そもそも残業の基準は?
労働基準法における残業の基準についてしっかり理解している人は少ないでしょう。働き方改革などにより、現在残業は減っている傾向にありますが、日々の勤務の中で残業が当たり前になっている企業もまだまだ少なくありません。
この記事では、そんな残業に関して下記について網羅的に徹底解説していますので、社員の勤怠管理を行う労務部、労務課の方や、総務、経理の方にもぜひ参考にしていただきたいです。
- 残業の基準
- 残業代の計算方法や注意点
- 残業代に関するよくある質問
残業は大きく分けて2つある
そもそも残業の基準が2種類あることはご存知でしょうか?ここでは、そんな残業の2つの基準について徹底解説していきます。
- 時間外労働
- 法内残業
ここで紹介する残業の違いは、残業代の支払いが必要なのかという点にも関係しますので、しっかり理解しておきましょう。また、労働時間は労働基準法によって上限が定められているため、労使の合意に基づく所定の手続きを行うことが必要です。定められた時間を超えてしまうと、労働基準法違反となり取り締まりの対象にもなってしまいます。
長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭 生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻 む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。
長時間労働の影響でワークライフバランスが崩れたり、心身の不調にもつながることからこの記事で残業についてしっかり理解していきましょう。
種類1:時間外労働
時間外労働とは、法定労働時間の下記を超えて行われる残業を指しており、これは労働基準法で定められています。
- 1日8時間(原則)
- 1週間で40時間
また、この時間外労働に対して、企業は残業代として労働基準法に基づいて割増賃金を支払う必要があります。
例えば、勤務時間が午前8時〜午後4時(休憩1時間含む)の場合、午後6時まで残業した場合。会社が就業規則で定めた所定労働時間は1日7時間であることから、法定労働時間よりも短いです。これに対し時間外労働とは、法定労働時間である8時間を超えて行われた残業であることから、時間外労働として残業代が発生するのは午後5時〜午後6時の1時間となります。
種類2:法内残業
法内残業とは「法定内残業」のことであり、会社の規定である所定労働時間は超えるものの、法廷内残業時間は超えない残業のことです。
- 法内残業は法律上割増賃金の支払い義務はない
- 残業代の支払い対象になるかは企業の就業規則や賃金規定による
このように時間外労働の残業との違いは、残業代の支払いの義務があるかどうかがポイントとなります。法内残業には法律上支払いの義務がないため、企業で定められている就業規則や賃金規定の確認を行うことが大切です。
法内残業だけでなく、みなし残業や変形労働時間などの残業時間の計算など、複雑な部分があるため頭を悩ませる担当者も多いのではないでしょうか。そのためにも、残業についての理解をしっかり深めていくことが大切です。
残業代の計算方法は
ここからは、残業代の計算方法について詳しく解説していきます。残業代を計算を行う前に、まずは時給を把握しておく必要があります。給与を月給制でもらっている場合は、以下の計算式から時給換算してみましょう。
「月給÷1日の所定労働時間÷1ヶ月の所定労働日数」
例えば、以下の条件の方のケースで考えてみましょう
- 月給:20万円
- 所定労働時間:8時間
- 所定労働日数:25日
この場合、先ほどの計算方法に当てはめると「20万円÷8時間÷25日=1000円」となります。この時給換算をおこなってから、次に残業代の計算を行いましょう。残業代の計算式は以下です。
「時給×割増率×残業時間」
先ほどの、ケースで法定外残業が20時間あった場合の残業代を計算してみると「1000円×1.25×20時間=2万5000円」と求められます。
しかし、残業代の計算を行うにあたり考え方が複雑となる場合もありますので、以下についても詳しくみていきましょう。
- 割増率は残業の種類により変動する
- 残業代に含まれない手当もある
割増率は残業の種類により変動する
残業代の計算方法について解説しましたが、計算式にあった「割増率」は残業の種類によって変動することを理解しておきましょう。それぞれの種類と割増率について以下にまとめたのでぜひ参考にしてください。
働き方 | 割増率 | 備考 |
法廷内残業 | 0%(1倍) | 1日8時間、週40時間以内 |
法定外残業 | 25%(1.25倍) | 1日8時間、週40時間以上 |
深夜残業 | 25%(1.25倍) | 22時〜5時の労働 |
休日労働 | 35%(1.35倍) | |
法定外残業+休日労働 | 35%(1.35倍) | |
深夜労働+休日労働 | 60%(1.6倍) | |
1ヶ月60時間を超える労働 | 50%(1.5倍) | 大企業のみ(2023年3月31日まで) |
ここでの休日労働は、労働基準法で定められた法定休日のことです。
休日は原則として、毎週少なくとも1回与えることとされています。(このパンフレットではこれを「法定休日」と言います。
法定休日は表にある通り、35%(1.35倍)ですが、法定外休日(1日8時間・週40時間)を超えた場合はには25%が適用されます。
割増率とは?
