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事業承継を成功させる5つのポイント|失敗しないためのノウハウを解説

投稿日:2025年7月23日 /

更新日:2025年7月23日

事業承継を成功させる5つのポイント|失敗しないためのノウハウを解説

事業承継は会社の未来を左右する重要な経営課題ですが、何から始めるべきか悩む経営者様は少なくないでしょう。本記事では、事業承継の全体像から、成功に不可欠な5つのポイント、具体的な進め方、失敗しないための注意点までを専門家の視点で網羅的に解説します。成功の鍵は「早期の計画的な準備」と「適切な専門家の活用」です。円滑な事業承継を実現するためのノウハウを学び、万全の体制で準備を始めましょう。

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目次

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事業承継とは

事業承継とは、会社の経営権や資産、そして理念やノウハウといった知的資産を、現経営者から後継者へ引き継ぐ一連のプロセスを指します。

単に社長の椅子を譲る「代替わり」や、財産を相続する「事業相続」とは異なり、会社の持続的な成長を目的とした計画的な経営のバトンタッチです。これには、経営権の象徴である「株式」の移転だけでなく、長年培ってきた技術力、顧客との信頼関係、従業員の雇用、そして企業文化といった目に見えない価値のすべてが含まれます。

経営者の高齢化が進む現代の日本において、事業承継は企業の存続と発展を左右する極めて重要な経営課題となっています。

中小企業における事業承継の現状と必要性

現在、日本の中小企業は深刻な事業承継問題に直面しています。経営者の平均年齢は年々上昇を続けており、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えています。しかし、その一方で「後継者が見つからない」という理由で、業績は好調であるにもかかわらず、休業や廃業を選択せざるを得ない企業が後を絶ちません。

この「後継者不在問題」は、個々の企業にとっての損失に留まりません。日本経済の根幹を支える中小企業が持つ独自の技術やノウハウが失われ、長年地域経済を支えてきた雇用の受け皿がなくなることは、社会全体にとっての大きな損失です。こうした背景から、円滑な事業承継を推進することは、企業の未来を守るだけでなく、日本の産業競争力を維持し、地域社会を活性化させるために不可欠な国家的課題とされています。

事業承継の3つの主な手法とそれぞれの特徴

事業承継には、後継者の属性によって大きく3つの手法に分類されます。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の状況や経営者の想いに合わせて最適な方法を選択することが重要です。ここでは、各手法の特徴を比較しながら解説します。

承継手法主な後継者メリットデメリット
親族内承継経営者の子供、配偶者、兄弟姉妹など・内外の関係者から受け入れられやすい
・後継者教育に時間をかけられる
・相続等で財産や株式を移転しやすい
・親族内に適任者がいるとは限らない
・相続トラブルに発展する可能性がある
・公私の区別がつきにくい場合がある
従業員承継(MBO/EBO)役員、従業員・事業内容や企業文化への理解が深い
・従業員の士気向上につながる
・経営理念を引き継ぎやすい
・後継者に株式取得の資金力がない
・経営者の個人保証の引継ぎが困難
・親族株主から反対される可能性がある
第三者承継(M&A)他の企業、個人・広く候補者を探せる
・現経営者が創業者利益を得られる
・相手企業の力で事業が成長する可能性がある
・希望の条件に合う相手が見つからない
・企業文化の違いで従業員が離反するリスク
・経営の自由度が下がる可能性がある

親族内承継

親族内承継は、経営者の子供や配偶者、兄弟姉妹といった親族に事業を引き継ぐ、最も伝統的な方法です。長年にわたり、多くの中小企業で採用されてきました。

最大のメリットは、従業員や取引先、金融機関といった関係者から心情的に受け入れられやすい点です。また、早い段階から後継者を定め、帝王学をはじめとする長期的な後継者教育を施すことが可能です。相続という形で株式や事業用資産を移転できるため、所有と経営の一体性を保ちやすいという利点もあります。

一方で、少子化の影響もあり、そもそも親族内に後継者候補がいないケースが増えています。また、候補者がいたとしても、本人に継ぐ意思や経営者としての資質があるとは限りません。複数の候補者がいる場合には、お家騒動や相続トラブルの原因となるリスクも抱えています。

従業員承継(MBO EBO)

従業員承継は、会社の役員や従業員の中から後継者を選び、事業を引き継ぐ方法です。経営陣が自社の株式や事業を買い取ることをMBO(マネジメント・バイアウト)、一般の従業員が買い取ることをEBO(エンプロイー・バイアウト)と呼びます。

