マーケティングにおけるUSPとは?
“Unique Selling Proposition” の頭文字をとった略語がUSPです。アメリカの著名なコピーライター、ロッサー・リーブスが提唱した考え方で、「売りとなる独自の提案」をひと言で表現したコピーを意味します。
彼は1940年代の広告やキャンペーンを研究する中で、成功したものにはいくつかの共通点があることに気づき、それをUSPとして提唱しました。
USPとは唯一無二の強みを活かした提案
「売りとなる独自の提案」であるUSPはもう少し明確に表現すると「自社だけが持つ唯一無二の強みによる提案」と言い換えられます。顧客に対して、自社商材だけが唯一与えられる利益を指し、他社に真似できない強みを意味しています。
競合との差別化に不可欠な要素
USPを持つことは、競合他社あるいは競合商材と差別化するためには、欠かせない要素です。USPがあれば顧客ターゲットに、非常にアピールしやすくなります。
顧客の側からいっても、あふれる商材と情報の中からあえてひとつを選ぶ際に、わかりやすく力強いUSPがあれば、迷わなくて済みます。
広告やキャッチコピーの土台
USP自体は商材の提案をあくまで最小限の言葉で表現したもので、未加工の状態であり、キャッチコピーではありません。そのUSPをもとに広告やプロモーションが展開されるので、その「土台」のようなものです。
しかしながら凝縮されたUSPは、そのまま広告のキャッチコピーに使えることも少なくありません。そのため、USPをキャッチコピーと混同している人もいますが、本質を表現した言葉なのであながち間違いとはいえません。
なお、「マーケティングとは何か」について、総合的に解説している以下の特集記事も、ぜひ参考にご一読ください。
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USP提唱者が求めた3つの基準
USP提唱者のロッサー・リーブスはUSPが備えているべき、以下のような3つの基準を示しています。
- 顧客への提案が含まれること
- 大勢に影響を与えうること
- 他社と競合しない内容であること
それぞれを見ていきましょう。
なお、これからマーケティングの理解を深めたい人に向けて、以下の記事でおすすめの20冊のマーケティング解説本をご紹介していますので、参考にしてください。
他社と競合しない内容であること
最後に、競合がすでに提案しているものではないということが必要です。すでに存在する提案は唯一無二にはなりえません。例えば酒類の宅配で大成功したカクヤスは、単に酒類のディスカウントだけでは成功したわけでないのです。
1本からでも配達するという手間が掛かって採算が合わない、どこも手掛けていないサービスを、採算が取れる体制を整えて打ち出したことによる成功です。このように、他社との競合が見られないビジネスモデルであることが3つめの基準です。
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マーケティング上でUSPを設定するメリット
企業にとってマーケティングにおいて、USPを設定するメリットについて触れておきましょう。
主に以下の3つのメリットがあります。
- 広告や販促への依存度度を抑えられる
- ブランド構築に役立つ
- ファン層の共有拡散を促進する
各メリットを見ていきましょう。
広告や販促への依存度度を抑えられる
USPを作り上げ、独自性の高いアピールポイントを的確に伝えれば、商品の魅力が伝わって購入の理由ができます。究極はセールスしなくても売れることです。
ユーザーの心の中の欲求「インサイト」を見極めた優れたUSPは、それ自体で売れるパワーを持つので、広告プロモーションや販売促進に依存する度合いを抑えられます。
ブランド構築に役立つ
インパクトがあるUSPを持つ商材は印象に残りやすく、ブランド構築(ブランディング)に役立ちます。独自性を強めれば強めるほど、差別化が顕著になるでしょう。
ブランド構築が進めば「〇〇〇〇ならあの会社だ!」と認識してもらうことができます。つまり、USPを適切に設定することで、長期的には広告や販促などのプロモーションに頼らなくても(もちろんそれも必要ですが)、地力である一定のファン層を持つことが可能です。
ファン層の共有拡散を促進する
現代の消費者は気に入った商品の感想を、SNSやWeb掲示板の口コミで共有拡散し、認知度の拡大につながります。強く印象に残るUSPは、多くのファン層が獲得できます。
そうすると、「買って得したもの、良いものを周りの人に知ってほしい」という人間の心理に働きかけることができ、自然発生的に情報が拡散されるようになります。
なお、マーケティングを体系的に勉強するための方法を、以下の記事でご紹介しています。
マーケティングにおけるコンセプトとUSPの違い
マーケティング上のコンセプトとUSPは、どちらも商材の特徴を表現するという意味で似ていますが、実は別物です。
決定的な違いは供給側と顧客側のどちらの目線に立っているかです。