そもそも割増率とは、企業が労働者に対し時間外労働や休日労働をさせた際に、通常の賃金に対し割り増しした賃金を払う必要があり、労働基準法第37条定められています。
用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
割り増しした賃金を支払うにあたり、上記にある表にある「割増率(割増賃金率)」に基づいて計算することが必要であり、それぞれの該当する働き方の割増率を用いて計算を行いましょう。
残業代に含まれない手当もある
残業代を計算する際、除外する手当についてご紹介します。
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 臨時に支払われた賃金
- 賞与(1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金)
上記の手当は、福利厚生として支払われるものであり、個人の事情によって支給額が決定されています。福利厚生として支払われる手当を単価に加算してしまうことで、残業代本来の目的を超えて支給することとなるため、除外の対象となります。残業代の計算時は注意するようにしましょう。
残業代を計算するときの注意点は?
残業代を計算するときの注意点について詳しく解説していきます。注意点としては下記の3つとなり、それぞれしっかり理解した上で勤怠管理を行いましょう。
- 労働基準法違反に該当していないか確認する
- 残量代は「分」単位で計算する
- 消滅時効は3年間しかない
複雑な場合もある残業代の計算は難しく感じるかもしれませんが、気づいていないうちに法律違反となっていたり、時効が成立していたなどトラブルにつながる可能性もあるため、しっかり理解しておくことが大切です。わかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
注意点1:労働基準法違反に該当していないか確認する
従業員に対し法定労働時間を超えて時間外労働や法定休日労働、深夜労働をさせる場合は、下記の2点が必要となります。
- 36(サブロク)協定の締結
- 所轄の労働基準監督署長への申請
36(サブロク)協定とは、労働基準法で定められている法律であり内容は以下です。
・労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています。これを「法定労働時間」といいます。
・法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合には、「労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結」「所轄労働基準監督署長への届出」が必要です。
・36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などを決めなければなりません。
また、残業の上限規則は原則として以下となりますので、注意してください。
- 月45時間・年360時間以内
- 月100時間未満
- 2〜6ヶ月平均80時間以内
36(サブロク)協定や特別事項に関する労働基準法違反となった場合は、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑罰が法律上定められていますので、労働基準法に違反していないか確認することが大切です。
注意点2:残業代は「分」単位で計算する
残業代の計算を行う中で、5分単位や15分単位でのまるめ処理を行っている企業もあるかもしれません。しかし、残業代は1分単位で計算しなくてはならない決まりがありますので、注意しましょう。
ただし、以下については例外として処理することが可能です。
- 月の総残業時間に対し30分未満は切り捨て、30分以上は1時間以上は切り上げ
- 残業代計算後、1円未満の端数に対し、50銭未満を切り捨て50銭以上は切り上げ
注意点3:消滅時効は3年間しかない
残業代に消滅時効が定められていることはご存知でしょうか。消滅時効は3年間となります。労働者は企業に対し、時効内であれば未払いの残業代を請求することができるため、企業は労働時間の適正な把握が必要となります。
・労働時間の状況の把握は、タイムカードによる記録、PC等の使用時間の記録等の客観的な方法や使用者による現認が原則となります。これらの方法をとることができず、やむを得ない場合には、適正な申告を阻害しない等の適切な措置を講じた上で自己申告によることができます。
・事業者は、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存する必要があります。
残業代の計算をする上でよくある質問とその回答
ここまで、残業についてや残業代の計算方法や注意点について解説しました。ここからは、残業代の計算をする上でよくある質問について回答していきますので、合わせて理解していきましょう。
- 休日出勤は休日労働に該当する?
