みなし残業が違法になるケース
みなし残業が違法となるのはどのようなケースなのでしょうか。
自社の環境と照らし合わせながら、みなし残業が違法となるケースを見ていきましょう。
基本給に含めて人材募集をする
みなし残業代を基本給に含めて求人募集をすることは、労働基準法において違法と判断される可能性があります。
もともと、労働基準法では、労働者の労働時間や賃金に関する規定が設けられています。中でも、労働時間の上限や残業時間の制限、割増賃金の支払いなどは厳密に定められている状況です。
みなし残業代は、実際の労働時間よりも長い時間を労働したことを前提に、割増賃金を支払わずに済む制度です。しかし、労働基準法では、労働者に対して最低限の賃金保証や適正な労働時間を確保することが求められています。
労働基準法上、労働者がみなし残業を行っている場合でも、その労働時間に対して適正な割増賃金が支払われないことは問題となるリスクがあります。そのため、みなし残業代を基本給に含めて求人募集をすることは、違法と判断されると考えられます。
除いた基本給が最低賃金を下回る
みなし残業が違法になるケースの一つとして、「みなし残業代を除いた基本給が最低賃金を下回る」が挙げられます。
最低賃金は、労働基準法に基づいて設定される最低限の賃金水準です。労働者は、最低賃金以上の賃金を受け取る権利を持っています。したがって、基本給が最低賃金を下回る場合、労働基準法に違反していると判断されるのです。
公的良俗に反する時間を設定している
公序良俗に反するみなし残業時間を設定している場合、違法と見なされる可能性があります。
公序良俗に反するみなし残業時間とは、法律や社会の基準に適合しない、不合理な長時間労働のこと。
労働時間の上限や休息時間の確保、健康や安全の観点から労働条件を適切に設定することが求められています。労働基準法に違反し、公序良俗に反するみなし残業時間を設定することは、労働者の権利や健康を脅かすことになるでしょう。
具体的なケースによって詳細な判断が必要ですが、労働基準法の規定に合致しないみなし残業時間は、違法となる可能性が高いことを頭に入れておきましょう。
残業時間がみなし残業時間を大幅に上回っている
みなし残業が違法になるケースとして「残業時間がみなし残業時間を大幅に上回っている」が挙げられます。
みなし残業を大幅に上回る残業時間となった場合には、企業は別途で残業代を支給することが定められています。また、みなし残業代として、深夜勤務や休日出勤などの割増料金が含まれていない場合、それらに応じた割増料金の支給も必須です。
仮に、従業員の実際の残業時間が30時間、みなし残業時間が20時間と大幅に上回っている場合、労働基準法に違反している可能性があるので注意しましょう。
就業規則に規定を記載していない
就業規則にみなし残業の規定を定めていない場合、そのみなし残業は違法と判断される可能性が高いです。
みなし残業は、労働者の実際の労働時間よりも長い時間を労働したことを前提に、割増賃金を支払わないで済む制度です。ただし、みなし残業が適用されるためには、労働基準法や労働契約、就業規則などで明確に規定される必要があります。
万が一、就業規則にみなし残業の規定が明記されていない場合、みなし残業を行うことは適法とは言えません。労働時間や賃金に関する規定は明確に定め、労働者に理解を求める必要があります。
みなし残業が違法になってしまったときの対処法
もしも、みなし残業が違法となってしまった場合にはどうしたらいいのでしょうか。
ここからは、企業がとるべき対処法を解説します。
雇用契約書に基本給とみなし残業代を分けて記載する
自社のみなし残業が違法と判断されることとなってしまった場合、雇用契約書に基本給とみなし残業代を分けて記載しましょう。
雇用契約書に基本給とみなし残業代を分けて記載することで、賃金の明確な分離が行われ、労働者に対して適正な賃金が支払われることの証明となります。労働基準法の規定に適合する形で賃金を支払うことを、雇用契約書上で周知することになるので、みなし残業と判断された場合の効果的な対策として期待できるでしょう。
基本給が最低賃金を下回らないようにする
みなし残業が違法となってしまったときには、基本給が最低賃金を下回っていないかを確認し、必要に応じてきちんと基本給をアップさせましょう。とくに、基本給を低く設定している企業の場合、最低賃金を下回っていることがあります。
また、条例や法律の改正に伴い、不定期で最低賃金が上昇することもあるので、最初の段階では最低賃金以上の基本給で設定していてもいつの間にか最低賃金が高くなっていることも少なくありません。
なお、最低賃金以下の基本給であった場合には、これまでの労働時間に応じてその差額を労働者から支払いを求められたときにきちんと支給する必要があります。
残業時間が45時間を超えないようにする
残業時間が45時間を超えないようにすることは、みなし残業が違法と判断されたときの対策の一つです。
