マーケティング戦略の種類を体系的に整理すると?
マーケティングとは、ニーズを見極めて商品やサービスを創造し、市場に提供して顧客に届ける入口から出口までのすべての活動をカバーする概念です。視点の設け方次第で、分類の仕方も数多く想定できます。
実際にWeb上で閲覧できる、マーケティングに関するさまざまなドキュメントにおいて、他のドキュメントと異なる分類・整理の仕方で解説されているものも多く見られます。しかもそれぞれの分類法には、ちゃんと整合性があり、いずれも間違いとは言えません。
なお、マーケティングの本質的な意味については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
マーケティング戦略の種類は「押し」か「引き」のどちらか
さまざまなマーケティングを行う際のアプローチのスタンスは、大きく「プッシュ型」=「押しつける」マーケティングと「プル型」=「引きつける」マーケティングに2分類する考え方が一般的です。
比較的年齢が若いマーケティング担当者のみなさんにとっては、プル型は当たり前のスタンスのように感じられるかもしれません。しかしながら、プル型が普及してきたのはここ十数年の話です。
つまりマーケティングの長い歴史からすれば、極めて新しい考え方の部類に入ります。ベテランのマーケティング担当者のみなさんの多くは、プッシュ型でどっぷりやってきた中で、プル型の黎明期を経験していることでしょう。
プッシュ型はアウトバウンド、プル型はインバウンド
本稿においてはまず、マーケティング体系をスタンスの観点から二分する「プッシュ型」と「プル型」という分類法にフォーカスします。プッシュ型は「アウトバウンドマーケティング」で、プル型は「インバウンドマーケティング」に言い換えることができます。
そのどちらにも属さない、新しいタイプのマーケティングを「その他のマーケティングトレンド」として3つめの体系とします。この3体系の概要に触れてから、それぞれの体系における代表的な手法をピックアップして、個別に解説しましょう。
なお、すべてのマーケティング体系において出発点となる、消費者インサイトの概念を理解するためには、以下の特集記事を参考にしてください。
プッシュ型|アウトバウンドマーケティングとは
プッシュ型は「押しつける」マーケティングで、こちらからアプローチを仕掛ける「アウトバウンドマーケティング」を指しています。従来マーケティングといえば、このアウトバウンドマーケティングが主流であり、基本戦略でした。
まずはそんなアウトバウンドマーケティングの特徴と、メリットおよびデメリットを解説します。
基本戦略としてのアウトバウンドマーケティングの特徴
アウトバウンドマーケティングとは、売り手側から買い手側に対して、積極的にアプローチを行うスタンスのマーケティング施策の総称です。
アウトバウンド(Outbound)という言葉は旅行業界でよく使われ、国内から海外へ向かうことを指しています。バウンド(bound)は境界の意味で、国境から出るという動きを表現した言葉です。
アウトバウンドマーケティングも同様で、企業がマーケットにやってきて売り込みをかける活動です。新聞やテレビ、看板やポスター、メルマガやWeb広告などの、さまざまな媒体やツールを通して潜在顧客に売り込みをかけます。
なお、従来は消費者の家庭やユーザー候補の企業を訪問する、直接的なアプローチもよく行われていました。しかし時代の変化で少なくなり、2020年からのパンデミックの影響で訪問自体が制限され、さらに下火になっています。
アウトバウンドマーケティングのメリットとデメリット
アウトバウンドマーケティングは、多くの人に一度にアピールすることができます。その反面、その情報が確実にリード(見込み客)に到達しているかどうかは知りようがありません。
また、媒体にもよりますが費用は高額な場合も多く、資金力がないと継続できない場合もあります。
そんなアウトバウンドマーケティングの、主なメリットとデメリットを整理すると以下のとおりです。
【主なメリット】
- 一度に不特定多数に対してアピールできる
- 目に触れる機会が多い
- 需要とタイミングが合致すれば即効性がある
【主なデメリット】
- リード(見込み客)の選別が難しい
- 費用が高額な場合が多い
- 関心がない層から疎まれる
- 効果を測定し難い
プル型|インバウンドマーケティングとは
プル型とは「引きつける」マーケティングで、買い手側から近づいてきてもらう「インバウンドマーケティング」を指しています。一般的に現代の企業マーケティングは、アウトバウンドとインバウンドを併用していることが多いです。
従来はアウトバウンドの比重が高いのが普通でしたが、今日では徐々にインバウンドのほうに、バランスがシフトしつつあります。
