サステナブルツーリズムとは？意味をわかりやすく解説！

サステナブルツーリズムとは

サステナブルツーリズムとは、日本語で「持続可能な観光」と訳されます。これは、旅行先の環境、社会・文化、そして経済に配慮し、それらの価値を損なうことなく、未来の世代までその恩恵を受け継いでいけるような観光のあり方を指す言葉です。単に「環境に優しい旅行（エコツアー）」というだけでなく、地域の文化や暮らしを尊重し、観光がもたらす利益が地域経済に適切に還元される仕組みまでを含む、非常に幅広い概念です。

近年、世界中で問題となっているオーバーツーリズム（観光公害）や、気候変動への対策が急がれる中で、このサステナブルツーリズムの考え方はますます重要性を増しています。それは、SDGs（持続可能な開発目標）の達成にも大きく貢献する、現代の旅行者に求められる新しい旅のスタンダードと言えるでしょう。

国連世界観光機関（UNWTO）による定義

サステナブルツーリズムの議論において、最も基本となるのが国連の専門機関である国連世界観光機関（UNWTO）による定義です。UNWTOはサステナブルツーリズムを「訪問客、産業、環境、そして受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義しています。

この定義は、サステナブルツーリズムが以下の3つの大きな柱のバランスを保つことの重要性を示しています。

このように、サステナブルツーリズムは、これら3つの要素が相互に関連し合い、長期的に良好なバランスを保つことで初めて実現されるのです。

サステナブルツーリズムが目指す未来

サステナブルツーリズムが目指しているのは、単に旅行中の環境負荷を減らすことだけではありません。その先にあるのは、観光という活動を通じて、旅行者と受け入れ地域の双方、そして地球全体が豊かになる未来です。

具体的には、観光地の美しい自然や貴重な文化が、過度な観光によってすり減ってしまうのではなく、旅行者が訪れることでむしろ保全され、その価値が高まっていくような好循環を生み出すことを目指します。これにより、今日の私たちだけでなく、未来の子供たちも同じようにその土地の魅力を体験し、感動することができるようになります。

旅行は、私たちに新しい発見や感動を与えてくれる素晴らしい体験です。サステナブルツーリズムは、その素晴らしい体験を、訪れる場所や人々への敬意と感謝を伴った、より責任ある行動へと進化させる考え方なのです。それは、旅を一過性の「消費」から、未来への「投資」や「貢献」へと変える、新しい時代の観光の姿と言えるでしょう。

サステナブルツーリズムがもたらすメリット

サステナブルツーリズムは、環境や社会に配慮するだけの難しい取り組みではありません。実は、旅行する私たち自身と、私たちを迎え入れてくれる地域社会の双方にとって、多くの素晴らしいメリットをもたらす「三方よし」の考え方に基づいた旅のスタイルなのです。

ここでは、旅行者側と受け入れ地域側、それぞれの視点から具体的なメリットを詳しく解説します。

旅行者側のメリット

サステナブルツーリズムを選ぶことは、旅行者にとって、これまでの観光とは一味違う、より豊かで満足度の高い体験につながります。

より深い文化体験ができる

サステナブルツーリズムでは、単に有名な観光スポットを見て回るだけでなく、その土地の歴史や文化、人々の暮らしに深く触れる機会が豊富にあります。例えば、地元の職人から伝統工芸を直接教わったり、農家民宿に泊まって農業体験をしたり、地域の祭りに参加させてもらったり。こうした体験を通じて、ガイドブックには載っていないその土地の本当の魅力を発見できます。

地域の人々との交流は、旅を何倍も思い出深いものにしてくれます。表面的ではない、本物の文化に触れることで、旅は単なる娯楽から「学び」や「自己成長」の機会へと変わるのです。

自然環境の保全に貢献できる

自分の旅が、訪れた場所の美しい自然を守る一助となる。これはサステナブルツーリズムがもたらす大きな喜びの一つです。環境に配慮したエコツアーに参加したり、地産地消を推進するレストランで食事をしたり、ゴミの持ち帰りを徹底したりといった小さな行動が、その土地の環境負荷を減らし、自然保護につながります。

