テレワークの課題は3つに分けられる
テレワークとは、会社から離れた場所でもICT(Information and Communication Technology)を活用した時間にも捉われない柔軟な働き方です。
2020年2月ごろから、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大が広まり、多くの企業からテレワークに注目が集まるようになりました。
そんな中で、テレワークには乗り越えるべき3つの課題があります。
- 仕事面
- 環境面
- セキュリティ面
それぞれの課題を適切に処理できるように、ひとつずつ詳しく解説してきます。
仕事面
一般的にテレワークを導入すると、労働生産性は向上するとされています。
しかし実際に向上する企業は、業務フローの中にテレワークを組み込んでも、正常に機能する設計が組まれいた場合のみです。
つまり、機能するための設計を考えないままテレワークを導入しても、かえって労働生産性は下がってしまうでしょう。
株式会社パーソル総合研究所の調査によると、職場に出社した際の生産性を100とした場合、テレワークの生産性が平均で84.1であることが分かりました。
出典:第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査
また、技術職や情報処理、商品開発、人事・経理・総務といった職種では、100以上といった評価の割合が高くなっています。
上記の表から、情報通信業といった定型的業務の生産性は高まっており、懸念されるほどの業務効率や生産性の低下は感じられていない点が実情です。
環境面
テレワークに移行した場合、社員はそれぞれの環境で業務を行うことになります。
会社の中での業務環境とは違い、不十分な状態で仕事をする社員も現れるかもしれません。
仕事に適していない環境例としては、下記の通りです。
- ネットワーク環境が不十分
- 仕事に適したパソコンを所持していない
テレワークへ移行する際は、事前に社員の作業環境が整っているか把握して、必要であれば企業側で補助しましょう。
また、産業医科大学産業生態化学研究所の調査によると、長時間の在宅テレワークは「孤立感の増大」や「身体活動量の低下」といった健康への影響が指摘されています。
仕事環境だけでなく、労働環境の変化による課題も懸念されています。
出典:新型コロナウイルス流行に伴い急遽はじまったテレワークの健康影響
セキュリティ面
テレワークでは、社員が自宅などのパソコンからインターネットを経由して、社内サーバーにアクセスするようになります。
そのため、セキュリティ面で課題が生まれるでしょう。
セキュリティにおいてあげられる課題は、下記の通りです。
- 情報漏洩のリスクがある
- 外部からのウイルス攻撃の心配
- パソコンの盗難や置き忘れるリスク
他にも、社員が使用しているパソコンがマルウェアに感染してしまい、社内のパソコンまで蔓延してしまう可能性もあるでしょう。
経理や人事といった申請書類を扱う部署には、テレワーク環境で社内時と同じ業務プロセスを再現することも課題になります。
そのため、「セキュリティを守るために合理的な基準を定める」「テレワーク環境下における業務プロセスを考える」などの施策が必要です。
テレワーク導入後に生まれた課題とは?
ここまで、テレワークの仕事面と環境面、セキュリティ面の課題をお伝えしました。
続いて、テレワーク導入後に生まれた課題について解説します。
- 課題1:コミュニケーションが不足した
- 課題2:勤怠管理が難しくなった
- 課題3:業務効率・生産性が下がった
- 課題4:人事評価が難しくなった
- 課題5:労災認定が難しくなった
- 課題6:強固なセキュリティが必要になった
- 課題7:労働環境への投資が必要になった
ひとつずつ解説していきます。
課題1:コミュニケーションが不足した
テレワークを取り入れると、社内勤務と比べて社員同士や上司とのコミュニケーションが取りにくくなります。
今までの社員勤務の場合、社員の動きが見られるので、声をかけられるタイミングは多くありました。
しかしテレワークでは、自宅もしくは個人空間で仕事を行うため、コミュニケーション不足による様々なトラブルが発生するでしょう。
発生するトラブルの例は、下記の通りです。
- ストレスや離職の原因につながる
- 企業文化の醸成や継承が難しくなる
- 社員間での疎外感や孤独感が生まれる
- 社員同士の信頼関係を上手く構築できない
近くの席にいる相手であれば反応を確かめられますが、テレワークの場合すぐに返事があるとは限りません。
そういった状況が続けば、意思疎通が図りにくくなってしまい、チームワークに影響を及ぼしてしまう恐れがあります。
課題2:勤怠管理が難しくなった
テレワークの導入によって、勤怠管理が難しくなった点が課題としてあげられます。
会社に出社してタイムカードに打刻して業務が始まる働き方とは異なり、テレワークは自宅やコワーキングスペース、サテライトオフィスで仕事をします。
そのため、社員一人ひとりの正確に勤務を開始した時刻と終了した時刻が分からなくなってしまうでしょう。
子どもがいる社員の場合は、子どものお世話で業務を中断してしまう問題が発生します。
こういったテレワーク時の勤務を管理する際は、下記の点に注意しておきましょう。
