労働安全衛生法による健康診断の実施義務とは?
労働安全衛生法では第66条において、雇用者に対して従業員の健康診断の実施を義務付けています。事業規模を問わず、雇用者は健康診断を従業員に毎年1回、必ず実施しなければなりません。
労働安全衛生法で健康診断の結果報告義務がある事業者
常時50人以上の従業員を雇用している事業者の場合は、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務があります。加えて、5年間は結果のデータを保管しておくことも義務付けられています。
とはいえ健康診断に関する情報は、ある意味では重要な個人情報といえるでしょう。外部に漏れないように、極力慎重に取り扱わなければなりません。
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健康診断の種類と対象となる労働者および実施時期
実施を義務付けられている健康診断としては、職種にかかわらず常時雇用する従業員を対象とした「雇入れ時の健康診断」や「定期健康診断」だけではありません。具体的な種類を見ていきましょう。
「雇入れ時の健康診断」と「定期健康診断」以外の健康診断の種類
健康上有害とされている特定業務に就く従業員に対して、労働衛生対策の観点から実施する「特殊健康診断」や、じん肺法施行規則別表で定められている24の粉じん作業に就く従業員に対する「じん肺健診」などがあります。
また、海外に6ヶ月以上赴任する従業員を対象とした健康診断も含まれます。さらには、「給食に携わる従業員の検便」や、有害とされる業務に就く従業員のうち以下の業務に就く従業員には「特殊健康診断」を実施します。
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 特定化学物質業務
- 石綿業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛業務
- 有機溶剤業務
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健康診断の対象労働者および実施時期
一般健康診断の種類別の対象者と実施時期は、以下の表のとおりです。
健康診断の種類 | 対象となる労働者 | 実施時期 |
雇入時の健康診断 (安衛則第43条) | 常時使用する労働者 | 雇入れの際 |
定期健康診断 (安衛則第44条 ) | 常時使用する労働者(次項の特定業務従事者を除く) | 1年以内ごとに1回 |
特定業務従事者の健康診断 (安衛則第45条) | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号(※1)に掲げる業務に常時従事する労働者 | 左記業務への配置替えの際、6月以内ごとに1回 |
海外派遣労働者の健康診断 (安衛則第45条の2) | 海外に6ヶ月以上派遣する労働者 | 海外に6月以上派遣する際 帰国後国内業務に就かせる際 |
給食従業員の検便 (安衛則第47条) | 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 雇入れの際、配置替えの際 |
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休職者の健康診断についての労働安全衛生法上の扱い
定期健康診断を実施すべき時期に、従業員が出産や育児、家族の介護、自身の病気療養などの理由で休職中であった場合には健康診断の対象外として問題ありません。
ただし休職が終了して復帰した後に、その従業員に速やかに、定期健康診断を受診させなければなりませんので、注意を要します。
健康診断再検査通知を受けた場合の労働安全衛生法の考え方
企業には従業員に対する安全配慮義務があります。健康診断を受けた判定結果として、再検査の通知を受けた従業員がいる際には、企業はその従業員に再検査を受けるよう促すことが望ましいでしょう。
しかしながら、再検査を受けるかどうかはあくまでも従業員本人の意思に委ねられます。そのため、従業員に再検査を企業側が強制することはできません。
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健康診断の実施義務違反の罰則
事業者に健康診断の実施を義務付けている、労働安全衛生法第66条を遵守しなければ、罰則規定が適用されるので注意が必要です。健康診断の実施義務に違反した場合は、労働安全衛生法第120条によって50万円以下の罰金刑が課せられます。
なお、多忙などを理由に、従業員自身が健康診断を拒否することもあります。しかし企業が健康診断を未受診の従業員を、そのまま受診を促さずにいて万が一健康被害がでた場合、安全配慮義務違反という責任を企業は負うかもしれません。
よって、企業の人事担当のみなさんは、もし健康診断を未受診の従業員がいた場合には、受診するように促してください。
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テレワークとその生産性については、以下の特集記事『テレワークは生産性を向上or低下?国内事情や海外の議論も含めて徹底解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
