マーケティング領域におけるスポーツスポンサーシップのポイント|デロイトトーマツグループ

2020年8月18日

本来であれば今年開催のはずだった五輪を始めとした世界規模のイベントから、アマチュアのスポーツまで、マーケティングに従事する方々であれば、大なり小なりスポーツへのスポンサーシップを求められたことがあるのではないでしょうか。また逆の立場として、スポーツによる興行の成功や、クラブの運営のために企業に対してスポンサーシップを依頼するということもあるかもしれません。しかし、その話がすんなりと通って、めでたくスポンサーシップが結ばれることになるという経験をされた方はそれほど多くないのではないでしょうか。 スポーツを介した企業コミュニケーションの有用性は実感として感じつつも、その価値や実現へのステップが曖昧だというお悩みをお持ちのマーケターの皆様へ、今回はマーケティング領域におけるスポーツスポンサーシップの考え方や種類/手法と共に、スポンサーシップの締結に向けたポイントについて解説します。

 

スポーツスポンサーシップ拡大の背景

スポーツに対するスポンサーシップは、経営課題を解決するための一手法であるマーケティングの領域において、企業の投資対象として近年拡大の一途をたどっています。

その背景には、人々が常に多くの情報に接触し、自らのフィルターを通してこれらの情報を取捨選択するようになったことで、企業の情報発信が消費者に届き辛くなっているという課題が存在します。しかし、このような情報過多な現代においても、スポーツ選手やチーム・クラブへの深い愛情をも持つファン心理はそれらをスポンサードする企業への親和的な感情を誘発することが出来るため、競技力向上や観戦体験支援といったスポーツの文脈に乗せることで、企業のメッセージを人々に届けることが可能になります。

この、企業とスポーツファンとの親和性を高め、企業や商品の認知度やイメージの向上など様々な活動に結びつけられることが、スポーツコンテンツを活用したマーケティングが注目を集めている理由といえます。

 

一方で、コロナ禍による外部環境の激変の影響によって、スポーツに対するスポンサーシップの役割は、マーケティングに限らずより広範な企業課題の解決を目指すためのツールとして、大きな転換期を迎えていることも忘れてはなりません。

 

スポーツスポンサーシップの種類

① 企業ロゴや商品・サービス名を露出させる権利

現地観戦・TV中継・新聞/雑誌・WEB/SNSなどの各種メディアでチームや選手が取り上げられる際、着用ユニフォームや競技場内看板、インタビューバックボードなどで企業名や商品名などが露出されます。露出時の視認性や頻度などの条件によってスポンサーシップに必要な費用が定められ、経営課題が企業のイメージ向上や商品の認知獲得などの露出効果によって改善がされる場合には有効だと考えられます。

 

(効果計測:TVの場合)※メディア別の効果計測が必要

視聴率から世帯数/視聴数を換算×画面占有率×露出時間を元にリーチを算出。さらに、同地域のGRP単価から金額的な価値を試算することができる。

 

しかし、上記のようにGRPといった広告での掲載単価をベースとした金額的な価値では露出によって課題の解決に繋がっているのか判断することは困難です。昨今ではリーチした対象に効果検証の調査を行うことで認知や購買意欲などの変化を明らかにし、露出による定性的な価値の可視化が進められています。

 

② アクティベーションを行うことができる権利

広告以外の方法でブランドの認知度を上げ、顧客に何らかの行動を起こさせるための一連の活動をアクティベーションと呼びます。例えば、クライアント側から直接的に商品の特徴を消費者に届けるのではなく、著名人を起用してその利用体験を届けていくインフルエンサーを活用した施策なども含まれます。

こういった取り組みは特にアメリカでは多くの企業が積極的に取り組んでおり、全米広告主協会によるとアメリカの企業はマーケティング予算のうち約60%をアクティベーションに投じるだけでなく、2020年までに約7,400億ドル(約82兆円)まで増加すると見込まれています。このアクティベーションには様々な手法があり、いかにスポーツコンテンツを活用してアクティベーションを効果的に実行することができるかが重要視されています。

 

図1:マーケティング領域におけるスポーツスポンサーシップの目的と種類

 

スポーツコンテンツを活用したマーケティングアクティベーション

では、スポーツコンテンツを活用したマーケティングにおけるアクティベーションとは一体どのようなものなのか、全米広告主協会が定義した6つの種類と、スポーツコンテンツの活用例をご紹介していきます。

Case1:リレーションシップマーケティング

顧客と良好な関係を築くことで長期間に渡って継続的に取引を行うための手法。

  • 取引先のキーマンをスタジアムのVIPルームに招待するなど。スポーツ観戦とともに商談を行うホスピタリティ施策。五輪やラグビーW杯などの世界的なイベントは大きな商談の機会としてグローバルスポンサーも注力している。一般消費者を招待するキャンペーンなども見られるが、BtoBでの利用に効果的だと考えられる。
Case2:コンテンツマーケティング

有益なコンテンツを制作・配信することでターゲットを獲得し、 エンゲージメントを作り出す手法。

  • 自社サービスの会員になることで、チームや選手の限定動画や壁紙といったコンテンツをプレゼント。通信会社がスタジアム/球場内でのWi-Fiを独占的に提供したり、EC事業者が自社サービス内で選手のサイン入りグッズを出品するなどの取り組みが見られる。
Case3:インフルエンサーマーケティング