- 事前に勤務状況の報告方法を決めておく
- 一部の勤務時間のみをテレワークにするなど柔軟に対応する
- 定期的なオンラインミーティングや1on1、チャットツールを活用してコミュニケーションを増やす
テレワークは勤怠管理を企業側が適正・平等に行うことが難しいため、上記の施策を取り入れる際は、社員に運用方法や周知の徹底が必要です。
課題3:業務効率・生産性が下がった
テレワークの導入は、業務効率・生産性の低下が課題としてあげられます。
2021年に慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室とNIRA総合研究開発機構が行った「テレワークに関する就業者実態調査」調査によると、テレワークによって効率が低下する要因として、下記の結果が分かりました。
- リモートではできない仕事がある(23%)
- コミュニケーション方法がメールやチャット、ビデオ会議などになり、コミュニケーションが取りにくくなった(23%)
- テレワークにより、同僚・部下とのコミュニケーションが不足しがちになった(18%)
さらにテレワークは自宅での勤務が基本になるため、仕事とプライベートの境界がなくなり、長時間労働が生まれやすい環境になりやすいです。
対策として、パソコンのログインやログアウトの記録取得、日報の送信時間を記録するといった方法があります。
また、社員の日報や業務報告から、タスクの量や進捗に問題はないか確認して、必要な際は同僚や上司がサポートしましょう。
課題4:人事評価が難しくなった
テレワークにおける社員の人事評価は、難しい課題になっています。
理由は、実際に働いている社員の状況が把握できず、業務プロセスを評価できないためです。
ほかには、業務プロセスの評価方法が難しいにも関わらず、今までと同じ評価基準を採用するべきか迷う企業もあるでしょう。
そのため、「在宅勤務の評価方法」「サテライトオフィスでの評価方法」などの、働き方によっても基準を設ける必要があります。
テレワークに適した人事評価としてあげられるポイントは、下記の5つです。
- 360度評価を取り入れる
- 目標管理制度を活用する
- 評価項目の明確化と共有
- 企業ビジョンを共有して自立性を促す
- 経営方針と連動した評価制度を導入する
または人材評価システムを導入して、情報の一元管理や適切な人事評価を実施する方法もあります。
こちらの記事では、サテライトオフィスを活用するメリットや注意点を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
課題5:労災認定が難しくなった
テレワークの導入によって労災認定が難しくなった点は、課題のひとつといえるでしょう。
労災保険法は、出社している社員とテレワークの社員の両方に適用される制度です。
ただし認定される要件として、下記の2つを満たさなければいけません。
- 業務遂行性:労働者が労働契約に基づいて事業主の指示に従って、業務を行なっていたか
- 業務起因性:労働者が労働契約に基づいて、業務による事故が発生したと考えられる状態であるか
テレワークでも上記の2つを照らし合わせて、負傷や疫病が発生した状況によって、労災が認定されるかどうかが決まります。
負傷や疫病の原因が、業務・私的行為のどちらであるか証明することがテレワークでは難しいです。
そのため正確な判断をするために、業務報告やメールの送受信などの記録を残しておきましょう。
課題6:強固なセキュリティが必要になった
社内で利用するパソコンは社内ネットワークに接続されているため、不正なアクセスやネットワーク攻撃から守られています。
しかし、テレワークでは自宅のネット回線から直接インターネットに接続する機会が増えるので、マルウェア感染や情報漏洩のリスクが高まるでしょう。
起こり得る問題として、下記の例があげられます。
- フィッシング・なりすましメールによるウイルス感染
- カフェやホテルなど信頼性が低いネットワークを介したマルウェア感染
- マルウェア感染している自宅のパソコン・ネットワークを経由した社内情報資産への不正アクセス
カフェやホテルでのフリーWi-Fiは、暗号キーが公開、もしくは暗号化されていない場合もあります。
暗号化されていないネット回線の利用は、パソコン内の情報や通信内容が外部に晒される危険性がある点を注意しましょう。
課題7:労働環境への投資が必要になった
テレワークを導入するにあたって、労働環境への投資が必要になりました。
労働環境への投資例として、パソコンやチャットツール、Web会議ツール、ネット回線などがあります。
株式会社キャスターが行った調査によると、リモートワーク環境を快適にするためにお金をかけたいものの順位は、下記の結果になりました。
- 椅子(71.3%)
- パソコン本体(66.1%)
- 通信回線(55.0%)
- PCモニター(52.3%)
- デスク(51.6%)
企業によっては、交通費手当をテレワーク手当として支給しているそうです。
しかし、今までテレワークと無縁だった企業が、新しく労働環境を整える際のコストは負担が大きいでしょう。
出典:株式会社キャスター「リモートワークに関する意識調査」の結果
テレワーク導入後に生まれた課題に対する解決策は?
