懲戒解雇とは?
懲戒解雇とは、社内秩序を著しく乱した労働者に対して科せられる極めて重いペナルティです。
通常であれば、理由もなく企業が労働者を解雇することはできません。
しかし義務や規律を違反した従業員に対しては、懲戒解雇が認められています。
懲戒解雇の特徴例は、それぞれ下記の通りです。
- 企業側:解雇予告手当が不要になるので、コストを削減できる
- 労働者側:退職後の就職活動に悪影響を及ぼす可能性がある
懲戒解雇歴のある労働者は、再就職する際に採用を見送られることもあるでしょう。
そのため懲戒解雇処分は、該当する労働者から不当解雇を理由に訴訟されるリスクもあります。
次に、下記の2点について解説します。
- 懲戒解雇の客観的合理的理由・相当性
- 普通解雇との違い
それぞれ見ていきましょう。
懲戒解雇の客観的合理的理由・相当性
労働契約法によると、懲戒解雇の客観的合理的理由・相当性として下記が明記されています。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
つまり懲戒処分が承認されるには、「客観的な合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。
企業が従業員を懲戒解雇する場合、これらの要素は確認しなければいけません。
普通解雇との違い
懲戒解雇と普通解雇の違いは、下記の通りです。
懲戒解雇 | 普通解雇 | |
解雇理由 |
|
|
目的 | 対象者との雇用関係の終了と 組織の規律維持 | 対象者との雇用関係の終了 |
解雇予告義務 |
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失業保険の給付日数 | 自己都合退職と同じ扱いなり、 給付日数が少ない | 会社都合退職として、 有利な使いを受けることがある |
退職金の支払い | 不支給や減額の場合はあり | 退職金の規定どおり |
転職への影響 | 懲戒解雇された旨を 申告しなければならないので不利 | – |
普通解雇はペナルティとして扱われるかどうかといった点が、懲戒解雇と異なります。
つまり普通解雇は、経営不振以外の理由で雇用契約関係を解消する解雇であると覚えておきましょう。
懲戒解雇の理由になり得るケース
ここまで、懲戒解雇の概要や普通解雇との違いなどをお伝えしました。
続いて、懲戒解雇の理由になり得るケースを解説します。
- 業務上横領
- 業務命令の拒否
- 無断欠勤
- セクハラ・パワハラ
- 経歴詐称
- 犯罪行為
ひとつずつ解説していきます。
業務上横領
業務上の横領は、懲戒解雇の対象になり得ます。
業務上横領罪は、刑法第253条に規定されている犯罪です。
企業の信用を裏切る不正行為を行った従業員は、懲戒解雇が有効になるケースが散見されます。
また、業務上横領によって企業が損害を被った場合、該当する従業員に対して懲戒解雇処分と損害賠償請求、刑事告訴を検討します。
ほかには発注先からのリベートの受領や経費の架空請求といった金銭的な不正行為も懲戒解雇の対象です。
業務命令の拒否
転勤や会社の重要な業務命令に従わない従業員は、懲戒解雇の対象です。
ただし転勤を命令する際は、下記の配慮がなされているか注意しましょう。
注意点 | |
単身赴任 |
|
家族を伴う転勤 |
|
また懲戒解雇を実行するにあたり、従業員への説明が不十分でないか確認が必要です。
無断欠勤
従業員が正当な理由なく無断欠勤している場合は、懲戒解雇の対象です。
欠勤以外には、無断での遅刻や早退も同様なので覚えておきましょう。
しかし欠勤や遅刻、早退は態様・程度によって悪質性が異なります。
一般的に悪質な長期の無断欠勤は、懲戒解雇が認められる可能性は高いです。
とはいえ十分に態様・程度を精査して、懲戒解雇に値するかどうかを検討しなければいけません。
セクハラ・パワハラ
懲戒解雇となる行為として、セクシャルハラスメント・パワーハラスメントが挙げられます。
1回のハラスメントによって、直ちに懲戒解雇となるケースはほとんどありません。
しかし脅迫や傷害、恐喝、強制わいせつ等に該当する場合は、1回の行為で懲戒解雇になる可能性はあります。
経歴詐称
労働者の採用時に学歴や職歴、資格、などを偽っていた場合は、懲戒解雇の対象になり得ます。
実際に、経歴詐称が企業秩序に関わる重要な事項であるとして、懲戒解雇となった判例もあります。
ただし懲戒解雇の対象となる経歴詐称は、下記に挙げる「重要な経歴のみ」です。