長年その会社で働いてきた人物が後継者となるため、会社の歴史や事業内容、経営理念、企業文化への深い理解があることが大きな強みです。現経営者の右腕として活躍してきた役員などが後を継ぐ場合、内外の関係者も安心しやすく、スムーズな引継ぎが期待できます。

しかし、最大の課題は資金面です。後継者となる従業員個人が、会社の株式を買い取るための資金を十分に持っていないケースがほとんどです。また、現経営者が会社の債務に対して行っている個人保証を、後継者が引き継ぐことへの金融機関の同意が得られにくいという問題もあります。

第三者承継(M&A)

第三者承継は、M&A(Mergers and Acquisitions)の手法を用いて、社外の企業や個人に会社を売却し、事業を引き継いでもらう方法です。親族や社内に適任者がいない場合の有力な選択肢として、近年活用が急増しています。

この手法のメリットは、後継者候補の対象を全国、あるいは世界にまで広げて探せる点にあります。また、現経営者は会社を売却することで、引退後の生活資金となる創業者利益を確保できます。買い手企業の資本力や販売網、技術力を活用することで、自社だけでは成し得なかった事業のさらなる成長や、従業員の待遇改善が実現できる可能性も秘めています。

ただし、自社の希望する条件(売却価格、従業員の雇用維持、社名の存続など)をすべて満たす買い手がすぐに見つかるとは限りません。また、異なる企業文化がぶつかり合うことで、統合後の組織運営(PMI)がうまくいかず、従業員のモチベーション低下や離職につながるリスクも考慮する必要があります。

事業承継を成功させる5つのポイント

事業承継は、単に経営者が交代するだけではありません。会社の未来を左右する一大プロジェクトであり、その成否は企業の存続に直結します。行き当たりばったりで進めてしまうと、思わぬトラブルに見舞われ、最悪の場合は廃業に追い込まれるケースも少なくありません。ここでは、事業承継を成功に導くために絶対に押さえておくべき5つの重要なポイントを、具体的なノウハウと共に詳しく解説します。

ポイント1:早めの準備と計画的なスケジュール策定

事業承継の成功は、準備期間の長さに比例すると言っても過言ではありません。多くの専門家は、事業承継の準備には5年から10年という長い期間が必要だと指摘しています。経営者が元気なうちから早期に着手することで、後継者の育成や資産の移転といった課題にじっくりと取り組む時間が確保でき、予期せぬトラブルにも余裕を持って対応できます。現経営者の急な病気や事故といった不測の事態に備える意味でも、計画的な準備は不可欠です。

現状把握と課題の洗い出し

事業承継の第一歩は、会社の現状を正確に「見える化」することから始まります。まずは客観的な視点で自社の状況を分析し、課題を洗い出しましょう。具体的には、以下の項目について整理・分析することが重要です。

  • 経営状況:財務諸表(貸借対照表、損益計算書)、収益性、資金繰り、自社の強み・弱み(SWOT分析など)
  • 経営資源:従業員のスキルや年齢構成、技術力、ノウハウ、特許などの知的財産
  • 株式・資産:自社株の株主構成(株式が分散していないか)、株価評価額、経営者の個人資産と負債(特に会社借入金の個人保証)
  • 後継者:後継者候補の有無、候補者の能力・意欲、親族や従業員の状況

これらの情報を整理することで、「後継者が見つからない」「自社株の評価額が高すぎて税負担が重い」「個人保証を解除できない」といった、事業承継における具体的な課題が明確になります。

事業承継計画書の作成

現状把握と課題の洗い出しが終わったら、次に「事業承継計画書」を作成します。これは、事業承継を円滑に進めるためのロードマップとなる非常に重要な書類です。計画書を作成する過程で、経営者と後継者、そして関係者間の認識をすり合わせることができます。

事業承継計画書には、主に以下の内容を盛り込みます。

  • 事業承継の基本方針:いつ、誰に、どの手法で承継するのか
  • 中長期的な経営計画:承継後の事業ビジョン、目標、具体的なアクションプラン
  • 後継者の育成計画:具体的な教育スケジュールと内容
  • 株式・資産の承継計画:株式譲渡の時期や方法、資金計画、税金対策
  • 関係者への対応:従業員、取引先、金融機関への説明方針とスケジュール

中小企業庁のウェブサイトなどでもフォーマットが提供されていますが、自社の状況に合わせてカスタマイズし、具体的な行動計画に落とし込むことが成功の鍵となります。

ポイント2:適切な後継者の選定と育成

会社の未来を託す後継者を誰にするかは、事業承継における最大のテーマです。親族、従業員、第三者を問わず、経営者としての資質を冷静に見極め、計画的に育成していくプロセスが不可欠です。