ツアー料金の一部が国立公園の維持管理や希少な動植物の保護活動に寄付されるプログラムもあります。旅を楽しみながら、未来の世代のために美しい自然を守る活動に参加できるという実感は、大きな満足感を与えてくれるでしょう。

受け入れ地域側のメリット

サステナブルツーリズムは、旅行者だけでなく、観光客を受け入れる地域コミュニティにも持続的な恩恵をもたらし、地域の未来を明るく照らします。

地域経済の活性化

サステナブルツーリズムは、地域に根差した経済循環を生み出します。旅行者が地元の個人経営の宿泊施設や飲食店、土産物店を利用することで、そのお金が地域内で循環し、コミュニティ全体を潤します。これは、利益が地域外の大企業に流出するマスツーリズムとは大きく異なる点です。

また、地域の自然や文化を活かした新たな観光商品が生まれることで、ガイドやインストラクターといった新しい雇用が創出され、若者の地元定着やUターン・Iターン移住のきっかけにもなります。観光収入が大手資本に集中せず、地域コミュニティ全体に還元されることで、持続可能な経済発展が実現します。

伝統文化の継承

過疎化や後継者不足によって失われつつある地域の伝統文化や芸能も、サステナブルツーリズムによって光が当たります。旅行者がその価値を認め、体験したいと訪れることで、地域住民は自らの文化に改めて誇りを持ち、次世代に継承していこうという意欲を高めます。

観光が伝統的な祭りや工芸品の維持・保存のための重要な収入源となるケースも少なくありません。観光が、消えゆく可能性のあった貴重な文化や歴史的景観を守る力となり、地域のアイデンティティを未来へとつないでいくのです。

サステナブルツーリズムを体験できる日本の旅行先

日本国内には、サステナブルツーリズムの理念を実践し、旅行者と地域社会、そして環境のすべてにとって良い関係を築いている魅力的な旅行先が数多く存在します。

ここでは、その中でも特に代表的な「自然との共生」「伝統文化の継承」「環境先進都市」という3つの異なる側面から、サステナブルツーリズムを深く体験できる旅行先をご紹介します。

自然と共生する旅 小笠原諸島

東京都に属しながら、本土から約1,000km離れた場所に位置する小笠原諸島は、その独自の生態系が評価され、2011年に世界自然遺産に登録されました。「東洋のガラパゴス」とも称されるこの場所では、自然環境への負荷を最小限に抑えながら、その唯一無二の価値を体感するエコツーリズムが根付いています。

小笠原へのアクセスは片道24時間の船旅のみ。この物理的な距離が、オーバーツーリズムを防ぎ、豊かな自然を守る一因となっています。島を訪れる旅行者には、外来種の持ち込みを防ぐための靴底洗浄など、厳格なルールへの協力が求められます。また、南島のような特定の地域へ立ち入る際は、東京都認定の自然ガイドの同行が義務付けられており、専門的な知識を持つガイドと共に自然を深く学びながら、環境保全に貢献することができます。

ザトウクジラの繁殖地としても知られ、ホエールウォッチングも人気のアクティビティですが、ここでも船がクジラに与えるストレスを減らすための自主ルールが徹底されています。このように、島全体で自然と共生するための知恵と努力が息づいているのです。

伝統文化を守り伝える旅 白川郷

岐阜県に位置する白川郷は、大小100棟余りの合掌造り家屋が今も残り、人々が生活を営む集落として世界文化遺産に登録されています。ここでは、美しい景観だけでなく、「結（ゆい）」と呼ばれる、住民同士が助け合う相互扶助の精神が、サステナブルな地域社会の基盤となっています。

合掌造りの象徴である茅葺き屋根は、30〜40年に一度、大規模な葺き替えが必要です。この作業は専門の職人だけでなく、多くの地域住民が協力して行う「結」によって支えられており、この共同作業そのものが重要な文化継承の場となっています。旅行者は、合掌造りの民宿に宿泊することで、単なる観光客としてではなく、この地域で続く人々の暮らしや文化に深く触れることができます。

