学生時代を経て、社会人になってからも学習は続く。自社商材について、業界について、顧客について、職種について、さまざまな学びを通じて自身のスキルアップをすることで仕事のパフォーマンスにつながる。しかし、なかなか知識を習得できず悩んでいるビジネスパーソンも少なくない。
モノグサ株式会社の竹内氏に、ビジネスパーソンの学習や企業の研修など、仕事における「記憶」について詳しい話をうかがった。
「記憶」は子どもも大人もお年寄りも、全人類の課題である
――御社はどのような事業を展開しているのでしょうか?
<竹内氏>
われわれ、モノグサ株式会社は「記憶の会社」です。記憶すること、覚えることを苦しくない行為にするため「記憶を日常に。」をミッションとしてサービスを展開しています。
たとえば、学生時代、英単語を覚えるときに単語帳を使ったり、漢字を覚えるときに繰り返しノートに書いたりした経験はありませんか?実は世界的な研究では、ただ読んだり書いたりする学習方法よりも「思い出す」という行為のほうが長期で記憶が維持されるという結果が出ています。
読んで覚えようとすると、覚えたい対象が目の前に提示されている状態のため深く考えていませんよね。書くときも、お手本が目の前にある状態では、それを単に書いているだけになるため頭の中は回っていません。世界的な先行研究によると、何らかの問題や質問をされて答えを思い出し頭をフル回転している時間こそ、記憶が定着しているのです。
この「解きながら覚えていく」ということに着目したのが、当社のサービス「Monoxer」です。
――教育機関を対象としたサービスなのでしょうか?
<竹内氏>
もともと私は株式会社リクルートでカーセンサー事業に携わっていたのですが、幼少期から「教育格差をなくしたい」という想いがあり、現在の「Monoxer」の種となるコンセプトを思いつきました。その後、同社でスタディサプリが立ち上がることになり、そちらの事業へと異動希望を出して4年半ほど携わっている中で、改めて「記憶」の重要性を実感したのです。
高校時代の同級生で後の共同経営者となる畔柳にアイデアをぶつけた際、「記憶」は教育だけでなく全人類の共通課題であるという結論になりました。そこで、もともとスタディサプリの事業で教育分野についての知見があったため、まずは塾を中心とした教育分野から事業をスタートし、現在では企業の人材教育・人材開発でも活用していただいております。
企業の人材育成でも「記憶」が重要となる
――企業の人材教育に関して課題を抱えている経営者様は少なくありません。竹内様が企業の経営者様とお話する中で感じたことはございますか?
<竹内氏>
企業の経営者様は経営戦略や自社製品に目がいきがちなので、従業員の教育にフルコミットしていることは少ないと感じました。「誰でも売れるプロダクトを開発する」「市場で圧倒的なポジショニングを確立する」という部分に注力することが多く、「この営業担当者がもっとよくなるにはどうすべきか」に関心を抱いている経営者様は少ないように見えます。
――しかしながら、企業が成長するためには人材が大事ですよね?
<竹内氏>
その通りなのですが、企業としてきちんとしたカリキュラムを整備することが難しいというケースもよく見受けられます。
よくあるのが、マニュアルや研修は整っていても、「マニュアル読んでおいてね」「研修受けておいてね」という一方的な指示になり、その従業員がマニュアルや研修の内容を習得しているか管理できていない事例ですね。
先ほども申しましたが、人間は思い出すことで覚えられます。業務を遂行するうえで必須の知識やスキルについてマニュアルや研修を整えても、後工程がケアされていないと、従業員は“思い出す”という行為をしないため覚えられていないのです。
Monoxerで人材開発を効率化
――こうした企業の課題に、御社がコミットできることは多いのでしょうか?
<竹内氏>
人間は、せっかく学習しても、何もしなければ忘れていってしまう生き物です。そのため、“覚えること”と並行して“忘れないこと”も重要だと考えています。
しかし、従業員一人ひとりがどのくらい記憶していてどのくらい忘れているのかチェックするのは、大きなリソースがかかりますよね。また、忘れている情報を再び覚えてもらうためのフォローにもリソースが発生します。
当社のMonoxerは、各人の記憶状況を予測する機能が搭載されているので、記憶状況を可視化することが可能です。また、過去の回答傾向から各人ごとの忘却状況も予測できるため、忘却状況に合わせて最適なタイミングでフォローして再度“思い出す”という行為をしていただくことで、記憶の定着につなげます。そのため、企業のリソースを最適化しつつ、一人ひとりの記憶の定着をサポートできると考えています。
――具体的に、どのような活用事例があるのでしょうか?
