チャットボットとは
製品やサービスを利用している中で、様々なシーンで疑問が生じたとき、これまではお客様窓口に相談に行ったり、カスタマーセンターに電話をしたりして企業は解決方法を顧客に提供してきました。しかし、窓口もカスタマーセンターも待ち時間が発生し、対応するには相当な人件費が必要になるなど、課題を多く抱えていました。
インターネットやスマホなどのデバイスの進展により、顧客の疑問をより素早く解決に導くために、疑問を受付て回答するまでを自動化する方法としてチャットボットの活用が進みました。ツールによっては機械学習の機能(AI)を活用して、問い合わせに対する精度をツール自身が高めるチャットボットが登場し、選択肢が増えたことなどを背景に近年導入ハードルが下がっています。
業務効率化、省人化に効果が期待できるため、社内利用やECサイトでの利用など、今後さらに導入は増えていくと考えられます。 まずは、チャットボットとはどのようなサービスなのかについて解説していきます。
自動で対話をおこなうプログラムのこと
チャットボットとは、「チャット(対話)」と「ロボット」を組み合わせた造語です。
テキストまたは音声の入力情報に対して、サーバー側で適切な回答を選択・応答するプログラムを指します。 スマートスピーカーで利用されているのAlexaや、スマホの音声アシスタントであるSiriは音声型のチャットボットです。ホームページに設置したり、LINEなどのメッセージアプリを通じて対話するチャットボットはテキスト型のチャットボットです。音声・テキストどちらのアウトプットでも身近なところで広く利用されています。
人工知能(AI)による機械学習ができるタイプもある
チャットボットは「ルールベース型」と「機械学習型」に大別されます。
ルールベース型とは、質問と答えの組み合わせ(=シナリオ)を事前に登録しておき、該当する質問を受けた際、それに対する答えを自動的に選択して返答する仕組みです。 現在世の中で使われているチャットボットのほとんどはルールベース型に該当します。 しかAIがまったく用いられていないわけではなく、入力内容が「いったい何について述べられているか」を判断する部分に自然言語処理が使われています。
機械学習型は、問い合わせ内容や答えを人工知能(AI)が学習するものです。膨大な会話ログを学習させる必要があり、コストもルールベース型より高額になります。 現時点では実ビジネスで使われる頻度はそれほど多くありませんが、自然な会話ができコミュニケーションを取るのに適していることから、ブランディングの用途で利用されることがあります。 また、機械学習型チャットボットには、インターネット上で公開されている会話内容をテキストマイニングすることで、より自然な会話を学習することができる長所もあります。 有名なのは大手コンビニのローソンで展開している「ローソンクルー♪あきこちゃん」です。 これはマイクロソフトが開発した女子高生AIの「りんな」をベースにした「Rinna Character Platform(りんなキャラクタープラットフォーム)」を活用したものです。 あきこちゃん、というローソンのキャラクターイメージにあった話し方、語彙をチューニングして提供しています。 なお、このチューニングには不適切な発言をしない設定も含まれています。適度なチューニングを施し、学習を重ねることでより正しい回答を導き出します。
機械学習型の最大のデメリットは、意図しない答えが返ってくる可能性があることです。 2016年に米マイクロソフトが公開した機械学習型のチャットボット「Tay.ai」は、9.11同時多発テロの話題やヒトラー擁護など不適切な発言を行ったことですぐに公開停止となりました。複数のユーザーが間違った方向にTayを調教したことが原因とされています。 運営企業側の開発するチャットボットに、不正利用の防止やどんな種類の発言をしてはいけないか、を学習できるシステムが備わっていなければ、一般的な顧客サポート用途には難しいことが分かる事例です。 そのため、今のところ「あきこちゃん」や「りんな」のような気軽な会話用途での活用が主となっています。
チャットボットが注目される理由
