職務記述書とは?
職務記述書とは、企業の中の職種やポジション、担当している職務内容、責任の範囲、スキルなどが明記されている書類です。
ジョブディスクリプションと呼ばれる場合もあり、人事評価や求職の際に活用されています。
日本では、メンバーシップ型雇用が一般的なため、職務内容を明確化して雇用している企業は多くありませんでした。
しかし、近年ではジョブ型雇用での採用が活発化しており、職務記述書が重要視されるようになりました。
次に、職務記述書の目的と活用されている背景について解説していきます。
職務記述書の目的は?
職務記述書を活用する目的は、社員の職務内容を明確にするためです。
職務内容の明確化によって、社員がやるべき仕事や期待される成果、各自の責任、企業にどういった貢献を行うべきかを明らかにできます。
新しい職種や職務内容に着いた際にも、自分が何をすべきか迷わずに役割を果たせるようになるでしょう。
さらに、下記の2つも職務記述書の目的にあげられます。
- 社員のスキルアップ
- 人事評価を適切な基準で行う
日本では、後期高齢化社会が進むにつれて労働力が減少しており、一人当たりの所得を維持するために、生産性の向上は不可欠でしょう。
そのため企業は、社員のスキルアップや競争力の向上によって、高い生産性を維持できるはずです。
また職務記述書では、職務内容や目的、求められるスキルなどを記述するので、評価基準を明確にして適切な人事評価が行えるでしょう。
職務記述書が活用されている背景は?
職務記述書が活用されている背景として、下記の3つがあります。
- 背景1:メンバーシップ型からジョブ型へシフトチェンジする企業が増えた
- 背景2:海外の評価基準を重視する企業が増えた
- 背景3:企業のDX化が進んだ
それぞれの背景について、ひとつずつ解説していきます。
背景1:メンバーシップ型からジョブ型へシフトチェンジする企業が増えた
職務記述書が活用されている背景として、雇用形態がメンバーシップ型からジョブ型へシフトチェンジする企業が増えたためです。
メンバーシップ型とジョブ型の概要は、下記をご覧ください。
- メンバーシップ型:終身雇用を前提として総合職で採用し、様々な部署を異動しながら経験を積ませる雇用形態
- ジョブ型:企業が事前に定義した職務内容に基づいた人材を採用する雇用形態
近年では、外国人雇用の加速や専門職の人手不足により、ジョブ型の雇用形態を導入する企業が増えています。
ジョブ型雇用の普及や専門職の需要が高まるにつれて、入社する前から職務内容や求める人材を明確に規定できるため、職務記述書の活用が増えています。
背景2:海外の評価基準を重視する企業が増えた
海外の評価基準を重視する企業が増えたため、職務記述書が活用されるようになりました。
日本では、労働者人口の減少による人手不足を解消するために、外国人の雇用を増やしています。
2022年1月に厚生労働省が発表した、「外国人雇用状況」の届出状況によると、外国人労働者数は170万人に達しており、前年よりも2,893人増加していることが分かりました(令和3年10月末時点)。
また、日本の企業経営においては、ダイバーシティが求められるようになるでしょう。
ダイバーシティがもたらす効果は、下記の通りです。
- 優れた人材を確保しやすくなる
- 離職率の低下によって企業のイメージアップにつながる
- 多様な人材の意見交換によって、新しいアイディアが生まれやすくなる
海外に拠点を置いている日本企業は、人事制度を海外支店と統一するためにジョブ型を採用・職務記述書を導入しているケースもあります。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)
ちなみに、こちらの記事ではダイバーシティの考え方や省庁が行っている取り組みを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
背景3:企業のDX化が進んだ
職務記述書が活用されている背景は、企業のDX化が進んでいるためです。
DXは「Digital Transformation」の略語で、「ITの浸透により人々の生活があらゆる面でより良い方向に変化すること」を指します。
日本のデジタル化は長年の課題とされていながら、浸透していないのが現状です。
2022年9月に、スイスの国際経営開発研究(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング」では、63ヶ国中29位の結果となり、過去最低を記録しました。
国際的な競争力の低下を打開するために、高いIT技術を持った専門職を採用するため、職務を明確にして雇用できる職務記述書への注目が集まっています。
職務記述書の作り方は?
