ガバナンスとは?
ガバナンス(governance)とは、「統治・支配・管理」を意味する言葉です。
企業におけるガバナンスは、「企業を健全に経営するうえで必要な管理体制の構築・企業内部の統治」を指します。
日本では、2000年頃から多発した企業の不祥事によって、下記の行動と考え方が見直されました。
- 経営者の独善的な行動
- 消費者の安全・意向を無視した管理体制
当時の注目度の高まりから、現在でも未然に経営リスクを防ぐための言葉として広まっています。
また、法令だけでなく社会や道徳にも従うための統治・支配・管理として、「コンプライアンスのためのガバナンス」ともいわれています。
次に下記の4つの違いを見ていきましょう。
- コンプライアンスとの違い
- リスクマネジメントとの違い
- 内部監査との違い
- ガバメントとの違い
それぞれ解説していきます。
コンプライアンスとの違い
コンプライアンスとは、企業活動における法令遵守を指す言葉です。
遵守するものは法令以外に、下記の6つも含まれます。
- 業務規定
- 社内規範
- 社会常識
- 社会規範
- 企業理念
- 企業倫理
またコンプライアンス違反には、情報漏洩や長時間労働、粉飾決算、パワハラなどがあります。
これらのコンプライアンスを改善・維持するための管理体制がガバナンスです。
つまりガバナンスの中に含まれる要素がのひとつがコンプライアンスといえるでしょう。
企業が健全な経営を続けるには、どちらも欠かせません。
こちらの記事では、コンプライアンスに必要な取り組みや実例違反などを用いて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントとは、事前に経営リスクを把握して予防・対策するためのプロセスです。
近年では、企業内で発生した問題が社会に大きな影響を与えており、事業を存続させるためにリスクマネジメントが行われています。
企業を経営するうえで考えられるリスクの例は、下記の通りです。
- 人的リスク
- 財産リスク
- 政治的情勢変動リスク
- 経済的情勢変動リスク
つまり、「ガバナンス=機能」「リスクマネジメント=管理手法」を指している点が異なります。
リスクマネジメントを安全かつ効果的に構築することが、ガバナンスの強化でも重要なプロセスです。
内部監査との違い
内部監査とは、企業の監査役もしくは担当者が経営目標の達成や不正防止、業務効率化を目的に行う監査です。
主に、下記にあげる3つの種類と役割があります。
種類 | 役割 |
部門監査 |
|
テーマ別監査 |
|
経営監査 |
|
つまり内部監査とは、ガバナンスやリスクマネジメント、コンプライアンスが「正しく機能しているか」「プロセスに問題がないか」を客観的に評価して、調整する役割を担っています。
ガバメントとの違い
ガバメントとは、政府や地方自治体などの行政府または統治者を意味する言葉です。
ガバナンスとガバメントは、どちらも「統治する」という意味を持っていますが、それぞれ主体が異なります。
- ガバナンス:企業
- ガバメント:政府・政治
つまりガバメントは、公的な法的拘束力が伴った統治システムを示唆しているといえるでしょう。
ガバナンスが効くことによる企業側のメリット
ここまで、ガバナンスの概要やコンプライアンス、リスクマネジメントとの違いなどをお伝えしました。
続いて、ガバナンスが効くことによる企業側のメリットを解説します。
- 企業価値の向上
- 企業の成長力・競争力の向上
- 株主からの投資促進
- 企業の不正防止
- 財務面の強化
- 労働環境の改善
- 接続的な収益性の向上
ひとつずつ解説していきます。
企業価値の向上
ガバナンスが効くことで、企業の価値を向上できます。
正しくルールに則って運営されている企業と評価されれば、社会的信頼や魅力が底上げされ、優良企業として高い認知度を得られるでしょう。
企業価値の向上は、株主やステークホルダーの利益を守りながら新たな投資家を増やせるため、株価の向上も期待できます。
また、近年は平等性や透明性を確保する企業が支持されており、投資家も管理体制を重視している傾向です。
企業価値が上がれば、投資家からの融資や出資につながるメリットもあります。
こちらの記事では、ステークホルダーと良好な関係を築く方法や活用事例などを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
企業の成長力・競争力の向上
ガバナンスが強化されると、企業の成長力・競争力の向上につながります。
具体的な理由は、下記の通りです。
- 企業経営の円滑化されれば、接続的な成長が期待できる
- 新規・既存の投資や優秀な人材を確保しやすくなるため、競争力が高まる
また安定的な雇用が実現されるので、従業員は成果を伸ばすために能力を発揮しやすくなります。
ガバナンスは、これらの好循環を生み出せる点がメリットといえるでしょう。
株主からの投資促進
ガバナンスの効いた企業に対して、株主は安心した投資が行えます。
また、企業にとっても投資が増えるメリットとして、下記の2つがあります。
- 金融機関からの信用が高まり、資金調達が行いやすくなる
- 優秀な人材や設備投資、事業拡大が見込めるので経営が安定する
株主からの投資促進は、株主と企業どちらとっても大きなメリットです。