コンセプトは自社目線、USPは顧客目線
コンセプトは、それがどういう商品であるかの特性や位置づけなどを定義する概念です。
USPはその特性によって購入者が得られるベネフィットにフォーカスして表現します。
例えばディスカウント酒屋のカクヤスのサービスは、コンセプトでいえば、例えば以下のような感じになるでしょう。
「本数に関わりなく配送するディスカウント酒屋」
これはカクヤスのスタンスを表現していても、顧客にとって「自分ごと」には響き難いと思われます。カクヤス目線だからです。
同じことを顧客目線で言い換えてみましょう。
「電話一本で1本から届ける格安の酒屋」
どうでしょうか?同じ内容でも顧客側から見て、より自分ごとに感じられるのではないでしょうか。これがUSPの表現方法のあり方です。
なお、マーケティングにおいてUSPは企業の商材を顧客心理に訴えるものですが、顧客心理そのものを理解するために欠かせない「顧客エンゲージメント」の概念について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
USPの見つけ方・作り方の3ステップ
USPがどういうものかが確認できたところで、次にその設定方法を解説します。USPの見つけ方・作り方はフレームワーク(ビジネスフレームワーク)を使うとスムーズに進みます。
USP設定に決まったルールや方法、手順は存在しませんが、以下の3つのステップで行うことで効率よく、なおかつ実態を見極めながらの設定作業ができます。
- STEP1:フレームワークSWOT分析で自社の強みを見極める
- STEP2:5フォースで競合の強みを調べる
- STEP3:VRIOで揺るぎない「独自性」を裏付ける
順を追って見ていきましょう。
STEP1:フレームワークSWOT分析で自社の強みを見極める
USPを設定する作業は、自社あるいは自社商材の「強み」を見極めることから始まります。大前提として、ビジネスチャンスに売上拡大が期待できるものでなければ、強みとは言えません。
この作業には、マーケティング上の分析フェーズに有効なフレームワーク「SWOT」が活躍してくれます。
SWOTとは内部環境のS(Strengths=強み)とW(Weaknesses=弱み)、外部環境のO(Opportunities=機会:ビジネスチャンス)とT(Threats=脅威)を抽出して、自社の有望な事業ドメインを見極めるフレームワークです。
そしてUSPはO(機会:ビジネスチャンス)とT(強み)をかけ合わせたクロス分析によって浮かび上がります。
以下の分析表を使って左上の象限に書き込まれるべき内容がUSPの素となるでしょう。
ちなみにSWOT分析によって、SWとOTをそれぞれ掛け合わせて出てくるアイデアは、戦略立案のフェーズに役立ちます。
STEP2:5フォースで競合の強みを調べる
次に自社の向き合う競争要因を分析するフレームワーク「5フォース」を使って競合の強みを調べましょう。
5フォースは、自社の市場競争力を認識するために、競争構造を以下の5つの要素から分析するフレームワークです。
分析対象の競争要因は、具体的には以下の5つとなります。
- 売手|資材・原料・設備等の調達先の交渉力
- 買手|顧客(ターゲット)層の交渉力
- 競合|競合他社の商品・ブランド力や資金・技術力
- 新規参入者|新規参入した企業の商品・ブランド力や資金・技術力
- 代替品|代替品の品質や顧客が乗り換えに要するコスト
5フォースを使えば、単にライバルとの関係だけでなく、代替品や新規参入者の要素が付加されるのでよりリアルに分析できます。
STEP3:VRIOで揺るぎない「独自性」を裏付ける
自社の強みと競合の強みがわかったら、企業のリソース(経営資源)の価値を分析するフレームワーク「VRIO」によって、揺るぎない独自性を裏付けましょう。
VRIOではリソースを、以下の4つ(頭文字がV・R・I・O)に分類します。
- Value:経済価値
- Rarity:希少性
- Imitability:模倣可能性
- Organization:組織
これを上から順に分析しますが、4番目の「I:模倣可能性」の段階で、唯一無二であることを裏付けます。裏付けできない強みは、USPに設定するには弱いということです。
このように、SWOT>5フォース>VRIOの流れで分析すれば、「独自の強み」を持っている企業ならUSPがスムーズに設定できます。できない場合は、今一度自社の打ち出すべきものを見直す必要があると考えましょう。
ここでご紹介したフレームワークの詳細については、以下の記事で特集していますので、ぜひ参考にご覧ください。
マーケティングでUSPを活用した7つの成功事例
実際のビジネスにおいて、マーケティング戦略にUSPを活用した成功事例として、以下の7例をご紹介します。
- ASKUL
- QBハウス
- ライフネット生命
- iPod
- Dyson
- 無印良品
- レッドブル
それぞれの成功事例を見ていきましょう。
ASKUL
