マーケティングと統計学の関係
マーケティングには、「ロジック」と「エモーション」の両方の要素が求められます。マーケティングにおける理性のベースになるのは、「ロジック」にほかなりません。
ロジックがベースにあることで、マーケティング戦略や施策が「再現性」を持ちます。逆にロジックがない戦略や施策は、たとえ上手くいくことがあってもそれはまぐれです。
真に価値ある戦略・施策にはロジックに裏打ちされた再現性が備わっており、環境や状況が変化してもそれに対応してアレンジすることで効果を発揮できます。そしてそのロジックを盤石にするのが、統計学的な考え方といってよいでしょう。
マーケターが統計学のエキスパートである必要はないですが、統計学を学ぶことでさまざまな分析結果や施策の合理性を理解しやすく、実践した施策の検証も曇りのない目で実施できます。
なお、マーケティングの本質的な意味については、以下の特集記事で詳しく解説していますので、そちらも参考にご覧ください。
マーケティングとは
マーケティングとは、消費者のニーズを見極めて、適切な商品やサービスを市場に提供して利益を獲得する活動全般を指します。ひと言で言えば冒頭に示した「売れる仕組みづくり」です。
ニーズをつかむために、さまざまなリサーチ(マーケティングリサーチ)を行い、その結果を分析し、そこから商品企画や戦略立案、施策の考案と実施などが展開されます。
具体的にはターゲット層のニーズに合ったプロダクト開発と、それを知らせる広告宣伝や販促プロモーション活動、それをエンドユーザーに手渡す顧客接点となる実店舗や、ECサイトに出品するまでのすべての活動がマーケティングの領域です。
BtoCビジネスなら店舗での接客販売、BtoBビジネスならクライアントとの商談は、狭義ではマーケティング部門と切り離されています。しかし、広義ではそれも含めて、マーケティング活動と考えてよいでしょう。
その上で、オペレーション上で区分されて、部門が分割されていると解釈するのが妥当です。
マーケティングの数ある定義について、権威があるものを取り上げて以下の特集記事で詳しく解説していますので、参考にご一読ください。
統計学とは
統計学とは、ばらつきのあるデータの傾向や性質を調べたり、数の多い母集団から抜き取ったサンプルで特性を推測したりする方法論を体系化した学問です。あらゆる事象が、統計学にとって調べる対象となりえます。
私たちは情報化が進む現代社会のなかで、多種多様な情報=データを得ることが可能です。しかし、データが持つ意味を、未加工のまま理解することは困難でしょう。また、実際には役に立たないデータもたくさんあります。
それらのデータをわかりやすい表現に置き換えることで、初めてデータが持つ意味が理解でき、生きたデータとなるのです。そのために必要となるのが統計学と言えるでしょう。
マーケティングと統計学の違い
マーケティングと統計学の根本的な違いは、マーケティングが学問ではなく、主にビジネス上の利益追求の手段であるということに尽きます。
統計学自体は利益を生みませんが、マーケティングなどに利用されることで、利益を出すのに役立つ場合があります。そういう意味から、マーケティングにとって、統計学は非常に深い関係にあります。
統計学はWebマーケティングの解析に役立つ
マーケティングのなかのマーケティングリサーチ及びその分析は、統計学と親和性が極めて高い作業です。
リサーチの対象が多くの特定の傾向を持つ消費者の割合や、消費者の千差万別な嗜好や志向、思考の傾向などの、有形無形のものとなりますが、統計学を用いることで収集したデータを、合理性を持って整理・分析できます。
つまり、マーケティングにとって統計学は有効な理論体系と言えるでしょう。
統計学はさまざまな仕事に役立ち転職にも有利
統計学はマーケティング以外にも、さまざまな分野に有効な理論体系です。成長産業であるIT分野においてのデータサイエンスも、統計学と密接に関係しています。そのため、統計学を学んでおくと、さまざまな仕事や転職にも有利となるケースがあります。
なお、統計学が現場で活かされるマーケティングリサーチについて、以下の記事で調査分析方法を整理して徹底解説していますので、そちらも参考にしてください。
