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エモ消費とは?Z世代の心を掴むマーケティング活用術を徹底解説

投稿日:2025年7月31日 /

更新日:2025年7月31日

エモ消費とは?Z世代の心を掴むマーケティング活用術を徹底解説

本記事では、Z世代を中心に広がる「エモ消費」について、その意味や注目される背景、具体的な事例を交えて徹底解説します。成功の鍵は、論理や機能ではなく「共感」を軸にした体験価値の提供です。明日から実践できるマーケティング活用術5選と、失敗しないための注意点も網羅。この記事を読めば、新しい時代の消費者の心を掴むヒントがわかります。

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目次

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話題の「エモ消費」とは?意味や定義をわかりやすく解説

近年、マーケティングの世界で注目を集めている「エモ消費」。特にZ世代の心を掴むキーワードとして頻繁に耳にするようになりました。エモ消費とは、単に商品やサービスを購入するだけでなく、そこから得られる感動や共感、懐かしさといった「感情的な価値」を重視する消費行動を指します。

機能や価格といった合理的な判断基準以上に、自分の心がどう動かされるかが購買の決め手となるのが最大の特徴です。本章では、この「エモ消費」の基本的な意味や定義、そしてなぜ今これほどまでに注目されているのかを、消費トレンドの変遷とあわせて詳しく解説していきます。

エモ消費の「エモい」とは何か

エモ消費の根幹をなす「エモい」という言葉は、英語の「emotional(エモーショナル:感情的な、情緒的な)」を語源とする俗語です。もともとは音楽シーンなどで使われ始めましたが、今では若者を中心に日常的に使われる言葉として定着しています。

この「エモい」が表現するのは、単に「感動した」というポジティブな感情だけではありません。どこか懐かしいノスタルジックな気持ち、言葉にしがたい切なさや哀愁、趣のある雰囲気、愛おしさなど、喜びや悲しみでは割り切れない、複雑で揺れ動く心の機微を包括する言葉です。論理的に説明するのは難しいけれど、確かに心が揺さぶられる感覚、それが「エモい」の本質です。エモ消費とは、まさにこの「エモい」と感じる瞬間を求めて行われる消費活動なのです。

なぜ今エモ消費が注目されるのか

エモ消費が現代において急速に広がっている背景には、主に3つの要因が考えられます。

第一に、物質的な豊かさから精神的な豊かさへの価値観の変化です。多くのモノが簡単かつ安価に手に入るようになった現代社会では、モノを「所有」すること自体の価値が相対的に低下しました。その結果、人々は物質的な満足よりも、日々の生活に彩りを与えてくれるような心の充足感を求めるようになったのです。

第二に、SNSの普及によるコミュニケーションの変化です。InstagramやTikTokといったSNSは、単なる情報発信ツールではなく、自己表現や他者との共感を求める場としての役割を強めています。自分の体験や感情を「#エモい」といったハッシュタグと共に投稿し、多くの「いいね」やコメントをもらうことで承認欲求が満たされます。この「感情の共有」が日常化したことで、シェアしたくなるような感情的な体験を求める傾向が加速しました。

そして第三に、社会的な変化とそれに伴う心理的な欲求が挙げられます。先行きの見えない社会情勢や、デジタル化の進展によるリアルなコミュニケーションの減少は、人々に孤独感や不安を抱かせやすい状況を生み出しました。その反動として、人々は温かみのある人間関係や精神的なつながり、過去の安心できた時代への郷愁を強く求めるようになり、それがエモ消費を後押ししているのです。

モノ消費からコト消費、そしてエモ消費へ

消費者の価値観の変化を理解するために、消費トレンドの変遷を振り返ってみましょう。日本の消費行動は、大きく「モノ消費」→「コト消費」→「エモ消費」という流れで進化してきました。