ここまで、テレワーク導入後に生まれた課題をお伝えしました。
続いて、テレワーク導入後に生まれた課題に対する解決策を紹介します。
- 解決策1:必要なツールを導入する
- 解決策2:人事制度を見直す
- 解決策3:テレワークを前提とした組織変革を行う
- 解決策4:テレワーク関連の手当を出す
ひとつずつ紹介していきます。
解決策1:必要なツールを導入する
リモートワークの導入には、Web会議ツールやコミュニケーションツール、勤怠管理システムといった様々なツールやサービスの利用を検討することになります。
まずは、リモートワーク導入に関して必要なツールを3つ紹介します。
- ツール1:クラウドサービス
- ツール2:コミュニケーションツール
- ツール3:セキュリティ対策ツール
ひとつずつ紹介していきます。
ツール1:クラウドサービス
クラウドサービスとは、インターネット経由で様々なソフトウェアやデータを利用できるサービスです。
情報共有を安全に素早く行えるため、円滑なコミュニケーションを図れます。
クラウドサービスの例として、下記の4つがあります。
サービス名 | 特徴 |
---|---|
グループウェア |
|
プロジェクト管理ツール |
|
オンラインストレージ |
|
ワークフローシステム |
|
クラウドサービスを活用して、紙媒体での勤怠管理が難しいので、場所を選ばず出勤・退勤できるクラウドサービスの利用を検討しましょう。
ツール2:コミュニケーションツール
コミュニケーションツールは、社員との雑談や会議、顧客とのコミュニケーションの際に活躍するツールです。
リモートワークにおいて多く表れる課題として、コミュニケーションに関する不満があります。
そういった不満を解消できるコミュニケーションツールは、下記の4つです。
- ビジネスチャット
- Web会議システム
- バーチャルオフィス
- Webメールサービス
コミュニケーションツールを活用して、社員同士のコミュニケーションの機会やメンタルヘルスチェック、モチベーション管理の手段として、導入を検討する企業も少なくありません。
ツール3:セキュリティ対策ツール
セキュリティ対策ツールの導入によって、情報漏洩リスクを防げます。
テレワークの普及に伴って、自宅や公共の場所でパソコンを使用する機会の増加に伴って、下記の問題も増えました。
- 第三者にパソコン画面が覗き見される
- パソコンやUSBメモリーの盗難・紛失
- 暗号化されていないWi-Fi利用による、機密情報の漏洩
安全なセキュリティを確保するために、リモートアクセスツールや統合脅威管理ツール、IT資産管理ツール、MDMツールなど、目的に合わせたセキュリティツールを選びましょう。
こちらの記事では目的別でおすすめする人事管理システムや選び方を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
解決策2:人事制度を見直す
テレワークによって社内環境が変わるため、人事制度の評価基準を見直す必要があります。
人事制度を見直すべき理由は、下記の通りです。
- 社員の仕事の進捗や成果を把握しづらい
- 出勤・退社時間といった勤務時間の管理が難しい
- 社員同士のコミュニケーション状況が分からない
これからの課題を解決するための策として、下記の人事評価制度があります。
- 目標管理制度:社員自身で目標設定と達成方法を考えて、その成否を評価する制度
- 裁量労働制:業務時間やプロセスを社員が設定して、勤務時間ではなく成果物で評価する制度
また、勤怠管理システムを活用して、業務の作業量や進捗を可視化できるようにすれば、適切な人事評価を行えるでしょう。
解決策3:テレワークを前提とした組織変革を行う
テレワークを前提とした組織変革も、解決策としてあげられます。
組織変革にあたっては、下記の3つの徹底が重要です。
- 業務管理
- 評価制度の見直し
- 労務管理の徹底
業務管理では、日報や定期的なコミュニケーション、業務マネジメントツールの導入が有力な方法といえます。
評価制度を見直すには、企業側がテレワークで把握しづらい業務プロセス・勤務状況と、成果のバランスを考慮する必要があるでしょう。
また、労務管理を徹底するには、端末のログを測定するためのツールを導入して、社員の状況を把握する必要があります。
解決策4:テレワーク関連の手当を出す
テレワークの導入は、社員側で新しく環境を整える際に、一定のコストがかかってしまいます。
仮に社員に全てを負担させた場合、「業務に関連する費用は、会社が負担してほしい」といった不満が生まれるかもしれません。
こういった不満を避けるため、テレワーク手当として支給すれば、社員も納得して業務に取り組めるでしょう。
支給方法の例は、下記の通りです。
- 現金支給
- 現物支給
テレワーク手当はモチベーションアップ効果だけでなく、育児や介護など様々な事情を抱えた社員の働きやすい環境の促進にもつながるでしょう。
まとめ
今回は、テレワーク導入後に生まれた課題と解決策を解説しました。
テレワークには、乗り越えるべき課題が3つあります。
- 仕事面
- 環境面
- セキュリティ面
また、テレワークを導入後にも「コミュニケーションが不足した」「勤怠管理が難しくなった」といった様々な課題も見つかりました。
本記事でお伝えした必要なツールの導入や人事制度の見直しなど、テレワーク導入で発生する課題の解決策として役立ててください。
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