ここではそんなインバウンドマーケティングの特徴と、メリットおよびデメリットを解説します。
デジタル戦略としてのインバウンドマーケティングの特徴
インバウンド(Inbound)という言葉は、海外からの来訪者という意味としてご存知の方が多いでしょう。
インバウンドマーケティングは同様に、買い手側のほうか関心を示して近づいてもらい、そこから関係性を構築して顧客化につなげるマーケティング手法です。Webサイト上の問い合わせや資料請求、SNSキャンペーンなどを通して、リード(見込み客)側からアクションを起こして近づいてもらいます。
この手法にはデジタル要素が欠かせません。Web上でのリードの反応や行動をデジタルツールで集積・分析して、顧客化プロセスのどのあたりにいるのかを想定しながら施策を講じ、関係性を構築します。
なお、インバウンドマーケティングにおいては、顧客心理を理解することが重要です。そのために欠かせない「顧客エンゲージメント」の概念について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
インバウンドマーケティングのメリットとデメリット
インバウンドマーケティングの主なメリットとデメリットを整理すると、以下のとおりです。
【主なメリット】
- ピンポイントでターゲットをねらえる
- 発信したコンテンツはマーケティング上の資産となる
- ブランディングを促進しやすい
- 比較的コストが抑えられる
- 効果を測定しやすく改善に活かせる
【主なデメリット】
- 想定した範囲にしかアピールできない
- 最終的なクロージングまで時間がかかる
このようにメリットのほうが多いのも、インバウンドマーケティングへのシフトが進む要因のひとつです。
その他のマーケティングトレンドとは
マーケティングの比較的新しい概念の中で、インバウンドとかアウトバウンドのどちらかの枠に分類し難い別角度を持ったものや、双方の要素を持ったものがいくつかあります。
代表的なものは、後述する「オムニチャネルマーケティング(OCM)」「データドリブンマーケティング(DDM)」「アカウントベースドマーケティング」「インサイドセールス」です。
なお、マーケティングにおける現代の課題について、以下の記事で特集していますので、参考にご覧ください。
アウトバウンドマーケティングの手法一覧
アウトバウンドマーケティングの手法の、代表的なものを挙げると以下のとおりです。
- マス広告
- Web広告
- テレマーケティング
- 展示会/バーチャル展示会
- セミナー/ウェビナー
- メールマーケティング
それぞれの手法を見ていきましょう。
マス広告
マス広告とはテレビやラジオ、新聞、雑誌などのマスメディア(マス媒体)を使ったメディア広告です。テレビ広告では制作費と放映費で数百〜数千万円、場合によっては億単位ものコストが掛かるケースもあります。
コストが高額なために、どれほどの効果・収益が期待できるのかを綿密に分析する必要がある手法です。食品や化粧品、日用消耗品、自動車などのターゲットの範囲が広い商材を扱う企業が主に活用します。
テレビCMなどは潜在顧客からの認知度を高める効果もあるので、的を射た場合の経済効果は高いです。新商品の発売時などは、一挙に注目を集めるために、テレビCMと新聞広告などを連動させることも少なくありません。
なお、マス広告を始めとしてあらゆる形式の広告にとって根幹となる「USP」について、以下の記事で特集していますので、参考にご覧ください。
Web広告
Web広告とはネット広告やオンライン広告とも呼ばれる、Webメディアに配信するデジタル広告のことです。多岐にわたる配信可能メディアがあり、課金の仕組みや広告の形態も多種多様です。
最近の傾向としてはWeb広告に不快感を示す人も多く、他の手法を基本とした上で、Web広告を適宜併用するケースも増えています。小規模の企業では、Web広告ゼロ化を図るケースも少なくありません。
テレマーケティング
テレマーケティングと聞けばテレアポをイメージする人も多いようですが、この「テレ」はテレワークの「テレ」と同様に「遠隔」の意味です。
つまり、訪問対面型ではなく電話やメール、チャット、オンラインツールなどを使った遠隔で行うマーケティングアプローチを指します。テレアポマーケティングもその中に含まれますが、すべてではありません。
テレマーケティングはアウトバウンド型コールセンターを拠点に行われます。ちなみにインバウンド型コールセンターは、主にカスタマーダイアルとして問い合わせや苦情処理をメインに対応します。なお、テレマーケティングの発展形が、後述するインサイドセールスです。
展示会/バーチャル展示会
展示会(見本市)はBtoB企業にとって、安定した新規顧客獲得の場でした。パンデミックの影響で開催できなくなったために、非対面のオンライン展示会、いわゆるバーチャル展示会が発達しています。