  • モノ消費(1970年代〜):製品の機能やスペックを重視し、「所有」することに価値を見出す消費。例:三種の神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)の購入。
  • コト消費(2000年代〜):商品やサービスを通じて得られる「体験」に価値を見出す消費。例:旅行、音楽ライブ、スポーツ観戦。
  • エモ消費(2010年代後半〜):体験を通じて得られる「感情的な充足感」に最大の価値を見出す消費。コト消費がさらに深化し、感情的な側面がより重視されるようになった形。

このように、消費の対象は「モノ」から「体験(コト)」へ、そして体験の先にある「感情(エモ)」へと移り変わってきました。エモ消費は、コト消費の延長線上にありながら、より個人の内面的な心の動きにフォーカスした、現代ならではの消費スタイルと言えます。

コト消費やトキ消費との違い

エモ消費は、体験を重視する「コト消費」や、その瞬間にしか味わえない特別感を重視する「トキ消費」と密接に関連していますが、価値を置くポイントに違いがあります。以下の表でそれぞれの違いを整理してみましょう。

消費行動の比較
消費スタイル重視する価値具体例
モノ消費機能・所有最新スマートフォンの購入、ブランドバッグの所有
コト消費体験・経験ハワイ旅行、料理教室への参加、テーマパークで遊ぶ
トキ消費限定性・一回性・参加性音楽フェスへの参加、人気アーティストのライブ、W杯のパブリックビューイング
エモ消費感情・共感・充足感幼い頃に親しんだお菓子を買い、懐かしい気持ちに浸る。推しアイドルのグッズを身につけ、応援する気持ちを高める。

表からもわかるように、コト消費やトキ消費が「何をするか」という行動そのものに主眼を置いているのに対し、エモ消費はその行動を通じて「どんな気持ちになるか」という内面的な結果を最も重視します。同じ音楽ライブに参加する(コト消費・トキ消費)という行動でも、「アーティストと一体になれた感動」や「ファン仲間との連帯感」といった感情的な価値を求めるのがエモ消費の特徴です。

イミ消費との関連性

エモ消費を理解する上で、もう一つ重要なのが「イミ消費」との関連性です。「イミ消費」とは、商品やサービスが持つ背景(ストーリー)や、環境問題への配慮、社会貢献といった社会的な「意味」に共感し、その商品を購入することで応援や支持の意思を示す消費行動を指します。

例えば、フェアトレードのチョコレートや、売上の一部が寄付される商品を購入する行為がこれにあたります。この「応援したい」「貢献したい」という気持ちは、まさに感情の動きそのものです。つまり、「意味」への共感が「エモい」という感情を呼び起こし、購買行動につながる点で、イミ消費とエモ消費は非常に親和性が高いと言えます。社会的な大義名分(イミ)と、個人の内面的な充足感(エモ)が結びついたとき、消費はより強力な動機付けを得るのです。

Z世代に響くエモ消費の具体例

「エモ消費」は、Z世代の消費行動を理解する上で欠かせないキーワードです。彼らは単に機能的な価値だけでなく、商品やサービスから得られる感情的な価値を重視します。ここでは、Z世代の心を掴んで離さないエモ消費の具体的な事例を5つ紹介し、その背景にある心理を解き明かしていきます。

推し活:アイドルやキャラクターへの熱狂

現代のエモ消費を象徴するのが「推し活」です。アイドル、アニメキャラクター、俳優、インフルエンサーなど、自分が心から応援したい対象(推し)に対して、時間とお金を投じる行為全般を指します。CDやDVDの購入、ライブやイベントへの参加、グッズ収集はもちろん、近年では「応援広告(センイル広告)」のように、ファンが自ら出資して駅や街中に広告を出す活動も活発です。

推し活における消費は、単なる所有欲を満たすものではありません。推しの成功や成長を自分の喜びとして感じ、同じ推しを応援するファン同士で感動や興奮を分かち合う一体感こそが、強い感情的な満足感、すなわち「エモさ」を生み出します。推しという存在が、日々の生活に彩りを与え、生きがいやモチベーションに繋がっているのです。

