試用期間中に解雇することはできるのか
試用期間中に採用者を解雇することはできます。
ただし、試用期間という理由で自由に解雇してよいわけではないので注意しましょう。
まずは、下記の3点について解説します。
- そもそも試用期間の定義とは
- 試用期間中の雇用条件
- 試用期間中の労働契約
それぞれ見ていきましょう。
そもそも試用期間の定義とは
試用期間とは、採用者が従業員として適正であるか判断するためのお試し期間です。
数日〜数週間といった短い選考期間で、採用者の業務適性を見極めることは難しいため、1ヶ月〜3ヶ月の試用期間を設けます。
ただし企業文化に合わないといった、曖昧な理由では解雇できないので覚えておきましょう。
試用期間中の解雇が適用される例は、下記の通りです。
- 職務経歴書や履歴書に虚偽の内容が含まれていた
- 担当者が指導したにもかかわらず、改善の余地が見られない
- 勤務情報などのデータに協調性の欠如や勤務態度の悪さが残っている
また試用期間中の解雇を実行するには、就業規則に下記を明記します。
- 試用期間中の解雇事由
- 解雇の30日前に予告する旨
- 労働契約書で試用期間での雇用契約である旨
- 解雇予告が30日前より遅れた際に解雇予告手当を支払う旨
ちなみに採用から14日以内の場合は、解雇予告を明記する必要はありません。
しかし、実際に14日以内で解雇すべきかどうかの判断は難しいことが現状です。
試用期間中の雇用条件
試用期間中の給与や待遇、就労時間などの雇用条件は、本採用と同じ設定にすることもあれば、格差をつける場合があります。
ただし本採用後の給与より低い金額を設定する場合は、就業規則や労働契約書にその旨を明記しなければいけません。
仮に試用期間中の給与を明記しないまま、賃金が低くなる取り扱いを入社後に行うと、労働条件の不利益変更になる可能性もあります。
あまりにも低い給与設定をしてしまうと、人材が採用しづらくなる恐れもあるので、十分に注意しましょう。
試用期間中の労働契約
試用期間中の労働契約は「解約権留保付労働契約」とみなされるので、企業が雇用契約を解除できる権利を有している状態です。
しかし試用期間とはいえ、どういった理由でも従業員を解雇できるわけではありません。
本採用と同じく、社会通念上相当であると判断されなければ権利の濫用にあたります。
ただ実際は、試用期間終了後に企業が本採用を拒否した事例もあります。
採用後のトラブルを避けるためにも、雇用時に労働契約書の書面上には下記を記載しておきましょう。
- 基本給・各種手当・退職に関する事項
- 試用期間(試用期間を延長する場合があるかも記載)
- 本採用に至る条件(期待するスキルや成果、勤務状況や健康状態)
- 勤務地・勤務時間・業務内容・休憩時間・休日休暇・所定労働時間・残業
企業によって本採用に至る基準は異なりますが、「勤務状況・健康状態・能力」が選考基準として挙げられます。
こちらの記事では、企業が労働者との雇用契約を終了させる「雇い止め」の定義や影響、違法となるケースを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
試用期間中に解雇ができるケース
ここまで、試用期間の定義や雇用条件、労働契約をお伝えしました。
続いて、試用期間中に解雇ができるケースを解説します。
- 休職復帰後も就業が難しいケース
- 勤怠不良のケース
- 経歴を詐称しているケース
- 協調性がないケース
- 一定の成績が出せないケース
ひとつずつ解説していきます。
休職復帰後も就業が難しいケース
ケガや病気が原因で、休職復帰後の就業が難しい場合は解雇が認められます。
ちなみに業務中のケガや事故で休職した場合、療養期間とその後30日間では従業員を解雇できません。
ただし、下記のケースでは解雇制限の解除が可能です。
- 療養を始めて3年が経過しても傷病が治らなかった場合は打切補償を支払う
- 担当医師によって「休職後に簡単な業務から復職することも難しい」と判断された
企業側が一方的に解雇できる権利はないので、従業員が休職したとしても、最初は負荷がかからない業務を与えながら復職サポートを行います。
また、多くの企業では就業規則の解雇事由に「精神や身体の障害が原因で業務に耐えられない場合に解雇できる旨」が記載されています。
勤怠不良のケース
正当な理由がなく遅刻・欠席を繰り返して、企業が指導しても改善が見られない場合は解雇できます。
