが重要なのか

現代のビジネス環境は、VUCAと呼ばれるように不確実性が高く、変化のスピードが加速しています。このような時代において、企業が持続的に成長するためには、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを高めることが不可欠です。特に、実務の中核を担い、次世代のリーダー候補でもある中堅社員が部下と行うパフォーマンスレビューは、単なる評価の伝達の場ではなく、人材育成と組織力強化の要として、その重要性が飛躍的に高まっています。

従来の一方的な評価制度から、対話を通じて部下の成長を促し、エンゲージメントを高める双方向のコミュニケーションへと、パフォーマンスレビューの在り方は大きく変化しています。現場の最前線でプレイングマネージャーとしての役割も担う中堅社員こそが、この重要な対話のキーパーソンとなるのです。

部下の成長と組織の生産性向上に直結

中堅社員が実施する質の高いパフォーマンスレビューは、部下個人の成長を加速させ、ひいてはチームや組織全体の生産性向上に直接的な影響を与えます。部下にとっては、自身の業務成果や行動について客観的なフィードバックを受けることで、強みと課題を明確に認識し、次なる成長へのステップを描く貴重な機会となります。

上司である中堅社員からの期待や具体的なアドバイスは、部下のモチベーションを刺激し、日々の業務における行動変容を促します。また、定期的な対話を通じて「自分はしっかりと見てもらえている」という安心感や所属意識が醸成され、エンゲージメントの向上、そして離職率の低下にも繋がるのです。パフォーマンスレビューがもたらす効果は、以下の表のように多岐にわたります。

視点パフォーマンスレビューがもたらす主な効果
部下
  • 自己の強み・課題の客観的な認識
  • 仕事に対するモチベーションとエンゲージメントの向上
  • 具体的な成長目標の設定と行動計画の策定
  • 自身のキャリアプランの明確化と会社への貢献実感
チーム・組織
  • チーム全体のパフォーマンスと生産性の向上
  • 組織目標と個人目標の連携(アラインメント)強化
  • 効果的な人材育成の促進と次世代リーダーの輩出
  • 現場の課題把握と迅速な組織改善
  • エンゲージメント向上による離職率の低下

このように、一人ひとりの部下のパフォーマンス向上は、チーム全体の成果を底上げし、最終的には組織の競争力強化という大きな果実をもたらすのです。

中堅社員自身のマネジメント能力を測る試金石

パフォーマンスレビューは、部下を評価するだけの場ではありません。それは同時に、レビューを行う中堅社員自身のマネジメント能力が問われる「試金石」でもあります。部下の成果と行動を公正に評価し、納得感のあるフィードバックを行い、未来に向けた目標設定をサポートする一連のプロセスは、まさにマネジメントそのものです。

この場では、傾聴力、質問力、フィードバック力、目標設定能力、コーチングスキルといった、管理職に求められる多様な能力が総合的に試されます。部下の本音を引き出し、内省を促すためには、表面的な会話ではなく、深いレベルでのコミュニケーション能力が不可欠です。部下のタイプや状況に合わせて適切な言葉を選び、ときには厳しい指摘もしながら、信頼関係を維持しつつ成長を支援する手腕が求められます。

そして、この経験は中堅社員自身の成長にも大きく寄与します。部下との対話を通じて、自分自身のマネジメントスタイルを客観的に見つめ直すきっかけとなり、「人に教えることで最もよく学ぶ」という実践的な学びを得ることができます。パフォーマンスレビューを成功させることは、部下を育てるだけでなく、自分自身が次世代のリーダーへとステップアップするための重要なマイルストーンとなるのです。

パフォーマンスレビューを成功に導くための事前準備

パフォーマンスレビューは、当日いきなり始まるものではありません。面談の成否は、その場での対話術以上に、どれだけ丁寧な事前準備ができたかで9割決まると言っても過言ではありません。準備不足のまま面談に臨むと、抽象的な精神論に終始したり、部下の反発を招いてしまったりと、本来の目的である「部下の成長促進」から遠ざかってしまいます。ここでは、部下の納得感を高め、未来志向の対話を実現するための具体的な準備ステップを解説します。

