そもそも45歳定年制とは?
45歳定年制は、新浪剛史サントリーホールディングス代表取締役社長が提唱し、物議を醸した新しい考え方です。2021年9月9日に開催された経済同友会のオンラインセミナーにおいて、新浪社長が導入を提案しました。
現状の日本では定年の年齢は70歳に向けて上がっていく方向にあり、45歳定年制は一見それと逆行する考え方という印象を与えるのは否めません。
額面通りではない「45歳定年制」の真意
もちろん日本において企業は、法律に基づいて定年を60歳以上に定めなければなりません。60歳未満の労働者を企業が強制解雇することは、労働契約法16条の「解雇権濫用法理」に違反するため、現実的ではありません。
つまり、ここで同社長が提唱する45歳定年制の「定年」という言葉が意図するものは、システムとしての定年(企業で働ける年齢の上限)ではなく、人生100年時代に転職の転換点として想定した年齢を表現しています。
しかし情報の表面的な部分から、含意を理解しないままさまざまな強い批判がネット上で巻き起こり、炎上しました。そのため、新浪社長は翌日10日に釈明の記者経験を開いたほどです。
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「45歳定年制」の炎上に政府も火消しに回る一幕
日本を代表する企業のトップという社会的影響力の大きな人の発言だけに、炎上で湧き上がる批判に対して政府も直ちに火消しに回りました。「国としては企業に70歳まで雇用を義務づける方向でお願いしている」と加藤勝信官房長官が公式見解を発表しています。
メディアが新浪社長の発言のなかのインパクトがある部分を、ことさらセンセーショナルに報じた感があるとしても、社会情勢を考慮すればもっと周到な論旨を以て発言する必要があったといえるでしょう。
とはいえ、じっくり耳を傾ければその考え方には(問題点もありますが)、多くの示唆を含んでいます。そのあたりを詳しく見ていきましょう。
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労働基準法における休日については、以下の特集記事『労働基準法における休日とは?定義とルールを日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
「45歳定年制」発言の背景とは?
新浪社長の基本スタンスは、日本経済を活性化するためには、人材を高成長産業に移すことが重要だという立場です。
それをもとに個人が企業に依存しないように企業の新陳代謝を高め、若いうちから実力を育てることが重要だと判断し、定年45歳定年を唱えたという背景があったと考えて間違いないでしょう。
インパクトのある表現なので必要以上に注目され、本意ではない反論も湧き上がっていたのは同社長の誤算だったのではないでしょうか。
なお、当サイトの読者のみなさんが携わっていらっしゃると思われる、サブスク型ビジネス、とりわけSaaSビジネスにとっての最重要課題は「カスタマーサクセス」です。
そんな「カスタマーサクセス」について、以下の特集記事『カスタマーサクセスとは?サブスク型SaaSビジネスの生命線を完全解説!』で特集しています。ぜひご一読ください。
また、SaaSを含むBtoB企業における、マーケティング組織の類型と作り方や、営業部門との関係性に関して以下の特集記事『現代のマーケティング組織の類型と作り方とは?営業部門との関係性も解説』で解説しています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
「45歳定年制」発言が物議を醸した問題点
45歳の定年制度には賛否両論あります。批判もしくは指摘されている問題点は、主に以下の4つです。
- 40代以降は転職に不利である
- ワーカーのモチベーションを低下させる要素となる
- リストラ推進を助長する
- 年齢による差別と見ることもできる
それぞれを詳しく見ていきましょう。
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テレワークとその生産性については、以下の特集記事『テレワークは生産性を向上or低下?国内事情や海外の議論も含めて徹底解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
40代以降は転職に不利である
専門的なスキルと知識を持つ人材は重宝されます。しかし、どの企業も、自社の業務に役立つスキルを持たない40代以上の人々を進んで雇うことはありません。
また、40代以上であれば、子どもが高校や大学に進学して住宅ローンを返済するなど、お金が掛かるライフステージです。求める収入レベルが高いため、条件に合った職業を見つけるのが難しい状況に直面する可能性は高いでしょう。
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現在注目を集めているサバティカル休暇については、以下の特集記事『サバティカル休暇とは?注目の長期休暇制度の意義やメリットを日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
