登壇者プロフィール
1975年5月福井県生まれ。金沢大学大学院修了。
2001年から世界一周の旅に出る。帰国後、旅の本を出版し、ECの世界へ。
2014年に二度目の世界一周の旅をしたのち、シンクロを設立。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケティング支援やデジタル事業の協業・推進を行う。
・株式会社シンクロ 代表取締役社長
・株式会社グロースX 取締役CMO
・オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員CMT
・鎌倉インターナショナルFC 取締役CDO(チーフデジタルオフィサー)
・株式会社FABRIC TOKYO 社外取締役
・株式会社NTTドコモ コンシューママーケティング部 シニアマーケティングディレクター
東京都出身、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。ビジネス専攻に特化した米ボストンにあるバブソン大学で起業学を学ぶ。帰国後は、企業コンサル、イベント事業を経て日本を世界に繋ぐビジョンのもと株式会社number9を立ち上げ、世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業。2017年、ON THE TRIPを立ち上げる。
自己紹介
私、前職ドクターシーラボという化粧品会社にいて、現在はシンクロという会社の代表、グロースXというSaaSの教育をやっている企業のCMOや、オイシックス・ラ・大地の執行役員も拝命しております。
あとは書籍を出していたり、各種コンサルティングのお仕事もしております。もう1つ、マーケティングやAI人材を育成するようなSaaSの話なんですが。滋賀県の方がAIの勉強したいということで「グロースX AI編」を入れていただいたりとか。
他にもDX編みたいなところを導入していただいていることも多くなって、今回このテーマについていろいろお話できるんじゃないかなと思ってます。よろしくお願いします。
実は僕自身、10年前に世界1周を1年くらいかけてまわったんですが、その後に「旅ラボ」というモバイルメディアを立ち上げました。
さらに、on the tripという「オーディオガイドを軸としたサービス」をつくっていまして、本日はその話を中心にしたいと思います。
「没入型オーディオガイド」で世界観に没入
ベースは音声なんですが、位置情報と連携しながらビジュアルテキストでも体験してもらえるというのを、日本語以外に英語、中国語でも対応しています。
本オーディオガイドの特徴として、ひとつひとつのガイドがまるで映画を観るような、ドラマを聞くような、小説をめくるような形で、その場所ごとにまさに物語を創っていくようになっています。
たとえば貴船神社という神社では、日本人・神道にとって「水」とはどういうものなのかについて、40分の案内を伴った体験企画として味わえます。
このような感じで日本各地分用意しているのですが、同じ景色が今まで見えていたものと全く違ったものに見えてくると。一般的なオーディオガイドはどちらかというと、そこにあるものをただ説明しているだけのものが多いですが、それとはまたちょっと違って、その景色が深く見えるっていうか、違った景色に見えるようなところまで「作り込んでいる」んですよね。
いわゆる無機質な情報だけであればwikipediaでも見れるので、そういうものじゃなくていかに「物語」を伝えていくかという。
こういった「物語」に関しては語り部のような「人」が人に対して感情豊かに直接伝えるのが一番なのですが、人員が限られており、24時間いつでも聞けるわけじゃない。そこでデジタル技術の力。QRコードを入口に設置しておくだけでon the tripをダウンロードできるので、特にコロナのタイミングになってから利用していただける機会が爆発的に増えました。まさに「観光施設のDX化」となりますね。
「オーディオガイドビジネス」のマネタイズ手法