評価期間における客観的な事実の収集

評価の説得力は、客観的な事実に基づいているかどうかにかかっています。上司の「印象」や「感覚」だけで評価を伝えてしまうと、部下は「正しく見てもらえていない」と感じ、不信感を抱く原因となります。評価期間中の部下の具体的な行動や成果に関する事実(ファクト)を、多角的な視点から集めることが極めて重要です。

情報収集の際は、日々の業務記録やコミュニケーションの履歴を丹念に振り返りましょう。具体的には、以下のような情報源が役立ちます。

  • 日報や週報、1on1ミーティングの議事録
  • プロジェクト管理ツール(例: Backlog, JIRA)上のタスク進捗やコメント
  • チャットツール(例: Slack, Microsoft Teams)でのやり取り
  • 顧客や他部署からのフィードバック(メールや会議での発言など)
  • 部下が作成した資料や成果物そのもの

これらの情報をもとに、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのようにしたか」が具体的にわかるエピソードを複数ストックしておくことが、説得力のあるフィードバックの土台となります。

定量的な成果と定性的な行動の両面から集める

部下のパフォーマンスを正しく評価するためには、「定量的な成果」と「定性的な行動」の両輪で事実を捉える必要があります。定量的な成果は目標達成度を測る上で不可欠ですが、それだけでは「どのようにしてその成果を生み出したか」というプロセスや、チームへの貢献度が見えにくくなります。両面からバランス良く事実を収集することで、評価の公平性と納得感は飛躍的に高まります。

評価の側面概要収集する事実の具体例
定量的成果数値で明確に測定できる客観的な結果や実績。
  • 売上目標達成率:105%
  • 新規契約獲得数:目標8件に対し10件
  • 担当プロジェクトの納期遵守率:100%
  • 顧客満足度アンケートの平均スコア:4.5/5.0
  • 業務プロセスの改善によるコスト削減額:月5万円
定性的行動数値化は難しいが、組織への貢献や個人の成長を示す行動や姿勢。
  • 会議で積極的に意見を出し、議論を活性化させた。
  • 後輩の相談に乗り、業務の進め方を丁寧に指導していた。
  • 部署間の連携が必要な業務で、率先して調整役を担った。
  • トラブル発生時に、冷静に状況を分析し、迅速な初期対応を行った。
  • 新しいツールの導入を自ら提案し、チームの生産性向上に貢献した。

これらの事実を整理しておくことで、「君の今期の売上達成は素晴らしい。特に、あの困難な状況で粘り強く交渉を続けた行動がこの結果に繋がったね」といった、成果と行動を結びつけた具体的なフィードバックが可能になります。

部下の自己評価を深く読み解く

パフォーマンスレビューの前に、部下から提出される自己評価シートは、単なる評価材料ではなく、部下の内面を理解するための貴重なコミュニケーションツールです。シートに書かれた内容を額面通りに受け取るだけでなく、その背景にある部下の思考や感情を読み解こうとする姿勢が重要です。

自己評価を読み解く際は、以下の3つの視点を持ちましょう。

  1. 上司の認識とのギャップはどこか: 部下が「できた」と認識していることと、上司から見た評価が異なる点はないか。逆に、部下が「課題」と感じているが、上司は「成長している」と捉えている点はないか。このギャップこそが、面談で重点的に対話すべきポイントです。
  2. 成功・失敗要因の捉え方: 部下は自身の成功や失敗の要因をどのように分析しているでしょうか。「自分の努力のおかげ(内的要因)」と捉えているか、「市場環境が良かったから(外的要因)」と捉えているかで、本人の自己効力感や成長意欲を推し量ることができます。
  3. 言葉の裏にある感情や意欲: 「〇〇という課題は認識していますが、改善方法がわかりません」という記述の裏には、助けを求める気持ちや成長への意欲が隠れているかもしれません。キャリアプランに関する記述からは、将来への期待や不安を読み取ることができます。

