マーケティングと営業の違い
ビジネス上でマーケティングというカテゴリーは、ひと言でいえば「消費者の求めるものを製品やサービスなどのカタチにして、市場に提供して利益を上げる」活動全般を指す言葉です。
一方、営業というカテゴリーは「セールス」「販売」とも呼ばれることから分かるように、「売る」ための活動です。市場に提供された製品やサービスを、実際に消費者(個人および法人)に販売するための活動全般を意味します。
マーケティングと営業は、別物であるという考え方が一般的です。しかし、営業は商品やサービスを顧客に手渡すプロセスなので、マーケティングという包括的な活動の中の「最終的な部分」を指すという考え方もあります。この論点は、意見が分かれるところです。
なお、マーケティングの本質的な意味について、以下の記事で特集しているので、ぜひ参考にお読みください。
近代マーケティングの父フィリップ・コトラーの解釈
近代マーケティングの父と呼ばれる経営学者フィリップ・コトラーは、マーケティングと営業を対局に捉え、「マーケティングとは、売り込まなくとも自然に売れるものを創造し、市場に提供する活動」という趣旨の発言もあります。
その発言の真意は、決して営業の存在を否定するものではありません。営業担当や店舗の販売員が積極的に売り込まなくても、顧客側はそれまでの広告などにより購入意欲が高まっており、背中を押す説明さえすれば自然に売れるのがマーケティングの理想。
具体的には、商品企画が的を射て、かつ広告宣伝プロモーションや販売促進キャンペーンなどのマーケティング施策が功を奏して、商品やサービスの価値を充分に伝えることがマーケティングの役割です。
そしてBtoBなら商談をする前の段階で、BtoCなら店舗に足を運ぶまでの段階で、購入の意思決定がなされている状態を理想とします。言い換えればマーケティングとは、後述するように「売れる仕組み」を作ることです。
なお、フィリップ・コトラーの著作を含め、マーケティングに関するおすすめ解説本を以下の記事でご紹介しています。参考にどうぞ。
企業タイプによりマーケティングと営業の位置づけはさまざま
なお、企業組織においては「マーケティング部門」と「営業部門」は、分かれている場合と一体化している場合があります。また、別部門であっても、両部門には密接な連携が欠かせません。
つまり営業とマーケティングの関係性は、企業のタイプによって事情が違います。両者の位置づけは、企業度とにさまざまです。以上のような背景に鑑みると、単なるマーケティングと営業の比較は誤解を招きかねません。
よって、本稿においては誤解を避けるために、主にBtoBの典型的な法人営業を手掛けている企業の、「マーケティング部門」と「営業部門」をイメージして解説します。
つまり、マーケティングは市場が求める商材を作り出して市場に提供し、さまざまな施策によってターゲットの購買意欲を高めるプロセスであり、営業は接客や商談で商材を販売、成約するプロセスであるとして話を進めます。
ここからは、BtoB企業のマーケティングと営業との違いについて、「戦略」「ゴール」「仕事内容」の3つの側面から紐解いていきましょう。
なお、現代におけるマーケティング戦略については、以下の記事で詳しく取り上げていますので、参考にしてください。
BtoB企業のマーケティング戦略と営業戦略の違い
戦略面においての違いを理解するポイントは、「戦う相手」が誰かということです。マーケティング活動という戦いの相手は「市場」となります。一方、営業活動という戦いの相手は「リード(見込み客)」です。
それぞれにフォーカスしてみましょう。
マーケティング戦略の相手は「市場」
まず、マーケティング戦略は、市場に向き合い、市場が求める価値=ニーズを的確に把握して、そのニーズを満たすものを提供するためのものです。具体的な誰かではなく、不特定多数の象徴的な「顧客像」が求めるものを市場に提供する戦いといえます。
営業戦略の相手は「リード」
一方、営業戦略はリード(見込み客)である個人事業主や企業の窓口担当者、決裁者に向き合い、自社の製品やサービスを販売あるいは成約に持ち込むためのものです。目の前にいる、特定された顧客予備軍に対し、商材価値を伝える戦いといえます。
ちなみに、混同しがちな戦略と戦術の違いをスッキリさせたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
BtoB企業のマーケティングと営業のゴールの違い
次にマーケティングと営業の目指すゴールの違いについて、見ていきましょう。マーケティングのゴールは「売れる仕組みづくり」です。そして営業のゴールは「売上を上げること」がすべてといえます。