特定の分野において、情報発信をすることで多くの人に影響を与える力を持つ人物・物を活用した手法。

  • TVCMやSNSなどの情報発信において、チームのスター選手や監督などを起用する権利を得られる。外部への露出だけでなく、インナープロモーションとして社員向けのメッセージ動画の作成などにも用いられる。
Case4:プロモーショナルマーケティング

顧客にサービスを購入するための行動を起こしてもらうための直接的なマーケティング手法。

  • クラブ/チームのファンや観戦者に対する割引サービスや各種クーポンを展開することで、消費行動を促す。
Case5:エクスペリエンシャルマーケティング

サービスや商材を実際に体験できるイベントを通して、ブランドに対する認知度・好感度を高める手法。

  • スポンサーが自社の新商品の体験イベントを併設するなどして体験者からの情報発信などを誘発する取り組み。アマチュアスポーツの大会などで多く見られる。
Case6:リテイラーマーケティング

店頭で顧客の購買意欲を高めるマーケティング手法。

  • スタジアムや競技上内での販売権利を有し、飲食物や物販などを独占的に展開することができる。五輪ではコカ・コーラ、サッカーのヨーロッパチャンピオンズリーグやラグビーW杯のハイネケンなどは有名です。

 

図2:6つのマーケティングアクティベーション手法

 

スポーツスポンサーシップの現状と課題

スポーツに対するスポンサーシップの悪しき習慣として、具体的なスポーツコンテンツの活用方法を検討する前に、権利だけを取得してしまうケースが多いということが挙げられます。コンテンツホルダー側(競技団体・チーム・選手・スタジアム/球場・競技大会など)のアセットは広告露出の権利がパッケージングされ、企業側はそれらを購入するか否かの判断のみを行うのです。

 

旧来の露出の権利を取得することが目的のスポンサードなのであればこの方法で問題ありませんが、アクティベーションが重要視されている現在の潮流には相応しくありません。企業は露出の権利を取得した後に、どのように活用できるか考え始めるという順序で検討しなければならず、取り組むことが出来る施策の幅が限られてしまうのです。

 

本来であればコンテンツホルダー側が活用できるアセットと、企業側が抱える経営課題を突き合わせ、それぞれの協業に最適なスポンサーシップの形を作り上げていくべきなのですが、人材面や資金面など様々な要因からないがしろにされているのです。

 

スポーツスポンサーシップの進め方

ここまでスポーツスポンサーシップの概要から具体的な手法、現状の課題までを明らかにしてきましたが、実際にスポンサーシップを進めるには何が大切になるのでしょうか。ポイントは以下の2つです。

 

ポイント1:適切な担当者が会話をすること

企業側において大きな費用の投資判断が必要なスポンサードにおいては個別商材の担当ではなく、マーケティング部で全社施策を差配しているか経営企画部といったポジションの方の参加が不可欠です。同様に、コンテンツホルダー側にも十分な知識を持ったマーケターが必要になります。

双方がスポーツスポンサーシップに関して一定以上の見識を有している場合、理想的なスポンサーシップの実現がぐっと近づきます。これはスポーツのコンテンツ価値を高めると共に、スポーツビジネス全体が大きく成長するためのエンジンになると考えています。

 

なお、日本のスポーツビジネスの商習慣上、広告代理店などの中間業者が介在する場合も有るかと思います。「企業ロゴや商品・サービス名を露出させる権利」を活用する場面では有効ですが、「アクティベーションを行うことができる権利」を活用する場面ではやはり企業側とコンテンツが直接協議できる体制が望ましいといえます。

 

ポイント2:共通の目標設定

両社にとって有益なKPIを見出すと共に、その計測方法を構築することがアクティベーションを含んだスポーツスポンサーシップを実現する最大の要因です。しかし、TVの露出効果を計測するGRPのような明確な指標がないアクティベーション施策の効果測定は都度設計が必要となるため、フレームとしての定義ができません。また、企業のアクティベーションの目的がマーケティング効率だけでなく、社会貢献も含む昨今の潮流によってますます複雑化しています。

 

そこで注目されているのがSROI(社会的投資利益率:Social return on investment)を用いた評価手法です。事業への投資価値を金銭的価値だけでなく、より広い価値の概念に基づき、評価や検証を行うためのフレームワークによって、社会的価値を適切に評価することができます。

 

図3:SROI(社会的投資利益率)の概要

出展:ソーシャル・バリュー・ジャパン公式HP https://socialvaluejp.org/

 

マーケティング領域の効果計測指標は、時代や世相を反映して日々進化していきます。適切な目標設定が可能となるよう、常に情報のアップデートを心掛けてください。

 

以上、マーケティング領域におけるスポーツスポンサーシップのポイントを紹介させて頂きました。

 

コロナによって、これまで現地での観戦が当たり前であったスポーツビジネスのあり方が大きく変わりつつあり、今後どのような形でビジネスが展開されるのかは誰にも分らない状況です。だからこそ、自らが所属する企業やスポーツクラブのアセットを改めて見つめ直し、適切なパートナーとの協業を通じて新たな価値を生み出して頂ければ幸いです。

 

 

著者紹介

デロイトトーマツグループ シニアコンサルタント 

山本 傑

 

大手メディア・レップ、通信会社のハウスエージェンシーを経て現職。通信業界、保険業界でのマーケティング活動支援の他、世界的なスポーツ大会における企業のブランド・アクティベーションや新競技のリーグ立ち上げ支援などスポーツビジネスに従事。リアルとデジタル両面におけるマーケティング領域の知見を有する。

以上

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