<中條氏>
本日は、パートナービジネス上の課題を科学して効率的に機能させるための「パートナーアクティベート」について深掘りしたいと思います。ゲストは、株式会社パートナープロップの代表を務めていらっしゃる井上拓海さんです。
<井上氏>
株式会社パートナープロップの代表をしている井上と申します。
もともとは株式会社リクルートでSaaS事業関連のアライアンス事業の企画担当をしておりました。月間受注件数を数十件から数千件へグロースさせた経験があるのですが、その経験を通じて、パートナービジネスの課題に直面したり、海外と比較して日本はパートナービジネスの普及が遅れていると感じたりしたことで、現在の会社を創業したという経緯となります。
本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
パートナービジネスの課題①未稼働
<中條氏>
まずは日本のパートナービジネスについて整理したいのですが、パートナービジネスの現状や課題はどのようになっていますか?
<井上氏>
私が実際に商談や取材などでさまざまな企業様とお話した結果、課題は2つに集約されていると感じました。
1つめが未稼働問題。複数のパートナー企業と契約しても、稼働する企業と稼働しない企業に二極化してしまうという課題です。
極端に言うと、しっかり稼働しているパートナー企業は1割ほどで、残りの約9割はほとんど未稼働という状況になっている事例は少なくありません。過去には、100社と契約したのに1社しか稼働していないという事例もありました。
また、稼働している企業の中でも、その企業内のどの営業担当者がきちんと動いていて、誰が動けていないのかがわからない、という状況に陥ってしまい、管理できていないというケースもよく見受けます。
<中條氏>
なぜこのような課題が発生してしまうのでしょうか?
<井上氏>
ひとことで表すと「見える化(可視化)ができていない」という背景がありますね。
社内であれば直接ヒアリングしたりITツールを用いて情報共有したりできるため、見える化しやすい傾向にあります。しかし、パートナービジネスは別々の企業同士のため情報共有の基盤を整備しにくく、情報の非対称性が生じてしまうと言えます。
その結果、お互い仮説で戦略を進めていくしかなく、未稼働問題につながってしまうという状況です。
パートナービジネスの課題②品質
<中條氏>
もう1つの課題についてもお聞かせください。
<井上氏>
パートナービジネスにおけるもう1つの課題が、品質です。提携しているパートナー企業が稼働してくれていれば、申込数が増えて顧客数が増加します。しかし、営業担当者を十分に育成できていないと、単に「申込を取ってくるだけの営業」になってしまい、その後の継続やリピートにつながらずに解約が多発してしまいます。つまり、パートナー企業内の営業体制や育成などを管理しきれていないため、質の低い申込ばかりが増えてしまうという状況になるのです。
<中條氏>
こちらは、なぜ起こってしまうのですか?
<井上氏>
品質問題に関しては、手数料が大きな原因となっているケースが多いですね。
たとえば、リード獲得数に応じた手数料形態の場合、トスアップするリード数が多ければ多いほど手数料が多く手に入ります。そのため、パートナー企業は「リードをたくさんつなげれば良い」という思考になりやすく、トスアップしたあとに受注につながったかどうかは関係がなくなってしまい、質の低いリードを量産するようになってしまうのです。
パートナー企業と目標をすり合わせておかなければ、こうした課題に陥りやすくなりますね。
<中條氏>
この場合、どういった解決策がありますか?
<井上氏>
最も簡単なのは、パートナー企業に何をしてほしいのか明確にすることです。たとえば、「トスアップしたリード数」ではなく「トスアップしたリードから受注につながった件数」を手数料形態にしておけば、パートナー企業は自然と「受注につながりやすい=質の高い」リードをつなげようと努力するはずです。
<中條氏>
確かに、受注という目標が明確になっているので、質の高いリードが増えそうですね。しかし、こうした手数料形態はパートナー企業にとっては結構ハードルが高いようにも感じます。その結果、未稼働問題にもつながってしまいそうですが……いかがでしょうか?
<井上氏>
その通りでして、実際に前職でも同様の問題が起きたことがあります。そのときは「リード獲得」と「受注」という2つのフェーズで手数料が発生するようにしたことで、パートナー企業のモチベーションアップにつなげられました。
パートナービジネス領域は「ナレッジ」も「ツール」も不足状態
<中條氏>
パートナービジネスがうまくいっている企業様はいらっしゃるのでしょうか?
<井上氏>
某企業様の調査では、成功したと感じているのは約2割で、約4割は失敗したと感じており、残りの約4割は改善中であるという結果が出ています。
どのようなポイントで「成功」と定義するかは難しいのですが、基本的には「CAC(顧客獲得単価)が他チャネルと比較して見合うのか」と「自社チャネルと同等かそれ以上の申込件数があるか」という点が重要です。
<中條氏>
パートナービジネスは、受注確度の高いホットリードをトスアップしてもらうことが多いので成果につながりやすいのかなと思っていましたが、成功しているのは約2割しかいないのですね。このような現状ということは、パートナーアクティベートの余地は大きそうですね。
<井上氏>
まさにその通りです。「マーケティング」「セールス(営業)」「アライアンス」という販促3大チャネルがある中で、マーケティングはMA、セールスはSFAやCRMといったツールが登場して市場がグロースしていますが、アライアンスだけはツールもナレッジも不足しているのが実情です。
「パートナーアクティベート」とは?