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マーケティングに役立つ統計学の分析手法
マーケティングに役立つ統計学の分析手法とは、一体どういうものでしょうか。主に以下の7つの手法が、マーケティングにも有効で、実際に活用されています。
- 回帰分析
- アソシエーション分析
- 決定木分析
- SVM(サポートベクターマシン)
- クラスタリング分析
- 主成分分析
- クロス集計
個別に見ていきましょう。
回帰分析
回帰分析とは、ある変数を使って別の変数を予測するモデルを作ることを意味します。たとえば、任意のある日の「使い捨てカイロ」の販売数を、その日の気温から予測したい場合などに使われます。
一つの変数から予測するのは単回帰分析で、複数の変数から予測するのが重回帰分析です。他には、目的変数がカウントデータの場合はポアソン回帰分析、割合などの場合はロジスティック回帰分析になります。
アソシエーション分析
アソシエーション分析は収集したデータ群から、マーケティングに活用できそうな法則性を発見するための手法です。アップセルおよびクロスセルの効果を高めたい場合などに、非常に効果があります。
たとえば商品Aを購入する顧客の4割が、商品Bをセットで購入するなどの傾向が分かるとしましょう。
それを利用して、商品Aを購入すれば商品Bが割引できるキャンペーンを打つことで、商品Bの販売数はもちろん、商品A自体の販売数も伸ばせる可能性があります。
そういう分析ができると、マンパワーの販売活動以外にも、製品カタログのレイアウトや広告のデザイン、Webサイトのインターフェースなどに反映して、売上アップに導くことも可能です。
バスケット分析
バスケット分析は、前述のアソシエーション分析の一つで、主にECサイトなどで買い物かご(バスケット)に何を入れているかを分析する手法です。顧客がどういった商品の組み合わせ、あるいはカテゴリーの組み合わせで購入したかを分析していきます。
Webメディアのレコメンドシステムなどの、「今、顧客が求めているものは何か」という課題を解決するための手法です。「今、販売に注力すべき商品の特定」「旬のキャンペーン企画の選定」などに役立ちます。
決定木(ディシジョンツリー)分析
決定木(ディシジョンツリー)分析はロジックツリーのようなチャート図で、目的変数にさまざまな説明変数を用いて分岐させていき、詳細なターゲット属性を分析する手法です。顧客の選定基準や離脱基準の把握やターゲット設定が可能です。
機会学習にもよく出てくる決定木分析は、分岐が重なれば重なるほど変数が増え、より明確なターゲット像を把握することができます。
SVM (サポートベクターマシン)
SVM(サポートベクターマシン)は、データが属するカテゴリーを予測する手法です。特定の集合体をまず2つのクラス群に分け、未知のデータがどちらに属するかを判別します。「クラス群に分ける」とは、たとえば人の全身画像から、特定の要素で男女を判別するようなことを指します。
データが属するカテゴリーを予測するSVMの精度が高まれば、ユーザーの行動予測の確度が上がります。データの次元が大きくなったとしても識別の精度が落ちにくく、誤検知が生じにくい特徴がある、非常に優れた分析手法です。
クラスタリング分析
クラスタリング分析は、同じ属性を持つ母集団=クラスターを分類していく手法です。具体的には、以下のような作業が挙げられます。
- 自社と他社の顧客情報を比較して営業戦略を立案
- 個々の購買実績に基づいた顧客へのプロダクトのレコメンド
- 顧客特性に応じたメールを配信
クラスタリング分析は、セグメンテーション作業に役立つほか、Webサイトを訪問したユーザーの行動分析などに適しています。新しいカテゴリーが発掘できる可能性が高く、新市場や新分野を創造できるケースもあります。
想定していなかった層へのアプローチが実現するので、新しい顧客ターゲットの創造にも役立ちます。ただし、分析で分けられたクラスターに意味づけするのは、あくまでもマーケターの力量です。
主成分分析
主成分分析は、多くの変数を細分化して集約し、データを簡略化する手法です。先のクラスタリング分析と混同されやすいですが、以下のように明らかな違いがあります。
