メンタリングとは?
メンタリングとは、人材育成手法の一つです。
先輩などの指導者(メンター)と、後輩や新入社員などの指導される側(メンティー)の1対1で対話を重ねていきます。対話の内容は、キャリア関連のほか、個人が抱えている悩み・問題にフォーカスしたものや、職場での悩み相談など多岐に渡ります。
しかし、メンターの役割はメンティーに対して正解を教えることではありません。メンターは、メンティーとの対話を繰り返していき、本人に気づきを与えることが主な役割です。教師と生徒のような一方的に教えるような関係性ではなく、同じ目線で対話を重ねてメンティーが自発的な成長を促せる関係性が理想と言えます。
ちなみに、メンターとして望ましいのは、メンティーと年齢や立場が近い人物です。一方的な教えになってしまわないためにも、メンターの年齢が高すぎたり、立場の違いが大きすぎるような人物は避けた方が無難です。
そのため、先輩がメンター、後輩もしくは新入社員がメンティーといった関係性になることが多い傾向にあります。
メンタリングとOJTの違いは?
メンタリングとOJTの違いは、対話形式であるか、業務に触れてもらいながら知識や技術を獲得してもらうか、です。
メンタリングは対話を通して、メンティー自らが答えを掴もうと主体的に考えていきます。メンター自身は教えるというスタンスではなく、あくまでも一緒に同じ目線で話すことが主な役割です。メンティー自身が「どうしたらいいのか」「どうすべきなのか」などに気づけるようにサポートします。心理的なサポートといった意味合いも大きく、本人の悩みや不安、問題などを解消しやすいのがメリットです。
一方OJTは、後輩や新入社員が実際の業務をこなしながら、徐々に知識やノウハウなどを得ていきます。OJTは、現場での即戦力を育てるうえで効率的な人材育成手法であり、業界や企業規模などを問わず多くの現場で採用されています。
メンタリングとコーチングの違いは?
コーチングは、特定のテーマに絞って対話を重ねていったり、気づきを促したりすることが特徴です。メンタリングと似ており、混同しやすいので注意しなければなりません。
メンタリングは対話に特別なテーマを設ける必要はなく、キャリアのこと、社会生活のこと、個人的な悩みなど、内容を限定せずにさまざまなテーマでコミュニケーションを交わします。
しかし、コーチングは目標達成のために必要な気づきを促したり、特定の業務に関する進め方を対話形式で正解へと導いたりしていきます。
対話するうえで、テーマがあるか否かがメンタリングとコーチングの大きな違いと言えるでしょう。
多くの企業がメンタリングを導入している理由は?
近年、多くの企業がメンタリングを導入している理由は、「若手社員の採用難」「早期退職の増加」などが挙げられます。
もともとメンタリング自体は、1990年代に外資系企業が導入していました。2020年代の初期には外資系以外の大企業でも導入されるようになり、企業規模によっては決して珍しい人材育成手法ではなかったのです。
2010年代には、メンタリングが女性活躍推進を目的に活用されるようになり、厚生労働省がメンター制度における導入マニュアルを作成。これまで外資系企業や大手企業が中心となってメンタリングを導入していましたが、分野や企業規模を問わず多くの企業で人材育成手法として認知され導入が進んでいきました。
さらにメンタリングの導入が進んだ背景として、2010年代半ばの深刻な人手不足といった社会問題が挙げられます。多くの企業で人材教育にかけられる時間的コスト、金銭的コストが減少したことで、若手社員の採用が難しくなるのと同時に、従業員の早期退職が目立つようになったのです。
こうした人手不足を解消するための対策の一つとして、メンタリングの導入が一般的になっていきました。
メンタリング導入のメリット・デメリットは?
導入している企業が多いことから分かる通り、メンタリングにはさまざまなメリットがあります。
しかし、一方で注意しなければならないデメリットもあるのが事実。双方のポイントをよく把握したうえで導入を検討しなければなりません。
ここからは、メンタリングを導入するメリット、デメリットをご紹介します。
メンタリング導入のメリットは?