株主へ利益が還元されることで、さらに新しい株主が増えるといった好循環を作れるでしょう。
結果的に自社の株価が上昇すれば、社会的価値の高い企業として認知を得られます。
企業の不正防止
ガバナンスが効くことでコンプライアンスが守られるので、企業の不正防止につながります。
2000年頃に相次いだ企業の不正は、顧客や従業員、株主、ステークホルダーに莫大な損害を与えました。
ガバナンスの強化が企業の不正防止につながる理由は、下記の通りです。
- 企業内で監視体制が行き渡る
- 透明性のある経営・業務プロセスが定着する
特に会計不正や横領は、不正における割合の多くを占めています。
そのため業務プロセスの可視化によって、抑止効果を高められるはずです。
ほかには、証跡が残せるITツールを活用する方法もあります。
ITツールには、意思決定スピードを向上させながら不祥事を抑止する働きがあるので、経営や業務を円滑に進められるでしょう。
財務面の強化
ガバナンスは、財務面の強化に大きく関係しています。
企業が成長し続けるには、中長期的な経営戦略を立てて運営していかなければなりません。
そのため信用を獲得する方法として、下記の2つがあります。
- ガバナンスに則った透明性の高い情報を開示する
- 経営体制に沿った出資や融資を受ける
ほかには税理士や公認会計士などの専門的な意見を取り入れることで、さらに高い信用を得られるでしょう。
財務状況や事業内容の開示は、株主やステークホルダー、顧客からの信頼獲得につながります。
企業によっては新規取引先の財務状況を参考にして、契約するか判断するため、透明性の高い情報は取引の円滑化に寄与します。
労働環境の改善
ガバナンスの強化には、労働環境を改善する効果があります。
近年は株主やステークホルダーの利益だけでなく、従業員に配慮した経営も注目されています。
労働環境を改善させるための方法は、下記の通りです。
- 従業員の責任範囲や業務範囲を明確にする
- 該当責任者が業務を監督する
命令系統が整理されることで、従業員が複数の上司から指示を受けて混乱する事態を避けられるでしょう。
従業員を酷使した労働環境では、接続的で良質な商品・サービス提供は行えません。
そのためガバナンスの対象は、企業だけでなく従業員も含まれている点を覚えておきましょう。
接続的な収益性の向上
ガバナンスが効くことで、企業は接続的な収益性の向上を見込めます。
企業の活動指針や方針が内部に浸透する効果は、下記の通りです。
- 従業員の生産性が上がる
- 収益力の向上につながる
- 得られた利益が企業の競争力を高めて、さらなる利益を生む
これらのサイクルが繰り返されれば、接続的な収益を実現できるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードとは?
ここまで、ガバナンスが効くことによる企業側のメリットをお伝えしました。
続いて、コーポレートガバナンス・コードについて解説します。
コーポレートガバナンス・コードとは、ガバナンスを構築する際に守るべき指針・原則です。
株式会社東京証券取引所によると、コーポレートガバナンス・コードは基本原則として、下記の5つがあります。
- 株主の権利・平等性の担保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
上場企業は、コーポレートガバナンス・コードに関する報告書の提出が義務づけられており、基本原則が守られていない場合、報告する際に理由を説明しなければいけません。
中小企業は適用の対象外ですが、近年では長期的な収益性を高めるために導入する中小企業が増えています。
コーポレートガバナンス・コードへ求められる対応
コーポレートガバナンス・コードへ求められる対応は、下記の3つです。
- 社外取締役の設置
- スキル・マトリックスの開示
- 人的資本・サステナビリティに対する取り組みの開示
それぞれ解説していきます。
社外取締役の設置
コーポレートガバナンス・コードでは、社外取締役の設置が義務づけられています。
設置規定人数は、3分の1です(ただしプライム市場以外の市場は2名以上)。
また、設置にあたり下記の内容も記載されています。
- 指名委員会・報酬委員会を設置する
- 他社での経営経験を有する経営人材を独立社外取締役として選任する
- 経営戦略に照らして取締役会が備えるべき知識・経験・能力と各取締役のスキルとの対応関係を公表する
社外取締役を選任する際は、役員報酬や多様性、バランスなどを考慮しながら決定しましょう。
ただし、役員報酬の設計は株価に大きな影響を与えます。
そのため、KPIに基づいた業績や期間を考慮しなければならないので注意しましょう。
こちらの記事では、BtoBマーケティングにおけるKPIの重要性やポイント、設定例を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
スキル・マトリックスの開示
コーポレートガバナンス・コードでは、スキル・マトリックスの開示が求められています。
スキル・マトリックスとは、取締役会を構成する各取締役が保有するスキルを一覧表にまとめたものです。
実際に記載する際に、含めるべき項目例として下記があげられます。
- DX
- 企業経営
