統合したマーケティング設計の重要性
そもそもなぜマーケティング設計において「統合」をする必要があるのでしょうか。
なぜマーケティングの統合が必要なのか?
人々が商品と出会い、興味を持って情報収集・検討し、そして購入、愛用者になるというマーケティングファネル全体の中において、従来はそれぞれのフェーズに適したメディアやチャネルによりマーケティング活動が行われてきました。
しかし現在では、ほぼすべてのマーケティングファネルにてデジタルが主力であるのはみなさんの生活体験を振り返ってみるとよく実感できるかと思います。
このような現在においては、従来のようなどこを「デジタル化するか?」という視点ではなく、「様々なデジタルを通して、顧客にどのように体験してもらうか」という視点でのマーケティング活動が必要になってきました。
しかし、デジタルと言っても、一般的なメディアから検索エンジン、ネット広告、オウンドメディア(サイト・メール)、メッセージツール、自社アプリ、SNSなどといった様々なチャネルに分かれ、また人々の関心の度合いや内容も異なります。
多数にまたがるデジタル・チャネルで、ターゲットの様々なフェーズ・関心にどうアプローチして検証するか?それらに対応するためには、マーケティングのチャネルと施策を統合して設計・検証する必要が出てきます。(図1)
デジタルでの統合マーケティングの課題
各デジタル・チャネルを横断・連携してマーケティング活動を行うことの重要性は、多くの皆さんもご存知で、実施もされているのではないかと思います。
しかし、より大規模かつ横断的に施策とデータを統合するとなると、下記のような課題が出てくるのではないでしょうか。
■よくあるマーケティングの統合行う際の課題
- ソリューションの機能・性能ばかりに着目していたが、それらが実は連携しづらいことがわかった
- スモールスタートで使い始めたが、最初のテスト段階で思ったように実施できず、効果も出なかったため、次の施策に踏み込めていない
- 他部門と連携をしないといけないが、データ管理の体制や仕組みが異なり、なかなか連携が進められない
これまでオフラインメディアの施策との連携は、コンテンツ・訴求内容のすり合わせが中心でした、しかしデジタルでは「システム」「データ」の連携が中心になっており、今まで以上に部門間での連携が求められ、その対応工数も増えてきています。
そういった状況の中では、目標や課題感を関係する部門を横断してすり合わせ、明確化する必要があります。特に、下記のような事はデジタルマーケティングのソリューション導入や連携施策を行う際には必須といえます。
■マーケティング・ソリューション導入に向けたFit & Gap プロセス
A) 現在の自社商品におけるカスタマージャーニーと、マーケティング施策実施状況を可視化し、できていること・課題を抽出する
B) そのうえで、競合他社や、自社があるべき姿のカスタマージャーニー像を明確化する
C) AとBのギャップを「どこから・どう埋めるのか」という視点で計画を策定する
ネット広告企画やSNSキャンペーンひとつとっても、マーケッターにとっては個別の1企画ですが、生活者からすると連続したコミュニケーションの1ピースとして認識されます。そういった中では、「組織・データ・システム」の連携と、カスタマージャーニーを考慮した全体最適化を、一体化して進めることを欠かさず行う必要があります。
セグメントづくりこそ戦略設計・施策設計の要
ではセグメントづくりの「戦略設計」と「施策設計」の要について考えていきます。
1.デジタルにおけるセグメントとは何か?そのメリットは?