チャットボットの歴史を見ると、1966年に生まれた人工知能の「ELIZA(エライザ)」が、そのはじまりと言われています。 これは複雑な機能は持たず、入力されたテキストに対して事前にデータベース登録した会話内容をパターンマッチングで応答する対話型プログラムでした。 2010年代に入ると、2011年にAppleのSiriがiPhone 4Sに搭載されたのを皮切りに、GoogleのGoogleアシスタント、AmazonのAlexa、とチャットボットが次々と登場します。これらはユーザーをアシストする目的で開発されたものです。
古くから存在するチャットボットが近年改めて注目されるようになった理由のひとつは、人工知能の進化です。 AIの自然言語処理能力が向上したことで、ユーザーからの入力内容が「何について書かれた(発言された)ものか」を理解できるようになり、より柔軟に質問内容を理解し、適切な回答を返せるようになりました。 もうひとつ、チャットボットが注目されるようになった理由として、開発のハードルが下がったことが挙げられます。 LINEやFacebookなどのプラットフォームがチャットボット機能をAPIとして公開したことで、企業が比較的手軽にLINEやFacebookのアカウント上でチャットボットを搭載できるようになりました。顧客にとっても日頃使い慣れているサービス内でチャットボットを利用できるようになり、利用ハードルも下がっています。
チャットボットの活用シーン
最近では、Webサイトでチャットボットを目にする機会も増えました。主に以下のような場面で活用されています。
お問い合わせ対応
チャットボットの活用として最も多く、また効果がもっとも出やすいのは各種問い合わせ対応です。Webサイト上にチャットボットを設置してユーザーからの問い合わせに答えるほか、社内ヘルプデスクとしても活用されています。 たとえばアスクルが運営する通販サイト「ロハコ」では、チャットボットの「マナミさん」を導入したことでコールセンター担当者の工数を大幅に削減しています。
事務処理
チャットボットに希望日を入力するだけでスケジュールを確認して会議室を予約してくれたり、自動的に勤怠を打刻してくれたりと、日常業務で発生する事務処理への活用もできます。 またコールセンター業務軽減を目的として、オペレーターと会話しているユーザーが「次に質問しそうな内容の答え」を提示し、電話終了後に応答内容を自動で要約してくれる機能を備えたチャットボットも存在します。
チャットボットを導入するメリット
さて、ここまでチャットボットの概要や成り立ち、活用方法などについて整理しましたが、業務にチャットボットを導入すると、どのようなメリットが享受できるのでしょうか。
顧客接点の強化
電話やメール、お問合せフォームに加えて、Webサイト上で接客するチャットボットを導入すると、顧客接点を強化できます。 ユーザーがスムーズに目的のページにたどり着けたり、知りたいことや質問の回答がすぐに得られたりといった、ユーザーファーストなサービスを提供可能です。
顧客満足度・ユーザビリティの改善
日中の問い合わせはオペレーターが対応しますが、夜間や土日などの対応が困難です。チャットボットであれば24時間365日対応することができます。「いつでも問い合わせに対応してくれる」という点で顧客満足度の向上が期待できます。
問い合わせ内容記録の容易化
個々のオペレーターがバラバラに対応する電話などに比べ、やりとりの記録を容易にデータとして蓄積できます。 さらに蓄積したデータを分析することで、チャットボットのクオリティを改善することもできます。
業務の効率化
「送料はいくらですか?」といったような、比較的簡単な問い合わせをチャットボットが担当し、複雑な対応をオペレーターが対応することで、オペレーターの業務負担が軽減し、効率化や省人化につながります。
チャットボットの導入事例
続いて、チャットボットの具体的な導入事例を紹介します。活用シーンとしては、「お問合せ対応」に当たります。 紹介する3社のうち2社はWeb接客の側面が強いチャットボットで、一般ユーザーの疑問に答えたり、顧客の状況に合わせた適切な対応を行ったりすることで顧客満足度を高め、サービスの成果向上を実現しています。
freee株式会社
クラウド会計ソフトFreee(フリー)を開発・提供するfreee株式会社では、ユーザーのコンバージョン率向上の目的で、チャットボットを導入しました。 採用したのはギブリーが開発するチャットボット型マーケティングツールの「SYNALIO(シナリオ)」です。 有人チャットにリソースを割くことができないため、直感的に作成でき、操作も簡単な同チャットボットの導入が決定されました。 導入後は、新規登録件数や上位プログラムへの移行件数などに改善の効果が認められています。