これらの点を事前に分析し、面談で深掘りしたい質問を準備しておくことで、一方的な評価の伝達ではなく、部下の自己認識を深めるための有意義な対話が生まれます。

対話のゴールとアジェンダを設定し共有する

実りあるパフォーマンスレビューにするためには、面談の「ゴール」を明確に設定し、そこへ至るための「アジェンダ(進行表)」を事前に作成・共有することが不可欠です。行き当たりばったりの面談は、話が脱線したり、時間が足りなくなったりと、中途半端な結果に終わりがちです。

まず、今回の面談を通じて「部下にどのような状態になってほしいか」というゴールを具体的に設定します。例えば、「来期の目標達成に向けて、モチベーションが高まっている状態」「自身の強みと課題を客観的に理解し、具体的な成長プランを描けている状態」などが挙げられます。

次に、そのゴールを達成するためのアジェンダを作成します。時間配分も決めておくことで、スムーズな進行が可能になります。

パフォーマンスレビューのアジェンダ(例:90分)
時間項目目的とポイント
5分アイスブレイク緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作る。業務以外の雑談など。
10分面談のゴールと流れの共有本日の目的を伝え、安心して対話に臨んでもらう。
20分部下の自己評価の振り返り部下の言葉で語ってもらう。傾聴に徹し、深掘りの質問で内省を促す。
25分上司からのフィードバック収集した事実を基に、評価とその根拠を具体的に伝える。強みと課題の両面に言及する。
20分次期の目標と期待のすり合わせ評価を踏まえ、次のステップについて対話する。部下のキャリアプランも考慮する。
10分質疑応答と全体のまとめ部下の疑問や不安を解消し、決定事項とネクストアクションを確認する。

そして最も重要なのが、このアジェンダを事前に部下本人に共有しておくことです。これにより、部下は「何を話されるのか」という不安から解放され、面談に向けて自身の考えを整理する時間ができます。結果として、当日はより建設的で深い対話が期待できるのです。

部下の本音と成長意欲を引き出すパフォーマンスレビューの進め方

パフォーマンスレビュー(評価面談)は、単に評価結果を通知する場ではありません。部下の本音と向き合い、内省を促し、未来の成長意欲を引き出すための、上司と部下の重要な対話の機会です。この章では、面談を成功に導くための具体的な進め方と、中堅社員が実践すべきコミュニケーションの技術を詳しく解説します。

心理的安全性を確保する面談の雰囲気作り

部下が安心して本音を話せるかどうかは、面談の雰囲気にかかっています。評価者であるあなたが意識的に「心理的安全性」の高い環境を作ることで、パフォーマンスレビューはより建設的なものになります。部下が「何を言っても受け止めてもらえる」と感じられる場作りが、すべての土台となります。

具体的には、以下の点を心がけましょう。

  • 場所の選定: 周囲の会話が聞こえない、プライバシーが確保された静かな会議室を選びます。オンラインの場合は、お互いにバーチャル背景を設定するなど、生活空間が見えない配慮も有効です。
  • 冒頭のアイスブレイク: すぐに本題に入るのではなく、「最近、〇〇のプロジェクトはどう?」「週末はリフレッシュできた?」といった雑談から始め、場の緊張を和らげます。
  • 目的の共有: 「今日は評価を伝えるだけでなく、この半期の頑張りを振り返り、次のステップについて一緒に考える時間にしたい」と、面談のポジティブな目的を最初に伝えましょう。
  • 評価者の姿勢: 腕を組んだり、パソコンの画面ばかり見たりする態度は威圧感を与えます。部下のほうに体を向け、目を見て、適度に相槌を打ちながら話を聞く姿勢を意識してください。

心理的安全性を高める行動と、逆に損なってしまう行動を以下の表にまとめました。自身の言動を振り返る参考にしてください。

項目心理的安全性を高める行動(DO)心理的安全性を損なう行動(DON’T)
会話の始め方ポジティブな言葉で始め、面談の目的を共有する。いきなり評価の低い項目から話し始める。
聞く姿勢相手の話を遮らず、最後まで聞く。うなずきや相槌を意識する。部下の話の途中で反論したり、自分の意見を被せたりする。
ノンバーバル笑顔や穏やかな表情を心がけ、オープンな姿勢(腕を組まない等)で臨む。パソコン画面に視線を落としたまま話す。貧乏ゆすりをする。
時間管理時間に余裕を持たせ、「じっくり話そう」というメッセージを伝える。頻繁に時計を気にするなど、時間に追われている素振りを見せる。

