効果的なMAの実現に向けたKPI設定とシナリオ設計のアプローチ|デロイトトーマツグループ

2020年7月3日

先日、ついにインターネット広告費がテレビ広告費を上回ったとして話題になっていました(出所:電通 2019年度日本の広告費)。これはスマートフォンの浸透なども相成ってデジタルでの顧客接点が増え続けている証左かと思います。他方で、顧客への情報伝達はますます難しくなってきています。そうした中で、顧客が求める情報を適したタイミングで届けるマーケティング・オートメーション(以後:MA)などマーテクの本格運用ニーズが高まっています。その際に、顧客に“効く”ひいては事業に“効く”シナリオをどのように設計していくのか?今回は、MA活用に向けたKPI設計、シナリオ設計のアプローチを解説します。

 

パーソナライズが求められる背景

マーケティングにおいて、従来はハードウェアとしての製品のスペックが商品選定の決め手でしたが、昨今はハードウェアに留まらないAIやIoTを活用したソフトウェア、情報発信やアフターサービスなどのコミュニケーションを通じた一連の顧客体験が商品・サービスの差別化要素となってきています。

また、多様な顧客情報を有するGAFA(Google・Amazon・Facebook・Amazonの略称。プラットフォーマーとしてIT業界で巨大で独占的な地位を占める企業群を指す)や流通を挟まず顧客接点を保持するD2C(Direct to Consumer)企業が、リアル・デジタルの境なく、顧客に合わせた広告やレコメンドなどのコミュニケーションを通じて高度な顧客体験を提供し、伝統的な大企業には難しい価値提供の実現を通じ、企業価値を高めて続けています。

 

一方で、顧客側を見るとメディアとの接触状況は、以前の4マスメディア+主要ポータルサイトを通じて情報を届けられていた時代から、世代毎にメディア接点が多様化し、通り一遍なチャネルでは情報を届け辛い状況になってきています。

加えて、顧客が受ける情報量は加速度的に増大し続けており、顧客にとっても多くの情報を取捨選択する必要が生まれています。

このように画一的なチャネルで画一的な情報を画一的なタイミングで届けるのでは、情報洪水の中で無視されてしまう時代において、これまで以上に顧客に寄り添った情報を適したタイミングとチャネルで届けていく、パーソナライズの重要性が増してきています。

 

そういった背景がある中で、パーソナライズを通じたOne to Oneマーケティングが情報発信する企業側に求められてきています。

 

マーケティング・オートメーション(MA)の対象

情報発信のパーソナライズが有効な商品

とはいえ、すべての商品に対してパーソナライズが有効なわけではありません。

その判断のための商品の分類として、関与度(高/低)と商品タイプ(感情型/思考型)でコミュニケーションを類型化したものがあります。(出所:米国の広告会社FCB社)

関与度とは、商品・サービスに対する購買の決定や選択に対して顧客が感じる心配や関心の度合いの事です。一方、商品タイプでは購入のプロセスにおいて感情が重要な役割を担う商品を感情型、事前の情報収集など事前に十分な検討が必要な商品を思考型として分類します。

この4つの類型に買われ方の軸を追加し、以下の6つに分類できます。

 

 

これらの分類の中では、関与度が高い商品/買われ方が特にパーソナライズした情報と相性が良いと言え、B2B/B2Cいずれもパーソナライズが有効です。

一方、関与度が低い商品に対してはパーソナライズというよりは、マスプロモーションや多数の店舗への商品露出が有効です。

 

MAのチャネル上の位置づけ

コミュニケーション・チャネルは顧客が能動的に情報を取りに来るプル型と企業が顧客に対して情報を発信するプッシュ型に大別されます。

 

 

例えばアプリ、ホームページ、LINEなどの、プル型とプッシュ型双方の特性を有する事には注意が必要です。

 

プル型は顧客が求める情報を取得しに来たタイミングでパーソナライズを行います。顧客自らが情報を取りに来ているため、適した情報を表示できれば伝達し易いという特性があります。その際には、来訪した顧客は”いま“どのようなキーワードで検索しているか、どの広告メッセージを見て来訪したか、どう回遊しているかなどを手掛かりに、リアルタイムに判断して情報を出し分ける必要があります。

 

一方、プッシュ型は企業が配信したいタイミングでパーソナライズを行います。そのため、情報を顧客に伝達するためには、より顧客ひとりひとりが求めるタイミングを想定して配信を行う必要があります。また、コンテンツを“過去”の顧客属性や行動履歴からパーソナライズするため、プル型ほどシビアにリアルタイム性を求められない事が多いという特性があります。