佐川グローバルロジスティクス株式会社
佐川グループのロジスティクス部門である佐川グローバルロジスティクス株式会社では、社内向けにチャットボットを導入し、基幹システム関連問い合わせ数を半減させました。 採用したのはリコーが提供する「RICOH Chatbot Service」です。導入の手間が少なく運用コストも定額なのが特徴で、同社では導入により月に100件ほど発生していた基幹システム関連の問い合わせを約50%も削減できました。
株式会社ダイドーフォワード
アパレルブランドのニューヨーカーを手掛ける株式会社ダイドーフォワードでは、オンラインストア利用客の問い合わせ一次対応としてチャットボットを導入し、オペレーターが対応する問い合わせを削減させたほか、顧客満足度も向上させました。 採用したのは空色が提供する「OK SKY」です。同製品はアパレル系企業に多数の導入実績があります。
チャットボット導入は失敗する可能性もある
ただし、当然ながらチャットボットの導入は必ず成功するとは限りません。続いては、どんなパターンで失敗に陥る可能性があるか例を挙げてご紹介します。
パターン1:作って終わりになってしまう例
問い合わせ対応削減を目的にチャットボットを導入し、IT部門が率先してチャットボットを作成しました。 しかし事業部門へのヒアリングをほとんど行っていなかったため、利用者が求める質問内容と回答が用意できませんでした。 ユーザー側は「ほしい回答が得られない」、IT部門側は「事業部門が利用してくれない」ということで、メンテナンスをされないまま誰も使用しなくなってしまう、ということがあります。 チャットコンテンツの追加、修正をこまめに行うことで、より多く利用してもらえます。 はじめから完璧なものを提供することはせず、顧客に使い勝手をヒアリングし、履歴データを分析するなどして徐々に改善することが重要です。
パターン2:チャットボットに対する過剰な期待がハードルになる例
AI、チャットボット、RPAなど新しいテクノロジーに対して、私たちは「導入さえすればなんでも解決する」と過剰な期待を持ってしまいがちです。 しかしチャットボットを構築するためには、適切な設問設計やこまめなメンテナンスなどの地道な作業が不可欠です。 はじめは思うような答えが返せなかったときに過剰な期待の裏返しで「業績にプラスになっていないのではないか」「期待外れだ」などと社内で声が上がり、利用されなくなることがあります。 チャットボットについて正しく理解し、どこまでできるかを社内に周知するようにしましょう。
チャットボットの最適化について
チャットボットの利用率や満足度を向上させるためには、最適化が重要です。特にWeb接客用途で提供しているものは、ユーザーにとって使い勝手が良く適切な情報を提供するための最適化は欠かせません。
最適化の重要性
Web接客においても、一様に同じ対応をするのではなく、有人接客と同じような対応を行わなければ顧客は離れてしまいます。 例えば、すでに購入経験のある顧客に対して初回限定クーポンを表示するのは適切ではありません。 その顧客の属性や行動履歴に合わせて適切な対応をするような設定が必要になります。
最適化の方法
最適化の方法のひとつは「コミュニケーション設計」です。今まで蓄積していたWebフォームからの問い合わせ履歴、メールのやりとりなどをベースにチャットボットを設計します。 また運用開始後も、答えられなかった質問の回答をシナリオに追加するなどの作業が必要になります。
まとめ
チャットボットは、SiriのようなスマホのAIアシスタントから、スマートスピーカー、さらにはLINE上で稼働するものなど様々な提供形態があります。
AIの進化による機能向上に加え、手軽に構築できるクラウドサービスや大手プラットフォームのAPI公開などを背景に、最近では多くの企業でユーザーや社員向けのチャットボットが利用されています。
業務自動化・効率化の手段として大きな効果が期待されている反面、チャットボットの能力を正しく理解しないまま導入し、期待した効果がでなかったという失敗例も出始めています。
チャットボットをユーザーに活用してもらい、満足してもらうためには、きちんとした事前設計やこまめなメンテナンスが必要です。
自社のニーズや運用状況を踏まえ、適切なチャットボットを選択することが成功への近道になります。