“顧客の声”が企業にもたらす意義
「顧客の声」が企業にもたらす恩恵はとても大きなものです。顧客の声なしで企業が発展するのは難しいと言っても過言ではありません。
そこでまずは、
- なぜ企業は”顧客の声”を集めるのか
- 従来の顧客ヒアリング手法の課題
- “ソーシャルリスニング”という新しい顧客の声の集め方
について解説していきます。
1. なぜ企業は”顧客の声”を集めるのか
”顧客の声”には商品・サービスの改善に繋がるヒントが眠っていることがあります。顧客自身が、商品・サービスに求める真のニーズを理解できていないこともあるため、全ての解が顧客の声にあるという訳ではないですが、企業の意思決定を支える一つの要素となります。そのため従来から多くの企業が顧客の声を集め、商品・サービスの改善に活かす努力をしてきました。
2. 従来の顧客ヒアリング手法の課題
”顧客の声”を集めることとなった場合、従来は”アンケート調査”などが主流でしたが、この手法では下記3つの課題に直面します。
課題①:集まらない
「大々的にアンケート協力の依頼を行ったが、なかなか回答が集まらない」という悩みを持つ企業は多いです。特典を付けて必死に回答を集める企業も少なくはないでしょう。
課題②:顧客の本音が引き出せない
質問項目は基本的に企業側が事前に用意をして行うため、質問の選定や、質問の仕方自体に企業の意図や想像が入り混じってしまい、顧客の本音が引き出しにくいことがあります。また、あらかじめ質問が決まっていることから得られる情報が限定的になることがあります。
課題➂:時間がかかる
アンケート調査を行うことになった場合、調査会社への依頼や、回答者の募集、質問項目の設計等、複数の工程を踏む必要があるため思ったよりも回答結果が得られるまでに時間がかかることがあります。
3. “ソーシャルリスニング”という新しい顧客の声の集め方
インターネットの普及に伴い、TwitterやInstagramなどのソーシャルメディアの活用率は向上しています。購入した商品や利用したサービスのコメント/写真をソーシャルメディア上で見る機会が増えてきたのではないでしょうか。”ソーシャルリスニング”では、ソーシャルメディアやブログに投稿された”膨大”な”顧客の率直な意見”を”ほぼリアルタイム”に活用することができます。
ソーシャルリスニングの具体的な活用方法
ソーシャルリスニングとは「TwitterやInstagramなどのソーシャルメディアやブログ等に投稿されたコメント/画像を収集・分析し、マーケティング施策に活用する方法」を指します。
そして、このソーシャルリスニングには様々な活用方法があります。
まずは
- ソーシャルリスニングのメリット
- ソーシャルリスニングツール6つの機能
について解説して、その次に
- ソーシャルリスニングの5つの活用シーン
- よくある課題
について解説します。
1. ソーシャルリスニングのメリット
ソーシャルリスニングは従来のアンケート調査と比べ、大きく3つのメリットがあります。
- 膨大な量のデータがある
- 顧客の本音が集まりやすい
- ほぼリアルタイムで顧客の声を把握できる
1つずつ見ていきましょう。
メリット①:膨大な量のデータがある
“企業実施のアンケート”だけではなく、世界中の日々更新される膨大な投稿全てが情報元となります。
あらゆる角度から顧客の声を聴くことができるので、製品・サービスの改善に役立てることができます。
メリット②:顧客の本音が集まりやすい
他のコミュニケーション手法と比べ、良くも悪くも販売主の顔が見えにくいため、個人の考えや感じたことが自由気ままに発信できます。そのため忌憚のない意見が集まりやすい傾向にあります。
メリット➂:ほぼリアルタイムで顧客の声を把握できる
Twitterなどのソーシャルメディアは特に、消費体験から投稿までのリードタイムが短い傾向にあります。そのため商品提供後、ほぼリアルタイムで顧客の声を把握することができます。
2. ソーシャルリスニングツールの6つの機能
投稿内容の収集・分析をすべて手作業で行うと膨大な工数がかかるため、分析をサポートしてくれる”ソーシャルリスニングツール”が複数存在します。
