セグメントはSTP分析の最初のプロセス
セグメント(セグメンテーション) とは、市場を特定の属性で分類する作業、もしくは分類されたグループを意味します。STP分析というフレームワークの3つあるプロセスの、最初にあたります。
STP分析は、以下の3つのプロセスで行われます。
- S:セグメンテーション
- T:ターゲティング
- P:ポジショニング
各プロセスを見ていきましょう。
S|市場を属性で「分ける」=セグメンテーション
セグメンテーションの同一市場内の消費者を、属性によっていくつかのグループ(セグメント)に分ける作業です。
基準となるのは、主に以下のようなファクターです。
- 地域
- 年齢
- 職業
- 価値観
- ライフスタイル
- 趣味
消費者の属性を確かめるためには、根拠がある情報をもとに進めなければなりません。ソーシャルメディアのアクセス(またはインサイト)分析機能を使えば、自社の製品・サービスと関連するジャンルの消費者動向を知るのに有効です。
ソーシャルメディアでのユーザー心理や行動パターンを分析すれば、それまで気づかなかった新たな顧客像が浮上するケースもあります。
T|顧客対象の的を「絞る」=ターゲティング
セグメンテーションによって市場を大きく分類してから、商品の特徴や市場の環境にもとづいて、どのセグメントを標的として絞り込むべきかを決定するプロセスです。
P|自社を複数軸で「位置づける」=ポジショニング
ターゲットが決まったら、市場における自社ブランドや製品・サービスの優位性を見極めて位置付けするポジショニングを行います。ポジショニングには、4象限のマトリクス「ポジショニングマップ」を使います。
自社商材と関連性が強い2つの軸を設定し、競合と自社を書き込むポジショニングマップは、ねらっている市場が一覧できるので、戦略を考える役に立ちます。
なお、STP分析を含むマーケティングフレームワークについて、市場分析と戦略立案に役立つものをピックアップし、以下の記事で特集しています。ぜひ参考にしてください。
また、マーケティングと経営の関係性について、以下の記事でわかりやすく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
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現代マーケティングにおけるセグメントの課題
現代のマーケティングにおけるセグメント(セグメンテーション)の主な課題は、以下の3つです。
- ニーズの多様化・複雑化
- ソーシャルメディアの活用
- デジタルツールの活用
個別に見ていきましょう。
ニーズの多様化・複雑化
現代は消費者のニーズが非常に多様で、誰もが例外なく望む製品やサービスなどはほとんどありえません。そのため、多くの人に受け入れられる製品・サービスを目指して作ると、投資を回収するのは困難です。
自社特有の強みに惹かれるリード(見込み客)や、主要顧客と同様の属性を持っているリードが含まれるセグメントを標的として、アプローチする必要があります。だからこそ、セグメンテーションがより重要です。
ソーシャルメディアの活用
ソーシャルメディアの普及は、セグメンテーションの精度向上に影響を及ぼします。特にBtoC企業にとって、ソーシャルメディア上の消費者行動や発言を分析することは、消費トレンドの理解のために有効です。
さらには、ソーシャルメディアを活用してマーケティング施策を展開することにより、ローコストで高い効果が得られる可能性があります。そのため、BtoC企業にとってはソーシャルメディアの活用は大きな課題です。
デジタルツールの発達
BtoB企業は、リード(見込み客)情報に基づいてマーケティング施策を改善します。これまではリードの情報収集と整理、分析に多大な時間と労力が必要でした。そのため、リソースに余裕がある企業でなければ、充分な分析は困難だったのです。
しかし、ITの進歩により、低価格でマーケティング向けのデジタルツールが利用できる時代になりました。Webを接点とするユーザーの行動や反応に関するデータを、自動的に取得して分析ができます。
BtoC企業がSNS情報を効果的に活用する課題に直面しているように、BtoB企業はデジタルツールを使いこなして市場を分析し、セグメンテーションの精度を高めることが課題です。