詳しく見ていきましょう。
マーケティングのゴールは売れる仕組みづくり
マーケティングの目指すゴールは、自社の製品やサービスが売れる環境の創造です。そのために、仕組みを作らなくてはなりません。
綿密な市場調査を行い、結果を分析し、仮説と検証を繰り返す作業から始まります。そして次の段階は、ニーズに見合う製品やサービスの企画開発です。
さらに、形となった製品やサービスのことを潜在顧客に知らせ、関心を持ってもらうための広告宣伝・販売促進などのプロモーションやキャンペーンを実施します。
ここまでがマーケティング部門の担う、売れる仕組みづくりです。
営業のゴールは売上を上げること
営業の目指すゴールは、シンプルに「売上を上げること」です。ところで、ここで対象としているBtoB企業なら個人事業主や法人ですが、BtoC企業なら一般消費者に、自社製品やサービスを販売・成約することを指します。
ちなみに、マーケティングは営業の活動を後方支援し、営業は顧客から得られる情報をマーケティングにフィードバックする関係にあります。
なお、マーケティングの成功事例を知りたい場合には、以下の記事を参考にしてください。
BtoB企業のマーケティングと営業の仕事内容の違い
マーケティング部門と営業部門の仕事内容は、大きく異なります。それぞれを見ていきましょう。
マーケティングの主な仕事内容
マーケティング部門の主な仕事内容は、以下のように多岐にわたります。
・市場調査・分析
・ターゲット設定(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
・商品企画
・マーケティング戦略の立と実行
└広告宣伝プロモーションの企画と実行
└戦略を落とし込んだ販売促進プロモーション・キャンペーンの企画と実行
・アンケートやキャンペーン、問い合わせなどからリード(見込み客)リストを作成(リードジェネレーション)
・リスト上の個々のリードを、メルマガによる情報発信・Webサイト誘導などにより、成約確度の高いホットリードに育成(リードナーチャリング)
・ホットリードになったと判断できる対象者を絞り込み、営業部門に引き渡す(リードクオリフィケーション)
・営業の現場や市場からのフィードバックを反映した、商材の改善・ターゲット設定の見直し
このように、さまざまな分野の仕事があり、プロジェクトチーム内で担当を割り振って取り組むのが一般的です。
営業の具体的な仕事内容
営業部門の主な仕事内容は、マーケティング部門から引き継いだホットリード(見込み客)に、メールや電話等でアプローチしてアポイントを取り、商談(オンライン商談も含む)に持ち込み、クロージング(販売・成約)を目指します。
このように、営業部門の仕事内容は、マーケティング部門よりも多少シンプルです。
なお、最近ではリードリスト対象者とメールや電話でじっくり関係性を構築するリードナーチャリングを実行し、アポイント獲得まで担当するスタッフを「インサイドセールス」部門として、マーケティング部門や営業部門と分ける企業も増えています。
その場合は、インサイドセールスを専従部門(もしくはアウトソーシング)が担当し、営業部門はアポイントが取れたリード(見込み客)との商談に専念します。
なお、インサイドセールスについては、以下の記事を参考にしてください。
BtoB企業のマーケティングと営業の対立はいらない!
マーケティングと営業の違いは以上で明確になりましたが、これら2部門がBtoB企業の内で対立構造を生じるケースが少なくありません。
もちろん、そういう部門間の対立は企業にとって、マイナスはあってこそ決してプラスにはならないものです。なぜ、そういう非合理的なことが起こるのかに、目を向けてみましょう。
ちなみにBtoC企業の場合は小売業か接客サービス業なので、営業とは店舗スタッフを指し、無店舗の場合はマーケティングと営業が一体化していることが多いです。そのため、BtoC企業でのマーケティングと営業の対立はあまり見られません。
本来マーケティングと営業の最終目的は同じ
そもそも、マーケティング部門と営業部門の最終目的は同じであり、売上の拡大と自社の事業の成長に尽きます。しかし残念なことに、両部門の対立に悩むケースが多いというのが現状です。
本来は連携することで企業力を高めるべき両部門が、考え方や意見が相容れない場合や、部門に与えられる予算の取り合いになる場合など、機能不全を引き起こすような対立が見られます。
BtoB企業のマーケティングと営業が対立する原因|どっちが正しい?