ASKULのUSPは、安価に設定した事務用品を少量でも翌日に届けるという提案です。膨大な事務用品のなかから必要なものを必要なだけ比較的安価に、しかも翌日に届けてくれるというそれまでなかったビジネスモデルです。
スピード・利便性・コスパ感を併せ持った独自の提案で、広く知られるようになりました。キャッチコピーは極めてシンプルに「明日来るASKUL!」です。
サービスを体現する社名と、USPをうまく一言に凝縮した、シンプルで強いメッセージとによって、初めて聞く人の印象に残る優れたキャッチコピーとなっています。
QBハウス
QBハウスのUSPは、カットは10分で行い料金は1,000円(現在は税込み1,200円)という提案です。一般的にカットは30分〜1時間程度で価格は理容室なら安くて2,500円程度、美容室で5,000円程度でした。
そこでQBハウスは10分で1,000円という革命的な提案を打ち出し、理美容業界の常識を打ち破りました。
従来から髪型にあまりこだわりがなく、コストも時間かけたくない層のニーズは認識されていました。しかしながら、そもそも安価にすると収益に結びつきにくいため、そのニーズに応えるようなサービスが登場しなかったのです。
そのニーズにまともに向き合い、採算が取れるビジネスモデルに確信を持って踏み出したQBハウスは創業から20年で実に年商100億という優良企業に成長しました。
ライフネット生命
ライフネット生命のUSPは、すべての手続きがWebで完結する格安保険です。
2008年に日本で初めてのWeb特化型生命保険会社として創業し、順調に成長を続けています。24時間365日、いつでも申し込みや各種の手続きができ、わからないこともユーザーが自分で調べられるように配慮されています。
既存の生命保険はマンパワーによる販売が中心なので、人を介さない手軽さと、Webならではのコストパフォーマンスにおいて競合との差別化が成功した例です。
iPod
Appleの初代iPodのUSPは1,000曲が収まるポータブル・デジタル・オーディオプレーヤーです。”1,000 songs in your pocket”(ポケットに1,000曲のミュージックライブラリを)のキャッチコピーに見事に収斂されました。
当時の音楽ファンや音楽関係者、ミュージシャンたちは5GBの音源が収まり、デザインも洗練されてコンパクトなiPodに驚き、記録的なベストセラーとなったのです。
Dyson
Dyson(ダイソン)のUSPは、そのままキャッチコピーになった「吸引力の落ちないただ一つの掃除機」です。家電に興味がない人でさえ、ダイソンのユニークな掃除機は知っているでしょう。
他社に真似できないサイクロン技術による「吸引力が落ちない」強みにより、一般の掃除機の価格の3〜4倍しても、人気が高い高付加価値商品の典型です。
無印良品
無印良品のUSPは、ノンブランドのブランドです。DCブランドがピークを極めていた頃に、ブランドであることを否定する、逆説的で非常にインパクトがあるUSPでした。
そのUSPを反映した「無印良品」というネーミングも秀逸としかいえません。ただし、その根幹には1989年の設立当時の先見性が高い提案がありました。それは、環境に優しいシンプルなライフスタイルという提案です。
今では環境問題に関心を持つ人が増えて、企業もSDGsを意識して持続可能な経営を求められています。しかし1989年といえば、日本経済がバブルのピークに向けて盛り上がっている最中です。大量消費時代の真っ只中に、生活に合理性を求めるターゲット層の大きな共感を呼び、多店舗展開に成功しました。
商品もいつ誰でも使える汎用性が一貫しており、無駄のないものづくりのスタンスと、廃棄物をできるだけ生まないことにこだわっています。
レッドブル
レッドブルのUSPは、ゼロからプラスに上げるエナジードリンクです。他社の滋養強壮剤はいずれも疲労回復を謳っているので、マイナスをゼロに戻すドリンクです。
まったく同じタウリンの効果を、新たな切り口で表現しました。
疲れた人にではなく、これから頑張る人にエネルギーを注入する再定義に、アグレッシブな人たちが注目して、ヒット商品となりました。
なお、マーケティングを過去の15の成功事例から学べる、以下の記事もぜひ参考にしてください。
まとめ
マーケティングにおけるUSPは、少々分かり難い概念なので、「キャッチコピーとどう違うの?」などの疑問を持ったりする場合もあるかもしれません。
今回の記事で、優れたキャッチコピーや広告には、その土台となる研ぎ澄まされたUSPがあることを、おわかりいただけたのではないでしょうか。
あなたの会社の商材も、フレームワーク「SWOT」「5フォース」「VRIO」を使ってUSPを設定することで、より一層の売上拡大の切り口が見つかる可能性があります。
ぜひ一度、原点に帰るつもりでビジネスモデルを見直し、USPを一から設定してみてはいかがでしょうか。
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