決められた就業時刻を守りながら勤務を行うことは、社会人が最低限守るべきルールです。
ただし、下記の場合は正当な遅刻・欠席として認められます。
- 体調不良
- 交通機関の遅延
勤怠不良の判断は、何ヶ月間で何回の遅刻をしたら解雇するといったルールがありません。
何度も遅刻・欠席を繰り返す人を指導しても直らない場合は、解雇事由として正当であると判断します。
また厚生労働省の労働基準法によると、無断欠席を2週間以上行って出勤の督促に応じない場合は、解雇予告なしで解雇が可能です。
企業側で指導や教育を行わずに解雇してしまうと、不当な解雇と判断されるので注意しましょう。
出典:労働基準法
経歴を詐称しているケース
企業に提出した職務経歴書や履歴書の内容に重大な虚偽があった場合は、経歴詐称にあたるため解雇が認められます。
例えば資格を取得していないにもかかわらず、資格必須の業務を担当した場合は重大な経歴詐称です。
従業員は採用時に今までの経歴を自己申告しますが、虚偽が発見されれば企業側で求めていたスキルや能力を満たしていない可能性があります。
そのため故意に経歴を偽っていた場合は、試用期間中であっても解雇が求められています。
協調性がないケース
業務を遂行するうえで、著しく協調性がない場合は解雇事由として認められます。
協調性が欠如しているかどうかの判断基準は、下記のとおりです。
- 協調性の欠如といった範疇を超えて、その程度が極端に劣悪
- 企業が改善を促したにもかかわらず、改善が見られない
- 業務全体にとって相当な支障をきたしている
これらの点を踏まえながら、協調性のない従業員に対して指導を行う必要があります。
そのため先輩や上司の指示に従わなかったり、反抗的な態度を正当性なくとったりして職場の規律を乱す場合は、解雇が認められます。
一定の成績が出せないケース
教育機関を設けて指導を実施して、配置転換を試しても明らかに成績が悪い場合は正当な解雇事由として判断されます。
具体的な例は、下記のとおりです。
- 試用期間中に売上を10万円達成すること
- 試用期間の2ヶ月の間に、〇〇の試験に合格すること
明確な基準を設けることで、基準に達しない人材を解雇すると労働契約書に記載するケースもあります。
こちらの記事では、人事・労務部門が知っておくべき内定取り消しの手続きや対応、損害賠償について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
試用期間中に解雇する際の注意点
ここまで、試用期間中に解雇ができるケースをお伝えしました。
続いて、試用期間中に解雇する際の注意点を解説します。
- 新卒・未経験者の場合は能力不足で解雇することは難しい
- 結果のみを見ていないか
- 必要な指導を欠いていないか
- 試用期間終了までに解雇はできない
- 解雇予告をしておく
それぞれ解説していきます。
新卒・未経験者の場合は能力不足で解雇することは難しい
試用期間中の新卒・未経験者の場合は、能力不足で解雇することは難しいです。
裁判所は、「新卒採用者や業界・職種未経験で入社した中途社員が、仕事をできないことは当たり前であり、会社の指導によって従業員を育成すべき」といった考えを持っています。
そのため下記の場合は、不正解雇と判断される可能性があるので注意しましょう。
- 試用期間が終了した後の本採用を企業側が拒否する
- 試用期間中に能力不足が理由で新卒・未経験者を解雇する
また、試用期間の間で企業が求める水準に達しなかったという理由で本採用を拒む場合も、不正解雇として訴訟される可能性が高いです。
結果のみを見ていないか
試用期間中の解雇として、業務プロセスを見ずに結果だけで判断していないか注意しましょう。
例えば業界経験者や同業種の人材を採用する際は、試用期間中でも期待値が高くなるため、本採用への判断基準も高くなるかもしれません。
同業の経験があると、優良な成績を期待してしまいますが、プロセスを無視して結果のみで解雇する場合は不正解雇と判断されます。
そのため業界経験者・同業種であっても、下記の基準を設けましょう。
- 企業が定めたKPIは達成できているか
- 業務プロセスを指示通り行っているか
ほかにも「結果に至るプロセス行動に問題はなかったか」「成果に対して、改善する見込みがあるか」「結果が出なかった採用者へ配置転換や適切な指導を行っていたか」など、企業側の対応も求められます。
必要な指導を欠いていないか