ここまで、職務記述書の概要をお伝えしました。
続いて、職務記述書の作り方を解説します。
- 作り方1:必要としている人材像を明確にする
- 作り方2:必要としているスキル情報を収集する
- 作り方3:フォーマットに情報を落とし込む
ひとつずつ解説していきます。
作り方1:必要としている人材像を明確にする
まずは職務記述書を作る前に、必要としている人材像を明確にしていきましょう。
人材像を明確にするためには、人事部や経営陣が必要としている人物像やスキル、ポジションを決めなければいけません。
そのため、企業の人事方針によって求める人材が変わってくるので、人材の特性や適性を決めていきましょう。
求める人材像を明確にするメリットは、下記の通りです。
- 入社後のミスマッチを防げる
- 採用活動をスムーズに進められる
- 現場と企業側の認識のズレをなくせる
また、求める人材像の必須条件と歓迎条件は分けて考えましょう。
理由は求める人材像が整理できたとしても、職務記述書の書き方に問題があれば、望むような人材が集まらないためです。
職務記述書を分かりやすく作成して、必要としている人材像を明確にしましょう。
作り方2:必要としているスキル情報を収集する
会社として人材像の方針が固まった後は、必要としているスキル情報を収集しましょう。
スキル情報の収集は、現場の社員に対して業務内容や必要となるスキルをヒアリングします。
職務記述書に記載する内容は、実際の業務とズレていないことが重要です。
スキル情報をヒアリングして、職務記述書に書くべき項目例として、下記があります。
- 職務内容
- 所属する部署・ポジション
- 責任範囲
- 求められる役割
- 必要なスキル
- 目標と評価方法
- 労働条件
- 会社情報
またヒアリングは先輩や上司、マネージャー、部下といった幅広いポジションの社員に話が聞けると濃度の高い情報を集められるでしょう。
可能であれば他の部署にもヒアリングを行い、客観的な意見を取り入れる場合もあります。
作り方3:フォーマットに情報を落とし込む
必要としている情報を収集できたら、フォーマットに情報を落とし込んでいきましょう。
フォーマットに落とし込む際は人事部や経営陣が情報を整理して、会社の方針に合っているか照らし合わせながら精査します。
精査にあたっては、下記を意識しながら確認しましょう。
- 誤字脱字がないか
- 誤った受け取り方をされないか
- 分かりやすく簡潔に表記されているか
できるだけ読みづらく難しい表記は避けて、汎用性の高い文言を使用するべきです。
職務記述書を作成できたら、現場の社員やマネージャーに確認してもらい、認識のズレがないか改めて調整します。
ただし、職務記述書は企業の状況や人事戦略によって日々変化するため、定期的な見直しやアップデートが重要です。
職務記述書を活用するメリット・デメリットは?
ここまで、職務記述書の作り方をお伝えしました。
続いて、職務記述書を活用するメリット・デメリットを解説します。
- メリット1:採用・評価基準が明確になる
- メリット2:労働範囲と報酬形態がわかりやすくなる
- メリット3:特定範囲の専門家を採用・育成しやすくなる
- デメリット1:柔軟性が失われる可能性がある
- デメリット2:運用が難しい
- デメリット3:ゼネラリストの採用・育成がしにくい
それぞれ解説していきます。
職務記述書を活用するメリットは?
職務記述書は、日本はまだ広く定着していませんが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業側におけるメリットを解説します。
- メリット1:採用・評価基準が明確になる
- メリット2:労働範囲と報酬形態がわかりやすくなる
- メリット3:特定範囲の専門家を採用・育成しやすくなる
ひとつずつ解説していきます。
メリット1:採用・評価基準が明確になる
職務記述書を活用することで、採用・評価基準が明確になります。
社員の成果を評価する際には職務記述書の内容に沿って、達成できているかどうかの判断が可能です。
採用・判断基準として明記するべき項目は、下記の通りです。
- 資格
- スキル
- 所属部署
- 給与・待遇
- チームの詳細
- 責任・権限の範囲
- 業務において必須の資格
採用・評価基準が分かりやすくなると、求職者も応募しやすくなります。
また評価基準を記載することで、社員のキャリアアップやスキルアップの方向性が明確になるでしょう。
職務記述書は、評価に対する不平や不満が起こりにくくなる効果もあります。
メリット2:労働範囲と報酬形態がわかりやすくなる
職務記述書を活用するメリットとして、労働範囲と報酬形態が分かりやすくなる点があげられます。
ジョブ型を採用しているアメリカでは、職務記述書活用した評価制度である「職務等級制度」による評価が一般的です。
職務等級制度とは、学歴や勤続年数、能力によって昇級や降級が決まるのではなく、仕事内容や難易度によって職務価値が異なる等級制度を指します。
具体的なメリットは、下記の通りです。
- 職務内容が明確
- 人件費をコントロールしやすい
- 優秀な人材の育成に向いている
- 賃金と業務内容が連動しているので不公平感が出ない
日本では多くの企業がメンバーシップ型雇用を採用していますが、職務内容が明確化されていないため、業務の幅が突然広がる恐れがあるでしょう。
こういった労働範囲や報酬形態を分かりやすくするために、職務記述書の導入が効果的です。
メリット3:特定範囲の専門家を採用・育成しやすくなる
職務記述書では、明確な職務内容や求める人材が記載されているので、特定範囲の専門家を採用・育成しやすくなるでしょう。
採用される側のメリットは、下記の通りです。
- 配置転換によるキャリアの分断が起きない
- 職務内容が明記されており、変更がない上で採用されているので、今よりもさらに深い経験や知識を得られる
メンバーシップ型雇用の場合は、複数の業務経験が前提となっており、部署異動も多く、専門的なスキルや知識を極める事は非常に難しいでしょう。
そのため職務記述書は、採用する側と採用される側の双方にとってメリットがあるといえます。
職務記述書を活用するデメリットは?
