マスターデータとは?
マスターデータとは、業務で扱う基礎となるデータのことです。他のデータから参照される大元となるマスターデータは、最初に準備する必要がありますが、マスターデータを使えば、業務で扱うデータを一元的に管理することができます。
しかしながら、多くの企業では各部署がそれぞれのシステムで管理していることが多く、正確なマスターデータが何か、どのように管理されているのか把握しにくい状況です。
マスターデータの統一が図れていないと、情報がバラバラになり、新しいデータが加わった場合にデータの整合性が取れなくなるという問題も起こります。
マスターデータは、一元的にデータを管理し、データが破綻しないための仕組みと言えるでしょう。
マスターデータ管理(MDM)の重要性
マスターデータ管理のことを「MDM(Master Data Management)」と呼びます。なぜマスターデータ管理が必要なのか?その重要性を説明します。
マスターデータがないとどうなるのか?
現在、多くの企業では目標を達成するために、日々の活動の具体的な行動指標(=重要業績評価指標「KPI」)に直接結びつく重要なデータを含むシステムを運用しています。マスターデータがないとどうなるか、商品マスターを例にとって説明しましょう。
1個100円の消しゴムと、1本200円のボールペンがあるとします。データ管理上でこれらの商品はのデータは「名前」「値段」を保持していて、これが商品マスターとなります。
商品が購入されると、購入データにマスターデータのIDが参照され、何月何日に何がどのくらい売れたかというデータとなります。
ところがマスターデータがないと、ボールペンが210円になった場合に、データの整合性がとれなくなり、正しい売上や分析ができなくなってしまいます。
そのために、マスターデータを一元管理して、データに破綻を来さないようにしなければなりません。以下、3つの観点からマスターデータ管理の重要性を見ていきましょう。
オペレーション
業務に伴って起こったことの詳細を記録したデータのことを、トランザクションデータと言います。例えば「○○という顧客が、○○という商品を、○○の出荷先に、○月○日納期で、○個注文、○○部の○○が担当者」という情報がトランザクションデータです。
しかし、このトランザクションデータのひとつひとつは、マスターデータでできています。
マスターデータを管理していないと、これらの1つでも別の部署が書き換えたら、データの整合性が取れなくなってしまいます。
アナリティクス
収集したデータを分析することは、事業上の意思決定のためには非常に大切です。
正しいマスターデータは分析に必要なすべての情報を持っていると言えるので、正しく分析し、集計グラフやダッシュボードにするためには、マスターデータ管理が重要となります。
ガバナンス
コーポレートガバナンスとは、公正な判断・運営が行われるよう、統制や監視する仕組みのことです。ガバナンスの強化に取り組む企業も多いですが、そのために統制となるマスターデータが必要となります。
ガバナンスの対象そのものがマスターデータに含まれる情報なので、マスターデータ管理は統制する上でも重要なものです。
マスターデータ管理のメリットは?
マスターデータ管理を行うと、どのようなビジネス上のメリットがあるのでしょうか。
メリットを見ると、現在抱える自社の課題が見えてくるかもしれません。
タイミング良くレコメンドできる
商品販売において、購入を検討中の顧客に対して関連商品をすすめるクロスセル、上位モデルを紹介するアップセルの施策をします。その際、信頼性の高いマスターデータがあることが、適切な時機に適切なおすすめをすることができる条件となります。
顧客の情報と商品の情報の整合性がとれていることが、顧客と商品を連携させ、タイミングよくレコメンド(推薦)できるようになります。
全体の生産性を改善できる
マスターデータを管理することで、データの整合性がとれ信頼性が高くなります。バラバラに管理された低品質なデータが原因で、非効率になっている業務を改善し、全体的な生産性がアップします。
全社的な商品・顧客・サプライヤー・場所・担当者などといった言葉の整合性がシステムレベルで解消されるため、これまでよく起こっていた誤解をなくし、見直しや確認の時間と工数の削減にもなります。
サプライチェーンを可視化できる
マスターデータ管理によって、商品が顧客の手元に届くまでの一連の流れを可視化できます在庫・欠品・返品の情報がバラバラに管理されていたものを一元化することで、全体で適正な在庫や需要予測ができ、無駄な在庫を抱えるリスクも減らせます。