- 裁量労働制を導入した場合の残業代はどうなる?
- フレックスタイム制や変動労働時間制の場合はどう計算する?
Q1.休日出勤は休日労働に該当する?
現在「週休2日制」の企業が増えていることから、休日出勤は休日労働に該当するのではないかと残業代の計算に迷う担当者の方も少なくないでしょう。労働基準法では、休日に対し以下の内容が定められています。
第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
このことから、就業規則では「週休2日」となっていても、休日とされている1日は法律上休日労働にはなりません。法律上の休日労働になる場合は「週1回または4週間に4回以上の休日」が取得できない場合に該当することとなります。
Q2.裁量労働制を導入した場合の残業代はどうなる?
SEなどの専門職や、調査・分析を行う職種では、長い労働時間に対して成果物が増えるとは限らず、時間単位の給与形態が実態と合わない場合があります。その場合に採用されているのが、裁量労働制であり「1日12時間働いても5時間働いても、8時間働いたものとみなして給与計算を行う」ことです。この裁量労働制を導入した場合にも、残業に対し協定を結んで労働基準監督署に提出する必要があります。
しかし、裁量労働制でも残業代が発生するケースは以下の3つとなります。そのため以下に該当する場合は、残業代を支払う必要があります。
- みなし労働時間が8時間を超える場合
- 深夜残業をしていた場合
- 休日出勤していた場合
全てを「みなし労働時間」で計算するわけではないため、時間外労働や深夜労働、休日労働など割増賃金が適応となる労働に関してはしっかり記録を行いましょう。
Q3.フレックスタイム制や変動労働時間制の場合はどう計算する?
フレックスタイム制や変動労働時間制の場合にも、「法定労働時間の総枠」を超える労働を行なった従業員に対しては、残業代を支払う必要があります。
フレックスタイムの法定労働時間の総枠の算出方法は「1週間の法定労働時間(40時間)×精算期間の暦数/7日」計算式から算出され、会社ごとに定められた精算期間から以下の2点に対して超えた労働時間が「法定外時間労働」にあたります。
- 精算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えた
- 1ヶ月の労働時間が、週平均50時間を超えた
また、変動労働時間制を採用している企業は基本的に、「日」「週」「月」などの設定された変形期間に分けて残業代の計算を行いましょう。それぞれの期間ごとの「時間外労働」ついては、就業規則で定められた所定労働時間を超える場合の労働時間となります。
設定された変形期間が1ヶ月ごとの場合、その月の上限労働時間「暦日数÷7日×40時間」を超えた時間が残業時間となり、残業が発生した場合は以下のように「日ごと」「週ごと」「変形期間内」の残業時間に分けて計算することが必要です。
- 日ごと、週ごとの残業時間の合計×1時間あたりの基礎賃金×1.25
- 変形期間で発生した残業時間×1時間あたりの基礎賃金×0.25
「日ごと」「週ごと」と「変形期間」では割増率が変わっていますので、計算時に注意してください。
まとめ
この記事では、残業の基礎や残業代の計算、注意点について詳しく解説しました。残業代の支給については労働基準法でも定められていますので、気づいたら法律違反となっていたなどトラブルがないよう注意しましょう。
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