もう1つが、「本オーディオガイドサービスをクリエイティブデザイン等含め完全無償提供。そのかわり入館料を値上げしてもらい、値上げ分を我々が頂戴する」という内容。こちら「日本の観光課題」となっていて、例えば有名な「サグラダファミリア」の入館料って1回3,000円以上かかるのですが、京都の清水寺の拝観料って400円、500円とか、こんな風に諸外国と比べて5~6倍ぐらい違うみたいなことも結構ザラです。物価の安い東南アジアのほうが日本よりも高かったりするケースもあるくらいで。
このように日本の各種観光施設の入館料っていうのは、この20~30年ほとんど変えて来なかった。それによって、文化財の売上を上げることができず、各種コンテンツに投資したり文化財の補修がまわらなかったりするのが現状であり、それによって結局将来的に体験自体が損なわれていってしまう。が、とは言えそこに何らかの付加価値がなければ消費単価を上げ辛く、我々はそのお手伝いをさせていただくと。
日本でも妖怪の美術館ってなかなかないんですけど、この美術館の入館料を一緒に値上げしていくみたいなことをやりました。
もともと1,000円だった入館料を彼ら独自で2,000円に値上げして、展示を増やしたりとかしてたんですが、なかなか観光客が増えてなかったという相談がきたと。
それで思い切って値上げした2,000円を、さらに2,900円まで値上げしましょうと。
値上げの根拠のためにやったことは2つで、1つが我々のオーディオガイドサービスを導入するということ。まず、「(オーディオガイドで)妖怪が話かけて案内をしてくれる」という体験に変えたところ、大好評。さらにそれに紐づく「第2の手」として美術館のポスターや入口のパネル、館内の案内動線等の「クリエイティブ改善」。
これらの施策によって物語への没入というのが生まれてきて、実際に妖怪が案内するんですけど、特に子どもも面白がりながら、妖怪が日本でなぜ生まれたのか、どう変遷していったのか、現代にも妖怪っているんだみたいな話を、本当に楽しみながら学べる施設になったことによって、家族連れが増えました。
実際に、妖怪物語を聞くとみんなファンになってくれて、この妖怪楽しい、面白いとなって。妖怪のグッズも一緒につくったんですけど、オーディオガイドを聞いた後では売上が上がりました。
それに比例して口コミの量や質も増えました。「没入感半端ない」「ガイドに従いながら歩くのでわかりやすかった」「帰ってからも音声ガイド聞く」という人もいて。その点も面白かったですね。
日本の文化史の子どもの時に楽しかった妖怪に対する懐かしい気持ちと、小豆島に対するアート的なイメージとの掛け算がめちゃくちゃ面白いなと思いました。確かにオーディオガイドがなかったら、1,000円が妥当なのかもしれないと思ったけど、2,900円の価値は十分にあると思うし、実際に口コミとしてあがってるのが面白いなと。
入館者を「昨対比3.6倍」まで増やせた原動力
たとえば今まで正直あんまりカッコ良くないポスターを配ってたりするわけなんですけど、実際に僕らのほうでカッコいいものにつくり直すと、スタッフ方が積極的・自発的にビラ配りやSNSアップ等々の集客活動をされていかれるんですよね。
この流れの延長でなんと「妖怪バー」が夜オープンしたり、僕らが関わっている部分も含めて色んな施策ができてきたのは本当に面白いですね。
今回、もともと1,000円の美術館を2,900円に値上げしたことによって、付加価値や体験が変わり入館者も昨対比で3.6倍に増えたっていうこれがすごい面白いですね。口コミが増えたり、コロナ前だったんですが、日本語以外に英語、中国に対応したことで海外の人たちも増えて。それによって入館者自体が増えたっていうのもあるんですけど、なにより面白いのが、もともとそんなに大きな美術館じゃなかったんですけど、一緒に行ったことによってグッズを作ったりとか、滞在時間が伸びた結果隣接のカフェやレストラン等に流れていって、施設全体の売り上げが11倍に伸びたというのが奇跡的でした。
このような事例を日本各地で増やしていきたいというのが、今まさにやっていることです。
「地方DX化・活性化」実現のために立ちふさがる課題