どれだけデジタル・チャネルやソリューションが発達しても、マーケティングというものは「企業と生活者の絶え間ないコミュニケーションの内容と営み」であります。対面販売や電話での対応では、顧客に応じて対応するというのは今までもちろん行ってきました。
同じようにデジタルにおいても、「コミュニケーション」である以上、面している人々の関心やフェーズに応じて必要な情報の提供と対応というものが必要になってきます。かといって、顔の見えない顧客に対して個別の対応は簡単ではありません。
そこで大切なのが、ターゲット・フェーズ・行動ごとに「セグメント」を設計・管理することとなります。
セグメントというと、特定の商品・広告クリック・キャンペーン参加というイメージが多いのではないかと思います。
しかし、各デジタル・チャネルを統合し、ジャーニー全体を通しての対応・検証を行うためには、自社商品の「ターゲット」、認知から購入・ロイヤルユーザー化までの「フェーズ」、広告からメール・サイトまでの「行動」(これが一般的なイメージされるセグメントです)を組み合わせて「モレなくタブりない」セグメント設計をすることが大切です。
ターゲット・フェーズ・行動といった3つの要素をセグメント化することによって、設計したマーケティングプランの中で顧客が今どこに、どれくらいいるのか?という統合したマーケティングの中での位置・状況が把握可能になります。
2.恒常的なセグメント管理を行うためには?
先ほど説明しました通り、統合デジタルマーケティングにおいてはセグメントこそが設計と連携、検証する「単位」となります。
セグメントはモレなくタブりなく作成したら終わりではありません。施策ごとに仮説を設定して、施策の結果とともに仮説が正しかったか?どこを強化すべきか?といった検証を恒常的に行うのが大切になります。
このような検証を恒常的に行うためには、メディアやキャンペーンの結果レポートを見るだけでは要因となった因子・変化を把握できず検証を十分に行うことができません。
自社のサイトや、メールへの反応なども含めて各チャネルと連携したうえで、セグメントの設計と管理を行う環境が必要です。そして、セグメントがマーケティングに関わる全部門・メンバーの「共通言語・単位」となるような意識づくりが必要となります。(検証方法に関しては後程説明します)
MAの役割と細かなセグメント作成の重要性
続いて、MAの役割と細かなセグメント作成の重要性について解説します。
1.セグメント運用という視点から見たMAの再整理
商品ごと、キャンペーンごと、顧客の行動ごとにメールやメッセージ配信を自動化するツールとしてMAはだいぶ一般的になってきました。
皆さんもSalesforce Marketing CloudやMarketoという代表的MA製品を聞いたことがある方も多いと思いますし、使用されている方も多いのではないでしょうか。
MAを利用することによって、製品・キャンペーンといったターゲット・シナリオごとに、ただセグメント化するだけでなく、性別などの顧客属性、コンテンツやクリエイティブ、メール開封やサイトアクセスといったフェーズ・行動を組み合わせてセグメント化をすることが可能です。
そうすることによって、マーケティング仮説やプランの中で何が対応できていて・どこで何が課題かといった検証までを行うことが可能になります。
2.MAの導入・施策の設計で考えるべきポイント
MAを活用してセグメントを設計し施策を実行するためには、MAツールの機能や仕様が自社の環境・体制にいかに対応できるかといった視点が必要となります。
■MAツール導入時・施策拡大時に意識すべきポイント
- 顧客DBやスマホアプリなど、既存のシステムとの連携は行いやすいか
- 現在実施している施策からの移行、ハードルは低いか
(購読停止管理や、リンクの生成・管理の統一など) - シナリオやセグメントを柔軟に恒常的に作成する場合、機能や操作で制約は起きないか
こうしたポイントを考慮したうえで、MAツールの選定や施策拡大・他ツールとの連携を進めていくことが大切です。
データ連携をより進めセグメント管理を行う要となるDMP
「DMP」はデータ連携をより進め、セグメント管理をより円滑に進めるために必要なツールです。
1.顧客育成のセグメント設計・管理にこそDMPは効果を発揮する
DMPもだいぶなじみの深いツールとなり、利用されている方も多いのではないかと思います。ただ、多くの企業では広告配信の最適化や検証、自社サイト・キャンペーンとの連携といった範囲での利用が多いのではないでしょうか。
DMPは異なるチャネル、離れたチャネルの連携にこそ効果を発揮します。その最たる例がメールの配信を行うMAとの連携です。
MAとDMPをデータ連携してセグメント作成することによって、メール未開封の顧客に広告配信するといったクロスチャネルでのアプローチが可能になります。
また、どういったターゲットのどのタイミングでメール・自社サイト・広告の効果があり、2nd・3rdパーティーデータなども活用して他にはどこに可能性があるのかといった、「マーケティングプランという地図の中での、セグメントという単位での可視化」が効率化することができるようになるからです。
2.MAとDMPを連携するときに抑えるべきポイント
ではMAとDMPを連携するためには何を留意すればいいのでしょうか。
現在多くのMAとDMPが存在し、多くの製品間で連携が可能となっております。その中で次のポイントを確認することをお勧めします。
■DMPとツール連携時に意識すべきポイント
- 自社のデジタル・ジャーニーにおいて、重視するチャネル、ツールは何か?