レトロブーム:純喫茶やフィルムカメラの再評価

デジタルネイティブであるZ世代の間で、アナログでノスタルジックな「レトロ」なモノやコトがブームになっています。例えば、昭和の雰囲気が漂う純喫茶でクリームソーダやナポリタンを味わったり、「写ルンです」に代表されるレンズ付きフィルムやフィルムカメラで撮影を楽しんだりする若者が増えています。

最新のデジタル技術に囲まれて育った彼らにとって、レトロなものは新鮮でユニークな存在です。あえて手間や時間がかかる不便さや、現代にはない温かみのあるデザイン、予測不能な仕上がりに、自分だけの特別な体験価値を見出しています。完璧ではない「味」や「風合い」が、かえって個性的で自分らしい表現として受け入れられ、SNSでの投稿ネタとしても人気を博しています。

アナログ体験:レコードやカセットテープの人気

音楽の楽しみ方にも、エモ消費の波が押し寄せています。ストリーミングサービスで無限の楽曲に手軽にアクセスできる時代に、あえてレコードやカセットテープといった物理メディアで音楽を聴く体験が再評価されています。

レコードプレーヤーに針を落とす瞬間や、カセットを入れ替える手間、そして大きなジャケットアートを所有する喜び。こうした一連の行為は、音楽とじっくり向き合うための儀式のようです。手間をかけることで音楽への没入感が高まり、アーティストへの敬意や作品への愛着が深まるのです。デジタル音源にはない、特有の温かみやノイズも「エモい音質」として楽しまれており、シティポップの世界的リバイバルなどがこの動きを後押ししています。

ガチャガチャやカプセルトイ:何が出るかわからないワクワク感

かつては子供のおもちゃというイメージが強かった「ガチャガチャ(カプセルトイ)」も、今やZ世代を巻き込んだ巨大なエモ消費市場となっています。精巧なミニチュアフィギュアや、人気キャラクターとのコラボ商品、思わず笑ってしまうシュールなアイテムなど、大人をターゲットにした商品が続々と登場しています。

その魅力の根源は、数百円という手頃な価格で得られる「何が出るかわからない」という偶然性と期待感にあります。カプセルを開ける瞬間のドキドキ感、欲しかったものが出た時の喜び、予期せぬものとの出会いが、ささやかな非日常体験を提供します。また、SNSで開封結果を報告しあったり、友人同士で交換したりと、コミュニケーションのきっかけにもなっています。

コンセプトカフェや体験型施設:世界観への没入

商品やサービスが持つ「世界観」に浸ることも、Z世代にとって重要なエモ消費の一つです。特定のキャラクターや作品とコラボした「コンセプトカフェ」や、アートとテクノロジーが融合した「チームラボ」のような体験型デジタルアートミュージアムは、その代表例です。

これらの施設では、内装、メニュー、音楽、スタッフの接客に至るまで、徹底して作り込まれた世界観が広がっています。訪れた人は、まるで物語の主人公になったかのような没入感を味わい、日常を忘れて特別な時間を過ごすことができます。空間そのものがフォトジェニックであるため、「この世界観の一部になりたい」という自己表現の欲求を満たし、SNSでの共有を強く促す点も大きな特徴です。

マーケティングにエモ消費を活かすための5つの方法

エモ消費は、単に消費者の感情に訴えかけるだけの短期的な施策ではありません。ブランドと顧客との間に深く、長期的な関係性を築くための戦略的アプローチです。ここでは、Z世代をはじめとする現代の消費者の心を掴み、ビジネス成長に繋げるための具体的な5つの方法を、成功事例を交えながら徹底解説します。

ストーリーテリングで共感を呼ぶ

人はスペックや機能の羅列よりも、物語に心を動かされます。商品の背景にあるストーリーを伝えることで、消費者はブランドや商品に感情移入し、単なる「モノ」以上の価値を見出すようになります。これが共感を生み、強いエンゲージメントの第一歩となるのです。

