「デザイン思考」の基本

現代のビジネス環境は、VUCA(ブーカ:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と言われ、市場や顧客のニーズはかつてない速さで変化し続けています。このような予測困難な状況において、従来の延長線上にある問題解決手法だけでは、革新的な製品やサービスを生み出すことが難しくなっています。
そこで今、世界中の企業から注目を集めているのが「デザイン思考」です。本章では、このデザイン思考の基本的な概念と、なぜ現代ビジネスにおいて不可欠とされるのかを解説します。
デザイン思考とは
デザイン思考(Design Thinking)とは、デザイナーが製品やサービスをデザインする際に用いる思考プロセスや手法を、ビジネス上のさまざまな問題解決に応用する考え方のことです。デザインというと、見た目の美しさや装飾をイメージしがちですが、ここでの「デザイン」は「人々の課題を解決するための計画や設計」という、より広範な意味合いで使われます。
このアプローチの最大の特徴は、一貫して「人間中心(ユーザー中心)」であることです。企業側の都合や技術的なシーズ(種)から発想する「プロダクトアウト」や、既存市場の分析から発想する「マーケットイン」とは異なり、デザイン思考ではまずユーザーを深く観察し、共感することから始めます。ユーザー自身も気づいていないような潜在的なニーズや本質的な課題(インサイト)を発見し、それを基点にアイデアを創出し、試作品(プロトタイプ)を用いたテストを繰り返しながら、解決策を練り上げていくのです。
この手法は、米国のデザインコンサルティング会社IDEO(アイディオ)が体系化し、スタンフォード大学のデザインスクール「d.school」が教育プログラムとして確立したことで世界的に広まりました。
ビジネスにおけるデザイン思考の重要性
なぜ今、多くのビジネスパーソンがデザイン思考を学ぶ必要があるのでしょうか。その重要性は、現代のビジネス環境が直面する3つの大きな変化に起因します。
- 顧客ニーズの多様化と高度化
インターネットやSNSの普及により、顧客は膨大な情報にアクセスできるようになり、価値観も多様化しました。単に機能的に優れた「モノ」を手に入れるだけでなく、それを通じて得られる感動や満足感といった「コト(体験)」を重視する傾向が強まっています。デザイン思考は、顧客の体験全体を深く洞察することで、真に心に響く価値を提供するための羅針盤となります。 - 既存の枠組みでは解けない問題の増加
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、サステナビリティへの対応、グローバル競争の激化など、現代の企業が取り組むべき課題はますます複雑化しています。過去の成功体験や論理的な分析だけでは、最適な解決策を見出すのが困難なケースも少なくありません。デザイン思考は、多様な視点を取り入れながら創造的なアイデアを生み出し、未知の課題に挑戦するための強力な武器となります。 - イノベーション創出の必要性
市場の成熟化が進む中で、企業が持続的に成長するためには、既存事業の改善だけでなく、新たな価値を創造するイノベーションが不可欠です。デザイン思考は、観察と共感を通じてユーザーの「不満」「不便」「不安」といったインサイトを発見し、それを画期的なビジネスチャンスへと転換するプロセスを後押しします。
デザイン思考がもたらすメリットとデメリット
デザイン思考を組織に導入することは、多くのメリットをもたらす一方で、いくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。双方を正しく理解し、自社の状況に合わせて活用することが成功の鍵となります。
| 分類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| メリット |
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| デメリット |
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デザイン思考を実践する5つのステップ

デザイン思考は、特定の決まった順番で進めるだけの一方通行のプロセスではありません。各ステップを行き来しながら、反復的に思考を深めていくことが特徴です。ここでは、最も広く知られているスタンフォード大学d.schoolが提唱する5つのステップを、具体的な手法とともに詳しく解説します。