後継者候補の見極め方

後継者には、単に業務知識が豊富なだけでなく、経営者としての覚悟やリーダーシップが求められます。候補者を見極める際は、以下の資質があるかを多角的に評価しましょう。

  • 経営への情熱と覚悟:会社の未来に責任を持ち、困難を乗り越える強い意志があるか。
  • リーダーシップと求心力:従業員をまとめ、同じ目標に向かって導く力があるか。
  • 事業への深い理解:自社の強みや課題、業界動向を正しく理解しているか。
  • 変化への対応力と決断力:環境変化を捉え、迅速かつ的確な意思決定ができるか。
  • 誠実さと倫理観:従業員や取引先から信頼される人間性を備えているか。

特に親族内承継の場合、「身内だから」という情実を排し、経営者としての適性を客観的に判断することが極めて重要です。適性がないまま承継を進めると、会社を危機に陥れる原因となります。

後継者教育の進め方

後継者を育成するには、社内教育と社外教育を組み合わせた長期的なプログラムが必要です。一般的に3年から5年、場合によってはそれ以上の期間を要します。

  • 社内教育(OJT):製造、営業、経理、人事など、社内の主要部門をローテーションで経験させ、事業全体の流れを把握させます。その後、現経営者と並走する期間を設け、経営会議への参加や重要な商談への同席を通じて、経営判断のプロセスを直接学ばせることが効果的です。
  • 社外教育(Off-JT):同業他社や取引先などで武者修行をさせ、客観的な視点や新たな人脈を築かせます。また、中小企業大学校などの公的研修機関や、民間の経営者向けセミナー、大学院(MBA)などに参加させることで、体系的な経営知識やリーダーシップ論を学ばせることも有効です。

ポイント3:株式や資産の円滑な移転

事業承継は「経営権の承継」であると同時に、「財産の承継」でもあります。特に非上場企業の場合、自社株の取り扱いが大きな課題となり、税金問題と密接に関わってきます。事前の対策を怠ると、後継者に過大な負担を強いることになりかねません。

自社株の評価と対策

非上場株式には市場価格がないため、国税庁が定める財産評価基本通達に基づいて株価を算定する必要があります。業績が良い会社ほど株価は高くなり、これが後継者にとって大きな負担となります。

  • 高額な株価が引き起こす問題:後継者が株式を買い取る際の資金調達難、贈与や相続の際に課される高額な贈与税・相続税。
  • 株価引き下げ対策:役員退職金を現経営者に支給して利益を圧縮する、不動産や生命保険を活用して資産構成を見直す、といった方法で計画的に株価を引き下げることが可能です。
  • 税負担の軽減策:「事業承継税制(法人版事業承継税制)」を活用すれば、一定の要件のもとで贈与税や相続税の納税が猶予・免除されます。この制度は非常に強力ですが、要件が複雑なため、必ず税理士などの専門家に相談して活用を検討しましょう。

個人保証の引継ぎ問題

多くの中小企業では、金融機関からの借入に際して経営者個人が連帯保証人となっています。この「個人保証」を後継者がそのまま引き継ぐことは、承継をためらわせる大きな要因となります。

この問題に対処するため、国は「経営者保証に関するガイドライン」を定めています。このガイドラインに基づき、以下の対策を進めることが重要です。

  • 企業価値の向上:財務内容を改善し、事業の収益性を高めることで、金融機関からの信頼を得る。
  • 情報開示の徹底:試算表や資金繰り表などを定期的に金融機関へ提出し、経営の透明性を高める。
  • 金融機関との交渉:早い段階から事業承継計画を説明し、後継者の経営能力を示すことで、個人保証の解除や軽減を交渉します。
  • 公的制度の活用:日本政策金融公庫や信用保証協会が提供する「事業承継特別保証」などの制度を利用することも有効な選択肢です。

ポイント4:関係者への丁寧な説明と合意形成

事業承継は、経営者と後継者だけで完結するものではありません。長年会社を支えてきた従業員、共にビジネスを築いてきた取引先、資金面で支援を受けている金融機関など、すべてのステークホルダー(利害関係者)の理解と協力があって初めて円滑に進みます。