近年はオーバーツーリズムへの対策も進められています。例えば、冬季のライトアップイベントは完全予約制を導入し、一度に訪れる観光客の数をコントロールすることで、住民の生活環境と観光客の満足度の両立を図っています。旅行者一人ひとりが、ここに住む人々の生活空間にお邪魔しているという意識を持つことが、この貴重な文化を未来へ繋ぐために不可欠です。

環境モデル都市を訪ねる旅 京都市

日本を代表する国際観光都市である京都市は、多くの観光客を受け入れる一方で、深刻なオーバーツーリズムという課題に直面してきました。その経験から、歴史的な景観や文化を守りながら、環境負荷の少ない持続可能な観光都市を目指す先進的な取り組みを数多く行っています。

市は「歩くまち・京都」をスローガンに掲げ、公共交通機関の利用を強力に推進しています。バスや地下鉄の一日乗車券の活用や、市内各所に設置されたレンタサイクルを利用することで、旅行者はCO2排出量を抑えながら快適に移動できます。また、観光客が特定の有名寺社に集中するのを避けるため、早朝観光の推奨や、これまであまり知られていなかったエリアの魅力を発信するなど、時間と場所の分散化にも力を入れています。

「しまつのこころ」という、ものを大切にする京都の伝統的な価値観に基づき、ごみの削減にも市を挙げて取り組んでいます。マイボトルの持参者への給水サービスや、使い捨てプラスチック製品の削減を推進する宿泊施設や飲食店も増えています。歴史ある街並みを楽しみながら、最先端の環境への取り組みに触れることができるのが、京都でのサステナブルツーリズムの大きな魅力です。

今日からできる！サステナブルツーリズムの実践方法

サステナブルツーリズムは、決して難しいことではありません。旅行の計画段階から現地での過ごし方まで、ほんの少し意識を変えるだけで、誰でも環境や地域社会に配慮した旅を実践できます。

ここでは、具体的なアクションを4つのステップに分けてご紹介します。

交通手段の選び方

旅行全体のCO2排出量のうち、移動が占める割合は非常に大きいと言われています。そのため、環境負荷の少ない交通手段を選ぶことは、サステナブルツーリズムの重要な第一歩です。

長距離移動は公共交通機関を優先する

旅行先までの移動には、飛行機や自家用車ではなく、鉄道やバスといった公共交通機関を積極的に利用しましょう。特に鉄道は、一人当たりのCO2排出量が航空機に比べて大幅に少ない移動手段です。例えば、東京から大阪へ移動する場合、新幹線を利用することで航空機に比べてCO2排出量を約8分の1に抑えることができるとされています。

現地での移動は「スロー」を意識する

現地に到着してからの移動も工夫次第で環境負荷を減らせます。レンタカーが便利な場面もありますが、電車やバス、路面電車などを活用することで、CO2排出を削減できるだけでなく、車窓から見える地域の日常風景を楽しんだり、地元の人々と触れ合ったりする機会も生まれます。また、徒歩やレンタサイクルでの散策は、健康にも良く、見過ごしがちな小さな発見があるため、旅の満足度をさらに高めてくれるでしょう。

宿泊施設の選び方

どのような宿泊施設を選ぶか、そしてそこでどう過ごすかも、サステナブルな旅の重要な要素です。環境保全や地域貢献に積極的に取り組んでいる宿泊施設を選んでみましょう。

環境に配慮した宿を選ぶ

近年、多くの宿泊施設が環境への取り組みを始めています。例えば、再生可能エネルギーの導入、リネンの交換頻度を減らす取り組み、地産地消の食材を使った食事の提供、アメニティのバイオマス製品への切り替えなど、その内容は多岐にわたります。宿の公式サイトなどで、「エコマーク」や「Bコーポレーション（B Corp）」といった環境認証の有無や、具体的な取り組み内容を確認してみるのがおすすめです。

地域経済に貢献する宿を選ぶ

大規模な外資系ホテルだけでなく、地域の人が経営する旅館や民宿、ペンション、古民家を改装した宿などを選ぶことも、素晴らしい選択です。宿泊費が直接地域に還元され、地域経済の活性化に繋がります。オーナーやスタッフとの交流を通じて、ガイドブックには載っていない地元の情報を得られることも、こうした宿ならではの魅力です。

