ディーセントワークとは?
ディーセントワークとは、権利が保障されて十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられた生産的な仕事です。
1999年に開催されたILO総会にて、ファン・ソマビア事務局長が初めて用いたことで、ILO活動の主目標と位置付けられました。
ディーセントには「まずまずの」「良識にかなった」といった意味が含まれており、労働者の人権を尊重しながら高い生産性を実現するための考え方が示されています。
厚生労働省も「ディーセント・ワークの概念の普及に努めるとともに、様々な労働政策を推進することにより、ディーセント・ワークの実現に努めている」と公表しています。
出典:ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について
ディーセントワークが注目されている理由
ディーセントワークが注目されている理由は、先進国・開発途上国を問わず雇用環境に対するさまざまな問題が発生しているためです。
先進国・開発途上国で発生する問題として、下記が挙げられます。
問題の詳細 | |
先進国 |
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開発途上国 |
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上記の雇用環境を改善するために、ディーセントワークが注目されています。
こちらの記事では、非正規雇用の種類や課題、対策方法について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
SDGs達成に必要不可欠
国際連合は、2015年に2030年までに達成すべき持続可能な開発目標である「SDGs」計画を採択しました。
このSDGsを達成するために必要不可欠と言われている施策が、ディーセントワークです。
- SDGsの8つの目標
- ILOが掲げる5つの計画
それぞれの目標と計画を見ていきましょう。
SDGsの8つの目標
SDGsには貧困や飢餓の撲滅、産業・技術革新の基盤づくりなど、17個の目標があります。
そのなかでディーセントワークが推進している目標は、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用および働きがいのある人間らしい仕事を推進する」です。
そこからさらに、下記に挙げる12個のターゲットに分類されています。
8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
8.5 2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
8.10 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。
ターゲットを詳細に分けることで、ディーセントワークの促進・SDGsの達成に寄与しています。
ILOが掲げる5つの計画
ILOはディーセントワークとSDGsの目標を達成するために、下記にあげる5つの計画を策定しました。
- 児童労働の撤廃
- 健全な雇用の促進
- 社会保護の土台形成
- よりよい仕事の計画
- 安心安全な労働の提供
それぞれの計画が、「ディーセントワークの推進により経済成長や平和構築・維持につながる」といった考えに基づいて誕生したプログラムです。
ディーセントワーク実現に必要な要素は?
ここまで、ディーセントワークの概要や注目されている理由などをお伝えしました。
続いて、ディーセントワーク実現に必要な要素を紹介します。
- 権利が保障される仕事
- 社会対話の推進
- 社会的保護が与えられる仕事
- 十分な仕事量
ひとつずつ紹介していきます。
権利が保障される仕事
ディーセントワークを実現するためには、権利が保障される仕事が必要です。
仕事が確立されるには、「ワークライフバランスの実現」「安心して働き続けるためのルール強化」「安全・健康を確保するための労働時間の見直し」といった取り組みが欠かせません。
仕事による権利が保障されれば、一方的に不利な立場に置かれる労働者をなくせます。
社会対話の推進
ディーセントワークには、社会対話の推進が必要です。
ビジネスでは利害関係が発生するため、トラブルや衝突は避けられません。
そのため行政・管理者層によるサポートを充実させると、社会対話を推進できるでしょう。
またトラブルが発生した際は、対話によって解決する努力も必要です。
社会的保護が与えられる仕事
ディーセントワークを実現させるにあたって、社会的保護が与えられる仕事は必要です。
仮に下記のような仕事環境の場合、効率や生産性は下がってしまいます。
- 仕事はあるが働きにくい環境
- 社会的に保護されていない環境
社会的保護を充実できれば、安心して従業員は働けます。
つまり環境によって、企業力・国力が上がるきっかけとなるでしょう。
十分な仕事量
ディーセントワークに必要な要素として、十分な仕事量があります。
「仕事がいつなくなるかわからない」「いまの仕事を正規雇用労働者に奪われるかもしれない」といった状況では、ディーセントワークの実現は厳しいです。
そのため障害者や高齢者の雇用対策強化や非正規労働者の処遇改善や雇用安定などに取り組み、十分な仕事を用意する必要があります。
日本が定めているディーセントワークの評価軸は?