傾聴と質問を繰り返し部下の内省を促す

パフォーマンスレビューの主役は部下です。評価者が一方的に話すのではなく、傾聴と質問を駆使して、部下自身に気づきを得てもらうことが重要です。部下が自らの言葉で振り返りを深めることで、評価への納得感が高まり、自律的な成長へと繋がっていきます。

まずは「傾聴」です。相手の話に真摯に耳を傾け、理解しようと努める姿勢が信頼関係を築きます。以下のテクニックを活用しましょう。

  • バックトラッキング(繰り返し): 「〇〇という点で課題を感じていた、ということですね」のように、相手の発言を繰り返すことで、正しく理解していることを示します。
  • 要約: 「つまり、Aという状況でBという工夫をした結果、Cという学びがあった、という理解で合っていますか?」と、話の要点をまとめて確認します。

次に、内省を促す「質問」です。詰問するような聞き方ではなく、部下の思考を深めるための問いかけを意識します。

  • オープンクエスチョン(開かれた質問): 「はい/いいえ」で終わらない質問を投げかけます。「その業務で最もやりがいを感じたのはどんな時でしたか?」「この経験を次にどう活かせると思いますか?」
  • 深掘りする質問: 「なぜそのように考えたのですか?」「具体的に、どのような行動を心がけたのですか?」と問いかけ、行動の背景にある思考を探ります。
  • 未来志向の質問: 過去の評価だけでなく、「今後、どんなスキルを伸ばしていきたいですか?」「半年後、どんな状態になっていたいですか?」と未来に視点を向けることで、前向きな対話を生み出します。

評価の根拠を具体的に伝え納得感を醸成する

評価を伝える際は、部下が「なぜその評価になったのか」を明確に理解し、納得できることが不可欠です。曖昧な表現や主観的な感想ではなく、客観的な事実に基づいて伝えること’mark>を徹底してください。この納得感が、部下のモチベーションを維持し、次の行動変容を促す鍵となります。

納得感を醸成するための伝え方のポイントは以下の通りです。

  1. ポジティブな点から伝える: まずは評価期間中の成果や成長した点、組織への貢献などを具体的に認め、感謝の言葉を伝えます。これにより、部下は安心してフィードバックを受け入れる準備ができます。
  2. 事実(Fact)をベースに話す: 「頑張りが足りない」といった抽象的な指摘ではなく、「目標達成率が計画比85%だった」「提出された企画書の顧客分析が、事前の指示より浅いレベルに留まっていた」など、誰が見ても分かる客観的な事実を根拠として示します。
  3. 自己評価とのすり合わせを行う: 部下が提出した自己評価シートをもとに、「この項目について、自己評価ではAとしていますが、その理由をもう少し詳しく教えてもらえますか?」と問いかけます。評価者との認識のギャップがある場合は、その背景を丁寧にヒアリングし、なぜ評価者の見解と異なるのかを事実ベースで説明します。
  4. 期待役割と現状のギャップを明確にする: 「リーダー候補として、今後はプロジェクトの進捗管理だけでなく、後輩への技術指導も期待している。今回は自身のタスク遂行が中心だったので、次の半期では後輩指導にも時間を割いてほしい」というように、会社や上司からの期待と、現状のパフォーマンスとの間にどのような差があるのかを具体的に言語化します。

以下の表は、納得感の低い伝え方と高い伝え方の具体例です。ぜひ参考にしてください。

テーマ納得感の低いNGな伝え方納得感の高いOKな伝え方
協調性について「君はもっとチームワークを意識したほうがいい。少し自己中心的だよ。」「〇〇プロジェクトで、Aさんが困っている時に積極的にサポートに入ってくれたのは素晴らしかった。一方で、Bチームとの定例会議では発言が少なかったので、次回はチームを代表して意見を伝えてくれると、さらにチームへの貢献度が高まると思う。」
業務の質について「最近、仕事が雑になっているんじゃないか?もっと丁寧に進めてほしい。」「先週提出してくれた報告書だが、データはよくまとまっていた。ただ、誤字が3箇所あった。クライアントに提出する重要な書類なので、今後は提出前にセルフチェックか同僚とのダブルチェックを徹底してほしい。」
目標未達について「目標達成できなかったのは、単純に努力不足だ。」「売上目標1,000万円に対し、結果は800万円だったね。要因について、あなた自身はどう分析している?一緒に振り返って、次の半期で達成するための具体的なアクションプランを考えよう。」