なお、マーケティングそのものにおける現代の課題については、以下の記事で特集していますので、参考にご覧ください。
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セグメントの切り口となる「変数」を使う有効なやり方
セグメンテーションを行う際に、リード(見込み客)を分類する「切り口」を持つことが非常に重要です。この切り口として、以下の4種類の変数があります。
- 地理的(ジオグラフィック)変数
- 人口動態(デモグラフィック)変数
- 心理的(サイコグラフィック)変数
- 行動変数
それぞれの変数について、詳しく見てみましょう。
地理的(ジオグラフィック)変数
地理的な要素を切り口としたセグメンテーションは、気候や生活習慣などのファクターによって消費行動が変わる衣料品や食品類、一部の家電製品などのマーケティングに有効です。具体的には、以下のような変数が使用されます。
【地域の状況】
例)駅周辺の開発事情・都市再開発の有無など
【文化と習慣】
例)地域隣人との緊密な絆・地域の風習と関係する嗜好性など
【地域】
例)東日本・西日本・関東・東北・東海・関西・アジア・ヨーロッパ・北米・南米・中東など
【気候条件】
温度・湿度・降雨量・降雪量など
人口動態(デモグラフィック)変数
セグメンテーションを実行する際の変数として、人口動態(デモグラフィック)変数が使用されます。顧客のニーズとの関連性が高く、測定が容易なことから、マスマーケティングで主に広く使用されています。
具体的には、以下のような変数が使用されます。
【年齢層・世代】
例)20代・30代・ミドル・シニア・団塊ジュニア世代・ミレニアル世・Z世代など
【性別】
例)男性・女性・LGBTなど
【産業】
例)接客サービス業・小売業・卸売業・金融業・製造業・広告業・流通業など
【職業】
例)営業・事務・人事・企画・ITエンジニア・デザイナー・医師・弁護士・会計士など
【収入】
例)年収300万円未満・300万円台・400万円台・500万円台・600万円以上など
【最終学歴】
例)中学校卒・高校卒・専門学校卒・4大卒・短大卒・大学院修了・海外大学卒など
【家族構成】
例)未・既婚・子供の有無など
【世帯人数】
例)1名・2名・3名以上など
例えばメンズビジネススーツを売り出す場合、20〜30代か40〜50代かによって製品のコンセプトとマーケティング施策を展開する媒体やチャネルが変わります。
心理的(サイコグラフィック)変数
価値観、ライフスタイル、性格などに基づいてセグメンテーションを実行するときに心理的(サイコグラフィック)変数を使用します。
過去には絞り込み難いとされてきました。しかし今日ではインターネットの普及、とりわけソーシャルメディアやECサイトのデータ収集・分析機能の発達で精度が高まっています。
具体的には、以下のような変数が使用されます。
【生活様式と価値観】
例)ブランド志向・オーガニック志向・新し物好き・伝統志向など
【性格】
例)社交的・野心的・単独行動派など
人口動態(デモグラフィック)変数によって同じグループに属する人たちが、心理的変数によってまったく異なるグループに分割されることは珍しくありません。
たとえば、人口動態(デモグラフィック)変数で「30代主婦」に一括りで分類される人たちが、心理的変数はしばしば「新し物好き」と「伝統志向」に分かれます。このように心理的変数は、ほかの変数と組み合わせることで顧客像を立体的にします。
行動変数
行動変数は、行動パターン、反応、知識などに基づいて細分化します。心理的変数と同様に、ソーシャルメディアとECサイトの発達により、測定が効率的になりました。
具体的には、以下のような変数が使用されます。
【使用シーン】
例)週末・朝・夜・夏・冬・移動中・食事中・オンタイム・オフタイム
【使用頻度】
例)ライトユーザー・ミドルユーザー・ヘヴィユーザー
行動変数を利用してたとえば、商品情報を知らない新規顧客と商品情報をよく知るリピーターを区分し、アクセス方式や販売チャネルを変更するなどの施策を講じられます。
なお、セグメントの作業に当たる際に知っておきたい「インサイト」の概念を理解するためには、以下の特集記事を参考にしてください。
セグメントをチェックする4Rとは?