通常、労働時間は1日8時間、週40時間を上限とすることが求められています。ただし、労働基準法には例外や特例が存在し、労働者の労働条件によって異なる場合があるのが事実。必ずしも上記の上限を厳守しなければならないわけではありません。
とはいえ、一般的な労働時間の上限は、週45時間を超える場合には残業と見なされます。
したがって、残業時間を45時間以内に制限することは、労働基準法の規定に適合する対処法と言えます。
適正な労働時間の範囲内で労働者が働けるように制度や規則などを改善することで、労働基準法の要件を満たすことができるでしょう。
企業が理解しておくべきみなし残業
みなし残業を取り入れている企業や、これからみなし残業を取り入れたいと考えている企業が、理解しておくべきポイントがあります。
労働者とのトラブルや事業の妨げにならないためにも、企業はみなし残業において何を理解しておかなければならないのか、きちんと確認しておきましょう。
そもそもみなし残業には上限がない
実は、みなし残業そのものには上限が存在しません。
みなし残業には、一定の時間を超えると残業割増賃金が発生するという制度ですが、その時間には上限が設けられていないのです。そのため、企業の中には、みなし残業の上限がないことを盾に極端な労働時間を既定するケースがあります。
しかし、みなし残業時間を規定する際には、現実的で合理的な範囲内に設定することが重要です。
労働者の安全と健康を守るために、労働時間を適切に制限するよう労働基準法では定められているのが現状。労働者に負担の大きな労働時間の規定は避ける必要があります。実際、労働時間が極端に長くなると、労働者の健康やプライベートの時間を損なうことになります。労働者を守ることを目的とした「労働基準法」の観点から見ても、極端な労働時間の規定は好ましい既定とは言い難いでしょう。
そのため、企業がみなし残業を設定する際には、現実的で合理的な時間枠を設けることが重要です。労働時間の適正な制限を守り、労働者の権利と福利厚生を保護する必要があります。
企業は従業員に残業は強制できない
誤解されがちな部分ではありますが、仮にみなし残業を導入している企業であっても、その残業を従業員に強制することはできません。
みなし残業代制度では、実際には発生しない残業時間をあらかじめ想定し、その時間に対して割増賃金を支払わずに済む制度です。しかし、重要なポイントとして、みなし残業代制度を導入していることを理由に、労働者に対して残業を強制することは違法です。
そもそも労働基準法では、労働時間や残業に関する規定があります。労働者は、合意なく強制的に残業させられることはないとして定められているので、労働者の意思に反して強制的な残業を行わせることは、労働基準法に違反する可能性があります。
そのため、結論としては、みなし残業代制度が導入されている場合でも、労働者が残業を強制されることは違法です。労働者自身が自発的に残業を行う意思がなければ、強制することはできません。
労働時間や残業に関するルールは、労働者の権利と労働基準法の規定に合致するように設定したうえで、労働者の意思を尊重し、合意に基づく残業を行うことが求められます。
従業員から請求されることがある
あまり多いケースではないものの、みなし残業制度を導入している企業に対し、その企業で働く従業員から残業代を請求されることがあります。企業側が正当な残業を求めていると判断していても、労働者側が違法性を主張して、本来の残業代を回収する事例があるのです。
本来、通常の労働条件下では、企業は従業員からみなし残業代を請求することはできません。みなし残業代は、労働時間をあらかじめ定めて賃金に含める制度であり、従業員が実際に残業した時間に応じて支払われるものではないからです。
実際、労働基準法では、労働者に対して最低限の賃金保証や適正な労働条件を求めています。労働者は、労働時間に応じた適切な賃金を受け取る権利を持っています。したがって、みなし残業代は、労働時間をあらかじめ計算して賃金に含めるものであり、従業員による追加の支払いは必要ありません。
しかし、みなし残業制度に何らかの違法性があったり、特定の労働条件や契約で異なる取り決めがあったりする場合は、労働者から残業代の支払いを求められることがあります。
みなし残業制度は企業側からするとメリットの多い制度に見えますが、場合によってはかえって支払額が大きくなってしまうこともあるので注意が必要です。
まとめ
本記事では、みなし残業についてご紹介しました。
みなし残業は、残業代の支払額を抑えられる選択肢として、多くの企業が導入しています。しかし、導入の方法や規定によっては、違法と判断される可能性もあるので注意が必要です。
みなし残業制度を導入している企業はもちろんのこと、今後導入を検討している企業の担当者は、今回解説した対処法と合わせてきちんと理解を深めておくことが大切です。
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