参加者には、来場のための移動の必要がなく、遠方であれオフィスや自宅から参加できるので好評です。展示会の主催企業や見本市の出展企業にしても、リアルよりも遥かにコストや手間をカットできます。
セミナー/ウェビナー
セミナーはDMやメルマガなどで開催を告知して集客し、参加者にセミナー後にセールスアプローチを掛ける手法です。
従来セミナーを開催していた企業はパンデミックの影響により「ウェビナー」と呼ばれるオンラインセミナーにシフトしつつあります。Web上で資料共有しながら実際のセミナー同様のクオリティで行われています。
ウェビナーの形式は録画されたものを配信するオンデマンド型と、リアルタイム参加型の2種類です。後者にはさらに、Zoomなどのオンラインツールにてリアルタイムで双方向コミュニケーションが取れる形式と、YouTubeやInstagramを使った「ライブ配信」形式があります。
メールマーケティング
インターネットでマーケティングが開始された黎明期からの手法ですが、未だに効果はあります。メールアドレスを確保しているリード(見込み客)リストに、自社商材の最新情報に限定クーポンや特典、キャンペーン情報などを合わせて配信します。
店舗型ビジネスであればタイムサービスや期間限定特別セールなど、知っている人だけがお得な情報を盛り込むことで、集客につなげられます。
なお、マーケティングの成功事例について知りたいみなさんは、以下の記事で特集していますので、参考にどうぞ。
インバウンドマーケティングの手法一覧
インバウンドマーケティングの手法の、代表的なものを挙げると以下のとおりです。
- コンテンツマーケティング
- SNSマーケティング
- 動画マーケティング
それぞれの手法を見ていきましょう。
コンテンツマーケティング
主に「オウンドメディア」を拠点として展開される手法で、有益なコンテンツによってサイトのヘヴィユーザーになってもらい、信頼を獲得しながら顧客化を図ります。
ホームページ(コーポレートサイト)が企業情報発信の場であるのに対し、オウンドメディアは客観的な立場で有益な情報を発信してファンユーザーを増やし、ブランドイメージを高める場です。
SEO(検索エンジン最適化)対策を施しつつコンテンツを制作し、検索上位に自社メディアの記事を送り込むことで、流入したユーザーをリード(見込み客)として顧客に向けて育てていきます。
ポイントは訪れたユーザーをがっかりさせない、良質なコンテンツです。ユーザーがアクションを起こしてくれなければ何も始まらないので、興味・関心を惹くようなコンテンツ制作が生命線です。コンテンツマーケティングの詳細については、以下の特集記事で解説しています。
SNSマーケティング
FacebookやInstagram、Twitter、LINEなどのソーシャルメディアを活用したマーケティングです。自社の公式アカウントから写真や動画による投稿によって商材をアピールしてフォロワーを増やし、顧客化を図ります。
通常の投稿以外にもアンケートやキャンペーン、イベントの告知などもでき、さまざまな切り口からファン層拡大を促進できます。SNSの中のInstagram(インスタグラム)にフォーカスしたインスタマーケティングの詳細については、以下の特集記事で解説しています。
動画マーケティング
動画投稿サイトを使ったり、SNSのInstagram(インスタグラム)やTikTokなどでUGC(ユーザー生成コンテンツ )を投稿したりなどで、店舗への集客、ブランドイメージ向上、キャンペーンへの参加などを促すマーケティング手法です。
現在は動画作成ツールも発達しており、プロでなくともセンスがあれば、魅力的な動画の作成がローコストで可能な環境になっています。短時間で膨大な情報をユーザーに届けられるのも、動画マーケティングの強みのひとつです。
リード(見込み客)の商材に対する理解度を深め、ブランドイメージの向上効果もあります。
なお、インバウンドマーケティングに欠かせない「デジタルマーケティング」の考え方については、以下の記事で特集していますので、ぜひご覧ください。
その他のマーケティングトレンドの種類一覧
アウトバウンド、インバウンドの概念では分類できない、その他のマーケティングトレンドの種類の代表的なものは、以下のとおりです。
- オムニチャネルマーケティング(OCM)
- データドリブンマーケティング(DDM)
- アカウントベースドマーケティング(ABM)
- インサイドセールス
個別に見ていきましょう。
オムニチャネルマーケティング(OCM)
オムニ(omni)とはラテン語で、和訳すれば「あらゆる」の意味です。ひとつの企業が持つあらゆる顧客接点(タッチポイント)を連携統合し、ユーザーに対しいずれの接点でもサービスをシームレスに提供する手法です。