セグメンテーションの実行において、市場の消費者をランダムに分類するのではありません。潜在顧客として最適なグループを決定するのに効果的な基準、「4R」を用いてセグメントの有効性・妥当性を具体的に確認してみましょう。
4Rは以下の4つの項目です。
- Rank|優先順位
- Realistic|規模の有効性
- Reach|到達可能性
- 応答性/測定性
それぞれの項目を見ていきましょう。
Rank|優先順位
細分化された各グループの特性を、自社のマーケティング戦略および営業ビジョンと比較し、重要度に基づいて優先順位を付けます。
Realistic|規模の有効性
マーケティング戦略で標的としたいセグメントが、収益を生み出すのに充分な規模であることを確認します。
Reach|到達可能性
対象とすべきセグメントに対して、マーケティングの施策が実際に到達できるものかどうかを調べます。
Response|測定可能性
セグメントの規模や購買力などの的確な把握や、マーケティングの施策に対する反応の測定が可能かどうかを調べます。
これらの4項目のチェックを入念に行えば、セグメントが的を射たものかどうかが浮き彫りになるでしょう。
なお、セグメンテーションを包含するマーケティングの本質的な意味については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
セグメンテーション成功事例集
心理的変数や行動変数など、定量的に決定するのが難しい定性的な変数を、地理的(ジオグラフィック)変数、人口動態(でもグラフィック)変数などの定量的な変数と掛け合わせることで、セグメンテーションの精度を高める試みが行われています。
セグメンテーションの切り口が的を射たものかどうかは、売上の動向に大きな影響を与えます。つまり、セグメンテーションがマーケティングのひとつの核心であるといっても、過言ではありません。
最後に、過去に成功したセグメンテーションの事例をご紹介します。
【ポカリスエット】
日本に「スポーツ飲料」の市場がまだ確立していなかった頃に大塚製薬の「ポカリスエット」が登場し、しばらくは独占状態で消費者の大きな支持を得続けていました。
やがて「アクエリアス」や「DAKARA」などの競合商品が登場します。「ポカリスエット」は市場規模がかぎられているスポーツ飲料市場の枠を超え、より大きな市場である清涼飲料市場に進出し始めました。
その際にも、「水分補給」と「イオン飲料」のアピールは継続しました。清涼飲料の中で「健康的で水分補給に適している飲料水」を求めるセグメントに標的を定め、差別化に成功しています。
【ハーゲンダッツ】
コンビニやスーパーマーケットに並んでいるアイスクリームの価格帯よりも一段階高い「ハーゲンダッツ」のアイスクリームは、旬の商品やプレミアム感がある商品をタイムリーに投入し、時には爆発的な販売量を見せています。
アイスクリームが標的と定めるセグメントは、一般的にキッズでした。キッズたちが自分のお小遣いで購入できる、老若男女に人気が高い商品というのが基本発想です。
「ハーゲンダッツ」は競合の顧客とは差別化された「大人」集団をセグメントし、自社の高級アイスクリームによって圧倒的差別化を成し遂げました。
【すき家】
従来のほとんどの牛丼店は「吉野家」と同じ方向性をねらって「男性の単独客」、つまりアルバイト学生や独身サラリーマンのセグメントに標的を定めていました。要するに速やかにコスパで食欲を満たせる店を意識していたのです。
しかし、「すき家」が「吉野家」から王座を奪取した勝因は、「単数・複数の女性客」「家族客」などのセグメントをも標的にしたところにあります。
女性同士や家族連れで気軽に行ける「ハンバーガーショップ」や「ファミレス」のような、楽しくにぎやかな牛丼店「すき家」として成功しました。
【ユニクロ】
衣類に対する従来のセグメントは、性別、年齢グループ、キャリア指向などに細かく分類されていました。
しかし、ファーストリテイリングの「ユニクロ」はそうせず、「カジュアルでベーシック」な服を着る広範なセグメントを標的としました。
「ユニクロ」はもともと品揃え型のカジュアルショップでした。しかし、1990年代後半からSPA(製造小売業)に業態を転換します。
その後、「ユニクロ」は消費者のニーズに合わせて生産を柔軟に調整できる、SPAの強みを活用する戦略で、大きな成果を上げました。
男性・女性・キッズ別のサイズ展開と、圧倒的に豊富なカラーバリエーションを披露したフリースの空前の人気はアパレル業界の歴史に残るものでした。
それ以降も「ユニクロ」はヒートテックやエアリズムなどのヒット商品を生み出し、グローバル規模の優良企業に成長したのは周知のとおりです。
【スタディサプリ】
リクルートの課金型オンライン学習サービス「スタディサプリ」は、大学入試を目指す高校生を対象にリリースされました。ただし、そのセグメントは、地域的または経済的な理由で予備学校に通えない高校生です。