従業員や取引先への告知タイミング

後継者や事業承継の方針を告知するタイミングは非常にデリケートな問題です。早すぎれば「会社はどうなるのか」という不安を煽り、優秀な人材の離職や取引の見直しにつながる恐れがあります。一方で、遅すぎると「何も聞かされていなかった」という不信感を生み、円滑な関係を損なう原因となります。

最適なタイミングは、後継者が正式に決定し、事業承継計画の骨子も固まった段階です。まずは役員や幹部社員に内々に伝え、協力を取り付けます。その後、全従業員、そして主要な取引先の順に、現経営者と後継者が揃って直接説明するのが最も望ましい形です。その際は、後継者の紹介だけでなく、雇用の維持や取引条件の継続を約束し、関係者を安心させることが重要です。

金融機関との関係構築

金融機関は、事業を継続・発展させていく上で不可欠なパートナーです。承継後も安定した融資を受けるためには、金融機関との信頼関係を後継者へスムーズに引き継ぐ必要があります。

事業承継の意向が固まったら、できるだけ早い段階で金融機関に相談しましょう。後継者を伴って担当者と面談する機会を設け、顔つなぎをしておくことが大切です。事業承継計画書を提示し、承継後の経営ビジョンや具体的な成長戦略を説明することで、金融機関は後継者の経営能力を評価し、安心して支援を継続できます。個人保証の解除に向けた交渉も、こうした地道な関係構築の延長線上にあると考えるべきです。

ポイント5:専門家の活用と相談先の選定

事業承継は、税務・法務・財務・労務といった多岐にわたる専門知識が求められる複雑なプロセスです。すべての問題を自社だけで解決しようとするのは現実的ではありません。早い段階から信頼できる専門家を見つけ、チームとして取り組むことが成功への近道です。

相談できる専門家の種類と役割

事業承継に関わる専門家は多岐にわたり、それぞれに得意分野があります。自社の課題に応じて、適切な専門家を選ぶことが重要です。複数の専門家と連携し、チームでサポートしてもらうのが理想的です。

専門家の種類主な役割と相談内容
税理士・公認会計士自社株評価、相続税・贈与税のシミュレーションと対策、事業承継税制の適用支援、財務分析
弁護士遺言書作成、遺留分対策、株式譲渡契約書などの法務書類の作成・レビュー、法務デューデリジェンス
司法書士株式譲渡や役員変更に伴う商業登記、不動産の名義変更(相続登記)などの登記手続き全般
M&A仲介会社・FA第三者承継(M&A)における譲渡先の探索、企業価値評価(バリュエーション)、交渉支援、契約手続き
中小企業診断士経営課題の分析、事業の磨き上げ支援、事業承継計画書の策定支援、補助金申請サポート

公的支援機関の活用

専門家への相談と並行して、中立的な立場で支援してくれる公的機関を積極的に活用することもおすすめします。「どこに相談すればいいか分からない」という場合の最初の窓口としても最適です。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター:全国47都道府県に設置されている公的な相談窓口です。事業承継に関するあらゆる相談に無料で応じており、必要に応じて専門家の紹介や、後継者不在の中小企業と譲受希望企業とを繋ぐM&Aマッチング支援も行っています。
  • よろず支援拠点:中小企業・小規模事業者のための無料の経営相談所です。事業承継に関する初期的な相談にも対応してくれます。
  • 商工会議所・商工会:地域に密着した支援機関として、事業承継に関するセミナーの開催や専門家の紹介などを行っています。

これらの機関は、無料で利用できる上に、地域の専門家ネットワークに精通しているという大きなメリットがあります。まずはこうした公的機関のドアを叩いてみることころから始めるのも良いでしょう。

【5ステップで解説】事業承継の具体的な進め方と流れ

事業承継を成功させるためには、場当たり的な対応ではなく、明確なステップに沿って計画的に進めることが不可欠です。ここでは、事業承継の準備開始から完了後の手続きまでを、具体的な5つのステップに分けて詳しく解説します。この流れを把握することで、今何をすべきかが明確になります。

ステップ1:事業承継に向けた準備と現状分析

事業承継の第一歩は、会社の現状を客観的かつ正確に把握することから始まります。経営者自身の思い込みや感覚だけに頼らず、客観的なデータに基づいて自社の「健康診断」を行うことが、後のステップすべての土台となります。一般的に、この準備と分析には1年以上の期間を要することもあります。