そのためには、店舗・ECサイト・HP・オウンドメディア・SNS・メルマガなど複数の顧客接点(タッチポイント)を統合するプラットフォームを活用する必要があります。
具体的にはマーケティングオートメーション(MA)や営業支援システム(SFA)などを活用し、顧客やアプローチ、在庫の情報を一元管理して、どの接点からでも対応ができる体制を構築しなければなりません。
オムニチャネルの初期の状態は、複数の顧客接点を持つだけで顧客や在庫の情報は共有されていないマルチチャネルです。次にそれらが部分的に連携するのがクロスチャネルとなります。そしてすべての接点が、完全に統合された状態がオムニチャネルの完成形です。
データドリブンマーケティング(DDM)
データドリブンマーケティング(DDM)とは、Webサイトやメルマガ、SNS、ウェビナーやバーチャル展示会などの多岐に渡るデジタルソースから収集される情報を集積・解析し、それを基に施策やアプローチのタイミングなどを最適化するマーケティング概念です。
今日はツールや解析・予測技術の発達で、データをより有効活用できるようになってきました。従来ベテラン社員の経験値や「勘」などに頼っていた部分も、データを基準とした判断によって精度が高い施策を組み立てる考え方です。
データドリブンマーケティング(DDM)によって、すべてのデータを包括的に解析した上で可視化することにより、従来よりも成約確度の高い施策が講じられます。
アカウントベースドマーケティング(ABM)
アカウントベースドマーケティング(ABM)とは、BtoB企業がアプローチ先を大口取引が見込める大企業などの顧客(アカウント)に絞って、ねらいすました最適なアプローチをピンポイントで行う手法です。アウトバウンドとインバウンドを併用した総力戦となります。
2割の顧客が売上の8割を占めるというパレートの法則の、2割に当たる優良顧客にフォーカスして、無駄なアプローチを避ける考え方です。成果を出しやすい上に費用対効果も高く、マーケティングのトレンドとして注目されています。
従来のBtoB企業の手法は見込み客(リード)を広く集め、成約の確度を高めて、本格的に商談を仕掛けます。しかしABMは、最初から優良リードにのみ絞り込んだアプローチをするところが決定的な違いです。
大口取引先に特化した手法そのものは、昔からありました。しかしながら今ABMがマーケティングトレンドとして注目されるのは、デジタル要素によって、従来より遥かに施策の精度を高められるからです。
インサイドセールス
インサイドセールスは外回りの「フィールドセールス」に対する表現で、社内で電話やメール、チャット、オンラインツールなどを駆使して、リード(見込み客)と接触して関係性を築いていき、顧客化を図る手法です。
成約確度が高まった段階で、営業部門と交代するのが本来のインサイドセールスです。しかし営業のオンライン化が急速に進んでいる流れから、インサイドセールス担当がそのままオンラインで商談まで担うケースが増えています。
インサイドセールスは「アウトバウンド型」と「インバウンド型」があり、リードとの最初の接点によって分かれます。
アウトバウンド型インサイドセールスはメール営業やテレアポなどにより、いわば「非対面の飛び込み営業」をきっかけにリードを育てます。
一方、インバウンド型インサイドセールスは、Webサイトからの問い合わせや資料請求などのリードの行動をきっかけにアプローチが始まるため、インサイド型になります。
2つの内、インバウンド型のほうが、リードの方からのアプローチが出発点なので、関心や購買意欲が高いと見られます。そのため、顧客化までの道のりはアウトバウンド型よりも近いと言えるでしょう。
なお、これらのマーケティングトレンドの手法を展開する際に欠かせない、マーケティングオートメーション(MA)については、以下の記事で詳しく取り上げていますので、参考にしてください。
まとめ
広大な領域をカバーするマーケティングというものを、アウトバウンド型とインバウンド型、およびどちらでもないその他のマーケティングトレンドに分類して解説しました。
この分類は絶対ではありませんが、マーケティングのスタンスで分けているので、比較的理解しやすいのではないでしょうか。
マーケティング担当者のみなさんは、数あるマーケティング手法の中から自社の特性やリソースに合うものを賢明に選択し、成果が出る施策に取り組んでください。
なお、マーケティングを基礎から学びたい場合は、まず以下の誌上セミナーをご覧ください。
また、マーケティング戦略に実践に役立つおすすめ本20冊を、以下の記事でご紹介しています。
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