このセグメンテーションは、地域的または経済的な理由で予備学校に通えない高校生が全高校生の約70%を占めるというデータに基づいています。
「大学への進学を希望」という心理的変数と「高校生」および「世帯年収」の人口動態変数、さらには「予備校のない地域」の地理的変数を組み合わせたセグメンテーションを通じて多くのユーザーを獲得しました。
【レッドブル】
リポビタンDなどの人気定番商品を参考にしながらも、レッドブルはセグメントに工夫が凝らされています。をよく考えています。
滋養強壮ドリンクは数多く存在しますが、いずれも疲労回復の目的を掲げた商品です。同じ効能を持っているレッドブルは、表現を変えて「エナジードリンク」というキャッチコピーをアピールしました。
何かの競技で良い成績を出したい場合や、業務の大詰めで残業に臨む際にパフォーマンスを向上させるのが「エナジードリンク」という再定義です。疲労回復ではなくこれからパワーを発揮したい人たちをセグメントし、差別化に成功しました。
【JINS SCREEN】
従来のメガネは視力が悪い人のための、視力矯正アイテムであり、ファッショングラスとサングラスはニッチなアイテムでした。
これに対しメガネブランドの「JINS」は、メガネ市場の再定義を通じて「視力が良い人」さえもねらうべきセグメントに追加したのです。
視力矯正アイテムではなくPCを使った作業時の眼精疲労を軽減する、おしゃれかつ軽量でブルーライトをカットする機能的なPC用メガネ「JINS SCREEN」にて、競合他社と差別化しました。
「JINS SCREEN」は事務用品、ファッションアイテム、健康用品などの多くの領域にまたがる商品で、視力矯正の必要がなくても、眼の健康のためにメガネを着用する新しいライフスタイルの提案です。
視力が悪い人に加えて、視力は良いけれど、眼精疲労やドライアイなどの眼に関するトラブルを抱えている人、トラブルはなく純粋にファッションアイテムとして捉える人を対象にすることで、セグメントの幅を広げ、成功につなげました。
【ヘルシア緑茶】
花王の「ヘルシア緑茶」は、コンビニなどで必ず目にする、健康およびダイエット向けの飲料のスタンダードです。
もともと緑茶市場は「お〜いお茶」や「伊右衛門」などの根強い人気を持つ競合商品があり、参入のハードルは高いと考えられていました。
しかし、それらの競合商品がおおむね青年向けであると花王は判断し、中年世代のセグメントに向けて、肥満防止やダイエットを促進する健康緑茶のイメージで展開しました。
その結果、他に類のない強みを持った「ヘルシア緑茶」は同市場内で存在感を際立たせ、成功しました。
【Let’snote】
パナソニックの「Let’snote」は、セグメンテーションのために人口統計変数をうまく活用した成功事例です。
すべてのビジネスパーソンを対象とするのではなく、「ビジネスで移動する」グループに焦点を当てました。これこそパナソニックがモバイルPCに固執する理由です。
軽く、小さく、薄く、持ち運びが簡単で頑丈なノートPC「Let’snote」は1990年代後半からロングセラーとなりました。
当時、多くのPCメーカーはハイスペックを追求しました。しかし、パナソニックは独自のセグメンテーションに従い、ビジネスで移動するPCヘビーユーザーを対象にしたおかげで、成功を収めたのです。
なお、セグメンテーションにおいて考慮すべき要素である顧客エンゲージメントについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご参考に。
まとめ
セグメント(セグメンテーション)の概要と現代の課題、確認のための4Rなどを解説し、成功事例を紹介しました。セグメンテーションの価値は、変数を掛け合わせて既存のアプローチと差別化することで、新たな市場を創造できるところにあります。
マーケティング担当者のみなさんは、広い視野から精度の高いセグメンテーションに取り組み、マーケティング戦略を成功させてください。
また、マーケティング活動において極めて重要な部分である「広告」について、その種類や戦略を以下の記事で徹底解説しています。興味があるみなさんは、ぜひご一読を!
なお、マーケティングの基礎から学び始めたいと考えているみなさんは、まず以下の誌上セミナーをご覧いただいてから、学習計画を立ててください。
【コンテンツマーケティング担当者必見:おすすめ記事】
【デジタルマーケティング担当者必見:おすすめ記事】
また、当メディア「kyozon」ではマーケティングに役立つ、さまざまなサービスの資料が無料でダウンロードできます。マーケティング担当者や責任職のみなさんは、ぜひご利用ください。
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