標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、社会保険料を計算する際に従業員の給与を一定の範囲に区分した金額です。
それぞれの区分を等級と呼んでおり、「健康保険料=50段階」「厚生年金保険料=32段階」の等級に分けられます。
等級区分は保険料額表で算出され、最高等級に達した場合、給与が上がっても保険料の上限額は変わりません。
また標準報酬月額があることで、毎月の給与に変動があった際も控除額は一定になるため、保険料の把握・管理が簡単です。
次に、標準報酬月額とみなされる基準を見ていきましょう。
標準報酬月額とみなされる基準
標準報酬月額とみなされる基準や報酬は、給与だけではありません。
報酬は労働者による労働の対価として支給されているもので、現物支給も含まれます。
標準報酬月額の対象は、下記のとおりです。
金銭で支給されるもの | 現物支給されるもの | |
報酬となるもの | ・基本給(日給・月給・週休など) | ・食事や食券 ・通勤定期券 ・社宅や独身寮 ・被服(勤務服でないもの) |
報酬とならないもの | ・退職手当 ・出張旅費や交際費 ・年金や傷病手当金、災害補償給付 ・結婚祝金や病気見舞金、災害見舞金 ・賞与(年3回以下で支給されるもの) | ・見舞品 ・制服や作業着 ・食事(本人負担額が現物給与額の2/3以上) |
一般的に月次で受け取る必要がなく、一時的と判断できる手当は報酬とみなされません。
また年4回以上の賞与が支給される場合は、定期的な報酬とみなされるので覚えておきましょう。
こちらの記事では、給与計算の基本やシミュレーション、自動化・効率化ツールを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
標準報酬月額に基づく社会保険料の算出方法
ここまで、標準報酬月額の概要や報酬とみなされる基準をお伝えしました。
続いて、標準報酬月額に基づく社会保険料の算出方法を解説します。
- 厚生年金保険料
- 健康保険料
- 労働保険料
それぞれ解説していきます。
厚生年金保険料
厚生年金保険料を計算する際は、標準報酬月額に厚生年金保険料をかけて算出します。
計算式は、「標準報酬月額×183/1,000(厚生年金保険料率)」です。
厚生年金保険料率は全国一律なので、都道府県での違いはありません。
また、従業員と企業が保険料を折半するため、それぞれの計算式は「標準報酬月額×183/1,000×1/2」となります。
健康保険料
健康保険料を計算する際は、標準報酬月額に健康保険料率をかけて算出します。
計算式は、「標準報酬月額×健康保険料率」です。
都道府県ごとに健康保険料率が異なるため、事業所の所在地から保険料率を確認しなければいけません。
そのため全国の保険料額表は、「全国健康保険協会公式ホームページ」から確認しましょう。
また、確認する際は下記の点に注意が必要です。
- 健康保険組合に加入している場合:保険料率が異なるため、健康保険組合の料率を確認する
- 厚生年金基金に加入している場合:厚生年金基金保険料率から2.4〜5%控除されて、保険料額表よりも少なくなる可能性がある
健康保険料も従業員と企業で折半して負担するので、それぞれの計算式は「標準報酬月額×都道府県が定める健康保険料率×1/2」となります。
労働保険料
労働保険料を計算する際は、標準報酬月額ではなく給与額を基準に算出します。
つまり厚生年金保険料や健康保険料と違い、給与の変動によって毎月変わるので覚えておきましょう。
また、労働保険料は支払った給与に保険料をかけて計算されて、1年に1度納付します。
労働保険料の算出方法は、労災保険料と雇用保険料で異なるので見ていきましょう。
労災保険料
労災保険料の計算は、「毎月の給与×労災保険料率」で算出します。
2023年6月時点での労災保険料率は業種によって異なり、2.5/1,000〜88/1,000です。
また月の給与には、交通費も含まれます。
さらに労災保険料は事業者の全額負担です。
出典:労災保険率表
雇用保険料
雇用保険料の計算は、「毎月の給与×雇用保険料率」で算出します。
雇用保険料率の負担は、一般の事業と農林水産・清酒製造の事業、建設の事業で異なります。
それぞれの負担比率は、下記のとおりです(2023年6月時点)。
①従業員負担 | ②企業負担 | 雇用保険料率(①+②) | |
一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
労災保険料と同様に、毎月の給与には交通費も含まれます。
標準報酬月額が決まるタイミング
ここまで、標準報酬月額に基づく社会保険料の算出方法をお伝えしました。
続いて、標準報酬月額が決まるタイミングを解説します。
- 定時決定
- 随時改定
- 資格取得時決定
- 産前産後・育児休業等終了時
- 特例改定時
ひとつずつ解説していきます。
定時決定
定時決定とは、毎年7月1日時点で事業所に在籍している従業員の4月から6月分の平均報酬額を計算して、その年の標準報酬月額を決める手続きです。
その年の9月から翌年8月まで、決定した標準報酬月額が適用されます。
事業主は毎年7月10日までに、下記の届けを事務センターもしくは管轄の年金事務所に提出しなければいけません。
- 厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届
ただし、下記に該当する被保険者は提出する必要ないので覚えておきましょう。
- 6月30日以前に退職した者
- 6月1日以降に資格を取得した者
- 7月に改定する月額変更届を提出する者
- 8月もしくは9月に随時改訂が予定されている旨の申し出を行った者
また原則として定時決定は毎年行われますが、7月〜9月に随時改訂が行われる場合は、定時決定より随時決定が優先されます。
出典:定時決定(算定基礎届)
随時改定