 

その中で、MAは主に後者のプッシュ型チャネルをパーソナライズするために適用されます。

 

MA導入の目的を合意する

大目標(KGI)を定める

「MAを導入して顧客に寄り添ったコミュニケーションを展開する」、その目的は分かるが、結果財務指標にどう影響するのか?と上位層に求められる事も多い事でしょう。

そういった問いにきちんと答えていくために、導入の目的を導入前にしっかりと整理し、定量的な観点での大目標(KGI)を定める必要があります。

 

分かり易いのは、売上向上を目的とし、チャネルを通じたコミュニケーションから発生した売上寄与度をKGIとして算出する方法です。以下に算出式の例を提示します。

  • 情緒型/情報提供型商品の売上=MAで向上した購入回数×商品単価
  • 繰り返し訪問の売上=MAで向上した訪問買上回数×訪問時の購入総額(複数店舗)

 

他方で、パーソナライズの目的を“将来の利益創出に向けた顧客基盤の強化”とすることもあるでしょう。その場合には既存会員のロイヤリティ向上や上位層の会員数増加をKGIと見なす事ができます。

 

故に、効果測定に関しては上記下線部の「MAで向上した指標の数値がいくつか」をきちんと算出する事が肝要です。

 

ケースバイケースではありますが、算出例としては、“シナリオのローンチタイミングでシナリオを実行する/シナリオを実行しない検証群に分け、それぞれの検証群での購入回数や単価の差分をMAの売上寄与とする”というようなやり方があります。

 

先行指標(KPI)を定める

とはいえ、運用においてはKGIの結果を待っていると、結果データを見て迅速に改善を行うことで効果を積み上げていく、デジタルマーケティングの特性が発揮できず、機会損失に繋がります。

そのためには、KGIに繋がる先行指標を事前に設計しておく必要があります。例えば、KPI算出式からKGIと先行指標の紐づき方を明確にする手法があります。

 

 

また、KPI算出式の設計に加えて、このようなレポートを運用サイドで迅速に確認するための仕組みの整備(レポートのシステム化など)も必要です。

そのニーズを受け、MAには多様なデータベースと連携できるツール特性があります。先ほどのKGIとMA上の施策を紐づけておくための事前のシステム側の整備も欠かせません。

 

シナリオ設計のアプローチ

前述の通り、事前に定めたKGI・KPIに対して高速にPDCAを回せる事がMAの特徴になります。その特長を活かす前提として、顧客体験に“効く”MAのシナリオを設計できるかどうかが肝要です。

 

このシナリオ設計には2つのポイントがあります。まず、現状課題を拠り所にして考える方法で、具体的にはアイデアベースでなくデータを検証して導くことで、事業サイドに偏った目線や声が大きい人のシナリオを優先するのではなく、データから顧客の困りごとを把握し、顧客に寄り添ったシナリオを導出していきます。

次に、シナリオ設計の際にはKGIへの寄与度をしっかりと見極めておくことが重要です。KGIをロイヤリティ向上としたのに、シナリオが販促ばかりになってしまうということは避けなければなりません。KGIの事前設計が、このシナリオ設計の段階で活きてきます。

 

さて、シナリオ化のための課題を導出するアプローチとしていくつかの切り口があります。

  • 購買プロセスからの課題導出
  • カスタマージャーニーからの課題導出
  • 顧客構造からの課題導出

 

購買プロセスからの課題導出

本アプローチは、特定の購買プロセスから課題を導出し、解決策としてのMAシナリオに繋げるアプローチとなります。

航空チケットや自動車など関与度の高いB2C商材のほか、B2Bの場面でも本アプローチを活用できます。例えば、展示会で獲得した名刺情報をもとに、見込み客として営業をかける際に、即時商談化しなかった見込み顧客にはMA経由で適時、情報を配信し、顧客接点を維持する事で、将来の商談化の布石へ繋げる事ができます。

 

<概要>

  • 必要な分析:購買プロセスの分析(Webアクセス解析など)、バスケット分析など
  • ツール:購買プロセス
  • シナリオ導出の観点:
    • 【B2C】来訪⇒回遊⇒カート投入⇒購入のどこで離脱しているか明確にし、補強するシナリオを考案
    • 【B2B】来訪⇒回遊⇒資料請求/名刺交換⇒商談化⇒決済⇒解約のどこで離脱しているか明確にし、補強するシナリオを考案
  • シナリオ例:再来訪フォローシナリオ、カート投入後フォローシナリオ、買い合わせ促進フォローなど