このように、評価の根拠を具体的に、そして客観的に伝えることで、部下は評価を「自分事」として受け止め、建設的な自己改善へと繋げることができるのです。

部下の行動変容を促す効果的なフィードバックの技術

パフォーマンスレビューにおけるフィードバックは、単なる評価の伝達ではありません。部下の成長を促し、次の行動へと繋げるための重要な対話です。ここでは、部下が前向きにフィードバックを受け止め、自発的な行動変容を起こすための具体的な技術について解説します。

成長を期待しているというポジティブなスタンスを伝える

フィードバックの目的は、部下を評価し、改善点を指摘することだけではありません。最も重要なのは、部下の成長を心から願い、その可能性を信じているという期待を伝えることです。このポジティブなスタンスが、部下の心理的安全性を確保し、フィードバックを受け入れる土壌を作ります。

面談の冒頭では、まず評価期間中の働きに対する感謝や、具体的な成果、強みとして発揮されていた行動などを伝えましょう。「〇〇のプロジェクトでは、あなたの粘り強い交渉のおかげで厳しい条件をクリアできた。本当にありがとう」といった具体的な言葉は、部下の自己肯定感を高めます。

改善点を伝える際には、「サンドイッチ型フィードバック」のように、ポジティブな内容(パン)でネガティブな内容(具)を挟む手法も知られていますが、形式的に行うと不自然に聞こえることもあります。大切なのは、「あなたならもっと良くなる」「この点を改善すれば、さらに大きな成果を出せる」という、未来への期待を込めたメッセージを一貫して伝え続けることです。このスタンスが信頼関係を深め、厳しいフィードバックさえも成長の糧として受け止めてもらうための鍵となります。

具体的な行動に焦点を当てるSBIフィードバックとは

フィードバックが抽象的であったり、評価者の主観に基づいていると、部下は納得できず、反発を招く原因となります。「もっと積極的に」「主体性を持って」といった言葉では、具体的に何を改善すればよいのか伝わりません。そこで有効なのが、客観的な事実に基づいて対話を進める「SBIフィードバック」というフレームワークです。

SBIとは、以下の3つの要素の頭文字を取ったものです。

  • S (Situation): 状況(いつ、どこで)
  • B (Behavior): 行動(部下が具体的にとった行動)
  • I (Impact): 影響(その行動が周囲や結果に与えた影響)

このフレームワークを使うことで、評価者の解釈や感情を排し、「人格」ではなく「具体的な行動」に焦点を当てた、建設的な対話が可能になります

要素解説具体例(改善を促す場合)
S (Situation)
状況
フィードバックしたい行動が起きた、具体的な状況を伝えます。「先週の」「〇〇の会議で」のように、相手がすぐに思い出せる場面設定が重要です。「先週水曜日の、A社との定例会議でのことなんだけど…」
B (Behavior)
行動
その状況で、部下が「具体的に何をしたか(しなかったか)」という客観的な行動を、評価や解釈を交えずに伝えます。「先方から想定外の質問が出た時に、約1分間、沈黙が続いてしまったよね。」
I (Impact)
影響
その行動が、周囲(チーム、顧客など)や業務の結果にどのような影響を与えたかを具体的に伝えます。私情を挟まず、「私はこう感じた」というアイメッセージで伝えるのが効果的です。「あの沈黙で、先方が少し不安そうな表情をしていたのが気になったんだ。チームとしても、準備不足という印象を与えてしまったかもしれないと感じている。」

SBIフィードバックを活用することで、部下は指摘された内容を客観的に事実として受け止めやすくなり、「なぜその行動を改善する必要があるのか」を深く理解することができます。その結果、納得感を持って次のアクションプランを考えられるようになります。