具体的には、以下の項目について「見える化」を進めます。

  • 経営状況の把握:決算書や試算表を基に、収益性、生産性、安全性、将来性を分析します。
  • 資産・負債の把握:事業用資産(不動産、設備など)と負債(借入金など)をリストアップし、時価評価も行います。経営者個人の資産と会社の資産が混同されていないかも確認が必要です。
  • 株式の状況把握:株主名簿を確認し、誰がどれだけの株式を保有しているかを明確にします。特に、名義株や所在不明株主がいないかを確認することは極めて重要です。
  • 知的財産権の把握:特許権、商標権、ノウハウといった目に見えない資産の価値を評価し、承継対象を明確にします。
  • 組織・従業員の状況把握:組織図、役員・従業員の年齢構成、スキル、後継者を支える幹部候補の有無などを分析します。
  • 経営者自身の状況把握:経営者個人の資産や負債、引退後のライフプランを考え、必要な資金額を算出します。

この段階で課題が山積していることが判明する場合も少なくありません。早期に着手し、必要であればこの時点から専門家のアドバイスを求めることが賢明です。

ステップ2:事業承継計画の策定

ステップ1の現状分析で明らかになった課題を踏まえ、具体的な事業承継の指針となる「事業承継計画書」を作成します。事業承継計画書は、関係者全員の認識を統一し、計画を円滑に進めるための羅針盤となります。いつ、誰に、何を、どのように引き継ぐのかを具体的に明記します。

事業承継計画書には、主に以下の内容を盛り込みます。

項目主な内容
事業承継の基本方針会社の将来像、経営理念の引継ぎ、承継方法(親族内・従業員・M&A)の決定。
後継者後継者候補の氏名、選定理由、育成計画(スケジュール、教育内容)。
株式・資産の承継計画自社株の評価額、移転方法(贈与、相続、売買)、納税資金の準備方法、事業承継税制の活用検討。
事業の引継ぎ計画経営権の移譲スケジュール、取引先や従業員への告知タイミングと方法、金融機関との交渉方針。
引退後の経営者の処遇退職金の額、引退後の役職(会長、相談役など)、会社との関わり方。

この計画書は一度作成して終わりではありません。経営環境の変化や後継者の成長度合いに応じて、定期的に見直し、柔軟に修正していくことが重要です。中小企業庁が提供するひな形などを参考にしつつ、自社の実情に合った計画を策定しましょう。

ステップ3:事業承継の実行と株式譲渡

事業承継計画書に基づき、いよいよ具体的な承継アクションを実行に移す段階です。このステップは、法律や税務が複雑に絡み合うため、弁護士や税理士といった専門家のサポートを受けながら慎重に進める必要があります。

主な実行項目は以下の通りです。

  • 後継者教育の実行:計画書に沿って、後継者への権限移譲を段階的に進めます。社内での役職変更や、社外の経営者向けセミナーへの参加などを通じて、経営者としてのスキルと経験を積ませます。
  • 関係者への公表:計画書で定めたタイミングで、従業員、取引先、金融機関などへ事業承継の事実を公表します。丁寧な説明を行い、関係者の理解と協力を得ることが、事業価値の維持につながります。
  • 株式・資産の移転:
    • 親族内・従業員承継の場合:生前贈与、相続、株式売買などの方法で株式を後継者に集中させます。贈与税や相続税の負担を軽減するため、事業承継税制や暦年贈与などの特例措置の活用を検討します。
    • 第三者承継(M&A)の場合:譲渡契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約)を締結します。契約締結前には、買い手企業によるデューデリジェンス(買収監査)が行われるのが一般的です。
  • 個人保証の解除・引継ぎ:経営者が会社の借入金に対して行っている個人保証を、後継者に引き継ぐか、あるいは解除するための交渉を金融機関と行います。「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、適切な手続きを進めます。

ステップ4:経営の引継ぎ(ポスト承継)

株式や資産の法的な移転が完了しても、事業承継は終わりではありません。むしろ、ここからが新しい経営体制の始まりであり、後継者が名実ともに経営者として社内外から認められるための非常に重要な期間となります。これを「ポスト承継」と呼びます。

この期間に、前経営者と後継者が協力して取り組むべきことは多岐にわたります。

  • 経営理念の浸透:後継者が自身の言葉で経営理念やビジョンを従業員に語り、共感を得る機会を設けます。
  • 役員・従業員との関係構築:後継者を中心とした新しい経営体制を構築し、幹部社員や従業員との個別面談などを通じて円滑なコミュニケーションを図ります。
  • 主要な取引先への挨拶回り:前経営者と後継者が共に主要な取引先や金融機関を訪問し、経営体制の変更を報告するとともに、今後の継続的な関係構築をお願いします。
  • 経営権の完全移譲:前経営者は、一定期間(例えば1年~3年)は会長や相談役として後継者をサポートしますが、徐々に経営の第一線から退き、後継者が自律的に経営判断できる環境を整えることが重要です。過度な干渉は、後継者の成長を妨げ、従業員の混乱を招く原因となります。