- 学歴
- 職歴
- 資格
- 犯罪歴
- 労働者の能力・人物評価に誤りを生み、労使間の信頼関係を損なう経歴
人物評価に影響が出ない些細な経歴詐称では、懲戒解雇が無効と判断されてしまうでしょう。
そのため、懲戒解雇に値するかどうか慎重な検討が必要です。
犯罪行為
従業員の私生活での言動によって企業のイメージを損なわせてしまった場合は、懲戒解雇が認められる場合があります。
私生活での言動として挙げられる例は、ブログやSNSでの発信です。
投稿内容が非常に悪質であり、企業の信用や社会的な評価を著しく低下させるケースは、懲戒解雇が有効となるケースがあります。
しかし企業や社会的評価を損なわせる行為であっても、直ちに懲戒解雇できるわけではない点は注意しなければいけません。
あくまで懲戒解雇は、企業の秩序維持を目的に行われている点を覚えておきましょう。
企業が懲戒解雇をするリスク
ここまで、懲戒解雇の理由になり得るケースをお伝えしました。
続いて、企業が懲戒解雇をするリスクを解説します。
- 訴訟トラブルに発展する可能性がある
- 敗訴した時のダメージが大きい
- 助成金支給要件に抵触する可能性がある
ひとつずつ解説していきます。
訴訟トラブルに発展する可能性がある
懲戒解雇は訴訟トラブルに発展する可能性があり、懲戒処分の中で最も重い処分です。
労働契約法にも、下記の基準が定められています。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
従業員が懲戒解雇されると、職を失うだけでなく通常退職よりも下記に挙げる不利益を受けます。
- 転職時に不利になる
- 雇用保険の給付日数が制限される場合がある
- 退職金が減額されたり支給されなかったりする
- 解雇予告手当の支払い対象外になる場合がある
そのため懲戒解雇した従業員から、不当な解雇であると主張されて訴訟や労働審判を起こされるといったトラブルも少なくありません。
懲戒解雇によって大きな不利益を受けた従業員が、会社に対して訴訟を起こす可能性は高いといえるでしょう。
敗訴した時のダメージが大きい
企業が懲戒解雇を行い、敗訴した時のダメージは大きいです。
例えば従業員から懲戒解雇に関して訴訟された場合に、解雇の理由と証拠が提示されなければ、下記に挙げる労働契約法によって無効であると判断され多額の金銭の支払いを命じられます。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
裁判によって懲戒解雇が無効になった場合、企業は該当する労働者を復職させて雇用契約を継続しなければいけません。
そのため企業の信用や社会的な評価を下げた従業員であっても、懲戒解雇が無効と判断される可能性がある点は注意しましょう。
助成金支給要件に抵触する可能性がある
企業が懲戒解雇するリスクには、助成金支給要件に抵触する可能性があります。
助成金支給要件の中には、「6ヶ月以内に会社都合離職者がいないこと」といった要件が存在します。
懲戒解雇は企業側で行われる解雇ですが、助成金受給の可否は企業運営への影響が予想されるため十分な確認が必要です。
裁判に発展した際の負担が大きい
企業が懲戒解雇を行い、裁判に発展した際の費用・労力の負担は大きいです。
労働問題に関する手続きには、「労働審判」と「正式な裁判(民事)」の2種類があります。
それぞれの期間と費用は、下記の通りです。
期間 | 費用 | |
労働裁判 | 3ヶ月以内 | 80万円〜100万円 |
正式な裁判(民事) | 1年〜1年半 | 訴訟金額によって異なる |
労働者から訴訟された場合は、企業が直接対応するわけではなく、弁護士に依頼するケースが一般的です。
しかし弁護士への依頼以外に、下記の労力もかかります。
- 証人として出頭
- 弁護士が訴訟対応するために必要な資料収集や聞き取り
そのため訴訟となった場合は、費用や労力の負担が大きくなる点を注意しましょう。
企業が懲戒解雇をする前にやっておくべきこと
ここまで、企業が懲戒解雇をするリスクをお伝えしました。
続いて、企業が懲戒解雇をする前にやっておくべきことを解説します。
- 懲戒事由の存在を証明できるようにする
- 就業規則を確認する
- 弁明の機会を与える
- 退職勧奨を検討する
- 普通解雇を検討する
それぞれ解説していきます。
懲戒事由の存在を証明できるようにする
企業が従業員を懲戒解雇する際は、解雇理由が記載された「解雇理由証明書」を発行する必要があります。