欠品で顧客に迷惑をかけることもなく、サプライチェーンがスムーズに迅速に行え、顧客満足度も向上させることにつながります。
課題発見から解決までが迅速になる
マスターデータ管理により、ひとつの商品データにつき、商品マスターを経由して各システムのデータすべてを活用することが可能となります。
そのため管理されたマスターデータを確認すれば、それぞれのデータから課題を発見するまでの時間を短縮することができます。
例えば、商品から販売業者をたどることで豊富な情報を得て、新商品や新サービスをスタートさせ、軌道にのせるまでがスピーディーに行えるようになります。
ファン獲得と定着率の向上
マスターデータで顧客情報をあらゆる角度から連携させると、より個別に顧客へ商品やサービスを提供でき、どのようなチャネルでも対応することができます。
商品やサービスを個別にカスタマイズすることも可能なので、顧客が離れずファンとなり、定着率が高くなります。
コンプライアンスの向上
システムが脆弱でセキュリティがしっかりしていないと、情報漏洩などコンプライアンスに違反してしまうことがあります。また社内不正があったとしても、報告の手間や報告先がわからずに違反となってしまうことも。
しっかりと中央で管理されたマスターデータがあることで、コンプライアンスに関わる報告やペナルティ発生のリスクを抑えることができ、コンプライアンスを向上させることができます。
コンプライアンスの向上は、新商品の開発、新販売元との契約などに大きく貢献します。
マスターデータ管理の手順
マスターデータ管理の重要性やメリットがわかったら、早速マスターデータ管理に取りかかりましょう。
一般的な手順を紹介します。マスターデータ管理は、企業の規模や業種、目的などによって異なるので、以下の手順を参考にしてみてください。
マスターデータ管理の目的を明確にする
まずは何のためにマスターデータ管理を行うのかをはっきりさせます。目的が明確でないと、その後のデータ整理の方法や運用プロセス、ルールなどが決められなくなります。
例えば、社内の課題を抽出して以下のように目的を決めましょう。
- 社内での課題がデータを探すのに時間がかかっている→業務の効率化
- 顧客情報が各部署でバラバラになっている→データを整理・統合して売上拡大
- 蓄積したデータが活用できていない→データを分析して経営判断に活用する
- セキュリティ面が脆弱→情報漏洩を防ぎセキュリティを強化する
このように、企業や業種によっての課題から、マスターデータ管理をする目的をはっきりさせておくと、目指すゴールがわかり、実際にシステム開発する担当者へ誤解なく伝わります。
社内データの整理とデータ収集
目的が明確になったら、目的に沿ったデータを集めます。ただし、単にデータを集めるだけでなく、その段階で不要なものは捨て、カテゴリごとなどに整理しながらデータ収集をします。
不要なデータが入っていると、統合したときにトラブルとなることもあるため、収集するデータは「最新のもの・正確な情報・整理されていること」に注意してください。
さらには、データの大きさや種類、フォーマットなども揃えておくと、後の工程がスムーズです。
運用プロセスを定義しルールを統一する
データ収集や登録プロセスから、どうしても抜け落ちてしまうマスターレコードがあります。それに対処しつつ、バックエンドの運用プロセスを定義し改善を行います。データの品質が重要なので、必要な情報は運用担当者も把握しておくようにしましょう。
実際にマスターデータ管理の運用が始まると、各部署や業務において新たな登録や更新を行います。しかしながらデータ登録や更新の方法が統一されていないと、表記ゆれなどによって複数のデータが作成されるなど、不具合が起こります。
そのために、マスターデータを使用するためのルールやガバナンスポリシーの設定も行います。さらに、運用中も信頼性の高いデータを維持していくために、定期的な見直しと改善が必要です。
まとめ
マスターデータ管理は、分散していたデータを一元化して管理することで、データ分析や業務効率化に大いに貢献できます。
増加し複雑化する一方のデータは、部署ごとでなく全社で統合させ一貫性のあるデータとして管理し、高い品質を確保する必要があります。
マスターデータ管理の重要性はわかっているものの、本格的に取り組めていない場合には、記事を参考にして、まずは課題を抽出することからはじめてみましょう。