ステップ5:相続発生後の手続き

特に親族内承継において、株式や事業用資産の一部を相続によって引き継ぐ場合、現経営者の逝去後に法的な手続きが必要となります。生前の対策が十分でないと、ここで思わぬトラブルが発生する可能性があります。

主な手続きと注意点は以下の通りです。

  • 遺産分割協議:後継者を含む相続人全員で、遺産の分割方法について協議し、「遺産分割協議書」を作成します。自社株が複数の相続人に分散してしまうと、経営が不安定になるリスクがあるため、遺言書によって後継者に株式を集中させる対策が生前に不可欠です。
  • 相続税の申告・納付:相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告と納付を行う必要があります。納税資金が不足しないよう、生命保険の活用などで生前から準備しておくことが重要です。
  • 遺留分への配慮:後継者以外の相続人には、法律で最低限保障された遺産の取り分である「遺留分」を主張する権利があります。遺留分を侵害するような遺言は、後に紛争の原因となります。生前に他の相続人の理解を得ておくか、遺留分相当の現金を準備しておくなどの対策が求められます。
  • 事業承継税制の継続手続き:事業承継税制(納税猶予・免除制度)の適用を受けている場合、相続後も一定の要件を満たし続ける必要があり、都道府県への年次報告などが義務付けられています。

これらの相続手続きは非常に専門的であるため、相続に強い税理士や弁護士に相談しながら進めることが必須となります。

事業承継でよくある失敗事例と回避策

周到な準備をしたつもりでも、思わぬ落とし穴にはまってしまうのが事業承継の難しさです。ここでは、多くの企業が陥りがちな失敗事例を3つのパターンに分け、具体的な回避策とともに解説します。他社の失敗から学び、自社の承継を成功に導きましょう。

後継者問題での失敗

事業承継の根幹をなす「後継者」に関する問題は、最も多く見られる失敗パターンです。準備の遅れや選定ミスが、会社の未来を大きく左右します。

失敗事例具体的な回避策
後継者の決定・育成が遅すぎた
現経営者が「自分はまだ元気だ」と考え、承継の準備を先延ばしにした結果、後継者の育成期間が不足。いざ承継という段階で、経営能力やリーダーシップが伴わず、経営が不安定化してしまった。
早期の準備着手と計画的な育成
理想的には引退の5年~10年前から準備を開始します。後継者候補を早期にリストアップし、必要なスキルや経験を洗い出します。その上で、OJT(実務研修)とOff-JT(外部研修やセミナー参加)を組み合わせた長期的な育成計画を策定・実行します。
親族という理由だけで後継者を選んだ
経営への意欲や適性が低いにもかかわらず、「長男だから」という理由だけで後継者にしてしまった。結果として、本人の能力不足から従業員や取引先の信頼を失い、業績が悪化。最終的に事業の継続が困難になった。
客観的な視点での適性評価
血縁に固執せず、複数の候補者(親族、役員・従業員)の中から、経営者としての資質やビジョン、リーダーシップを客観的に評価します。後継者本人との対話を重ね、事業への情熱や覚悟を慎重に見極めることが不可欠です。
後継者候補間で対立が起きた
複数の子供や役員を後継者候補として曖昧な態度をとり続けたため、社内に派閥が生まれてしまった。承継をめぐる骨肉の争いが経営に深刻なダメージを与え、優秀な人材の流出にもつながった。
明確な意思表示と役割分担
現経営者は、誰を後継者にするのかを明確に決定し、その理由を関係者に丁寧に説明する必要があります。後継者に選ばれなかった親族や役員に対しても、今後の役割や処遇を明確にし、不満が残らないよう配慮することが重要です。