- IT・デジタル
- グローバル経験
- 財務・ファイナンス
- 人材・労務・人材開発
- マーケティング・営業
- ESG・サステナビリティ
- 法務・リスクマネジメント
開示する際は、自社の企業価値が向上するための戦略ストーリを描きながら策定しましょう。
仮にスキルセットで懸念点があれば、指名委員会などで議論したうえで取締役候補者を選任します。
人的資本・サステナビリティに対する取り組みの開示
人的資本・サステナビリティに対する取り組みの開示が、コーポレートガバナンス・コードでは必要です。
開示すべき内容として、下記の3つがあります。
- 人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇
- 自社のサステナビリティについての取り組み(上場会社の場合)
- 自社の経営課題と経営戦略との整合性を踏まえた上での具体的な情報
上記はいずれも適切なKPIを設定して、定量・定性データを基に現状・進捗情報を開示しなければいけません。
ガバナンスを強化した事例
ここまで、コーポレートガバナンス・コードの概要と求められる対応をお伝えしました。
続いて、ガバナンスを強化した事例を3つ紹介します。
- 花王
- HOYA
- Panasonic
ひとつずつ紹介していきます。
花王
大手消費財科学メーカーである花王は、コーポレートガバナンスとして「接続可能な社会に欠かせない会社になる」を経営で最も重要な課題に位置づけています。
具体的な内容は、下記の通りです。
- 多様化・複雑化して予測困難な変化に適時適切に対応する
- 社会への貢献と企業価値の持続的な向上を実現する
- 透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行う
またESG経営に舵を切っており、ステークホルダーの価値観の変化を捉えたうえで、企業経営を社会貢献レベルに引き上げる点が掲げられています。
ほかにも事業環境や社会的要請の変化に対応するために、最適な体制作りを施されています。
HOYA
国内の光学機器・ガラスメーカーであるHOYAは、企業価値の最大化をコーポレートガバナンスの最重要事項として捉えています。
ステークホルダーに対してフェアであることを考え方の基本としており、下記の取り組みを実施しました。
- 取締役の半数以上を社外取締役にすると定款に定めた
- 執行役に権限と責任を持たせて、意思決定の迅速かと経営の効率化を図った
またHOYAでは、指名委員会と報酬委員会、監査委員会を設置することで、取締役会による経営の監督実効性が担保されています。
明確に分離した体制作りによって、経営の効率性や健全性、透明性の向上を目指しています。
Panasonic
大手電気メーカーであるPanasonicは、「企業は社会の公器」という言葉を用いて経営理念を表しています。
つまり、人材や資金、土地、物資などは社会から預かったものであり、企業活動を行う以上は最大限に活用して、社会貢献や顧客、事業パートナー、株主等と一緒に発展していく必要があると定めています。
また、コーポレートガバナンスを充実させるために行っている取り組みは、下記の通りです。
- 株主の権利を尊重し、平等性を確保する。
- 従業員、顧客、取引先、地域社会などのステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果が企業の持続的な成長につながることを認識し、ステークホルダーとの適切な協働に努める。
- 会社情報を適切に開示し、企業経営の透明性を確保する。
- 取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、企業戦略等の大きな方向性を示し、適切なリスクテイクを支える環境整備を行い、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う。
- 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、株主と建設的な対話を行う。
出典:コーポレート・ガバナンス
Pnasonicでは、公正かつ迅速な行動や透明性の高い事業活動を行うため、コーポレートガバナンスを重要な戦略として位置づけています。
まとめ
今回は、ガバナンスの概要や企業が取り組むべきコーポレートガバナンス・コードなどを解説しました。
企業におけるガバナンスは、「企業を健全に経営するうえで必要な管理体制の構築・企業内部の統治」を意味します。
ガバナンスが効くことによる企業のメリットとして、下記の7つがあるとお伝えしました。
- 企業価値の向上
- 企業の成長力・競争力の向上
- 株主からの投資促進
- 企業の不正防止
- 財務面の強化
- 労働環境の改善
- 接続的な収益性の向上
また、本記事でお伝えしたコーポレートガバナンス・コードや実際の事例も参考にして、自社の組織体制を強化しましょう。
【SNSフォローのお願い】
kyozonは日常のビジネスをスマートにする情報を毎日お届けしています。
今回の記事が「役に立った!」という方はtwitterとfacebookもフォローいただければ幸いです。
twitter:https://twitter.com/kyozon_comix