ワーカーのモチベーションを低下させる要素となる
45歳定年制で新浪社長が訴えたかったのは、個人が企業に頼らずに主体的になることです。ある企業で定年まで安定して働き続ける既存の方式とは異なり、中高年が企業に依存しない流れを作れば、転職、起業などの選択の幅が広がるという趣旨です。
早期の定年がルール化されると組織の生産性の低下が懸念される
とはいえ、45歳で辞めてしまうという前提は、その仕事へのモチベーションを低下させることにつながりかねません。そういう社員が複数存在すると、組織の生産性の低下につながるおそれがあります。
企業の立場としては社員の従業員エンゲージメント(仕事への愛着・情熱・関わり合い)を高め、モチベーションを維持させながら、自発能動的な人材を育成する環境を整えることが課題となります。
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「オワハラ」については以下の特集記事『オワハラとは?流行の背景と企業側の発生回避の対策を日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
リストラ推進を助長する
45歳定年制が、「定年」という言葉を使ってリストラを助長するようだという声が聞かれます。実際にSNSを中心にネット上で、そのあたりを突っ込む論議にもなりました。
新浪社長は「45歳定年せ」発言の翌日の記者会見で、定年という言葉のチョイスが悪かったという趣旨の弁明をしています。たしかに、45歳定年制という言葉が直接的に、リストラや早期退職を助長するわけではないでしょう。
それでも初めて聞く人たちの場合、趣旨を誤解しやすいのも否めません。定年という言葉の使用を控え、別の表現で伝えたほうが賢明だったといえるでしょう。
年齢による差別と見ることもできる
45歳という年齢をピックアップしているので、差別的なニュアンスを感じる人たちもいるようです。 特に実際に45歳以上の人たちのなかで、気を悪くした人も多いようです。
新浪社長自身は45歳が人生の転換点と確信を持ち、人生を再び考えるのに適していると考えているため、45歳定年を提唱しました。50代では遅いとの考えです。
45歳のビジネスパーソンは、社会的経験をある程度積み重ねてきたので、自分の人生を再評価することができるという趣旨と考えられます。
なお、読者のみなさんの企業を含めて、企業は須らくIT化に遅れないよう、ITリテラシーを維持・向上するのがひとつの課題です。ビジネスの中核であるマーケティングも、今やデジタルマーケティングなしには立ち行かなくなってきています。
そんなデジタルマーケティングについては、以下の特集記事『デジタルマーケティングとは?現代ビジネスに欠かせない方法論を徹底解説』で総合的に解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
また、デジタルマーケティングで活用する、ビジネスに関する膨大な情報の収集と分析・解析に欠かせないのがマーケティングオートメーション(MA)です。
マーケティングオートメーション(MA)については、以下の特集記事『マーケティングオートメーションとは?ツールの選び方と運用の注意点』で包括的に詳しく解説しています。ぜひ、そちらも参考にご一読ください。
45歳定年制の本当のねらい
前述のとおり多くの問題を抱える45歳定年制を実現するのは、現実的にはハードルが高いでしょう。 しかし新浪社長は、決して45歳定年制を思いつきで発言したわけではないようです。45歳定年制の本当のねらいとして、以下の5つが挙げられます。
- 組織の新陳代謝を促進する
- 若手社員の活性化を図る
- 「意識低い系」シニアを減らす
- 社員の自己投資を促す
- 業績回復を見据えた軌跡修正をする
それぞれのねらいを、詳しく見ていきましょう。
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組織の新陳代謝を促進する
45歳定年制には、組織の新陳代謝を促進するというねらいも含まれています。 離職率の低い企業は仕事がルーティン感覚になって刺激が不足し、モチベーションを失う危険性があります。
特に知識と経験が豊富な40代後半以上の、モチベーションが低いシニア社員は、ただ機械的に業務をこなすだけの日々を過ごす傾向があります。
職場に新しい風を吹き込む可能性がある45歳定年制
45歳定年制を導入できれば、そういう社員を若い人材に置き換えることが容易になります。 活力にあふれる若い人材は、職場に新しい風を吹き込むことができ、企業に良い影響を与えます。
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若手社員の活性化を図る
新浪社長は定年を45歳としたら、30代と20代がともに自分の人生について考え、勉強するようになると発言しています。
企業に依存するよりも、自らの人生の主導権を握ることができるように、個人が意識的に実力を向上させることが重要だという考えから出た言葉でしょう。
45歳をひとつのマイルストーンに!