ステップ1:共感(Empathize)
「共感」は、デザイン思考のプロセスにおけるすべての出発点となる最も重要なステップです。ここでは、製品やサービスのターゲットとなるユーザーを深く理解し、彼らの視点に立って物事を考えることを目指します。机上の空論ではなく、ユーザーが置かれている状況、抱えている課題やニーズ、そしてその背景にある感情や価値観までをも、まるで自分のことのように理解することが求められます。
共感を得るための具体的な手法
ユーザーへの深い共感を得るためには、以下のような手法が有効です。
| 手法 | 概要 | ポイント |
|---|---|---|
| インタビュー | ユーザーに直接対話を行い、経験や考え、感情などを深掘りして聞き出す。 | 「なぜ?」を繰り返し、表面的な回答の奥にある本質的な動機や価値観を探る。 |
| 観察(フィールドワーク) | ユーザーの実際の生活や仕事の現場に身を置き、行動や環境を注意深く観察する。 | ユーザー自身も無意識に行っている行動や、言葉にされない隠れたニーズを発見する。 |
| ペルソナ作成 | インタビューや観察から得た情報をもとに、象徴的なユーザー像(ペルソナ)を具体的に設定する。 | チーム内でユーザーに対する共通認識を持ち、感情移入しやすくする。 |
| 共感マップ | ユーザーが見ていること、聞いていること、考えていること、感じていることなどを整理するフレームワーク。 | ユーザーの内面を多角的に理解し、チームで共有するのに役立つ。 |
このステップで重要なのは、自分たちの思い込みや先入観を一旦脇に置き、謙虚な姿勢でユーザーの世界に没入することです。ユーザーが本当に求めているものを発見するための土台が、この「共感」の質によって決まります。
ステップ2:問題定義(Define)
「共感」のステップで集めた様々な情報(ユーザーの言葉、行動、感情など)を分析・統合し、解決すべき「本質的な課題」を明確に言語化するのが「問題定義」のステップです。ユーザーが抱える表面的な問題ではなく、その根本にある、より深く重要な課題を見つけ出すことが目的です。ここで定義した課題が、以降のステップすべての方向性を決定づけます。
良い問題定義のポイント
効果的な問題定義は、その後のアイデア創出を大きく左右します。以下の点を意識して課題を言語化しましょう。
- 人間中心であること:誰の、どのような課題なのかが明確になっている。
- 具体的であること:解決策の方向性が見える程度に、具体的で焦点が絞られている。
- 行動を促すこと:チームが「何とかしたい」と思えるような、ポジティブで示唆に富んだ表現になっている。
- 広すぎず、狭すぎないこと:アイデアの幅を狭めすぎず、かといって漠然としすぎない適切なスコープである。
このステップでは、しばしば「Point of View(POV:視点)」という形式で問題定義文を作成します。これは「[ユーザー]は、[ニーズ]を必要としている。なぜなら[インサイト]だからだ」という構造で記述され、チーム全員が目指すべきゴールを明確に共有するのに役立ちます。
ステップ3:創造(Ideate)
「問題定義」で明確になった課題に対して、解決策となるアイデアをできるだけ多く生み出すのが「創造」のステップです。ここでは、アイデアの質を評価するのではなく、固定観念にとらわれず、自由な発想でアイデアを拡散させることに集中します。突飛なアイデアや一見実現不可能に思えるアイデアも歓迎し、多様な可能性を探ることが重要です。
アイデアを量産するための代表的な手法
| 手法 | 概要 |
|---|---|
| ブレインストーミング | 複数人で「批判厳禁」「質より量」などのルールのもと、自由にアイデアを出し合う最も代表的な手法。 |
| マインドマップ | 中心となるテーマから関連するキーワードやアイデアを放射状に繋げていき、思考を可視化・整理する手法。 |
| SCAMPER法 | 「代用する」「組み合わせる」「応用する」など7つの切り口で、既存のアイデアを強制的に発展させるフレームワーク。 |
このステップを成功させる鍵は、心理的安全性が確保された環境を作ることです。どんなアイデアも否定されることなく受け入れられる雰囲気があるからこそ、参加者は安心して斬新なアイデアを発信できます。出されたアイデアを結合させたり、発展させたりすることで、さらに新しいアイデアが生まれることも少なくありません。
ステップ4:プロトタイプ(Prototype)