- クラスタリング分析:標本をグループ分け
- 主成分分析:変数をグループ分け
たとえばECサイトである顧客が非常に多くの種類の商品を購入していた場合、それらのひとつひとつを変数化して分析するのは非効率です。
そこで、主成分分析を使って「嗜好品」「日用品」などの抽象化した合成変数に分けることで、2つの軸で分析できます。
このようにデータを簡略化した上で可視化を促進するので、それまで気づかなかった新たな特徴値を発見するケースも少なくありません。
クロス集計
クロス集計は、複数の変数を組み合わせる分析手法です。一つの変数による単純集計では一面的な傾向しかつかめませんが、クロス集計なら多面的なデータ分析が可能です。
たとえば地域という属性で集めたデータに、年収や家族構成などのデータを組み合わせることで、その地域に住む人たちの傾向性が浮かび上がります。
複数の変数を使うことで、変数間の相互関係を知ることもできます。属性ごとの傾向がわかることから、新製品の開発や広告プロモーションに役立つ手法です。
なお、統計学が活かせる分析や、戦略立案に欠かせないマーケティングフレームワークについては、以下の記事で詳しく特集していますので、そちらも参考にご覧ください。
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マーケティングのために統計学を独学で身に着ける方法
ここまで見てきたように、マーケティングに統計学は非常に有効な理論体系なので、マーケターであれば身につけておきたいものです。とはいえ、多忙なマーケターにとって、働きながら大学などに通うのは現実的ではありません。
ここでは、働くマーケターが独学で、あまりコストもかけないで統計学を学べる方法にフォーカスしましょう。
マーケティングに役立つ統計学のオンライン講座の受講
まず、オンライン講座が最近では大変充実しています。ここでは「統計の時間」「Udemy」「SCHOO」をご紹介します。
統計の時間
「統計の時間」は統計学に特化した学習サイトで、以下のカテゴリーに分かれています。
【統計学の時間】
統計検定2級合格を目標に、初歩から統計学を丁寧に解説しています。
【書籍紹介】
統計学が学べる書籍を、「難易度」および「数学レベル」を示して紹介しています。
【Tips】
統計学やExcelの使い方に関するヒントやアドバイス、便利ツールなどを紹介しています。
【統計用語集】
約600項目の統計学に関する用語を、図表・数式を交えてわかりやすく解説しています。
Udemy
Udemyは世界的規模の総合学習サイトです。統計学に関する講座数も480講座を超えています。無料のものもあり有料講座も千円台からいろいろあるので、レベルと内容で選択しましょう。
Udemy|統計学検索結果
SCHOO
SCHOOはサブスク型の教養講座サービスです。定額で、講座は受け放題です。無料お試しもあるので、体験してから決めてもよいでしょう。
なお、マーケティングそのものの勉強方法に関しては、以下の記事で詳しく特集していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
マーケティングに役立つ統計学の資格・検定への挑戦
統計学に関するさまざまな資格や検定があります。もちろん、資格はマーケターの仕事をするための必要条件ではありません。資格取得を目指す学習を通して、統計学の基礎力や応用力が磨かれるという意味で、合否にこだわらずトライする価値があります。
ここでは以下の4つの資格・検定をご紹介します。
- 統計検定
- Webアナリスト検定
- ウェブ解析士
- データ解析士
統計検定
統計に基づく将来予測や、仮説の設定方法などが身につく検定です。4つのレベルがあり、2級までいくと大学レベルの統計学の知識が問われます。合格ライン70点以上という高い難易度で、2級合格のためには30〜60時間の学習が必要と言われています。
Webアナリスト検定
解析ツールでWebデータを扱う技術が問われます。各分野の正答率40%以上で総合正答率75%以上が合格圏内とされています。この検定は、短期間集中で合格を目指せます。5時間の講座受講後に試験を受け、合格すると認定されます。