健康診断情報を漏洩した場合の罰則
健康診断に関係する情報は重要な個人情報なので、適切に保管・管理する責任が企業にあります。従業員の健康診断に関する情報の漏洩や本来の目的以外の使用は、労働安全衛生法第104条により禁じられています。
企業が健康診断に関する情報を外部に漏洩した場合は、50万円以下の罰金刑に加えて6ヶ月以下の懲役が科される可能性があります。
なお、当サイトの読者のみなさんが携わっていらっしゃると思われる「SaaSビジネス」にとっての、最重要課題は「カスタマーサクセス」です。
そんな「カスタマーサクセス」について、以下の特集記事『カスタマーサクセスとは?サブスク型SaaSビジネスの生命線を完全解説!』で特集しています。ぜひご一読ください。
また、SaaSを含むBtoB企業における、マーケティング組織の類型と作り方や、営業部門との関係性に関して以下の特集記事『現代のマーケティング組織の類型と作り方とは?営業部門との関係性も解説』で解説しています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
労働安全衛生法に基づく健康診断の項目
企業が労働安全衛生法に基づいて実施することを義務付けられている健康診断の検査項目は、厚生労働省の労働安全衛生規則、通称「安衛則」によって定められています。
労働安全衛生規則とは「労働安全衛生法」に基づき厚生労働省が制定した、労働者の労働環境の安全や衛生の確保を目的とした省令です。
安衛則第43条に基づく「雇入れ時の健康診断」における項目と、安衛則第44条に基づく「定期健康診断」の項目を、それぞれ見ていきましょう。
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現在注目を集めているサバティカル休暇については、以下の特集記事『サバティカル休暇とは?注目の長期休暇制度の意義やメリットを日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
雇入れ時の健康診断の(安衛則第43条に基づく)項目
安衛則第43条に基づく「雇入れ時の健康診断」における検査項目は、以下のとおりです。
【1】既往歴及び業務歴の調査
【2】自覚症状及び他覚症状の有無の検査
【3】身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
【4】胸部エックス線検査及び喀痰検査
【5】血圧の測定
【6】貧血検査(血色素量、赤血球数)
【7】肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
【8】血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
【9】血糖検査
【10】尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
【11】心電図検査
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定期健康診断の(安衛則第44条に基づく)項目
安衛則第44条に基づく「定期健康診断」における検査項目は以下のとおりです。
【1】既往歴及び業務歴の調査
【2】自覚症状及び他覚症状の有無の検査
【3】身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
【4】胸部エックス線検査及び喀痰検査
【5】血圧の測定
【6】貧血検査(血色素量、赤血球数)
【7】肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
【8】血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
【9】血糖検査
【10】尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
【11】心電図検査
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厚生労働省の労働安全衛生規則による項目の省略とは?
定期健康診断において以下の健康診断項目に関してのみ、項目ごとに設定された基準に基づき医師が不要であると認めた場合は、その項目を健康診断から省略することが可能です。
- 身長
- 胸囲
- 喀痰検査
- 胸部エックス線検査
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査、
- 血糖検査
- 心電図検査
なお、「医師が必要でないと認める」とは、既往歴や自覚症状、他覚症状などを医師が勘案した上で総合判断することを意味します。よって、省略可能な項目の省略基準については、単に年齢などにより機械的に判断されるものではないので注意を要します。
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健康診断の費用は誰が負担する?