試用期間中に必要な指導を行わずに、解雇していないか注意が必要です。
特に同業種で経験のある従業員は、即戦力として過度な期待されてしまう傾向があります。
しかし、企業ごとで業務内容や業務手順が異なるため、指導を欠いて即戦力として採用しても活躍できるわけがありません。
そのため、試用期間中に必要な指導を行わずに適性がないと解雇した場合は、企業側の指導不足として不正解雇と判断されてしまいます。
試用期間終了までに解雇はできない
試用期間が終了するまでの間は、従業員を解雇できません。
そもそも試用期間には、下記の意味合いがあります。
- 従業員が新しい業務や環境に慣れるための猶予期間
- 企業と従業員がお互いにマッチングするか見極める期間
試用期間が終了する前に企業側で一方的に解雇してしまうと、「従業員へ十分な試用期間を与えていない」と判断されて、不正解雇と判断されます。
例えば従業員が正当な理由なく休み続けたり、指導を行っても改善が見られなかったりしなければ解雇は難しいです。
まずは従業員の能力不足があった場合でも、従業員に指導・教育を行って戦力になってもらう努力をしましょう。
解雇予告をしておく
試用期間中に解雇する場合は、事前に解雇予告を行いましょう。
従業員への解雇予告は、基本的に30日前までが原則です。
解雇日の30日前を満たさずに予告してしまうと、解雇予告手当を支払う必要があるので注意しましょう。
実際に労働基準法では、下記のように定められています。
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
ただし試用期間を開始して、14日以内の解雇は予告が不要です。
こちらの記事では、会社が従業員に対して自発的に退職を勧める「退職勧奨」の特徴や背景、勧奨時のNG表現などを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
試用期間中に従業員を解雇する手順
ここまで、試用期間中に解雇する際の注意点をお伝えしました。
続いて、試用期間中に従業員を解雇する手順を解説します。
- 解雇事由の明記
- 解雇予告の有無
それぞれ解説していきます。
解雇事由の明記
就業規則を設けている企業は、労働基準法に基づき解雇事由を明記する必要があります。
実際に従業員を解雇する際は就業規則を確認して、解雇事由に該当しているか確かめましょう。
解雇事由に該当する内容が明記されていなければ、解雇を一切できないわけではありません。
しかし解雇事由が明記されていることで、対象の従業員から高い納得感を得られるはずです。
解雇予告の有無
解雇予告の有無は、採用後の期間によって異なります。
- 試用期間を開始して14日以内の解雇
- 試用期間を開始して14日以降の解雇
それぞれの違いを見ていきましょう。
試用期間を開始して14日以内の解雇
試用期間を開始して14日以内の従業員に対しては、解雇予告は不要です。
労働基準法にも、以下のように記載されています。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
ただし14日以内で従業員の能力や性格、資質などを判断して解雇することは難しいです。
そのため試用期間中の解雇が有効となるケースは、経歴を詐称している場合に限られるでしょう。
試用期間を開始して14日以降の解雇
試用期間を開始して14日以降で解雇する場合は、30日以上前に解雇予告をしなければいけません。
解雇予告を行わず退職させる際は、解雇予告手当を支払う必要があるので注意しましょう。
ちなみに解雇予告手当の計算式は、「平均賃金×(30日-解雇予告から解雇までの日数)」で算出します。
まとめ
今回は、試用期間中に解雇できるケースや解雇する際の注意点を解説しました。
改めて、試用期間中であっても採用者を解雇することはできます。
また試用期間中に解雇できるケースとして、下記の5つをお伝えしました。
- 休職復帰後も就業が難しいケース
- 勤怠不良のケース
- 経歴を詐称しているケース
- 協調性がないケース
- 一定の成績が出せないケース
試用期間中に解雇する際は、「結果のみを見ていないか」「解雇予告をしておく」といって点に注意が必要です。
本記事でお伝えした解雇する際に手順も参考にして、試用期間中の解雇に関するルールを確認しておきましょう。
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