そのツールとの連携は可能で柔軟にできるか? - 自社の環境においてデータを連携してセグメントを管理する際、ボトルネックとなるシステム的箇所・体制はどこか
当然の話になりますが、顧客DBやキャンペーン管理、サイトアクセス、広告反応、コンタクトセンターの履歴といったデータは、別々の部門・システムで管理されており、連携が必要になります。
そういった際に、いかに連携しやすく、その結果柔軟にセグメントを作りやすいか?といった視点が必要になります。
DMPやMAを活用したセグメントの具体的な検証方法とよくある課題
さて、具体的にどうセグメントを管理・検証していけばいいのでしょうか。
ターゲットや商品、行動ごとにセグメントをつくるのはもちろんですが、それだけを眺めているだけでは「確かにそうだよね」という感想しか各マーケッターから出ず、次の施策や課題の議論を作るのに苦労してしまうといった課題に直面します。
ただセグメントのボリュームを見ただけでは、そこから新たな発見というのはなかなかなく「マーケッターの肌感・職人感」を補充することはできないのが現状です。
ではどのように検証を行えばいいのでしょうか?
そのためにはいかに仮説をつくり、そことの差はどうだったのか?その差は良いのか/悪いのかといった議論ができるように準備をしておく必要があります。
次のような仮説から検証までの取り組みをお勧めします。
- 商品ごとにターゲットとなる世代・属性のペルソナを作成します
- そのペルソナがどういったデジタル・ジャーニーで購入しロイヤル顧客となるか現状のチャネルや施策から具体化します
- ジャーニーの中でどういったチャネルでどういったコンテンツ(自社サイト・メール・広告・他社サイト)に接触し検討から購入に至るのか候補を出します
- 1から3で作成したターゲットの関心・属性をもとに、セグメントをDMPで作成し、どれくらいの規模になるかを現在のデータから「各マーケッターと一緒に議論して仮説を作り上げます」
- 施策の途中や終了時に各セグメントの反応(ボリューム)がどれ位だったのか、仮説との差はどうなのか、その差は良いのか/悪いのか、検証を行います
このようにして想定する顧客のカルテを作成するように項目化してセグメントを作成、その顧客の「健康診断」をおこなうかのように定期的にセグメントのボリュームの規模や変化をから、各施策の検証を行っていきます。
ここで大切なのは、「各マーケッターで集って、各セグメントの反応(ボリューム)を想像し合い、仮説を作る」という作業です。
仮説や前回の施策とどれだけ差があったか、その差はどうすべきかといった議論を行うことによって、統合マーケティングとして次の改善を全体・個別それぞれ連動しておこなうことができます。
まとめ
今回は、顧客に対しての継続的・連携したデジタルコミュニケーションの重要性と、そのためにはMAやDMPといったツールでのセグメント設計と管理がいかに重要かということについてお話してきました。
全体最適と個別最適の両立というのはそう簡単なものではないのは事実です。
ただ、そういった中で「セグメント」という単位で全体と部分を少しずつ繋いでいけるのではないでしょうか。
みなさんのマーケティング活動において、どうセグメントというものは作れるか、そのためのツールは何が望ましいのかという再考の一助となれば幸いです。
著者紹介
デロイト トーマツ グループ コンサルタント
奥山 貴文
SIer、広告代理店でのCRM・DMP導入・運用、連動したキャンペーンやコンテンツの企画担当を経て現職に至る。主にSalesforceを中心としたCRMやマーケティング施策の立案、PMOを担当。
以上