宿泊先でのサステナブルな過ごし方

滞在中も、少しの心がけで環境負荷を減らすことができます。

• アメニティの持参：歯ブラシやカミソリなど、使い捨てのアメニティはなるべく持参し、ごみを減らしましょう。
• 省エネ・節水：部屋を離れる際の消灯やエアコンの適切な温度設定、シャワーの時間を短くするなど、家庭と同じように省エネ・節水を心がけましょう。
• リネンの交換を断る：連泊する場合、シーツやタオルの交換が不要であることを伝えましょう。これにより、洗濯に使われる水やエネルギー、洗剤の使用量を削減できます。

現地での食事や買い物のポイント

旅の楽しみである食事や買い物も、サステナブルな視点を取り入れることで、より豊かで意味のあるものになります。「地産地消」と「ごみを減らす」がキーワードです。

地産地消で地域の食文化を味わう

食事は、その土地で採れた旬の食材を積極的に使っているレストランや食堂を選びましょう。「地産地消」は、食材の輸送にかかるエネルギー（フードマイレージ）を削減できるだけでなく、地域の農業や漁業を応援することに繋がります。郷土料理を味わうことは、その土地の食文化を理解し、尊重することにもなります。食べ残しをしないように適量を注文し、フードロス削減にも貢献しましょう。

地域に根ざしたお土産を選ぶ

お土産を選ぶ際は、どこでも手に入る大量生産品ではなく、その土地の職人が手掛けた伝統工芸品や、地元の素材で作られた特産品を選んでみませんか。作り手の顔が見えるような商品を選ぶことは、伝統技術や文化の継承を支えることに繋がります。購入することで、その地域の経済を直接的に応援できるのです。

ごみを減らす工夫を忘れずに

旅行中は、普段以上にプラスチックごみなどが出やすくなります。マイバッグやマイボトル、マイ箸などを携帯し、レジ袋やペットボトル、割り箸の使用を減らしましょう。また、お土産などを購入する際は、過剰な包装を断る勇気も大切です。

アクティビティの選び方

旅先での体験活動は、その土地の自然や文化への理解を深める絶好の機会です。地域環境や文化に敬意を払い、その保全に繋がるようなアクティビティを選びましょう。

自然のルールを守り、エコツーリズムに参加する

美しい自然景観を楽しむ際は、その環境を守るためのルールを必ず守りましょう。例えば、国立公園などでは、動植物を採取したり、むやみに餌を与えたりすることは禁止されています。地域の自然を熟知したガイドが案内するエコツーリズムに参加するのもおすすめです。自然の仕組みや地域の取り組みについて深く学ぶことができ、ツアー料金の一部が自然保護活動に役立てられることもあります。

文化に触れ、敬意を払う

地域の歴史や文化を学ぶために、博物館や資料館を訪れたり、伝統文化の体験プログラムに参加したりするのも素晴らしい選択です。地域の祭りや行事に参加する際は、見物客としてだけでなく、その文化を尊重する姿勢を忘れないようにしましょう。写真撮影が禁止されている場所や、神聖な場所への立ち入り制限など、現地のルールやマナーを事前に確認しておくことが重要です。

オーバーツーリズムを避ける工夫

特定の観光地に旅行者が集中しすぎる「オーバーツーリズム」は、地域住民の生活や自然環境に大きな負荷をかけてしまいます。有名な観光スポットだけでなく、少し足を延してまだ知られていない魅力的な場所を探してみるのも、サステナブルな旅の一つの形です。旅行時期をピークシーズンからずらすだけでも、混雑を緩和し、より快適で質の高い旅を楽しむことができます。

まとめ

サステナブルツーリズムとは、旅行先の環境、文化、経済に配慮した旅のスタイルです。旅行者はより深い文化体験ができ、受け入れ地域は経済活性化や文化継承に繋がるという、双方にとって大きなメリットがあります。

エコな交通手段の選択や地産地消を心がけるなど、私たち一人ひとりが日々の旅行で意識できることは少なくありません。未来の世代も美しい地球で旅を楽しめるよう、次の旅行から持続可能な視点を取り入れてみませんか。