ブランドの背景や開発秘話を伝える

ブランドがどのような想いで生まれ、商品がどのような苦労や試行錯誤を経て完成したのか。その裏側にある「人間的な側面」をオープンに語ることは、消費者の信頼と共感を獲得する上で非常に効果的です。例えば、創業者の情熱、社会課題解決への挑戦、素材へのこだわりといったストーリーは、ブランドに深みと個性を与えます。

クラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングは、「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションのもと、ユニークな製品開発の背景やブルワー(醸造家)のビール造りへの情熱を積極的に発信しています。こうした物語を通じて、消費者は単にビールを飲むだけでなく、その世界観や哲学を支持するファンとなるのです。

顧客を主人公にした物語を描く

ブランドの物語だけでなく、「顧客が商品やサービスを通じてどのような素晴らしい体験を得られるか」という未来の物語を提示することも重要です。顧客自身がその物語の主人公になれると感じたとき、購買意欲は大きく高まります。

例えば、家具ブランドが「このテーブルが、あなたの家族の笑顔の中心になる」という物語を提示したり、旅行会社が「日常を忘れる、特別な体験があなたを待っている」というストーリーを描いたりするアプローチです。顧客の体験談やレビューをコンテンツ化し、「あなたもこうなれる」という具体的なイメージを共有することも、共感を呼ぶ強力な手法と言えるでしょう。

五感を刺激する体験価値を提供する

デジタル化が進む現代だからこそ、リアルな場での五感をフルに活用した体験は、消費者の記憶に深く刻まれます。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に訴えかけることで、オンラインでは得られない感動や興奮を生み出し、それが強力な「エモい」体験となります。

例えば、コスメブランドのLUSHは、カラフルでユニークな見た目(視覚)、店内に広がる豊かな香り(嗅覚)、商品を実際に試せる体験(触覚)を組み合わせることで、店舗全体をエンターテイメント空間にしています。また、蔦屋書店は、本だけでなく、洗練された空間デザイン、心地よい音楽、併設されたカフェのコーヒーの香り(嗅覚・味覚)などを通じて、「本を選ぶ」という行為そのものを特別な体験価値へと昇華させています。このように、複数の感覚に同時に訴えかけることで、ブランドの世界観はより強固になり、消費者の心に深く根付くのです。

限定性や特別感を演出する

「今しか手に入らない」「自分だけが持っている」という感覚は、所有欲を刺激し、強い満足感や高揚感をもたらします。希少性は、商品やサービスの価値を心理的に高め、エモ消費を強力に後押しする要素です。「この機会を逃したくない」という気持ちが、購買への強い動機付けとなります。

限定性を演出する手法は多岐にわたります。以下に代表的な例をまとめました。

手法概要具体例
数量限定販売する個数をあらかじめ制限する手法。「シリアルナンバー入り100本限定モデル」「初回生産分のみの特典付き」
期間限定販売する期間を区切る手法。季節感やイベント性と相性が良い。スターバックスの「季節限定フラペチーノ®」、ハーゲンダッツの「期間限定フレーバー」
地域限定特定の地域や店舗でのみ販売する手法。旅の目的にもなり得る。「東京駅限定スイーツ」「沖縄限定デザインTシャツ」
会員限定特定のコミュニティや会員プログラムの参加者のみが購入・体験できる手法。「ファンクラブ会員限定ライブ」「有料会員向け先行販売」
コラボレーション異業種のブランドやキャラクターと組むことで、新たな価値と希少性を生み出す。ユニクロの「UT」シリーズ、G-SHOCKの「アニメコラボモデル」

これらの手法を戦略的に用いることで、消費者は「選ばれた」という特別感を感じ、ブランドへのロイヤリティを高めていきます。

UGCを誘発する仕掛けを作る

UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)は、現代のマーケティングにおいて極めて重要な役割を果たします。企業からの一方的な発信よりも、友人や他の消費者のリアルな口コミやSNS投稿の方が、はるかに高い信頼性を持ちます。「エモい」と感じた体験は、人に伝えたくなる強い動機となり、UGCの自然発生を促します。