「創造」のステップで生まれたアイデアの中から、有望なものをいくつか選び出し、それを低コストかつ短時間で形にするのが「プロトタイプ」のステップです。プロトタイプとは、完成品を目指した「試作品」ではなく、アイデアを検証し、ユーザーから具体的なフィードバックを得るための「たたき台」です。頭の中のアイデアを実際に触れる形にすることで、チーム内での認識齟齬を防ぎ、ユーザーとの対話を促進する効果があります。
プロトタイプの種類と特徴
プロトタイプには、目的や検証したい内容に応じて様々な種類があります。
- ペーパープロトタイプ:紙とペンだけでアプリの画面遷移やウェブサイトの構成を表現する。最も手軽で素早く作成できる。
- モックアップ:実際の製品に近い見た目の静的なモデル。デザインやレイアウトの確認に適している。
- ロールプレイング:サービス提供の流れを、人が演じることでシミュレーションする。サービス全体の体験を検証するのに有効。
- ストーリーボード:漫画のコマ割りのように、ユーザーが製品やサービスを体験する様子を絵で表現する。利用シーンの文脈を共有しやすい。
このステップで大切なのは「完璧を目指さない」ことです。「Fail fast, learn fast(早く失敗し、早く学ぶ)」の精神で、不完全でも良いのでとにかく形にし、次の「テスト」のステップに素早く繋げることが、最終的な成功の確率を高めます。
ステップ5:テスト(Test)
「テスト」は、作成したプロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、その反応や意見(フィードバック)を収集するステップです。これは、自分たちのアイデアや仮説がユーザーに受け入れられるかを検証し、改善点を発見するための重要な機会となります。デザイン思考は、この「テスト」で得た学びをもとに、前のステップに戻って改善を繰り返すことで、ソリューションの精度を高めていきます。
効果的なテストの進め方
テストから有益な学びを得るためには、いくつかのコツがあります。
- プロトタイプを体験してもらう:プロトタイプのコンセプトを長々と説明するのではなく、まずはユーザーに触ってもらい、自然な反応を観察します。
- ユーザーに語らせる:「今、何を考えていますか?」「なぜその操作をしたのですか?」といった質問を投げかけ、ユーザーの思考プロセスを明らかにします。
- 仮説を検証する:「ユーザーはこの機能に価値を感じるはずだ」といった仮説が正しかったか、あるいは間違っていたかを、ユーザーの言動から客観的に判断します。
- フィードバックを次に活かす:得られたフィードバックや観察結果をもとに、プロトタイプの改善、アイデアの修正、あるいは問題定義の見直しを行います。
テストは、アイデアの成否を判断する「試験」ではありません。あくまでユーザーから「学ぶ」ための場です。批判的なフィードバックこそ、製品やサービスをより良くするための貴重な贈り物と捉え、次のサイクルに活かしていく姿勢が不可欠です。
デザイン思考の代表的なフレームワーク

デザイン思考を実践する際には、思考のプロセスを構造化し、チーム内での共通認識を形成するための「フレームワーク」が非常に役立ちます。フレームワークは、複雑な問題解決の道のりにおける地図のような役割を果たします。
ここでは、世界中で広く採用されている代表的な2つのフレームワーク、「スタンフォード大学d.schoolの5段階モデル」と「ダブルダイヤモンドモデル」について詳しく解説します。
スタンフォード大学d.schoolの5段階モデル
「スタンフォード大学d.schoolの5段階モデル」は、デザイン思考のプロセスとして最も広く知られ、多くの企業や教育機関で導入されている基本的なフレームワークです。前章で解説した「デザイン思考を実践する5つのステップ」は、まさにこのモデルに基づいています。このモデルの最大の特徴は、徹底したユーザー中心のアプローチと、各ステップを柔軟に行き来する反復的な性質にあります。
プロセスは必ずしも一方向ではなく、例えば「テスト」の段階で得られたフィードバックから、ユーザーへの「共感」が不足していたと判明すれば、最初のステップに戻ってリサーチをやり直します。このように、試行錯誤を繰り返しながら、より本質的な課題解決へと近づいていくのがこのモデルの進め方です。
各ステップの役割を以下の表にまとめます。
| ステップ | 主な活動 | 目的 |
|---|---|---|
| 1. 共感 (Empathize) | ユーザーインタビュー、行動観察、フィールドワーク | ユーザーの置かれている状況や感情、ニーズを深く理解する |