ここまで、ディーセントワーク実現に必要な要素をお伝えしました。
続いて、日本が定めているディーセントワークの評価軸を解説します。
- WLB軸
- 公平平等軸
- 自己鍛錬軸
- 収入軸
- 労働者の権利軸
- 安全衛生軸
- セーフティネット軸
ひとつずつ解説していきます。
WLB軸
WLB軸とは、ディーセントワークにおいて下記がどのように評価されているかを表す軸です。
- 家庭と仕事のバランスが保たれているか
- 自己啓発や地域活動などとの両立ができているか
少子高齢化により、これから労働力人口が減少していく日本は、年齢を問わず働き続けられる環境づくりが求められています。
そのため勤務場所・日時への柔軟な対応や特別休暇の設定、個人事業主として働く仕組みづくりといった環境整備が必要です。
公平平等軸
公平平等軸とは、労働者が公平もしくは平等に活躍できる職場環境であるかを評価する軸です。
2020年には「同一労働同一賃金関連法」が施行され、正規・非正規労働者の賃金や福利厚生などを業務内容や能力で判断することになりました。
その一方で、雇用形態や性別にかかわらず、正当に能力を評価する「人事評価制度」の整備も重要です。
さらに、高齢者や障害者が働ける場所への環境づくりも求められています。
自己鍛錬軸
自己鍛錬軸とは、下記の2つを評価するための軸です。
- やりがいをもって働ける職場なのか
- 能力開発の機会が与えられて、キャリアアップできる職場なのか
理想的な姿として、従業員の希望に沿ったキャリアアップの仕組みが構築されており、社員研修や教育訓練体制が充実している環境が挙げられます。
仮に社内での研修が難しい場合は、社外研修の実施が効果的でしょう。
社外研修を実施する際には従業員の負担を増やさないように、受講費や勤務日時に配慮したうえで体制を整える必要があります。
収入軸
収入軸とは、人として生活が営める収入を得られる職場であるかを評価する軸です。
まずは、下記にあげる日本国内の実情を把握しておきましょう。
- 子供手当を拡充した企業がある一方で、企業内託児所の整備が遅れている
- 団塊の世代が2025年に後期高齢者となるため、介護問題が深刻化している
- 国の賃上げ要請を受けて、各企業は賃金の引き上げに取り組む姿勢は見られるが、未だ不十分
ほかにも仕事と子育て、介護の両立に有効な働き方「テレワーク」が推進されていますが、企業にはテレワークを行いながら安定して収入を得られる仕組みづくりが求められています。
労働者の権利軸
労働者の権利軸とは、労働者が企業と同じ立場で職場環境や労働条件について話し合えるかを評価する軸です。
日本商工会議所の調査によると、2022年における労働組合の組織立は16.5%に留まっており、労働組合以外の「社員会」などで、従業員が意見を述べられる環境づくりが必要です。
また近年の法改正によって、労働者の義務・権利は大きく変わりました。
健全な職場環境をつくるためにも、義務と権利の明確化や尊重は重要なテーマのひとつです。
出典:日本商工会議所
安全衛生軸
安全衛生軸とは、安全かつ衛生的な職場環境が確保・維持されているかを評価する軸です。
日本での身体的な労災事故は、設備や器具といった環境整備によって減少しました。
しかし、下記の2つが深刻化している問題があります。
- 長時間労働
- ハラスメントによる精神疾患などの増加
特に精神疾患は、テレワークの導入によるコミュニケーション不足によって、陥る労働者が増えています。
そのため企業は業務内容や人員配置の見直し、良好に人間関係を構築・維持できる環境整備、労働者の心身への配慮が重要です。
セーフティネット軸
セーフティネット軸とは、社会保障制度の充実度合いを評価する軸です。
日本は働き方改革に伴って、雇用保険や労災保険などの適用が見直されています。
具体例は、下記の通りです。
- 65歳以上の複数勤務者に対する、雇用保険の適用
- 副業解禁に伴い、2ヶ所以上の勤務者に対する労災保険の見直し
また2022年4月の年金改正では、65歳未満で働きながら年金を受け取る人への支給停止基準が見直されて、65歳以上で働きながら年金を受け取る場合は、1年ごとに年金が増額される仕組みに変わりました。
企業側はこれらの法律改正による変更内容を理解して、積極的に「努力義務」とされるものは導入する必要があります。
また労働者の不安・混乱を招かないためにも、対応している旨を周知しなければなりません。
企業がディーセントワークを実現するメリットは?
ここまで、日本が定めているディーセントワークの評価軸をお伝えしました。
続いて、企業がディーセントワークを実現するメリットを解説します。
- 企業イメージがアップする
- 生産性がアップする
- 人手不足が解消される
ひとつずつ解説していきます。
企業イメージがアップする
企業がディーセントワークを実現するメリットは、企業イメージのアップにつながる点です。
これまでの日本企業では、長時間労働は「当たり前」とされてきました。
しかし現在の労働環境に注がれている目は、下記の理由により厳しいです。
- 働き方の多様化
- 人材市場のグローバル化
実際に株主は、ライフワークバランスの向上や労働時間の削減を気にしています。
そのためディーセントワークの実現によって、企業イメージが向上するといえるでしょう。
生産性がアップする
ディーセントワークの導入により、労働者一人ひとりが仕事に没頭できるようになります。
さらに自己研鑽に励む機会も増えて、結果として企業の利益や生産性の向上につながるでしょう。
つまりディーセントワークの実現は、仕事の質やイノベーションを上昇させて、企業成長を支える鍵となりうるのです。
人手不足が解消される
企業がディーセントワークを実現すると、人手不足が解消されます。
今まで日本の労働環境は、女性の妊娠・出産に伴う退職や復職を想定していませんでした。
しかし労働力人口の減少を抑止するためにも、女性の起用は重要です。
そのためディーセントワークが実現されることで、人材採用にかかっていた時間やコストを削減できるでしょう。
まとめ
今回は、ディーセントワークの概要や必要な要素、日本が定めている評価軸を解説しました。
ディーセントワークとは、権利が保障されて十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられた生産的な仕事です。
またディーセントワークに必要な要素として、下記の4つがあります。
- 権利が保障される仕事
- 社会対話の推進
- 社会的保護が与えられる仕事
- 十分な仕事量
さらに日本が定めている評価軸とした「WLB軸」「公平平等軸」「自己鍛錬軸」「収入軸」などがあるとお伝えしました。
本記事でお伝えした実現することで得られるメリットも参考にして、ディーセントワークを取り入れてください。
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