次に、職務記述書を活用するデメリットを解説します。
- デメリット1:柔軟性が失われる可能性がある
- デメリット2:運用が難しい
- デメリット3:ゼネラリストの採用・育成がしにくい
ひとつずつ解説していきます。
デメリット1:柔軟性が失われる可能性がある
職務記述書のデメリットは、働く上での柔軟性が失われてしまう可能性がある点です。
職務記述書に記載されていない業務範囲が明確に定義されていなければ、契約内容以外の業務を遂行する義務がなく、強制もできません。
メンバーシップ型雇用の社員とは求められる仕事が異なるため、柔軟性のある働き方が失われてしまうでしょう。
さらに酷い場合には、チームワークに影響が出るかもしれません。
チームワークの悪化を防ぐためのに必要な点は、下記の3つです。
- 目標を設定する
- 役割を明確にする
- 全体で目標を解決する
そのため職務記述書に、チームでの目標達成や共同に関する記載を行うなど、徐々に職務範囲を検討しましょう。
デメリット2:運用が難しい
職務記述書の作成は現場のヒアリングだけでなく、人事や経営陣など複数の視点から確認する必要があります。
さらに、職務記述書を作成した後も、内容の定期的な見直しが必須なので運用は難しいです。
仮に人手が足りていない部署があった場合でも、下記にあげる様々な問題があります。
- 契約内容による制限があるので、転勤や移動を命じられない
- 職務記述書に明記されていない業務が発生した際、担当者の振り分けを決めておく必要がある
また、今までのような年功序列がなくなり「年上部下」「年下上司」が発生するので、抵抗を示す社員が現れるかもしれません。
職務記述書を導入するにあたっては、社内や社員の混乱が生まれないか、慎重に検討する必要があるでしょう。
デメリット3:ゼネラリストの採用・育成がしにくい
職務記述書は職務範囲が明確ではありますが、様々な業務領域を経験しなければならないゼネラリストの採用・育成には向いていません。
企業にとっては専門分野に特化した人材は必要ですが、それぞれの専門領域を幅広く理解しているゼネラリストの存在も不可欠です。
ゼネラリストとして求められるスキルや能力は、下記の通りです。
- 人を取り込む力
- 相手を理解する考え方
- 行動力やへ広い視野を用いて組織をまとめる力
そのため幅広い業務を経験したい思考の人と、職務記述書の相性は良くないでしょう。
仮に職務記述書を導入するのであれば、ゼネラリストの採用・育成を検討するべきです。
こちらの記事では職務を適切に配分する上で欠かせない「職務分掌」のメリットや実施する手順を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は、職務記述書の概要や作り方、導入するメリット・デメリットを解説しました。
職務記述書が活用されている背景として、下記の3つがあります。
- メンバーシップ型からジョブ型へシフトチェンジする企業が増えた
- 海外の評価基準を重視する企業が増えた
- 企業のDX化が進んだ
また、「必要としている人材像の明確化」「必要としているスキル情報の収集」「情報をフォーマットに落とし込む」など、作り方を確認しておきましょう。
本記事でお伝えした職務記述書のメリット・デメリットを理解して、導入を検討してください。
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