例えば、DXという言葉が走った結果、地域のほうでeコマースを作って乱立しているけれど全然売れないみたいな話ってけっこうある。
「手法ありき」で思考しないのは危険。このあたりの課題をもう少し詳しくみると自分なりに大きく3つぐらいあるかなぁと考えます。
まずどうなりたいってところの「ゴール」を明確化すること。当然ビジネスでやってるわけなので、集客と購入率と単価があって、どの数字をどう上げていくのかをちゃんと考えなきゃいけない。
今回のケースでいうとオーディオガイド周りサービスを作ることで、「単価」自体をしっかり上げていこうと。単価が上がって体験が良くなって、結果、集客が増えましたが、このあたりを計画段階で事前に明確化しておかないと、あやふやなものになっちゃうんじゃないかなと。
2つ目が「マーケティング思考」。先程も話に出た通り、単にネットで調べたらわかるような「無機質な情報」をオーディオ化しましたというだけじゃ意味がなく、インパクト的に弱い。観光業の場合は「体験」こそが売り物であるため(旅館やホテル、観光スポット等はあくまで体験を届けるための媒体・素材にすぎない)、いかに「素材」を活かして、料理してマーケティング観点から体験を演出していけるかと。
3つ目が、まさに地方創生における重要ポイントとなるのですが、「顧客の多様性の理解」ですね。例えば今まで観光ひとつとっても、観光バスでいっぱいお客さん連れてきて、観光バス誘致のためにどうしたらいいかみたいな話とか、大箱を用意する話が多かったけれど、どんどん変わっている。具体的には平日とかでも稼働できる人がたくさん増えてきたりとか、どこでもリモートワークできるようになってきて、土日にしかお客さん来なかったモデルが変わってきたり。
外国人がたくさん入ってきたりしても外国人って一言で言っても中国人と韓国人とアメリカ人とヨーロッパの人、全然違う話で、どのお客さんに新しく来てもらって、どのお客さんにリピートしてもらうかということの分解が結構できてない。なんとなく、この場所にこれを作れば売れるんじゃないかみたいな話が結構あるなぁと思ってます。以上、この3つとなるのですが、いかがでしょう?
石井さんの今の話はどちらかというと総論的課題でしたが、我々はもうちょっと細かい各論部分での課題を伝えられたらいいかなと思います。まずいろんなところに行って話を聞くのですが、「課題を捉えすぎているのが課題」だなと思います。
例えば、観光部署とかで話聞いていくと「あれもこれも伝えきれてないんですよ」とか「待ち時間を減らして効率化しないといけないんです」とか「魅力的な商品がうち何にもないんで作らないといけないんです」とか色々出てくる。
で、eコマースサイトだったりアプリだったり量産していくわけですが、正直溢れすぎちゃうんですよね。「これもあれも状態」となって観光客は選ぶのにストレスがかかるし、結局その地域が何を発信したいのか、伝えたいのかがまったくわからない。これってかなり大きな課題だなと。
課題解消において重要な「オリジナリティ」
妖怪美術館に関しては、妖怪に特化したわけですが、でも、小豆島は別に「妖怪島」ってわけではなく、いろいろあるわけですよ。オリーブもあるし、エンジェルロードとかいろんな観光の場所があるんだけども、とにかく妖怪のことだけに特化していった。この「オリジナリティに富んでいく」っていうのはすごい大事だなと思って。じゃあオリジナルってどうつくるのみたいな話となるのですが、サグラダファミリアをつくったガウディの言葉で、「オリジナリティとは、オリジンに戻ること」という。
つまり、その地域のオリジナリティって、実はその地域がなぜ生まれたか、その地域のルーツとか、オリジンに戻ることでつくれるなと思っています。
歴史を紐解いていくと、その地域が生まれた経緯や意味がわかり、そこがオリジナリティにつながると。
例えば僕がよく言っているのが、ラーメンもカレーも焼肉もありますって店が一番流行らないっていう。シンプルにいうと、お客さん別にそこを求めてないしっていうのと、さっきの3つぐらいの課題の話、たぶん本当はこれ、まさに地方でやっていくべきことって大事なのは「マスなマーケティングをやらないこと」だと思うんですね。