やってはいけないNGフィードバックの具体例

良かれと思って伝えた言葉が、逆に部下のモチベーションを著しく低下させ、信頼関係を損なうことがあります。ここでは、パフォーマンスレビューの場で避けるべきNGフィードバックの典型的な例と、その改善例を紹介します。無意識のうちに使ってしまっていないか、自身のコミュニケーションを振り返ってみましょう。

NGフィードバックの類型具体例(言ってはいけない言葉)改善例(このように伝えよう)
人格否定・抽象的な批判「君は本当に主体性がないね。もっとやる気を見せてほしい。」「先日のプロジェクト会議で、他のメンバーから意見が出ている間、発言がなかったね(S, B)。君の視点からの意見も聞かせてもらえると、議論がもっと深まると期待しているよ(I)。」
他人との比較「同期の佐藤さんは、もう新しい契約を5件も取っているのに、君はまだ1件だね。」「今期の目標達成に向けて、現在の進捗は1件だね。目標達成までにあと4件必要だけど、今、何がボトルネックになっているか一緒に考えてみようか?」
過去の蒸し返し「また同じようなミスをして。半年前にも同じことを注意したはずだよね?」「今回の報告書で、前回と同じデータ入力のミスが見られたね(S, B)。このミスが続くと、データの信頼性に関わってしまう(I)。再発を防ぐために、どんな仕組みが必要か話し合おう。」
一方的な決めつけ・説教「どうせ最後までやらないだろうけど、一応言っておくよ。」「だから君はダメなんだ。私の言う通りにやっていればいいんだ。」「この目標を達成するのは簡単ではないと思う。君自身は、この目標についてどう感じている?何か懸念点やサポートしてほしいことがあれば、遠慮なく教えてほしい。」

これらのNGフィードバックに共通するのは、「相手の成長を促す」という本来の目的から逸脱し、評価者の感情や一方的な価値観を押し付けてしまっている点です。フィードバックは、あくまで部下の未来のための対話であるという原点を忘れず、常に敬意と期待を持って接することが、部下の行動変容を促す上で最も重要な心構えと言えるでしょう。

未来志向の対話を生む目標設定のフレームワーク

パフォーマンスレビューは、過去の評価を下すだけの場ではありません。むしろ、部下の未来の成長を描き、その実現に向けた具体的な道筋を共に考える未来志向の対話の場と捉えることが、中堅社員に求められる重要な役割です。その対話の質を決定づけるのが「目標設定」です。ここで設定される目標が、部下のモチベーションを高め、日々の業務に意味と方向性を与えます。単なるノルマ設定に終始するのではなく、部下の成長と会社の発展を両立させるための、効果的な目標設定のフレームワークを学びましょう。

SMARTの法則を活用した具体的で測定可能な目標設定

目標設定のフレームワークとして最も広く知られ、かつ実用的なのが「SMARTの法則」です。これは、目標をSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限)の5つの要素で構成する考え方です。SMARTの法則を用いることで、目標が曖昧になるのを防ぎ、誰が読んでも同じ解釈ができる客観的で実行可能な目標を設定できます。これにより、部下は「何を」「どこまで」「いつまでに」やれば良いのかが明確になり、迷いなく行動に移せるようになります。

目標設定におけるSMARTの各要素を解説

SMARTの各要素を正しく理解し、部下との対話の中で活用することが重要です。以下の表を参考に、それぞれの要素が何を意味し、どのように目標に落とし込むべきかを確認しましょう。