BtoB企業において、マーケティング部門と営業部門が対立する背景には、それぞれのミッションや立ち位置に関する相互理解の欠落が、往々にして横たわっています。
具体的に見ていきましょう。
ターゲットやホットリードの解釈のズレ
ある程度歴史がある企業では、ターゲットやホットリード(成約確度の高い見込み客)の定義などをマーケティングと営業できちんとすり合わせすることなく、それぞれの部門ごとに解釈していることがよくあります。
そうなると大枠の解釈は近くても、ディテールでズレが生じがちです。そのため、お互いの捉え方の違いで意見がぶつかる事態を招きます。
自部門のKPIに固執
マーケティングと営業は、それぞれ自部門のKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を設定して、その達成を目指して努力します。それ自体は何ら問題ありません。
しかし、それぞれが自部門のKPIに固執するあまり、もう一方の部門との共通項として持つべき本来の目的が薄れてしまうおそれがあります。その結果、両部門の協力関係にヒビが入ってしまうのです。
なお、BtoB企業のマーケティングにとって、欠かせない手法となっているデジタルマーケティングについては、以下の記事で特集しています。参考にご覧ください。
マーケティングと営業の連携は生産性を向上
ともすれば対立構造になりがちな営業部門とマーケティング部門ですが、ポジティブに連携すれば組織としてのパワーが底上げされ、生産性を向上させます。
具体的には以下の3項目の実現が可能です。
- 業務効率を改善
- 機会ロスの最小化
- 成約率のアップ
個別に見ていきましょう。
業務効率を改善
マーケティング部門と営業部門が連携して、営業部門が営業情報をマーケティン部門に共有すると、リードに関する情報全体が適切に再編・整理されます。
それによって、優先度の低いリード(見込み客)に繰り返しアプローチしたり、同じリードに複数の複数の営業担当が同時期にアプローチしたりなどの無駄、あるいはマイナスの動きが回避されます。
すると、それまでバラバラに動いていた各営業担当の業務フローさえも、すっきりと整理されるでしょう。
対立構造を打破し、情報を共有し合うことで、営業活動をより効率よく行えるわけです。労力を抑えつつ、成約まで最短距離で到達できます。
また、営業が現場で得た顧客からの生きた情報をマーケティング部門にフィードバックすれば、それをヒントにより良いアプローチ施策が立案され、マーケティング部門の精度向上につなげられるでしょう。
機会ロスの最小化
マーケティングと営業の連携ができていなければ、リード(見込み客)にタイミング良くアプローチする基本中の基本もうまくいかなくなります。
営業部門がアプローチした際には、すでにリードの購買意欲は低下していたり、他社ですでに購入・契約していたりなどの、機会ロスにつながりかねません。しかし、ふたつの部門間の連携が好ましい状態であれば、機会ロスを最小限に抑えられます。
成約率のアップ
マーケティング部門がリード(見込み客)リストを営業部門に引き継ぐまでには、さまざまなアプローチやそれに対するリアクションがあります。
それぞれのホットリード(成約確度の高い見込み客)とのストーリーを営業部門と情報共有しておけば、営業部門の提案がリードに即した効果的な内容になり、成約率がさらに高まります。
なお、マーケティングにおいて顧客心理を理解するために重要な「顧客エンゲージメント」の概念について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
マーケティングと営業の対立解消は情報の共有から!
マーケティング部門と営業部門の対立がある場合、解消して連携を強化することで確実に生産性が向上します。その対立解消のためには、以下の3項目に取り組むのが有効です。
- ターゲットやホットリードを再定義して共有
- KGIの共有で各自のKPIを最適化
- 互いの活動情報を可視化して共有
各項目を見ていきましょう。
ターゲットやホットリードを再定義して共有
過去がどうであったかはともかく、一旦仕切り直しの意味で両部門の合同ミーティングを開き、ターゲットやホットリードを再定義しましょう。
お互いが相手側の認識や解釈の仕方、その部門だからこそ感じることを共有し、すり合わせることで、自社の製品やサービスにマッチするターゲットやホットリード像が見えてきます。
なお、ターゲットやホットリードのニーズを理解するために重要な概念、「インサイト」について以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
KGIの共有で各自のKPIを最適化
そもそもKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)のベースになるものは、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)です。
自部門KPIへの固執から部門間で対立が生じている場合は、その上位概念であるKGIを今一度共有し、いかにKGIをクリアするべきかという原点に立ち返って議論を交わすことが、各部門のKPIの最適化につながります。
KPIがそれぞれの部門内で最適化されてくると、無意味な対立が回避できるでしょう。ただしそのためには、次に述べる項目が必須となります。
互いの活動情報を共有
対立する感情というものは、一般的に相手のことがよくわかっていないことが原因となります。つまり、お互いを知れば知るほど無意味な対立は影を潜めてゆきます。
定期的に2部門でのミーティングにおいて、それぞれの活動情報を共有しましょう。そうすれば不信感の「素」が減ってゆき、部門間の融和に向かうはずです。
なお、マーケティングと営業の双方にとって極めて重要な概念、「USP」について以下の記事で特集しています。ぜひご一読ください。
まとめ
広い領域をカバーするマーケティングと、とにかく販売することに専念する営業では、向き合う対象も仕事の仕方も異なります。そのため、基本的な情報共有や部門間のミーティングなどを実施しなければ、対立関係になりがちです。
社内における営業とマーケティングの対立は、「百害あって一利なし」と断言できます。もしそういう状態にある場合は、ぜひとも速やかに情報を共有し、KGIを確認し合うことで解消すべきでしょう。
BtoBビジネスに携わるみなさんは、マーケティング部門と営業部門の良好な関係性が、生産性を向上させるという認識に立って売上を拡大させてください。
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