思わずシェアしたくなるパッケージデザイン

「パケ買い」という言葉に代表されるように、商品のパッケージは中身を守る機能だけでなく、それ自体が強力なコミュニケーションツールです。特にZ世代にとって、見た目のかわいさやデザイン性の高さは、購入とSNS投稿の大きな動機となります。

開封する過程が楽しい「アンボクシング(開封の儀)」を意識した凝った作りの箱、並べて飾りたくなるようなシリーズデザイン、写真に撮ったときに「映える」色彩やイラストなどは、UGCを誘発する上で非常に効果的です。消費者が自らブランドの広告塔となり、SNS上で情報を拡散してくれる好循環を生み出すことができます。

SNSキャンペーンの活用

SNSキャンペーンは、UGCを能動的に創出するための強力な手法です。単に景品で参加を促すだけでなく、ユーザーが参加すること自体を楽しめる「体験」として設計することが成功の鍵となります。

例えば、「#〇〇のある暮らし」といったハッシュタグを付けて、商品を使った素敵なシーンの投稿を募るフォトコンテストや、ブランドの世界観を表現したオリジナルのARフィルターを配布して撮影・投稿してもらうキャンペーンなどが挙げられます。こうした企画を通じて、ユーザーは単なる消費者から、ブランドの価値を共に創り上げる「共創者」へと意識が変わり、より深いエンゲージメントが生まれます。

コミュニティを形成し帰属意識を高める

エモ消費の究極的なゴールの一つは、ブランドを中心とした熱量の高いコミュニティを形成することです。同じ「好き」という感情や価値観を共有する仲間と繋がることで、消費者は「自分はこのブランドの一員だ」という強い帰属意識を抱くようになります。この関係性は、価格競争とは無縁の強固なブランドロイヤリティの源泉となります。

アウトドアブランドのスノーピークは、「Snow Peak Way」というキャンプイベントを主催し、ユーザーと社員が共に過ごす場を提供しています。ここでは、製品の使い方を学ぶだけでなく、参加者同士やスタッフとの交流を通じて、スノーピークというブランドへの愛着や仲間意識が育まれます。また、作業服のワークマンは、製品のヘビーユーザーを「公式アンバサダー」として認定し、製品開発に意見を反映させるなど、ユーザーとの共創関係を築いています。

オンラインサロンやファンミーティングなどを通じて、顧客が「ファン」から「仲間」へと昇華したとき、そのブランドは代替不可能な存在となり、LTV(顧客生涯価値)の最大化に繋がるのです。

エモ消費マーケティングを実践する上での注意点

Z世代をはじめとする消費者の心を掴むエモ消費マーケティングは、ブランドと顧客の間に強い絆を生み出す強力な手法です。しかし、人の「感情」というデリケートな領域に踏み込むからこそ、一歩間違えれば大きな反発を招き、ブランドイメージを著しく損なう危険性もはらんでいます。成功を収めるためには、その光と影を正しく理解し、慎重に戦略を練る必要があります。ここでは、エモ消費をマーケティングに活用する上で必ず押さえておきたい3つの注意点を解説します。

あからさまな狙いは見透かされる

現代の消費、特にZ世代は、幼い頃からインターネットやSNSに慣れ親しんだデジタルネイティブです。彼らは無数の広告や情報に日々接しており、企業側の商業的な意図を敏感に察知する能力に長けています。

そのため、「泣ける」「感動する」といった感情を意図的に作り出そうとする「あざとさ」や、トレンドだからという理由だけで取ってつけたようなストーリーは、すぐに見透かされてしまいます。「どうせ広告でしょ」「またこのパターンか」と冷めた目で見られ、共感を得るどころか、かえってブランドへの不信感を抱かせてしまうのです。

大切なのは、企業が「売りたい」という気持ちを前面に出すのではなく、ブランドが持つ本来の哲学や歴史、開発者の純粋な想いといった「本物」のストーリーを誠実に伝えることです。エモいという言葉を安易に使うのではなく、顧客が商品やサービスに触れた結果として、自然に「エモい」と感じるような体験を設計することが求められます。