<中條氏>
そうした実情をふまえて、改めてパートナーアクティベートとはどのようなものなのかご紹介をお願いします。
<井上氏>
そもそもパートナービジネスでは「商材の取り扱いやすさ」と「商材の売上(単価)」が重要になります。
この2つの軸で考えたとき「取り扱いやすく、単価も低い」という商材、つまり低価格で知名度も高い商材はパートナービジネスがうまくいきやすい傾向にあります。直近で言うと、コロナ禍のZoomなどですね。
もう1つが「取り扱いにくいが、単価が高い」という特化した商材も、パートナービジネスがうまくいきやすいと言えます。たとえば、サーバーやCRMなど、ターゲットを絞った高単価な商材ですね。
一方、最近パートナービジネスを始めたいと考える企業様は、知名度が低い商材や新しいSaaS商材が多いため、パートナー企業にとっては取り扱いにくく売上期待も低いため、なかなか手を出しにくいという状況です。
<中條氏>
そうした状況は、どのように解決できるのでしょうか?
<井上氏>
よくありがちなのが、パートナー企業と勉強会をして「弊社の商材を売ってください」とお願いする事例ですね。私たちは「お願いします営業」と呼んでいるのですが、この場合だとパートナー企業の情や関係性に左右されてしまいます。
そこから離れるためには、社外のリソースであっても定量的に可視化できる状態を作り、パートナー企業を科学することが重要です。これが「パートナーアクティベート」です。
まずは、パートナー企業の情報を集約できるデータベースを構築します。
その後、パートナー企業をイネーブルメントしていくフェーズに入ります。売れる状態になっているのかを数値単位で把握して育成プログラムを構築し、パートナー企業内の営業担当者一人ひとりの受講状況や理解度を数値で可視化します。そして、各営業担当者の営業活動を促進するためのインセンティブを設定し、営業活動の成果を数値化してハイパフォーマーとローパフォーマーに分け、さらに各個人に最適化した育成プログラムを実行していくというサイクルです。
パートナー企業内の状況を把握したうえで、適切なフォローをしていくことがうまくいくポイントなのかなと感じています。
<中條氏>
ベンダー主導で動き、動かせていくということですね。
PRMツールを活用してパートナーアクティベートを加速!
<中條氏>
フォローアップが難しいかと思うのですが、どのようにしたら良いのでしょうか?
<井上氏>
パートナー企業内の営業担当者すべての理解度や稼働率などを分析すると、1人くらいはどちらも高水準でできている人材がいるはずです。そうした人材にヒアリングして、販売成功事例を型化するのが効果的です。たとえば、サービス理解資料、トークスクリプト集、商談動画などの育成コンテンツを作成して、フォロー対象となる人材に育成コンテンツを提供してフォローしていきます。
<中條氏>
データを集約したり分析したりする方法について教えていただけないでしょうか?
<井上氏>
大企業様ですと、自社でシステムを開発している場合が多いですね。
一方、海外ではPRM(パートナーリレーションシップマネジメント)のツールを活用していることが多く見られます。当社もPRMツールの「PartnerProp」を提供しており、大企業様のように自社システムを開発するコストやリソースがない企業様でも、手軽に安心してお使いいただけるパートナービジネス用のツールとなっています。
PRMツール「PartnerProp」について
<中條氏>
具体的にどのようなツールなのでしょうか?
<井上氏>
パートナー企業の企業情報を集約できるデータベース機能だけでなく、パートナー企業をイネーブルメントするためのeラーニング機能も搭載し、そのeラーニングの結果、誰がどのくらい売れる状態になっているのか数値で可視化できます。さらに、ベンダーもパートナー企業も使えるCRM機能も搭載し、会社が違っても共通のCRMで営業情報を可視化・共有できるようになっています。そうして稼働状況や成果などを共有し、適切なフォローをしていくという仕組みです。
<中條氏>
冒頭で「海外はパートナービジネスが普及している」とおっしゃっていましたが、「PartnerProp」によってパートナーアクティベートが進んでいくと、日本も海外に引けを取らないくらいになっていきそうですね。
パートナービジネスで海外に追いつくためには
<中條氏>
井上さんが考える、パートナービジネスの未来図を教えてください。
<井上氏>
ある著名な方が「日本のパートナービジネスは米国と比較して20年遅れている」と話していましたので、その20年を取り戻すことが必要だと考えています。そのときに重要なのが2つです。
1つめが「ナレッジの標準化」です。パートナービジネスがうまくいくナレッジを仕組み化して、広く展開していきたいです。
そしてもう1つが「DX化」。DX化させることで、効率化と自動化を実現することが重要ですね。
<中條氏>
本日は貴重なお話ありがとうございました。