 

 

カスタマージャーニーマップからの課題導出

本アプローチは、クラスター(顧客の中から互いに似た性質を持つ顧客を集めてグループ化すること)を軸にした顧客像をペルソナ(典型的な顧客像)として描いた上で、ペルソナ別のカスタマージャーニーから課題を導出し、解決策としてのMAシナリオに繋げるアプローチとなります。

 

<概要>

  • 必要な分析:クラスター分析、クラスター別購買プロセスの分析(Webアクセス解析など)
  • ツール:ペルソナ、カスタマージャーニーマップ
  • シナリオ導出の観点
    • 【情緒型/情報提供型商品】「認知⇒興味⇒検討・比較⇒購入⇒アフターサポート」上の課題を明確にし、補強するシナリオを考案
    • 【繰り返し訪問】「認知⇒検討・比較/立ち寄り⇒購入・買い回り⇒再購入・再来訪までの関係維持」上の課題を明確にし、補強するシナリオを考案
  • シナリオ例:商品情報ステップメールシナリオ、購入サンキューメールなど

 

 

顧客構造からの課題導出

本アプローチは、顧客構造から課題を導出し、解決策としてのMAシナリオに繋げるアプローチとなります。

 

<概要>

  • 必要な分析:顧客構造分析、RFM分析、デシル分析
  • ツール:RFM
  • シナリオ導出の観点
    • 【情緒型/情報提供型】顧客ステージ上の課題を明確にし、補強するシナリオを考案
      (同一商品カテゴリーにいくつかの価格レンジがある場合。例えば、コンパクトカー⇒ミニバン/SUV⇒高級セダンなど)
    • 【繰り返し訪問】顧客ステージ上の課題を明確にし、補強するシナリオを考案
  • シナリオ例:ウェルカムシナリオ、会員ステージ移行促進シナリオ、休眠防止シナリオなど

 

 

以上、シナリオ導出の切り口は複数あります。顧客に寄り添ったコミュニケーションを実現していくために、様々な観点を持ってシナリオ設計を進めるとよいと考えます。

 

MAの更なる高度化に向けて

課題に対する解決策としてシナリオを具体化していく中で、または運用の中で論点になるポイントをいくつか挙げていきます。

 

肝となる運用業務設計・体制づくり

MAの活用の中で、意思決定を本格的にデータ・ドリヴンにし、検証を重ねていく仕組み・体制作りのためには、組織改編や人材採用など大掛かりな準備や討議が必要になります。

そのため、いきなり全面展開ではなく、まずはスモールスタートで成功例を出し、シミュレーションのベース数値を保有し、納得感を醸成していった上での本格的な展開が望ましいと考えます。

上記シナリオ導出のアプローチで例えると、まずは特定の購買プロセスに特化した形で成果を出し、その上でカスタマージャーニーなど顧客体験全体に展開していく流れがあります。

 

パーソナライズの必要条件であるコンテンツ戦略

MAで出し分けていく、といっても出し分けの元となるコンテンツがなければどうしようもありません。

MAの実現と並行して、コンテンツをどう調達していくためのコンテンツ戦略を描き、調達を推進していく必要があります。

 

顧客をアクティベーションする仕掛けづくり

併せて、顧客を動かすためには、キャンペーン施策やイベントなどリアルの場を使った施策も必要となってきます。

オウンドメディアとしてのコンテンツを出し続けていくだけでは限界があります。そこで、フックとなる施策をどう考えるか、柔軟に実現していくかも主要な論点となります。

 

以上、効果的なMAの実現に向けたシナリオ設計のアプローチとして記載させて頂きました。

顧客に寄り添ったコミュニケーションの実現のために、参考になれば幸いです。

 

著者紹介

デロイトトーマツグループ シニアコンサルタント

井形 信

 

新卒でSIer入社後、総合商社インキュベーションや広告代理店などを経て現職。10数年に渡りデジタルマーケティングに従事し、現職ではマーケティング領域を中心に多様なプロジェクトに従事。

既存コア事業のデジタライゼーション支援、Go To Market戦略立案支援、マーケティング業務改善(B2B/B2C)、デジタルマーケティング推進支援、他

 

以上

 

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