健康診断は自由診療なので、費用がかかります。その費用は誰が負担するのでしょうか。
これに関しては厚生労働省の労働安全衛生法および同法施行令の施行に関する、都道府県労働基準局長宛の通達に明記されています。
〜労働安全衛生法および同法施行令の施行について(抜粋)〜
(2) 第六六条関係
イ 第一項から第四項までの規定により実施される健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること
ロ 健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般に対して行なわれる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行なわれるものではないので、(中略)その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。
特定の有害な業務に従事する労働者について行なわれる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行なわれるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行なわれた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること。
ハ 第四項の「その他必要な事項」には、健康診断項目の追加等があること。
昭和四七年九月一八日 基発第六〇二号
引用元:労働安全衛生法および同法施行令の施行について|厚生労働省
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健康診断の費用は雇用者が全額負担
健康診断は労働安全衛生法によって、実施することが企業に義務付けられているので、前出の通達にあるように、費用はすべて企業が負担することになります。
健康診断の費用はさまざまです。定期健康診断であれば、一人あたり5000円から1万5000円くらいの額に設定している医療機関および健診機関が多いようです。
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労働基準法における休日については、以下の特集記事『労働基準法における休日とは?定義とルールを日本一わかりやすく解説!』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
健康診断を実施する医療機関・健診機関を選ぶ際の注意点
いざ健康診断を実施する際に、医療機関・健診機関を選ぶ作業は迷いうことが多いです。企業の定期健診費用の、見積もり提出を受け付けている医療機関や健診機関もあります。
選ぶ際は、できれば相見積もりをとって相場感を確認し、また費用だけでなく予約が取りやすいかどうか、どのような環境や形式で健康診断を受けられるのかなど、総合的に情報を集めて検討しましょう。
なお、健康診断に携わる人事担当のみなさんにとっては、従業員のワークライフバランスを良好に保つサポートがひとつの重要なミッションではないでしょうか。
ワークライフバランスについては以下の特集記事『「ワークライフバランス」の使い方はもう間違わない!例文付き解説で完全マスター』で取り上げて詳しく解説しています。そちらの記事もぜひ、参考にご一読ください。
また、同じく従業員にとって大切な「ウェルビーイングの実現」については、以下の特集記事『ウェルビーイングとは?社会・福祉・健康・経営等の視点からみた重要性』で詳しく解説しています。ぜひ、そちらも参考にご一読ください。
まとめ
労働安全衛生法に基づく健康診断の実施義務や、健康診断の種類と項目、違反時の罰則など、健康診断に関して企業、とりわけ人事部門が押さえておくべき情報を網羅し、解説しました。
企業の経営者や経営幹部、人事担当のみなさんにはここでご紹介した情報を、健康診断を適切に実施するための参考にしていただければ幸いです。
なお、当メディア「kyozon」のメインテーマのひとつが「マーケティング」です。当サイトにて、マーケティングに役立つ、さまざまなサービスの資料が無料でダウンロードできます。マーケティング担当者や責任職のみなさんは、ぜひご利用ください。
また、ビジネススキルの中でも高度な部類に入るのが「マーケティングスキル」です。
マーケティングスキルはビジネスにおける自分の最強のリソース(資源)であることを、以下の特集記事『マーケティングスキルは身につけて損がないビジネス上の最強の自己資源』で総合的に詳しく解説しています。ぜひそちらも、参考にご覧ください。
ちなみに、そもそもマーケティングとは一体どういうものなのかについて知りたいみなさんのためには、以下の特集記事『マーケティングとはなにか?その意味や定義を日本一わかりやすく解説』において、掘り下げつつわかりやすく解説しています。
基礎的情報として、ぜひ参考にご一読ください。
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※2023年以降のマーケティング戦略構築に参考になる、マーケティングトレンドについて、以下の特集記事『マーケティングトレンドを徹底解剖!2022年までの考察と2023年の展望』で総合的かつ詳細に解説しています。ぜひとも、参考にご一読ください。
※マーケティングを実践するにあたって、消費者の購買行動を可視化するマーケティングモデルというものがあります。マーケティングモデルとは何かについて、以下の記事『マーケティングモデルとは?認知から購買の消費者行動を分析した仮説』でわかりやすく解説しています。そちらも、参考にご一読ください。
※マーケティング活動は幅広い領域にまたがるため、全体を統括するスキル「マーケティング・マネジメント」が求められます。
「マーケティングマネジメント」について、そのプロセスと業界別成功例を以下の特集記事『マーケティングマネジメントとは?プロセスと業界別成功例を徹底解説』で詳細に解説しています。そちら、ぜひ参考にご覧ください。