ウェブ解析士
上級資格が上に2つ控えている、最初の資格です。解析ツールを使って効果的なマーケティングを実践するスキルが養われます。
解析の基本段階からパラメーターの活用方法、レポートの作成技術などが問われる検定です。5時間の講座が開催されており、合格率は60%となります。
データ解析士
「多変量解析実務講座」の修了者が受験できる資格です。実務感覚で学習ができるのが特徴で、必要な情報を統計から抽出して予測するスキルが培われます。マーケティング部門でデータを扱いたい人におすすめです。
マーケティングに役立つ統計学が学べる本の決定版3選の読破
最後に統計学が学べる本の決定版として、以下の3冊をご紹介します。
- 【図解】大学4年間の統計学が10時間でざっと学べる
- 基礎から学ぶ統計学
- 統計学の図鑑 (まなびのずかん)
【図解】大学4年間の統計学が10時間でざっと学べる
この本は、東大の教養課程で学ぶ統計学のエッセンスが、1冊に凝縮されています。AIやIoTとセンサーによる情報の処理、ビッグデータの情報処理、データサイエンスなどの近年注目を集める分野の基礎となるのが統計学であると著者は説いています。
本書では極力数式を使わずに、文系の読者でも概念を理解できるように工夫して書かれている、統計学のビギナーに最適の一書です。
【図解】大学4年間の統計学が10時間でざっと学べる | 倉田 博史
基礎から学ぶ統計学
この本は、真面目に統計学を理解したい人や、統計がわからないと挫折したことがある人に向けて書かれています。著者の学生たちとの10年越しの試行錯誤が生んだ、学部を問わずに学べる統計学の基礎が認められた内容です。
講義経験に基づく展開で、統計学ビギナーのつまずくポイントに寄り添って伴走してくれます。そんな本書の特徴は以下の3点です。
- 図を多用する
- 実践的な手法を中心に取り上げる
- 数学的なハードルを下げる
数学的理解の前提にするのは、高校1〜2 年で学ぶ数学までとされています。母平均に対する統計解析や仮説検定の論理、2変数の関係までを扱っており、統計の基本的な手法の原理を十分理解できるところまで導いてくれるでしょう。
統計学の図鑑 (まなびのずかん)
この本は大型本で、小学校で習う基礎的な統計学から高校における数学I、数学B、そしてベイズ統計学、多変量解析、ビッグデータなどの本格的なレベルまで包括的に統計学が学べる図鑑です。
オールカラーでていねいな説明とともに図も多用されています。統計学ビギナーだけでなく、今一度基礎から学び直したい人にも最適です。統計学を一望できる点で、本書は常に手元に置いておきたい一冊です。
統計学の図鑑 (まなびのずかん) | 涌井 良幸, 涌井 貞美
なおマーケティング戦略の実践に役立つおすすめ本20冊を、以下の記でご紹介していますので、ぜひとも参考にしてください。
まとめ
マーケティングと関係が深い統計学について、さまざまな角度から解説しました。以下にマーケティングにとって、統計学が重要な位置にあるかが伝わったのではないでしょうか。
統計学について学び直したい方や、これから基礎に取り組みたい方は、ここでご紹介した「統計学を独学で身に着ける方法」を参考にしていただければ幸いです。
なお、マーケティング自体を基礎から学びたい場合は、まず以下の誌上セミナーでマーケティングの基礎情報を確認して、学びに向けたビジョンを描いてください。
また、当メディア「kyozon」ではマーケティングに役立つ、さまざまなサービスの資料が無料でダウンロードできます。マーケティング担当者や責任職のみなさんは、ぜひご利用ください。
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※当サイトの読者のみなさんが携わっていると思われるサブスク型ビジネス、とりわけSaaSビジネスにとって最重要課題とも言える「カスタマーサクセス」を以下の記事で特集しています。ぜひご一読ください。
※マーケティングスキルこそ、身につけて損がないビジネス上の最強の自己資源であることを、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。