| 2. 問題定義 (Define) | ペルソナ作成、カスタマージャーニーマップ、インサイトの抽出 | ユーザーの視点から、解決すべき本質的な課題を明確に定義する |
| 3. 創造 (Ideate) | ブレインストーミング、アイデアスケッチ、マインドマップ | 定義された課題に対し、固定観念にとらわれず多様な解決策のアイデアを出す |
| 4. プロトタイプ (Prototype) | ペーパープロトタイプ、モックアップ作成、ロールプレイング | アイデアを低コストで素早く形にし、検証可能な試作品を作る |
| 5. テスト (Test) | ユーザーテスト、フィードバック収集、A/Bテスト | プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、課題や改善点を発見する |
このモデルは、新規事業の創出や既存サービスの改善、組織内の課題解決など、幅広いシーンで活用できる汎用性の高いフレームワークです。
ダブルダイヤモンドモデル
「ダブルダイヤモンドモデル」は、英国のデザインカウンシルによって2005年に提唱された、デザインプロセスを可視化するためのフレームワークです。その名の通り、2つのひし形(ダイヤモンド)が連なった形状をしており、思考の「発散」と「収束」のプロセスを明確に示しているのが特徴です。
このモデルは、「正しい問題を見つける」ことと「正しい解決策を見つける」ことの2つのフェーズを区別している点が非常に重要です。多くのプロジェクトが、問題設定が曖昧なまま解決策の議論に進んで失敗に終わるケースがありますが、このモデルはそのような罠を避けるのに役立ちます。
ダブルダイヤモンドは、以下の4つのフェーズで構成されています。
第1のダイヤモンド:問題発見フェーズ
- 発見(Discover):最初の「発散」フェーズです。ユーザーリサーチや市場調査を通じて、問題に関する情報を先入観なく幅広く収集します。ここでは、まだ明確になっていない潜在的な課題や可能性を探求します。
- 定義(Define):最初の「収束」フェーズです。発見フェーズで得られた膨大な情報の中から、最も重要で解決すべき本質的な課題は何かを分析し、絞り込みます。この段階の成果が、プロジェクトの方向性を決定づけます。
第2のダイヤモンド:解決策開発フェーズ
- 展開(Develop):2番目の「発散」フェーズです。定義された課題に対して、ブレインストーミングなどを用いて、できるだけ多くの解決策のアイデアを生み出します。ここでは質より量を重視し、多様な視点から可能性を広げます。
- 提供(Deliver):2番目の「収束」フェーズです。展開フェーズで出されたアイデアを評価・選定し、プロトタイピングとテストを繰り返しながら、最終的な解決策を磨き上げ、実装・提供へとつなげます。
| ダイヤモンド | フェーズ | 思考モード | 主な活動 |
|---|---|---|---|
| 第1:問題発見 | 発見 (Discover) | 発散 | ユーザーリサーチ、市場調査、データ収集 |
| 定義 (Define) | 収束 | インサイト分析、課題の特定、リフレーミング | |
| 第2:解決策開発 | 展開 (Develop) | 発散 | アイデアソン、ブレインストーミング、コンセプト開発 |
| 提供 (Deliver) | 収束 | プロトタイピング、ユーザーテスト、実装計画 |
d.schoolのモデルが具体的な「行動ステップ」を示しているのに対し、ダブルダイヤモンドモデルは思考の「モード(発散か収束か)」を意識させるフレームワークです。プロジェクトの初期段階で、問題そのものを見極める必要がある場合に特に有効です。
デザイン思考を導入する際の注意点とよくある誤解

デザイン思考は、革新的な製品やサービスを生み出すための強力なアプローチですが、魔法の杖ではありません。その本質を理解せずに形式だけを導入しようとすると、期待した成果が得られず「デザイン思考は使えない」という誤った結論に至ってしまうことがあります。
ここでは、導入を成功に導くために知っておくべき注意点と、陥りがちな誤解について詳しく解説します。
「デザイン」という言葉への誤解
デザイン思考を導入する際、最も大きな障壁となるのが「デザイン」という言葉が持つイメージです。多くの人が「デザイン」と聞くと、見た目を美しくするグラフィックデザインやプロダクトデザインを連想し、「デザイナーの専門スキル」だと捉えてしまいます。