メンタリングを導入するメリットは、大きく3つ挙げられます。
企業にとって、どのような恩恵を受けられる人材育成手法となるのか、さっそくチェックしていきましょう。
メリット1:主体性を持たせることができる
メンタリングを導入するメリットとして、まず挙げられるのが若手社員に対して主体性を持たせることができるという点です。
近年、若手社員の主体性の低さが指摘されることが珍しくなくなりました。主体性は個人の生産性に関わるので、メンタリングを通して自ら考え、行動できるようにする必要があります。
メンタリングによって主体性を持たせることができる理由は、メンティーの持つ「どう行動すべきか」という疑問に、メンターとの対話を通し自ら気づけるからです。メンターからの導きも参考にしながら、「こうすればいいのか」という正解を自ら掴むことを繰り返すことで、次第に主体的に考え、行動できる人材へと成長していきます。
メリット2:メンタルケアができる
メンティーのメンタルケアができる点は、メンタリングの大きなメリットです。
メンタリングは、コーチングのように実務的な部分を中心にフォーカスするのではなく、精神面にも視点を当てた対話を行います。
若手社員や新入社員の場合、新たな環境に慣れないうちは、日々不安や緊張と戦っているような状況です。メンターがきちんと同じ視点で、メンティーの感じている不安や緊張、その他困っていることなどについて対話を重ねることで、メンタルケアへとつながります。
仮に問題があっても、定期的にメンタリングを行っていれば早期発見も期待でき、さらなる人材育成の効果を期待できるでしょう。
メリット3:メンターも成長できる
メンタリングを導入するメリットの一つが「メンター自身の成長機会になること」です。
一般的に、人材育成と言えば、指導を受ける側(新入社員等)が成長するものといったイメージがあるでしょう。
しかし、メンタリングはメンター自身の成長につながるので、双方にとってより良い機会となります。メンターの場合、メンティーを指導するうえで必要となる能力が「コミュニケーション能力」「ヒアリング能力」「信頼を築くための能力」などです。メンターとして指導していくうちに、自身の上記の能力を養うことにつながり、ビジネスパーソンとしてのスキル向上も期待できます。
メンタリング導入のデメリットは?
メンタリングはさまざまなメリットがあり、早急に導入したいと考える企業も少なくありません。しかし、導入する前に、デメリットも把握しておく必要があります。
メンタリングを導入するにあたり、企業にどのようなデメリットがあるのか、以下を参考にしてみてください。
デメリット1:メンターの確保が必要になる
メンタリングを導入するうえで、大きなデメリットといえるのが「メンターの確保が必要」です。
メンターとしての役割を担うということは、自分の本業と同時進行するということになります。人手不足の企業では、メンターの確保が難しくなる傾向にあり、スムーズなメンタリング導入ができないかもしれません。
また、メンターを担う人材が決まっても、メンティーからの相談頻度が多かったり、信頼関係の構築に時間がかかることで、メンターの降板を申し出る可能性もあります。
メンターを任せる人材が決まったら、本人の業務量を調整するなど、無理のない範囲で任せられるように配慮が必要です。
デメリット2:効果測定が難しい
メンタリングを導入するデメリットとして、「効果測定の難しさ」が挙げられます。
基本的に「メンタリング」は、心理的な面にフォーカスして対話を重ねていく人材育成手法です。仮にメンティーにとって有益な機会となっても、技術スキルの習得等と比較すると目に見えにくいといった問題があります。
メンタリングの導入によって、どの程度の効果があったのかを数値化することが難しいので、「本当に導入して良かったのか」「無駄な人材教育とならなかったか」など、不安に覚える担当者も少なくありません。
しかし、メンタリングの効果測定においては、離職率と照らし合わせたり、メンターやメンティーにメンタリング実施の満足度を調査するなど、工夫次第である程度の効果を把握することが可能です。
デメリット3:標準化が難しい
メンタリングは「標準化が難しい」といったデメリットがあります。
抱える問題や悩み、不安はメンティーによって違いがあり、深刻さにも大きく異なるものです。そのうえ、性格や価値観なども人それぞれであることから、メンタリングという教育手法を標準化することは現実的ではありません。
また、メンターを担う人材側も、性格や考え方、価値観が異なることから、人によって指導スタイルにばらつきが生じてしまいます。
とはいえ、メンターの指導方法に関しては、あらかじめ大まかな枠組みを決定しておくことで、メンター間でのメンタリングの質の差を埋めやすくなります。
メンタリングを導入する手順は?