各ツールが持つ機能・特徴は様々ですが、総じて下記6つの機能が存在します。
機能①:複数メディアから一括抽出
特定のソーシャルメディアに特化して、検索キーワードを含む投稿を抽出するツールもありますが、TwitterやInstagramなど複数のメディアから検索キーワードを含む投稿を一括で抽出できるツールも存在します。メディアによっては、特定のツールにのみ情報が提供されているケースもあるため、ツール選びの際に確認するようにしましょう。
機能②:投稿者のパーソナル情報の抽出
パーソナル情報を「公開可」にしているユーザーの投稿については、投稿内容と併せて投稿者の年齢・性別・居住地・フォロワー数等のパーソナル情報を抽出できます。ただし、年齢・性別・居住地については、抽出を行っても大半が空白となっており活用が難しい場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
機能➂:投稿内容の自動分類
膨大な投稿から示唆出しを行うには、投稿内容の分類が必要となります。その際に、自然言語処理による解析を行い、投稿を自動で分類する機能を搭載するツールもあります。ポジティブ・ネガティブの分類が定番ですが、人間の感情(「嬉しい」「悲しい」など)を複数段階、複数種類に分類する機能や、特徴的なキーワードを抽出してくれる機能を持つツールもあります。
機能④:インフルエンサーの特定
影響力のあるユーザーを自動で特定しランキング形式で表示する機能を搭載するツールもあります。影響力はフォロワー数や反響数(Twitterのリツイート数、Facebookのいいね数 等)を指標化して評価されます。
機能⑤:炎上・クレームの検知
口コミの急増を自動検知し、アラートがあがる機能を搭載するツールもあります。こちらを活用することで炎上を早めに検知し対処することが可能です。また、リスク関連のキーワードを事前に設定することで、リスク検知を行うツールもあります。こちらもクレームをいち早く確認し対処することでリスク対策に繋げることができます。
機能⑥:セグメント別のコメント発信
自社について言及しているユーザーを特定し、顧客セグメント別にコメント発信をサポートする機能を搭載するツールもあります。
3. ソーシャルリスニングの活用シーン
実際のビジネスでは、上記機能を下記5つのシーンで活用することができます。
活用シーン①:業界動向の把握
“時系列でキーワードの投稿数推移を確認”したり、”急増しているキーワードをモニタリング”したり、”業界内で影響力を持つインフルエンサーを特定し、動向をウォッチ”したりすることで業界動向の把握ができ、新規ビジネスや商品開発に活用することが可能です。
活用シーン②:自社ブランドの強み・弱み把握
“ポジティブ・ネガティブ意見の割合“や”感情別の割合”、”含まれる単語のランキング”を自社ブランドのキーワード検索と、競合ブランドのキーワード検索で比較することで、どのような理由で自社/競合ブランドに興味を持っているか、利用しているかを把握することが可能です。
活用シーン➂:プロモーションの効果測定
イベント等のプロモーション施策を実施した後、キーワード検索を行い”投稿数”や”ポジティブ・ネガティブコメントの割合”、”頻出単語、感情の割合”などを確認し、ほぼリアルタイムでプロモーション効果の測定や課題特定に繋げることが可能です。
活用シーン④:1 to 1エンゲージメント
自社商品・サービスに関する投稿をモニタリングし、コメント欄に参考になる回答を投稿することで顧客のロイヤリティ化を図ることが可能です。
活用シーン⑤:商品・サービス課題の特定
自社の商品・サービス名をキーワード検索し、出た結果を”ポジティブ・ネガティブに分類”、”カテゴリー別に分類”することで、自社の商品・サービスの課題をあぶりだすことが可能です。
4. 具体的な手法・よくある課題
上記の通り、ソーシャルリスニングは様々な活用方法がありますが、今回は”ソーシャルリスニングから、商品やサービスの課題を特定する方法”の7つのステップについて詳しくご紹介します。
STEP①:意義の明確化