意図的に「引退するには早過ぎる」45歳という年齢を定年の基準として明示することで、マイルストーンとして機能させるねらいがあります。
45歳までにどのようなスキルを習得し、これを達成するために何をすべきかを明確にすることを促すねらいです。また、若手社員の活性化は、企業だけでなく日本経済の活性化にもつながります。
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総合適性検査SPI3については以下の特集記事『総合適性検査「SPI3」とは?種類別の特徴を含め日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
「意識低い系」シニアを減らす
40代後半以上のシニア社員のなかには、企業が新しい事業を開始したり新しい分野に挑戦したりすると、ついていけない人が出てきます。
彼らはすでに慣れている環境に快適さを感じているので、既存の政策や制度の変化を嫌う傾向は否めません。そういう社員は若い社員に比べて、新しい価値を創造しようという意識が低いといえるでしょう。
変革を妨げる守旧派を減らすことができる
また、社内教育を行っても既存の方式を変えたくない守旧派の先輩が多く、企業が変革を試みる際に妨げになることがあります。
多くの企業は意識が高い人材を中途採用で確保するほうが、意欲のない社員を教育するよりも有益であると考えています。45歳定年をもし導入したら、現状に満足している「意識が低い系」シニアを減らすことが可能となることでしょう。
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働き方改革によって導入が進む、フレックスタイム制度については以下の特集記事『フレックスタイム制度とは?労使協定や就業規則の対応も含め、日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
社員の自己投資を促す
未来のための資格とスキルを習得するために努力する20〜30代は、一体どのくらい存在するでしょうか。いろいろなやむをえない理由、もしくは言い訳で、自己投資を先延ばしにする人がたくさん見られます。
45年定年制には、このような状況を打開しようとする趣旨が盛り込まれています。企業に依存する人生は、個人の自己投資と能力を向上させる機会を減らします。
したがって、45歳を「仮の定年」と定めれば、40代後半以降、快適に暮らすために勉強する意志がある20〜30代青年たちがさらに増えると、新浪社長は考えているようです。
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今日のあらゆる職場に求められる「ダイバーシティ」については、以下の特集記事『ダイバーシティとはどのような考え方か?日本一わかりやすく全方位的に解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
業績回復を見据えた軌跡修正をする
勤続年数と年齢によって、給与が決定されるのが、かつては日本企業のデフォルトだった年功序列です。今日では多くの企業が実力主義・成果主義を導入していますが、未だに年功序列をベースとする企業も少なくありません。
年功序列の企業では40代後半以上は管理職でなくとも、高い給与を受ける傾向があります。そのため、その企業が実力主義に舵を切ったとして、いきなり給与を大幅に削減するのは難しいでしょう。
45歳定年制においては給与が高い40代後半以上の人員を減らし、人件費の削減を通じた業績回復を目指す軌道修正を敢行するねらいもあります。
なお、人事担当のみなさんにとって、社員のワークライフバランスを良好に保つサポートがひとつの重要なミッションではないでしょうか。
ワークライフバランスについては以下の特集記事『「ワークライフバランス」の使い方はもう間違わない!例文付き解説で完全マスター』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
また、同じく従業員にとって大切な「ウェルビーイングの実現」については、以下の特集記事『ウェルビーイングとは?社会・福祉・健康・経営等の視点からみた重要性』で詳しく解説しています。ぜひ、そちらも参考にご一読ください。
まとめ
新浪剛史サントリーホールディングス代表取締役社長が提唱し、物議を醸した新しい考え方「45歳定年制」について、話題となった背景や真意、そして問題点を整理して解説しました。
示唆に富んでいる点もあれば問題点もありますが、あくまで実際の体制に応用するというよりは組織改革の叩き台として参考にするのが妥当かと思われます。
経営者や経営幹部、決裁者のみなさんには、今回ご紹介した45歳定年制の背景と問題点を、自社の前向きな組織改革のための参考にしていただければ幸いです。
なお、当メディア「kyozon」のメインテーマのひとつが「マーケティング」です。当サイトにて、マーケティングに役立つ、さまざまなサービスの資料が無料でダウンロードできます。マーケティング担当者や責任職のみなさんは、ぜひご利用ください。
また、ビジネススキルの中でも高度な部類に入るのが「マーケティングスキル」です。
マーケティングスキルはビジネスにおける自分の最強のリソース(資源)であることを、以下の特集記事『マーケティングスキルは身につけて損がないビジネス上の最強の自己資源』で総合的に詳しく解説しています。ぜひそちらも、参考にご覧ください。
ちなみに、そもそもマーケティングとは一体どういうものなのかについて知りたいみなさんのためには、以下の特集記事『マーケティングとはなにか?その意味や定義を日本一わかりやすく解説』において、掘り下げつつわかりやすく解説しています。
基礎的情報として、ぜひ参考にご一読ください。
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※2023年以降のマーケティング戦略構築に参考になる、マーケティングトレンドについて、以下の特集記事『マーケティングトレンドを徹底解剖!2022年までの考察と2023年の展望』で総合的かつ詳細に解説しています。ぜひとも、参考にご一読ください。
※マーケティングを実践するにあたって、消費者の購買行動を可視化するマーケティングモデルというものがあります。マーケティングモデルとは何かについて、以下の記事『マーケティングモデルとは?認知から購買の消費者行動を分析した仮説』でわかりやすく解説しています。そちらも、参考にご一読ください。
※マーケティング活動は幅広い領域にまたがるため、全体を統括するスキル「マーケティング・マネジメント」が求められます。
「マーケティングマネジメント」について、そのプロセスと業界別成功例を以下の特集記事『マーケティングマネジメントとは?プロセスと業界別成功例を徹底解説』で詳細に解説しています。そちら、ぜひ参考にご覧ください。