メンタリングを導入するにあたり、どのような手順で取り入れればいいのでしょうか。
ここからは、メンタリングを導入する際のステップを解説します。
手順1:メンタリング目的・運用ルールを定義する
メンタリングを導入する目的や運用ルールを定義します。
「そもそもなぜメンタリングを導入するのか」を明確にしておかないと、施策の方向性が迷子になってしまう恐れがあります。
「若手の離職率が高い理由を把握して改善につなげるため」「若手のモチベーションや生産性の向上のため」など、企業によって目的は異なるでしょう。まずは、メンタリングの目的を明確にし、社内で周知を図ってください。
メンタリングの目的が明確になったら、運用ルールを定義していきます。最低限、運用のルールとして設けるべき要素が以下の通りです。
【最低限必要な運用ルール】
- メンタリングにおけるトラブルに備えた相談窓口を設置する
- メンタリングで得た情報は一切口外しない
- メンタリングのための面談は就業時間内に行う
- 必要に応じてメンターの業務量を調整する
メンター及びメンティーの安全性を保ちつつ、無理のない範囲でメンタリングを運用できるよう、社内でルールを調整してください。
手順2:メンター・メンティーの顔合わせを行う
メンタリングを導入する環境が整ったら、メンターとメンティーの顔合わせへと進みます。
社内でメンターを確保する場合は、メンティーとの年齢が離れすぎていないこと、立場の差が大きすぎないことを前提として選んでください。また、業務の経験がメンターを担ううえで十分であるか、人材育成に理解があるか、メンターという役割を理解し遂行できる性格であるか、などを基準に選出します。
なお、メンターとメンティーの組み合わせは、可能な限り直属のラインを避けてください。メンティーが評価を意識してしまい、本音を話せなくなるリスクがあるためです。
上記の点をふまえ、メンターを選出したらメンティーと顔合わせを行い、信頼関係を築くスタートラインに立ちます。
手順3:メンターへの事前研修を行う
メンターとメンティーの組み合わせが確定したら、メンター向けに事前研修を実施します。
メンタリングの目的や狙いをはじめ、面談でのテーマ、などメンターにはメンタリングに関する幅広い内容を研修として学んでもらう必要があります。
メンタリングの理解が深まらないと、メンターとしての立ち回りに問題が生じてしまうリスクがあるからです。メンタリングにおける指導について、メンター自身が悩んでしまうことも多いので、事前研修として自信を持って取り組めるようにサポートしましょう。
手順4:メンタリングを行う
メンターの研修が終了し、準備が整ったらメンタリングを実施しましょう。
メンタリングの実施期間は、短くとも半年、長ければ1年程度の期間を要します。つまり、長期的な目線で人材教育を行っていく必要があります。
ちなみに、メンタリング開始から終了までは、大きく3つの段階があります。
- 初期段階(開始から1か月)
メンターとメンティーの自己紹介のような期間。お互いのことを知っていきます。
主に、メンタリングの目的を確認し合ったり、メンティーの抱える悩みや不安、困っていることなどを共有してもらいます。
- 深化段階(開始から2~5か月)
初期段階で得たメンティーの心理的な問題や仕事の問題をふまえ、メンターが支援・指導を行います。
ただし、悩みや不安は常に変化したり、増えたりするものなので、定期的に「新たに困っていることはないか」も確認しましょう。
- 解消段階(開始から6か月以降)
これまでのメンタリングを振り返る期間です。初期段階で確認したメンティーの問題が解消されているのか、目的は果たせているのか、などを確認していきます。
メンタリングの進捗状況を見ながら、終了タイミングをイメージし、必要に応じて期間を延長してメンティーに指導や支援を行います。
最後は、双方の合意をもって(もしくは企業で設けたルールに沿って)終了となります。
まとめ
メンタリングは、現代の企業に必要な人材教育手法といっても過言ではありません。
とくに、若手の従業員が定着しにくい企業の場合は、積極的な導入をおすすめします。とはいえ、この記事で触れた通り、メンタリングはさまざまな準備が必要であったり、メンターの役割を担ってくれる人材を確保したりする手間・時間・コストがかかります。
上記をふまえたうえで、自社のペースでメンタリングの導入を進めてみてはいかがでしょうか。