資金計画の甘さによる失敗

事業承継には、株式の買取資金や納税資金など、多額の資金が必要となります。資金計画の不備は、承継そのものを頓挫させる大きな要因です。

失敗事例具体的な回避策
自社株の評価額を把握していなかった
業績が好調だったため、想定以上に自社株の評価額が高騰。後継者に株式を買い取る資金力がなく、贈与や相続を選択した結果、莫大な贈与税・相続税が発生し、納税資金の捻出に窮してしまった。
定期的な株価評価と税金対策
税理士などの専門家に依頼し、定期的に自社株の評価額を算定します。株価が上がりすぎる前に対策を講じることが重要です。「事業承継税制(納税猶予・免除制度)」の活用や、計画的な生前贈与、生命保険の活用など、専門家と相談しながら最適な節税・納税資金対策を進めます。
個人保証の引継ぎに失敗した
金融機関からの借入金に対する現経営者の個人保証を、後継者が安易に引き継いでしまった。その後、業績が悪化した際に返済が困難となり、後継者が個人資産を失う事態に陥った。
金融機関との早期交渉と保証の解除
承継計画の早い段階で金融機関に相談し、経営状況や将来性を丁寧に説明します。「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、可能な限り個人保証を解除、または後継者の負担を軽減する交渉を行います。安易な引継ぎは絶対に避けるべきです。
現経営者の退職金が準備不足だった
会社の資金繰りを優先するあまり、自身の退職金の準備を怠っていた。引退後、十分な生活資金を確保できず、会社の経営に口出しを続けたり、後継者から資金援助を受けたりすることで、円満な引退ができなかった。
計画的な退職金の積立
会社の利益から計画的に役員退職慰労金引当金を積み立てます。生命保険(逓増定期保険など)や中小企業退職金共済(中退共)制度などを活用し、会社の損金として計上しながら、計画的に引退後の生活資金を確保しておくことが、円滑な世代交代の鍵となります。

従業員の離反を招いた失敗

会社を支えるのは「人」です。事業承継のプロセスで従業員の信頼を失うと、組織の活力が失われ、事業の継続が危ぶまれます。

失敗事例具体的な回避策
従業員への告知が突然すぎた
事業承継の事実を直前まで従業員に隠していたため、発表と同時に「会社は大丈夫なのか」「自分たちはどうなるのか」といった不安が蔓延。優秀な人材が将来を悲観して次々と退職し、組織が弱体化してしまった。
段階的で丁寧な情報開示
まずは役員や幹部社員に内々に伝え、理解と協力を得ます。その後、全従業員に対して、後継者の紹介、承継の理由、そして最も重要な「雇用の維持」と「今後のビジョン」を現経営者と後継者の両方から丁寧に説明します。誠実なコミュニケーションが不安を払拭します。
古参幹部との関係構築を怠った
後継者が自分のやり方を押し通そうとし、長年会社を支えてきた古参の役員や幹部社員の意見を軽視。彼らの反発を招き、社内が対立構造に。結果として、重要なノウハウや取引先との人脈が失われ、経営に支障をきたした。
現経営者による「橋渡し」と信頼関係の構築
承継前の移行期間を十分に設け、現経営者が「橋渡し役」となって後継者と主要な従業員との面談の場を設定します。後継者は、まず既存の従業員を尊重し、彼らの経験や知識に耳を傾ける姿勢を見せることが、信頼を得るための第一歩です。
M&A後の文化統合(PMI)に失敗した
第三者承継(M&A)において、買収側の企業文化を一方的に押し付けたため、従業員のモチベーションが著しく低下。キーパーソンが流出し、期待していたシナジー効果が得られず、M&Aそのものが失敗に終わった
PMI(Post Merger Integration)の重視
M&Aの成功は、契約後(Post)の統合プロセス(Integration)にかかっています。両社の企業文化や価値観を尊重し、従業員の待遇や労働条件を慎重にすり合わせる必要があります。コミュニケーションを密にし、時間をかけて組織の融合を図ることが極めて重要です。

事業承継の主な相談先一覧

事業承継は、税務、法務、財務など多岐にわたる専門知識を必要とする複雑なプロセスです。経営者一人で全ての課題を解決するのは困難であり、適切なタイミングで専門家のサポートを受けることが成功の鍵となります。ここでは、事業承継における主な相談先とその特徴について詳しく解説します。

どの専門家に相談すべきかは、企業の状況や事業承継のどの段階にいるかによって異なります。それぞれの強みを理解し、自社の課題に最適なパートナーを見つけましょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です。中小企業の円滑な事業承継をサポートすることを目的としており、中立的な立場から幅広い相談に対応しています。

主な特徴は以下の通りです。

  • 親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)など、あらゆる承継方法に関する相談が可能
  • 事業承継に関する豊富な知識と経験を持つ専門家が無料で相談に応じてくれる
  • 後継者不在の企業と起業家を結びつける「後継者バンク」を運営している
  • 必要に応じて、税理士や弁護士などの専門家を紹介してくれる