随時改定とは、固定給に変動があった際に標準報酬月額を年度途中で変更する制度です。
下記の条件を全て満たした場合に、随時改定を行う必要があるので覚えておきましょう。
- 給与に昇給・降給が派生した
- 変動月からの3ヶ月間は、給与計算の対象となる日数が17日以上
- 変動月から平均報酬として算出した3ヶ月分の標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額に2等級以上の差が発生
ただし、下記の場合は随時改定の対象とならないので注意が必要です。
- 休職による休職給を受けた
- 固定的賃金は下がったが、支給額の増加によって報酬が上昇して2等級以上の差が生じた
- 固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定賃金が減ったことで報酬が減少し、2等級以上の差が生じた
出典:随時改定(月額変更届)
資格取得時決定
資格取得時決定とは、新しく従業員を雇用したタイミングで標準報酬月額を決定する手続きです。
入社条件に提示された報酬・雇用契約書に記載されている報酬を基準として、標準報酬月額が決定します。
適用期間は、下記のとおりです。
- 1月〜5月までに資格を取得した場合:その年の8月まで
- 6月〜12月までに資格を取得した場合:翌年の8月まで
ちなみに、企業が従業員を被保険者として雇用した日から5日以内に、被保険者資格取得届を事務センターもしくは管轄の年金事務所へ持ち込みか郵送、電子書籍で提出しなければいけません。
標準報酬月額が決まると、「被保険者資格取得確認」「最終的な標準報酬月額が記載された通知書」が送られてきます。
出典:資格取得時の決定
産前産後・育児休業等終了時
産前産後休業や育児休業から復帰した被保険者は、復帰した月を含む3ヶ月間の報酬が、休業の標準報酬月額よりも1等級以上の差があった場合に、標準報酬月額を変更できます。
変更した後の標準報酬月額の適用期間は、下記の通りです。
- 1月から5月末までに変更した場合:その年の8月まで
- 6月から12月末までに変更した場合:翌年の8月まで
変更された標準報酬月額は、復帰から4ヶ月目以降で適用されて、それまでの3ヶ月間は休業前の標準報酬月額で算出されます。
こちらの記事では、育児休暇の期間・条件・取得条件や利用できる経済的支援について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
特例改定時
標準報酬月額を変更する際には、特例措置をとる場合があります。
例えば新型コロナウイルスの影響によって、2020年4月から2022年7月までの間に報酬が著しく下がった場合は、変更時期が随時改定の4ヶ月目ではなく、申請した翌月から変更できる措置が行われました。
ほかにも2022年8月または9月に、2022年4月〜6月の平均報酬で算出した標準報酬月額から更に2等級以上下がっていた場合、改定月を急減月の翌月に変更できました。
これらの届出期間はすでに終了していますが、今後の社会情勢によって特例措置を講じる可能性があるので、確認を随時しておきましょう。
標準報酬月額の注意点
ここまで、標準報酬月額が決まるタイミングをお伝えしました。
続いて、標準報酬月額の注意点を解説します。
- 保険料額表の料率は固定ではない
- 労働保険料では標準報酬月額を使用しない
- 傷病手当金・出産手当金は標準報酬月額が基準となる
ひとつずつ解説していきます。
保険料額表の料率は固定ではない
厚生年金保険や健康保険の保険料額表は、固定ではなく概ね毎年3月に更新されます。
そのため、毎年の確認が必要なので注意しましょう。
厚生年金保険料は、2004年の年金制度改正に伴い段階的に引き上げられていましたが、2017年9月以降に18.3%で固定されています。
しかし、健康保険料は毎年変動しています。
社会保険料の計算や標準報酬月額を求める際は、必ず最新の保険料額表を参照しましょう。
労働保険料では標準報酬月額を使用しない
労働保険(労災保険・雇用保険)で保険料を計算する際は、標準報酬月額が使用されません。
労働保険の保険料は、従業員の賃金総額に保険料をかけて算出します。
平均額ではなく、実際に支払われた賃金総額が基準になるので注意が必要です。
ちなみに労働保険料の仕組みは、概算の保険料を年度始めに申告・納付して、年度末に確定保険料との差額を精算します。
傷病手当金・出産手当金は標準報酬月額が基準となる
標準報酬月額は、傷病手当金・出産手当金も基準になっています。
それぞれの意味は、下記の通りです。
- 傷病手当金:従業員がケガや病気で働けない場合に、休業4日目以降に健康保険から支給される給付金
- 出産手当金:出産のため会社を休んだ際に支給される給付金
傷病手当金・出産手当金の支給額は、標準報酬月額を基準に決定します。
支給開始日以前の12ヶ月間の標準報酬月額の平均額に基づいて算出されるので、覚えておきましょう。
こちらの記事では、出産手当金の支給条件や期間、申請の流れを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、標準報酬月額の算出方法や費用が決まるタイミング、確認する際に注意点を解説しました。
標準報酬月額とは、社会保険料を計算する際に従業員の給与を一定の範囲に区分した金額です。
社会保険料の算出方法として、下記の3つをお伝えしました。
- 厚生年金保険料
- 健康保険料
- 労働保険料
また、標準報酬月額が決まるタイミングは、定時決定や随時改定、資格取得時決定などさまざまなタイミングがあります。
本記事でお伝えした「保険料額表の料率は固定ではない」「労働保険料では標準報酬月額を使用しない」などの注意点も参考にして、標準報酬月額を正しく計算しましょう。
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