当社のMonoxerは、大きく分けて2つの活用方法があるかと思います。
1つめは、必須知識を記憶することをサポートする方法です。
たとえば、不動産業で宅建の資格が必要となった場合、宅建の資格を取得するための知識や情報などのコンテンツをMonoxerに搭載していただけると、従業員様の記憶状況や忘却状況に合わせてMonoxerがサポートし、試験日までに必要な知識を身につけられるようにサポートします。
もう1つの活用方法が、パフォーマンス向上のサポートです。
営業担当者や販売員など、顧客とコミュニケーションを取って売上を作っていく職種は、業務において必要とされる知識を覚えるだけでなく、その知識を瞬時に言葉にして顧客に伝える力が求められます。しかし、教育体制が整っていないと、顧客への対応やセールストークが属人化してしまうため、担当者によって回答内容が変わってしまいパフォーマンスにもバラつきが生じます。
そこで、Monoxerに回答内容やセールストークを登録しておけば、従業員はその内容を記憶することができるため、言うべきタイミングで言うべきことを言えるようになるのです。
Monoxerの詳しい機能やサポートとは
――Monoxerについて詳しくお聞きしたいのですが、特徴的な機能を教えていただけますか?
<竹内氏>
先ほども申した通り、Monoxerには「記憶状況」と「忘却状況」を予測する機能が搭載されています。一般的な学習系ツールは「学習状況」を可視化できる機能はありますが、Monoxerは学習した後の“記憶”と“忘却”をAIが予測します。記憶状況に合わせてMonoxerが難易度の異なる問題を出すので、ユーザー様は適切なレベルの問題を解いて憶えていくことができ、最終的にはノーヒントで回答できるようになって記憶が定着します。そして、人や情報によって異なる忘れやすさに合わせてアフターフォローし、記憶の着実な定着を実現できます。
この記憶状況や忘却状況は、管理者も把握することが可能です。そのため、誰がどのくらい覚えているのか把握しながら、個別にロールプレイングなどを実施できます。
また、手書き文字認識機能や音声認識機能も搭載しているので、必要に合わせて活用していただくことで適切な方法で学習をサポートしていけます。
――人材教育に関するコンサルティングなども行っているのでしょうか?
<竹内氏>
コンサルティングとは少し違うかもしれませんが、企業様の営業スキルを向上させるお手伝いをさせていただいています。
当社では独自で「営業検定」という、営業スキルを評価して成長させていく仕組みを構築しています。この営業検定のノウハウをもとに、企業様でも営業検定を運用できるようになるサポートをしているので、「営業力を底上げしたい」「営業の人材育成に課題がある」という企業様からのご相談も増えています。
目的合理的に楽をしながら記憶を定着
――今後、どのような分野への展開を考えていらっしゃいますか?
<竹内氏>
まずは、ブルーカラーの分野です。たとえば建設業などの現場では機械による省人化が進んでいますが、現場を回していくための高度な知識や、臨機応変な対応力、現場担当者同士のコミュニケーションなど、人間でなければできない業務も少なくありません。そのため、Monoxerがそうした知識やスキルの定着をお手伝いし、ブルーカラーの分野がさらに効率化するお手伝いをしたいと考えています。
もうひとつがヘルスケア分野です。人間の脳神経は、使っていないと衰えていく一方なので、認知症や痴呆が進んでしまいます。実際、痴呆防止を目的として老人ホームで学習ドリルや麻雀などを取り入れているケースもありますよね。
Monoxerは高齢者が何かを思い出す手助けをして、記憶を維持して楽しい老後を過ごせるお手伝いができるのではないかと考えています。
――今後ますます需要が増えていきそうですね。最後にお聞きしたいのですが「Monoxer(モノグサ)」というネーミングが非常にユニークだと感じていたので、由来を教えていただけないでしょうか?
<竹内氏>
「ものぐさ」って、「怠けている」のようなマイナスイメージがありませんか?しかし、弊社では悪い意味ではなく、「目的合理的ではないことを楽しよう」という意味だと捉えています。
昔話の「ものぐさ太郎」という話があるのですが、彼は一年中ごろごろしているように見えて、本当はすばらしい和歌を考えていたのです。ものぐさ太郎は、外からは怠けているように見えても、本人にとっては真に重要なことに集中していたのです。
当社のMonoxerも、「記憶する」という行為に関して、目的合理的に楽をしながらも実現していこうという意味を持っています。
――Monoxerを活用すると、記憶に関するリソースを最適化しながら効率的に記憶を定着できるのですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。