「何から始めればいいかわからない」「まずは誰かに話を聞いてみたい」という経営者にとって、最初の相談先として最も適しています。秘密厳守で安心して相談できるため、事業承継を考え始めたら、まずはお近くのセンターに問い合わせてみることをお勧めします。

税理士や公認会計士

税理士や公認会計士は、税務・財務のプロフェッショナルです。特に事業承継においては、株式の移転に伴う税金問題が大きな課題となるため、その役割は非常に重要です。

主な相談内容は以下の通りです。

  • 自社株の評価:相続税や贈与税の算定基礎となる自社株の評価額を算出します。
  • 税金対策:事業承継税制の活用や生前贈与などを組み合わせ、納税額を最小限に抑えるための具体的なプランを提案します。
  • 財務分析と企業価値向上:企業の財務状況を分析し、承継に向けた企業価値向上のためのアドバイスを行います。
  • 資金調達の相談:株式買取資金や納税資金の準備に関する相談にも対応します。

日頃から会社の経営状況を把握している顧問税理士がいる場合は、最も身近で頼りになる相談相手です。特に親族内承継や従業員承継を検討している場合、税務・財務面での課題解決に不可欠な存在と言えるでしょう。

弁護士

弁護士は、法律に関する専門家であり、事業承継に伴う法的なリスクを管理し、トラブルを未然に防ぐために重要な役割を果たします。契約書の作成や相続問題など、法律が絡む複雑な手続きをサポートします。

主な相談内容は以下の通りです。

  • 各種契約書の作成・レビュー:株式譲渡契約書、株主間契約書、経営委任契約書など、法的に有効でトラブルの種にならない契約書を作成します。
  • 法務デューデリジェンス(法務DD):M&Aの際に、対象企業が抱える法的な問題点やリスクを調査します。
  • 相続トラブルへの対応:複数の相続人がいる場合など、遺産分割協議が難航する際の交渉や法的手続きを代理します。
  • 経営者の個人保証の整理:後継者への負担を軽減するため、金融機関との交渉を含めた個人保証の解除や引継ぎをサポートします。

M&Aのように複数の利害関係者が関わるケースや、相続人が複数いて意見が対立する可能性がある場合には、早い段階で弁護士に相談することが賢明です。法的な問題をクリアにすることで、安心して事業承継を進めることができます。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、後継者不在の中小企業と、事業の譲り受けを希望する企業や個人とをマッチングさせる第三者承継(M&A)の専門家です。

主な特徴とサポート内容は以下の通りです。

  • 豊富なネットワーク:独自のネットワークを駆使し、自社にとって最適な条件の買い手候補を探し出します。
  • 企業価値評価(バリュエーション):M&Aの専門的な知見に基づき、適正な企業価値を算定し、交渉のベースとします。
  • 交渉の代理・助言:経営者に代わって相手方と交渉を行い、有利な条件での成約を目指します。
  • 手続きの一貫サポート:初期相談から最終契約の締結まで、M&Aの複雑なプロセス全体をサポートします。

親族や社内に適切な後継者が見つからず、第三者への事業売却を検討している場合には、最も頼りになる相談先です。手数料は成功報酬型が一般的ですが、その専門性とネットワークは、自社だけでは実現不可能な好条件での承継を可能にします。

その他の相談先

上記以外にも、事業承継の相談ができる窓口はいくつかあります。自社の状況に合わせて活用を検討しましょう。

金融機関(銀行、信用金庫など)

メインバンクなどの取引金融機関も、身近な相談相手の一つです。長年の取引を通じて企業の経営実態をよく理解しており、資金調達の相談はもちろん、自行のネットワークを活かしてM&A仲介会社や専門家を紹介してくれることもあります。特に、経営者の個人保証の引継ぎについては、金融機関との協議が不可欠です。

商工会議所・商工会

地域の事業者が会員となっている商工会議所や商工会も、事業承継に関する情報提供や相談対応を行っています。事業承継に関するセミナーを開催したり、専門家派遣制度の窓口となっている場合も多いため、気軽に相談できる第一歩として活用できます。

まとめ

事業承継は、企業の存続と成長を左右する極めて重要な経営課題です。成功の鍵は、早期からの準備と計画的な実行にあります。後継者の選定・育成、株式など資産の円滑な移転、従業員や取引先との合意形成といったポイントを着実に進めることが、失敗を回避し事業を次世代へ繋ぐための最善策です。

課題は多岐にわたるため、一人で抱え込まず、事業承継・引継ぎ支援センターや税理士といった専門家へ早めに相談しましょう。

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