要素解説悪い例良い例
Specific (具体的)目標が具体的で明確になっているか。「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」が明確な状態を目指します。曖昧な表現は避け、具体的な行動レベルまで落とし込みます。顧客満足度を向上させる。担当する既存顧客A、B、C社に対し、四半期に一度の定例会に加えて月次のフォローアップミーティングを実施し、潜在的な課題をヒアリングすることで顧客満足度を向上させる。
Measurable (測定可能)目標の達成度合いを客観的に測定できるか。進捗状況を定量的に把握できる指標(数値、量、状態など)を設定します。新しいスキルを身につける。マーケティング部門で活用するため、Google アナリティクス個人認定資格(GAIQ)を次の評価期間内に取得する。
Achievable (達成可能)目標が現実的に達成可能であるか。本人のスキルや経験、与えられたリソースを考慮し、少し挑戦的(ストレッチ)でありながらも、現実離れしていないレベルに設定します。未経験から半年で新規事業を立ち上げ、単月黒字化を達成する。新規事業の市場調査と競合分析を3ヶ月で完了させ、事業計画書の骨子を次の役員会までに提出する。
Relevant (関連性)設定した目標が、会社の目標やチームのミッション、そして本人のキャリアプランと関連しているか。目標達成が個人と組織双方の成長に繋がることを確認します。(営業職の社員が)プログラミング言語Pythonを習得する。(営業職の社員が)営業データ分析の効率化と精度向上のため、ExcelのピボットテーブルとVLOOKUP関数を習得し、月次報告書の作成時間を20%削減する。
Time-bound (期限)目標達成の期限が明確に設定されているか。「いつまでに」を具体的に定めることで、計画的な行動を促し、緊張感を維持します。できるだけ早くマニュアルを改訂する。現在の業務マニュアルの改訂版ドラフトを〇月〇日までに作成し、チームレビューを経て、〇月〇日までに展開を完了させる。

会社のビジョンと部下のキャリアプランを接続する

SMARTの法則で設定された目標は、それ自体が実行可能で測定可能な優れたものです。しかし、部下が心からその目標達成に向けて情熱を注ぐためには、もう一段階深い対話が不可欠です。それが、会社のビジョンやチームの目標と、部下自身の「なりたい姿(キャリアプラン)」を接続することです。

中堅社員は、経営層が示す会社の大きな方向性を現場の言葉に翻訳し、部下一人ひとりの業務目標に意味を与える「翻訳者」としての役割を担います。例えば、会社が「顧客中心主義の徹底」というビジョンを掲げている場合、部下の「顧客折衝能力を高めたい」というキャリア志向と結びつけ、「この目標を達成することが、君の市場価値を高めるだけでなく、会社のビジョン実現にも直接貢献するんだ」と伝えることができます。

この接続作業を通じて、部下は自分の仕事が単なるタスクではなく、より大きな目的の一部であり、自己実現のプロセスでもあると認識できるようになります。結果として、目標に対する当事者意識(コミットメント)が格段に高まり、自律的な行動が促進されるのです。パフォーマンスレビューの目標設定の時間は、部下のキャリアについて真剣に語り合い、会社の未来と個人の未来を重ね合わせる貴重な機会と捉えましょう。

パフォーマンスレビュー後が肝心なフォローアップ施策

パフォーマンスレビューは、面談が終わった瞬間からが本当のスタートです。面談で灯した部下の成長意欲の火を絶やさず、具体的な行動変容と成果につなげるためには、一過性のイベントで終わらせない継続的なコミュニケーションと伴走支援が不可欠です。この章では、レビューの効果を最大化し、部下の成長を確実なものにするための具体的なフォローアップ施策を解説します。

決定事項と次のアクションを明記した議事録の共有

人間の記憶は曖昧です。面談で熱く語り合った内容も、時間が経つにつれて詳細が薄れてしまうことがあります。そこで重要になるのが、対話の内容を「見える化」する議事録の作成と共有です。これにより、上司と部下の間で生じがちな「言った・言わない」といった認識の齟齬を防ぎ、合意した目標やアクションプランに対する双方のコミットメントを高めることができます。

議事録は、面談後できるだけ速やかに、理想的には24時間以内に作成し、共有しましょう。共有方法はメールやビジネスチャットツール(Slack、Microsoft Teamsなど)を活用し、いつでも見返せる状態にしておくことが大切です。部下からのフィードバックを受け付け、内容に相違がないか最終確認を経て完成させます。

