再雇用制度とは?
再雇用制度とは、正社員が定年を迎えた後で別の雇用形態として再度雇用する制度です。
厚生労働省の調査によると、継続雇用制度(再雇用制度)を導入している企業は、全体の71.9%にのぼることがわかりました。
つまり、義務化されている雇用確保を措置する中で最も知られている雇用制度といえるでしょう。
再雇用制度の特徴は、下記の通りです。
- 労働契約の中で、改めて働く期間を決める
- 長年培った能力やスキルを活かせるので、生産性を維持できる
- 従業員を新しく雇う必要がないため、教育・採用コストを低減できる
現在は高年齢者雇用安定法により、希望する従業員に対して、企業は65歳まで就労機会を与える義務があります(2023年4月時点)。
また、定年後に期間を定めて雇用した従業員を嘱託社員やシニア社員、再雇用社員と呼ぶのが一般的です。
次に、高年齢者就業確保措置との違いと再雇用制度の給与待遇を解説します。
高年齢者就業確保措置との違い
再雇用制度と高年齢者就業確保措置との違いは、グループ会社以外の企業でも就業できる点です。
2021年4月に高年齢者の就業機会を確保するために、高齢者雇用確保措置の適用範囲を「65歳」から「70歳」に追加しました。
法改正によって、70歳就業法や70歳定年法とも呼ばれています。
高年齢者就業確保措置では定年が65歳以上70歳未満、または継続雇用制度を65歳に設定している企業に努力義務として、下記5つの中の1つを導入するよう求めています。
- 定年を70歳までに引き上げる
- 定年制を廃視する
- 70歳までの再雇用制度・勤務延長制度などの導入
- 70歳まで継続的に従業員と業務委託契約を結ぶ制度の導入
- 70歳まで継続的に従事できる事業制度の導入
ちなみに従事できる事業制度は、「事業主が実施する社会貢献事業」と「事業主が委託、資金提供する団体が実施する社会貢献事業」の2つです。
どちらも制度概要は類似しています。
しかし、高年齢者就業確保措置は契約書面を締結することで、他社で就業できる点を覚えておきましょう。
再雇用制度の給与待遇
まずは、再雇用制度の給与待遇について解説します。
- 正社員時よりも不合理に低い給与設定は違法になる
- 不合理な手当不支給は違法になる
それぞれ解説していきます。
正社員時よりも不合理に低い給与設定は違法になる
再雇用制度では、正社員の時より不合理に低い給油設定は違法になります。
理不尽な待遇差をつける行為は、パートタイム有期雇用労働法第8条で禁止されています。
ただし再雇用制度で仕事内容が正社員と同じだった場合は、老齢厚生年金の支給がある点を考慮して、一定程度の減収は合法です。
過去には再雇用制度での年収は、正社員時の79%に設定するよう判決が下された裁判もありました(長澤運輸事件最高裁判決)。
上記でお伝えした法律に違反すると、損害賠償請求の対象になるかもしれないので給与設定は注意しましょう。
出典:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)
不合理な手当不支給は違法になる
再雇用制度において、不合理な手当不支給は違法と判断されます。
不合理な理由で不支給とした場合、会社に対して損害賠償請求が命じられるかもしれません。
違法となる手当の種類は、下記の通りです。
- 通勤手当
- 皆勤手当・精勤手当
ちなみに住宅・家族手当は、住宅や家族を扶養するために支給される手当なので適法とされています。
再雇用した社員に一部の手当を外す場合は、手当の趣旨が不合理にならないか検討しましょう。
再雇用後の仕事内容
再雇用後の仕事内容は、定年前と同じ労働条件での雇用が義務付けられているわけではありません。
なので雇用形態や労働時間、給与待遇といった条件については、企業と従業員で決定します。
その際はトラブルを防ぐために、雇用契約書に明記して双方合意のもと契約を結びましょう。
ちなみに再雇用後に定年前と異なる職種に就労することは原則として禁止されているので、注意が必要です。
5年ルールへの対策
ここまで、再雇用制度の概要や高年齢者就業確保措置との違い、給与待遇、仕事内容をお伝えしました。
続いて、5年ルールへの対策を解説します。