しかし、デザイン思考における「デザイン」とは、ユーザーが抱える本質的な課題を解決するための「仕組み」や「体験」を設計することを意味します。それは、単なるモノの形や色に留まらず、ビジネスモデル、サービスフロー、組織のあり方までをも含む広範な概念です。この認識のズレが、以下のような問題を引き起こします。
- デザイン部門だけの取り組みになり、全社的な活動に広がらない。
- 最終的なアウトプットの「見た目」を整えることだけが目的化してしまう。
- 課題の本質的な解決ではなく、表面的な改善に終始してしまう。
デザイン思考は、デザイナーだけでなく、企画、開発、営業、マーケティングなど、あらゆる職種の人々が身につけるべき「思考法」であり「マインドセット」です。この本質を組織全体で共有することが、導入成功の第一歩となります。
プロセスをなぞるだけでは失敗する
「共感→問題定義→創造→プロトタイプ→テスト」という5つのステップは、デザイン思考のプロセスを分かりやすく示した優れたガイドラインです。しかし、このプロセスを単なる作業手順として、順番にこなすだけではイノベーションは生まれません。
デザイン思考が形骸化してしまう組織では、以下のような特徴が見られます。
- ユーザーインタビューを実施しただけで「共感」した気になっている。
- 付箋を使ったブレインストーミングをすることが「創造」のゴールになっている。
- プロセスを一度通し、うまくいかなかったからと諦めてしまう。
重要なのは、プロセスの背景にある思想を理解することです。デザイン思考の核心は、徹底したユーザー中心の視点と、小さな失敗を繰り返しながら学びを得ていく反復的なアプローチにあります。ステップは一直線に進むものではなく、プロトタイプやテストの結果を受けて、再び問題定義や創造のステップに戻ることも少なくありません。
プロセスを遂行すること自体が目的になるのではなく、「ユーザーの課題を本当に解決できているか?」と常に問い続け、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返す文化を醸成することが不可欠です。そのためには、経営層の理解と、失敗を許容し、そこから学ぶことを奨励する組織的なサポートが極めて重要になります。
デザイン思考が向いていないケース
デザイン思考はあらゆる問題解決に有効な万能薬ではありません。その特性を理解し、適用すべき領域を見極めることが重要です。誤った場面で無理に適用しようとすると、かえって時間やリソースを浪費し、非効率になる可能性があります。
具体的には、以下のようなケースでは、他の思考法やアプローチの方が適している場合があります。
| デザイン思考が向いていないケース | 理由 | 推奨されるアプローチの例 |
|---|---|---|
| 解決策や手順が明確な問題 | 課題が明確で、すでに確立された解決策が存在する場合、ユーザー調査から始めるデザイン思考は遠回りになります。 | ロジカルシンキング、業務フロー分析、既存のマニュアルやベストプラクティスの適用 |
| 漸進的な品質改善やコスト削減 | 既存の製品やプロセスの細かな改善(インクリメンタルな改善)には、データ分析に基づいたアプローチが効率的です。 | QC(品質管理)手法、シックスシグマ、データ分析、リーン生産方式 |
| 緊急性が極めて高い意思決定 | ユーザー調査やプロトタイピングには一定の時間を要するため、即時の判断が求められる危機管理やシステム障害対応には不向きです。 | トップダウンによる迅速な意思決定、インシデント対応フレームワーク |
| 法的・物理的な制約が非常に厳しい領域 | 自由な発想を促す「創造」のステップが、厳しい制約によって機能しにくい場合があります。 | 制約条件下での最適解を見つけるための数理最適化、既存技術の応用検討 |
デザイン思考が真価を発揮するのは、「何が問題なのか」が明確に定義されていない、複雑で未知な課題に取り組むときです。例えば、新規事業開発、既存事業の破壊的イノベーション、新たな顧客体験の創出といった場面でこそ、その力が最大限に引き出されます。自社が抱える課題の性質を見極め、適切なアプローチを選択することが成功への鍵となります。
まとめ
本記事では、デザイン思考の基本から実践的な5ステップ、代表的なフレームワークまでを解説しました。デザイン思考は、ユーザーへの深い共感を通じて本質的な課題を発見し、試行錯誤を繰り返すことで革新的な解決策を生み出す手法です。
成功の鍵は、単にプロセスをなぞるのではなく、その背景にあるユーザー中心の考え方を理解することにあります。この記事を参考に、まずは身近な課題解決からデザイン思考を取り入れてみてはいかがでしょうか。