炎上リスクとブランド毀損の可能性

感情に訴えかけるアプローチは、共感を呼ぶ力が強い反面、意図せず誰かを傷つけたり、不快にさせたりするリスクも高まります。特に、多様な価値観が尊重される現代社会において、配慮に欠けた表現は瞬く間にSNSで拡散され、大規模な炎上につながりかねません。

一度炎上すれば、ブランドイメージの低下はもちろん、不買運動や株価の下落など、事業に深刻なダメージを与える可能性があります。感情を扱うマーケティングでは、以下のようなリスクが常に存在することを認識しておく必要があります。

リスクの種類具体的な内容と潜在的な批判講じるべき対策
ステレオタイプの助長「男だから」「女だから」「若者はこうあるべき」といった、ジェンダーや世代に関する固定観念を無意識に助長する表現。「時代錯誤」「差別的」といった批判を招く。企画段階で、多様な性別、年齢、バックグラウンドを持つメンバーによる多角的な視点でのチェックを行う。
社会課題の安易な利用貧困、環境問題、人権問題といったセンシティブなテーマを、感動を誘うためだけに表面的に利用すること。「感動ポルノ」「社会課題の商業利用」と見なされ、強い反発を受ける。その課題に対して企業として真摯に取り組んでいる実績を示したり、専門家の監修を受けたりするなど、誠実な姿勢を貫く。
文化や歴史への配慮不足特定の国や地域の文化、あるいは歴史的な出来事を、背景への理解や敬意を欠いたまま安易にモチーフとして使用すること。「文化の盗用」「歴史認識が浅い」と批判される。対象となる文化や歴史について十分にリサーチし、敬意を払った表現を心がける。必要に応じて、その文化圏の出身者の意見を聞く。

これらのリスクを回避するためには、企画の段階から多様な視点を取り入れ、ターゲット層の価値観や社会の動向を深く理解することが不可欠です。公開前には、複数人による客観的な視点でのダブルチェック、トリプルチェックを徹底しましょう。

一過性のブームで終わらせないために

「レトロブーム」や「純喫茶人気」など、エモ消費の対象となるトレンドは移り変わりが早いという側面があります。単に流行に乗っかるだけのマーケティング施策では、そのブームが去った途端に顧客の関心も薄れ、忘れ去られてしまいます。

エモ消費マーケティングを成功させ、持続的な成果につなげるためには、短期的な売上やバズを狙うだけでなく、ブランドと顧客との長期的な関係性を築く視点が欠かせません。そのためには、展開する施策がブランドの核となる価値(コアバリュー)と深く結びついている必要があります。

例えば、ただレトロ風のパッケージ商品を発売するだけでは、ブームが終われば見向きもされなくなるかもしれません。しかし、そこに「創業時から変わらない製法を守り続ける」というブランドストーリーを重ね合わせ、商品をきっかけにファンが集うオンラインコミュニティを運営したり、工場の歴史を学べるイベントを定期開催したりすれば、顧客は一過性の消費者から熱心なファンへと変わっていきます。

重要なのは、エモ消費を「点」の施策で終わらせず、顧客との継続的なコミュニケーションを通じて「線」や「面」へと育てていくことです。そうすることで、ブランドは流行り廃りに左右されない、顧客との強いエンゲージメントを構築できるのです。

まとめ

本記事では、Z世代の心を掴む「エモ消費」について、その意味からマーケティングへの活用法まで解説しました。エモ消費とは、商品やサービスから得られる感情的な繋がりや共感を重視する消費行動です。SNSでの自己表現が一般化した現代において、精神的な満足感を求めるこの価値観はますます重要になっています。企業がこの流れを捉えるには、ストーリーテリングや五感を刺激する体験を提供し、顧客との深い絆を築くことが不可欠です。ただし、そのアプローチは真摯でなければ、すぐに見透かされてしまう点に注意しましょう。

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