パフォーマンスレビュー議事録の記載項目例
項目記載内容のポイント
基本情報面談実施日、参加者(上司・部下)、評価対象期間などを明記します。
評価期間の振り返り(要点)自己評価と上司からの評価の要点を簡潔にまとめます。特にギャップがあった点については、その理由も記録しておくと次に繋がります。
強み・評価点面談で伝えた、具体的なエピソードを交えた称賛の言葉や、今後さらに伸ばしてほしい強みを具体的に記述します。
課題・改善点成長を期待するからこその課題点を、客観的な事実に基づいて記述します。人格を否定するような表現は避け、あくまで行動に着目します。
次期の目標とアクションプランSMARTの法則に則って設定した、具体的で測定可能な目標を記載します。目標達成のための具体的な行動計画(いつまでに、何を、どのように行うか)もセットで明記します。
必要なサポート目標達成に向けて、上司や会社が提供するサポート(研修の機会、業務の権限移譲、必要なリソースの提供など)を具体的に約束し、記録します。
本人からのコメント面談を通じて感じたことや、次期に向けた意気込みなどを部下自身の言葉で記入してもらう欄を設けます。これにより、納得感と主体性を高めます。

定期的な1on1ミーティングでの進捗確認と支援

議事録で定めた目標とアクションプランを絵に描いた餅にしないために、最も効果的な施策が定期的な1on1ミーティングです。これは単なる進捗管理の場ではありません。部下の状況に寄り添い、タイムリーな支援を行い、信頼関係を深めながら自律的な成長を促すための重要な対話の機会と捉えましょう。頻度は週に1回、あるいは隔週に1回、30分程度が目安です。

進捗確認:目標と現実のギャップを埋める対話

1on1では、設定した目標(KGI/KPI)に対して現在の進捗状況を確認します。「順調か、遅れているか」という事実確認だけでなく、「なぜ順調なのか」「なぜ遅れているのか」という要因を部下自身の言葉で語ってもらうことが重要です。成功要因を深掘りすることで本人の強みを再認識させ、失敗要因を分析することで次の打ち手を共に考える、建設的なPDCAサイクルを回す支援を行います。

課題の特定と解決策の協創

目標達成の過程では、必ず何らかの壁や困難に直面します。1on1は、部下が抱える業務上の課題や人間関係の悩みなどを早期にキャッチアップする絶好の機会です。上司がすぐに答えを与えるのではなく、「あなたはどうしたいと思う?」「何か解決策のアイデアはある?」といったコーチング的な質問を投げかけ、部下自身が解決策を見出すのをサポートします。この「協創」のプロセスが、部下の問題解決能力を育みます。

モチベーション維持のための承認とフィードバック

目標達成までの道のりは平坦ではありません。日々の業務の中で部下が見せた小さな進歩や望ましい行動の変化を見逃さず、具体的に承認(レコグニション)することが、モチベーションを維持する上で極めて重要です。「先日の会議での発言、とても的確で助かったよ」「〇〇さんへの丁寧なフォロー、お客様から感謝の声が届いているよ」など、具体的な事実を添えて伝えることで、部下は自分の行動が見守られ、正しく評価されていると感じ、エンゲージメントが高まります。

まとめ

本記事では、中堅社員が部下の成長を促し、組織の成果を最大化するためのパフォーマンスレビューの極意を、事前準備からフォローアップまで一貫して解説しました。中堅社員にとってパフォーマンスレビューは、単なる評価の場ではなく、部下の成長と組織の生産性向上に直結する重要なマネジメント業務であり、自身の成長の機会でもあります。

レビューを成功させる結論は、一貫したプロセスを丁寧に実行することにあります。客観的な事実に基づく「事前準備」で土台を固め、当日は心理的安全性を確保した上で「傾聴と質問」を重ね、部下の内省を促します。そして、SBIフィードバックのような具体的な手法を用いた「効果的なフィードバック」と、SMARTの法則を活用した「未来志向の目標設定」を通じて、部下の納得感とモチベーションを引き出すことが重要です。

そして何よりも、パフォーマンスレビューは一回きりのイベントではありません。レビュー後の「定期的なフォローアップ」を通じて、部下の行動変容を継続的に支援し、信頼関係を深めていくことこそが、部下と組織を真の成長へと導きます。この記事で紹介した手法を一つでも実践し、部下との対話をより有意義なものに変えていきましょう。

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