なぜなら、年間1,000万人の観光客が必要な場所なんてほとんどないわけですよ。なんだけれど、1,000万人来て欲しい、日本の国内でいうと10分の1の人が来て欲しいよというのはいらなくて、本当は1万人くれば十分すごく収益として成り立つって考えれば、オリジナリティが1個あれば、そこが伝われば全然大丈夫な話なんだけど。
さっきの、全部ありますよってやることで、マス的な感じをいこうとすると失敗するっていう。やっぱり大きくいうと、地方ならではの課題の解き方なんだなと思います。
地方の「覚醒」と世界観の構築
これをどうやって起こしていくかっていうことが、その現場に行ってなかなか見えなかったりするので、この覚醒感を作っていくっていうのが僕ら外者の役割なんだと思います。
そして覚醒と同時に「深い世界観」も構築できる。さっきの妖怪美術館、クリエイティブ面含め素晴らしい世界観が構築されてますよね。それによって、地域の人たちとかも誇りを持って伝えていくみたいなことができたりする。その中で、僕たちの役割って、その場所のものをどうやって目覚めさせるかという。ここに注力すべきだなと思っています。
で、こういった物語とか世界観とか、イントロから始まると思ってるんですよ。例えば、この離島に行く時って船で行くわけですけど、船の中で世界観を創出させてから降り立つと、もう世界観になっているわけですよ。ディズニーランドとかそうなんですけど、コロナ禍になってからディズニーランドは人数管理してるんで、並ばずに乗り物に乗れる。並ばずに入ると、全然面白くないんですよ。
でも、1、2時間並んでいるうちに、その世界観に入って行って、世界観ができた状態で乗り物に乗るからそれが楽しいっていう。それは、待ち時間が減ったことによってディズニーランドの世界観が伝わらずに面白くなくなってるってことが結構あるなぁと思います。
つまり、世界観をどうやって構築していくかっていうのは大事で、この地方ではこういった世界観を持っているんですよということを、僕はどんどん拡散させていきたいなと思います。
さっき、ゴッホの美術館、もともとこのon the tripの話てる時も、ゴッホの美術館がよく出てきますけど、ゴッホのことを知らない人も、ゴッホの美術館の中で情報が伝わることで、全然違う絵に見えたりとか。それってもともと新しく価値を作ったというよりは、元々ある価値をどう覚醒させたかに近いのかな。それがみんな画一的になっちゃうほどますます問題になる。
僕は、日本の地方の1番の問題って、どこに行ってもマツキヨがあって、吉野家があってみたいな。
それが悪いわけじゃないけど、地方として同じ顔になっちゃってることがすごく問題だと思ってるから、これをもっともとのオリジナルに戻すところと、それをちゃんと伝えるというのが、新しいものを作るんじゃなくてというのが、さっきのテーマを考えるフレームワークとしてむちゃくちゃ面白いなって思いました。
例えば、地方の有名なお寺に行きましたと。もうそこまで行って、その値段が500円なのか1000円なのかで、どこまで意思決定が変わるんですかという部分を、改めてちゃんと考えなきゃいけない。もしかしたら、本当に来て欲しい人に3,000円払ってもらっていい体験してもらうほうが、結果的にそこの価値が上がるはずなんだけど、300円にしないと来ないかなって言って、300円で多数の人に来てもらった結果、新しい体験できなかったり、オリジナリティなかったりするって事が出てきているのかなって思います。
金額1つとってももっと話すことあるかもしれないですけど、それを踏まえて全体の課題感が上手くいったのが、小豆島の事例なのかな。というわけで、実際に地方で入場料を上げてもたくさんの人に来てもらった事例をもとに、今日2人で実際の課題の解決法についてお話させていただきました。ありがとうございました。
まとめ
地方創生サミット2022 地方創生とSDGs、Society5.0との関わりについて Day3 アーカイブ
YouTube:https://youtu.be/OM1Qqnvlvcs?t=281
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