「自社にとって、その商品・サービスの販売が伸びると、どれほど自社の収益増に繋がるのか」を明らかにしておきましょう。複数の商品・サービスを扱う企業であれば特に、その商品・サービスを改善することの重要性を示すことで、改善策の実施までをスムーズに実施することができます。
STEP②:検索条件設定
分析対象の期間、キーワード、検索対象のメディアの設定を行います。Twitterなどのソーシャルメディアからブログ・口コミサイトなど、複数のメディアが存在する中で、自社に合うメディアを選択しましょう。メディアの選択が難しい場合はまずはTwitterとブログから始めてみるとよいでしょう。
【よくある課題】ノイズが多い
スパム広告のような、商品・サービスの課題とは関係のない“顧客の声”が抽出結果に混ざっていることが多々あります。そのようなノイズが多く含まれていると正しい分析ができなくなるため、ノイズを除外しましょう。除外方法については、ノイズを自然言語処理により自動で除外を行ってくれるツールがあるので、可能であれば活用しましょう。ツールを活用できない場合は抽出後にExcel等で”https”や”www”などが含まれる投稿を除外するとよいでしょう。
STEP➂:仮説立て
何件か投稿を読み、「どのような単語が多いか」「どのような分類ができそうか」の仮説を立てましょう。
【よくある課題】商品やサービスに対する本質的なニーズがつかめない
キーワードを”商品名”や”サービス名”だけで設定していると、普段からよく見る評価しか集まらないことがあります。その際はキーワードを”利用シーン”や”動詞”などに変えて検索してみると本質的なニーズをつかめることがあります。
STEP④:ポジティブ・ネガティブ分類
定性的な情報から仮説が見えてきた段階で、結果を定量化していきましょう。まずはその商品・サービスに対してポジティブ・ネガティブな意見に分類することで”顧客の声”が活用しやすくなります。
【よくある課題】ポジティブ・ネガティブ意見の分類に人の判断が入ってしまう
可能であれば、こちらも自然言語処理によりポジティブ・ネガティブな意見に自動分類してくれるツールがあるので活用しましょう。
STEP⑤:カテゴリー分類
ポジティブ・ネガティブ意見それぞれで、要素として多いキーワードをカウントしていき、カテゴリー別に分類しましょう。
【よくある課題】キーワードのカウントが手間、分類の定義が難しい
こちらも可能であれば自然言語処理によりキーワードのカウント、分類を自動で行ってくれるツールがあるので活用しましょう。
STEP⑥:ウィークポイント検証
同じように競合商品・サービスについて分析を行い比較することで、自社のウィークポイントを特定することができます。ソーシャルリスニングだけでなくオープンソースから新聞・雑誌の記事検索から競合情報を集めて比較し、仮説を磨き上げていきましょう。ソーシャルリスニングの結果が絶対というわけではないので、この段階で複数観点から仮設を検証し、筋の良い課題に絞り込むことがポイントです。
STEP⑦:施策検討
自社の商品・サービスの課題が見えたら、ウィークポイントを克服するための施策を検討し、改善を行いましょう。
まとめ
ソーシャルリスニングを活用することで、商品・サービスの課題を特定することが可能です。読者の方の中には、「ソーシャルリスニングは複雑で難しそうだから、従来構築してきたアンケートを継続すれば良いや」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、国内のソーシャルメディアの利用者数は年々増加し、その割合は8割に迫ってきています。時代の変化に伴い、新しい傾聴スタイルにチャレンジする必要性が年々高まってきているのではないでしょうか。
著者紹介
デロイトトーマツグループ コンサルタント
田村 美佳
住宅情報系のリテール事業を営む会社にて、接客を経験した後、自然言語処理を活用したチャットBOTの導入や、出店時の需要予測ロジックの構築・出店起案等を経験し現職。現在はEC戦略やデジタルを活用した既存サービス改善等のプロジェクトに従事し、デジタルマーケティング領域を得意とする。