解雇理由証明書は、裁判の際に懲戒解雇が有効であると判断されるためにも必要な証拠です。
従業員から証明書を請求されたにもかかわらず発行しなかった場合、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるので注意しましょう。
また、解雇理由証明書を発行しなくてよいケースとして下記があります。
- 従業員から請求されていない
- 解雇してから2年以上が経過している
- 解雇予告を出した後に、別の理由で退職した
労働基準法によると、解雇理由証明書は「遅延なく交付しなければならない」と記載されており、請求されて2〜3日で交付することが望ましいです。
就業規則を確認する
多くの企業では、就業規則の中に懲戒解雇の手続きが記されています。
例えば懲戒処分を行う場合は、下記の通りです。
- 町会委員会を設けて審議を行う旨
- 該当する労働者に聴聞手続きを行う旨
上記の手続きは、懲戒解雇を行う前に必ず行わなければいけません。
仮に手続きが漏れてしまうと、就業規則に則っていないとして懲戒解雇が無効になる可能性もあります。
手続きの不備を事前に防ぐために、懲戒解雇を行う際は就業規則を確認しましょう。
弁明の機会を与える
企業が懲戒解雇を行う際は、従業員に弁明の機会を与えましょう。
弁明の機会を与える理由は、下記の2つです。
- 弁明を通して明らかになった本人の言い分も加味して、処分内容を決定するため
- 懲戒解雇の相当性を裏付けるため
ほかにも対象の従業員の言い分を聞くことは「ガス抜き」の効果があり、無用なトラブルに発展するリスクを未然に防止できます。
また就業規則における規定の有無にかかわらず、書面に「弁明を実施した日時」を明記・交付しておきましょう。
明記・交付する理由は、紛争になる可能性を防ぐためです。
退職勧奨を検討する
懲戒解雇の選択肢だけではなく、退職勧奨を検討する方法もあります。
退職勧奨とは従業員に退職を勧めて、従業員の意思で退職することです。
法律上で懲戒解雇のような厳格な規定がないので、法的なリスクは低いです。
そのため懲戒解雇と併せて従業員を説得して、任意退職してもらう退職勧奨の例は少なくありません。
こちらの記事では、退職勧奨のさらに詳しい意味や法的な注意点、退職勧告との違いについて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
普通解雇を検討する
懲戒解雇に比べて、普通解雇の方が有効性が認められる場合が多いです。
そのため不祥事やコンプライアンス違反を行った従業員に対しては、懲戒解雇と併せて普通解雇も検討してみましょう。
解雇予告手当とは?
解雇予告手当とは、企業が対象となる従業員を解雇する場合に支払う手当です。
支払いは義務化されており、下記の特徴があります。
- 従業員には30日前に解雇する旨を予告する
- 解雇予告手当は30日分支払う
ただし、下記の場合は解雇予告手当を支給する必要がありません。
- 試用期間中(14日未満)の労働者
- 雇用期間が1ヶ月未満で日々雇い入れられる労働者
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される労働者(期間内)
- 季節的業務として、4ヶ月以内の期間を定めて使用される労働者(期間内)
また「労働基準監督署の除外認定」を活用することで、一定の場合に限り解雇予告手当の支給と30日前の予告が免除されます。
こちらの記事では試用期間中の解雇について、可能なケースや注意点、手順を解説しているのでぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、懲戒解雇の概要や懲戒解雇になり得るケース、リスクを解説しました。
懲戒解雇とは、社内秩序を著しく乱した労働者に対して科せられる極めて重いペナルティです。
また懲戒解雇の理由になり得るケースとして、下記の6つをお伝えしました。
- 業務上横領
- 業務命令の拒否
- 無断欠勤
- セクハラ・パワハラ
- 経歴詐称
- 犯罪行為
企業が懲戒解雇を行うことで、訴訟トラブルに発展したり、助成金支給要件に抵触したりする可能性もあります。
本記事でお伝えした懲戒解雇前に行うべき「就業規則の確認」「弁明の機会を与える」なども参考にして、懲戒解雇への知見を深めましょう。
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