そもそも5年ルールとは1年の有期雇用契約を締結した後で、通算5年以上の更新が繰り返された場合、従業員から希望があった際に無期雇用契約に転換しなければならないルールです。
つまり60歳定年制の企業であれば、毎年65歳まで有期雇用を繰り返すと5年ルールによって再雇用社員から無期雇用になるだけでなく、雇用を継続しなければならないため注意しましょう。
そんな5年ルールの対策は、下記の通りです。
- 定年をずらす
- 第2種計画を利用する
ひとつずつ解説していきます。
定年をずらす
5年ルールの対策として、定年に日にちをずらす方法があります。
例えば60歳の誕生日の翌月を定年とした場合、再雇用制度が適用される期間を65歳の誕生日までにすることで、通算で5年間にはなりません。
そして定年をずらす際には、下記の対策が必要です。
- 正社員用就業規則を変更して、60歳の誕生日の翌月を定年にする
- 再雇用社員用就業規則を作成して、再雇用期間を65歳の誕生日までにすると明記する
- 再雇用時に正しく雇用契約書を作成して、65歳の誕生日まで更新できる旨を明記する
上記の対策は、雇用契約書の整備や就業規則の変更手続きが必要ではありますが、手続きは比較的容易です。
ただし、一律で再雇用社員は65歳の誕生日を迎えると雇い止めになるため、65歳以降も仕事をしてもらうことが難しくなるでしょう。
こちらの記事では、物議を醸した「45歳定年制」の真意や問題点、本当のねらいを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
第2種計画を利用する
再雇用制度の5年ルールを除外する方法として、第2種計画を利用しましょう。
第2種計画とは、都道府県労働局の認定を受けることで、再雇用の際に5年ルールの対象外にできる制度です。
第2種計画を利用する手順は、下記の通りです。
- 第2種計画の認定・変更申請書の作成
- 都道府県労働局に申請・認定を受ける
- 労働条件通知書を整備
また、雇用契約書に5年ルールが適用されなくなる旨を明記しましょう。
5年ルールが適用されなくなるので、無期限雇用に転換される心配もありません。
就労したい方は70歳や75歳まで、雇用を継続できるでしょう。
再雇用制度を導入する際の注意点
ここまで、5年ルールへの対策をお伝えしました。
続いて、再雇用制度を導入する際の注意点を解説します。
- 雇用形態や労働条件
- 契約更新期間
- 賃金
- 各種手当て
- 有給休暇
ひとつずつ解説していきます。
雇用形態や労働条件
現在は高年齢者雇用安定法によって、希望する従業員に65歳まで雇用機会を与える旨が義務付けられています。
ただし定年前と同じ雇用形態や労働条件ではなく、嘱託社員やシニア社員、再雇用社員と呼ばれて、正社員と区分されることが一般的です。
とはいえ、下記については定年前と同じでも問題ありません。
- 給料
- 業務内容
- 勤務日数
その際の待遇や労働時間は、企業と従業員で決められるので覚えておきましょう。
ただし定年前と異なる業種への就労は禁止されているので、注意が必要です。
さらに65歳以上の再雇用は、今まで以上に健康面への配慮が必要になるでしょう。
契約更新期間
再雇用制度では、1年ごとに契約更新するフルタイム有期契約更新がよく見られます。
また通算で5年の契約更新を繰り返した場合、従業員の希望によって無期雇用契約に転換しなければいけません。
ただし、無期雇用契約の転換から外れる方法は、下記の通りです。
- 都道府県労働局の認定を受ける
- 再雇用者の雇用管理計画を作成する
5年ルールが成立すると、従業員が雇用期間満了を理由として、契約が終了されないので注意しましょう。
賃金
再雇用制度は、雇用形態を正社員から嘱託社員やシニア社員、再雇用社員に変えて再雇用できます。
定年前より賃金は下がってしまい、一般的には定年退職時と50〜70%ほどです。
仮に定年前と同じ業務内容であっても、体力・判断力が低下するためと予測した割合です。
しかし、賃金に関して自社独自の評価基準がある場合は、それと照らし合わせて決定しましょう。
ただし、下記のルールは厳守しなければなりません。
- 業務量
- 業務内容
- 最低賃金
- 雇用ルール
- 責任の度合い
これらのルールが定年前と同等であれば、再雇用契約を締結しても無効となる可能性があります。
そのため優秀な人材を減額する際は、比率調整が必要になるでしょう。
こちらの記事では、毎月支払われている賃金の5原則や違反したときの罰則について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
各種手当て
正社員に支給されている各種手当てを、再雇用社員へ不合理に支給しないことは違法です。
違法に該当する手当として、下記があげられます。
- 通勤手当
- 皆勤手当・精勤手当
ただし、条件によって住宅手当や家族手当は違法になりません。
最終的には企業や従業員の事情が判断材料になるので、定年前に支給していた一部の手当を不支給とすることも可能です。
その際は、不支給の理由が合理性に欠けないかどうかを慎重に判断しましょう。
有給休暇
再雇用制度を導入しても、継続勤務であれば定年前からの勤続年数を通算した有給休暇日数が付与されます。
また、下記のケースで付与日数の考え方が異なるので注意しましょう。
- 再雇用後に所定の労働日数が少なくなる場合:日数が変化する
- 年度途中で所定の労働日数が変更された場合:日数は変わらない
ちなみに定年後の再雇用者であっても、年間10日以上の有給休暇を付与する場合は、年間5日間の取得義務が発生します。
また、定年前に未消化だった有給休暇の使用期限は2年間ですが、再雇用後の繰り越しが可能です。
再雇用制度の導入の流れ
ここまで、再雇用制度を導入する際の注意点をお伝えしました。
続いて、再雇用制度の導入の流れを解説します。
- 対象者への通達・意思確認
- 対象者との面談・雇用条件の提示
- 再雇用の決定・手続き
ひとつずつ解説していきます。
対象者への通達・意思確認
再雇用制度を導入するにあたって、まずは対象者へ通達・継続雇用の意思を確認します。
通達する際は、トラブルを避けるために個別で通知を行いましょう。
また、通知する際に対象者に下記の2点を連絡・依頼しておきます。
- 再雇用制度である旨
- 再雇用の意思がある場合は再雇用希望申出書を提出する旨
対象者が再雇用を希望せず定年退職を選択した場合は、再雇用辞退申出書の提出が必要です。
こちらの記事では、企業と従業員の間で摩擦を生む可能性がある「退職勧奨」の概要や背景、退職届の取り扱いについて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
対象者との面談・雇用条件の提示
対象者へ通達・再雇用の意思を確認できたら、面談・雇用条件の提示を行います。
仮に仕事の内容が変わらなかったとしても、就業環境は変化します。
具体例は、下記の通りです。
- 賃金の減額
- 職位の変更
- 職位の立場
告知のないままだと対象者のモチベーションに関わる可能性があるので、対象者が希望する働き方を細かくヒアリングしましょう。
ヒアリングを通して、企業と対象者の認識のズレが起きないような擦り合わせが必要です。
再雇用の決定・手続き
対象者と面談を行い、雇用条件の合意が取れたら、再雇用の決定・手続きを行います。
新しく雇用契約書を締結する前に、一旦は定年退職扱いになるので、定年退職と退職金支払いの手続きが必要です。
また、場合によって下記も手続きが必要になるので注意しましょう。
- 雇用保険
- 労災保険
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
さらに、従業員情報も再契約の労働条件で新しく管理しなければいけません。
企業側は、退職金の支払い手続きや各種手続きの漏れがないように準備を進めていきましょう。
まとめ
今回は、再雇用制度の概要や導入する際の注意点、5年ルールへの対策を解説しました。
再雇用制度とは、正社員が定年を迎えた後で別の雇用形態として再度雇用する制度です。
実際に導入する際には、下記の5つに注意しましょう。
- 雇用形態や労働条件
- 契約更新期間
- 賃金
- 各種手当て
- 有給休暇
また5年ルールの対策には、定年をずらす・第2種計画の利用があるとお伝えしました。
本記事でお伝えした再雇用制度を導入する流れを参考にして、自社に合う方法で制度を上手く活用してください。
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