日本のキャッシュレス決済比率の現状とビジネスへの影響
「うちは現金商売だから関係ない」と考えている方も、もはや無視できないほど、日本の決済シーンは大きく変化しています。ここでは、データに基づいた日本のキャッシュレス決済の現状と、それがあなたのビジネスにどのような影響を与えるのかを具体的に解説します。
加速する日本のキャッシュレス化と消費者ニーズの変化
経済産業省の発表によると、日本のキャッシュレス決済比率は年々右肩上がりに上昇しており、2023年には39.3%に達し、過去最高を更新しました。これは、決済額にして約126.7兆円という巨大な市場規模です。
決済手段の内訳を見ると、依然としてクレジットカードが主流ですが、近年ではQRコード決済の伸びが著しく、消費者の支払い方法が多様化していることがわかります。
このような変化の背景には、消費者ニーズの変容があります。多くの消費者がキャッシュレス決済を選ぶ理由は、単に「便利だから」だけではありません。
- スピーディーな会計:レジ前での小銭のやり取りがなくなり、会計時間が短縮されます。
- ポイント還元や特典:決済金額に応じたポイント還元やクーポンは、消費者にとって大きな魅力です。
- 衛生的な非接触決済:現金に触れる必要がないため、衛生面を気にする顧客に安心感を与えます。
- 利用履歴の可視化:スマートフォンアプリなどで支出を簡単に管理できるため、家計管理に役立ちます。
特にスマートフォンを使いこなす若年層から中年層にかけては、「現金を持ち歩かない」ライフスタイルが当たり前になりつつあります。キャッシュレス決済に対応していないだけで、お客様はあなたの店を選ぶ選択肢から外してしまう可能性があるのです。これは、気づかぬうちに大きな販売機会を逃していることに他なりません。
※参照:2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました|経済産業省
インバウンド需要の回復とキャッシュレス対応の重要性
新型コロナウイルスの水際対策緩和以降、訪日外国人観光客(インバウンド)は急速に回復しており、多くの観光地や商業施設が活気を取り戻しています。このインバウンド需要を取り込む上で、キャッシュレス対応は避けて通れない重要な課題です。
なぜなら、海外では日本以上にキャッシュレス化が進んでいる国が多いからです。特に中国ではAlipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)、韓国ではクレジットカードやNaver Pay(ネイバーペイ)といった決済手段が社会の隅々まで浸透しており、現金を使う習慣がほとんどない人も少なくありません。
彼らにとって、自国で日常的に利用している決済手段が日本でも使えるかどうかは、店舗選びの極めて重要な判断基準となります。慣れない日本円への両替の手間や、多額の現金を持ち歩くリスクを避けたいと考えるのは当然のことです。
インバウンド顧客にとって、キャッシュレス決済への対応は、言語の壁を越えた「おもてなし」の一つです。決済手段の有無が、高額な商品やサービスの購入をためらわせる要因にもなり得ます。インバウンド需要という大きなビジネスチャンスを最大限に活かすためにも、多様なキャッシュレス決済への対応は必須と言えるでしょう。
ビジネスの成長を加速させるキャッシュレス導入3つの理由
キャッシュレス決済の導入は、単に支払い方法を増やすだけではありません。それは、現代のビジネス環境で勝ち抜くための強力な戦略であり、集客力の強化、売上の最大化、そして業務の抜本的な効率化を実現するための重要な一手です。ここでは、なぜ今キャッシュレス決済がビジネスの成長に不可欠なのか、その3つの核心的な理由を詳しく解説します。
販売機会の損失を防ぎ顧客単価アップを実現
あなたの店舗では、「現金の手持ちがないから、購入を諦める」というお客様を取り逃がしていませんか?キャッシュレス決済の導入は、こうした「見えない機会損失」を防ぐための最も効果的な対策です。
例えば、ランチタイムに「あと一品、デザートも食べたいけど千円札しかない」とためらうお客様や、給料日前に高額な商品の購入を迷っているお客様がいたとします。クレジットカードやQRコード決済が使えれば、お客様は手持ちの現金を気にすることなく、気軽に購入を決断できます。これは、特に衝動買いや「ついで買い」を促す上で絶大な効果を発揮します。
実際に、現金払いよりもキャッシュレス決済の方が支払いの心理的ハードルが下がるため、顧客単価が上昇する傾向にあることが知られています。以下の表は、キャッシュレス決済がどのように顧客単価アップに貢献するかを示した例です。
シーン | 現金のみの場合の顧客心理 | キャッシュレス導入後の顧客行動 |
---|---|---|
アパレル店 | 「このジャケットは欲しいけど、予算オーバーだから諦めよう…」 | 「クレジットカードの分割払いなら買える!ついでに合うシャツも探そう。」 |
カフェ | 「コーヒーだけにしよう。小銭がないし、お札を崩すのも面倒だ。」 | 「スマホ決済でピッとかざすだけだから、ケーキセットにしちゃおう。」 |
書店 | 「気になっていた本が3冊あるけど、給料日前だから1冊だけにしておこう。」 | 「ポイントも貯まるし、全部買ってしまおう。電子マネーで支払えるし。」 |
このように、キャッシュレス決済は顧客の「買いたい」という気持ちをその場で確実に売上へと繋げ、客単価を自然に引き上げる強力な武器となるのです。
新規顧客の集客とリピーター化を促進
キャッシュレス決済は、もはや単なる支払い手段ではなく、強力な集客ツールとしての側面を持っています。特に、スマートフォンを使いこなす若年層や、特定の決済サービスを積極的に利用する顧客層にとって、キャッシュレス対応の有無は店選びの重要な基準です。
例えば、PayPayや楽天ペイ、d払いといった大手QRコード決済事業者は、大規模なポイント還元キャンペーンを頻繁に実施しています。あなたの店舗がそのキャンペーンの対象となることで、これまで接点のなかった新しい顧客が「お得だから」という理由で来店するきっかけが生まれます。また、これらの決済アプリには周辺の対応店舗を検索するマップ機能が搭載されており、無料で店舗の存在をアピールできる広告塔の役割も果たしてくれます。
さらに、キャッシュレス決済は一度来店した顧客をリピーターへと育てる上でも効果的です。
- ポイントによる囲い込み:「この店なら楽天ポイントが貯まる・使える」といったインセンティブは、顧客が次もあなたの店を選ぶ強い動機になります。
- 快適な決済体験:スマートフォンやカードをかざすだけのスピーディーでスマートな会計は、顧客満足度を向上させます。「あの店は会計が楽で良い」というポジティブな体験が、再来店へと繋がるのです。
- クーポン連携:決済アプリを通じて、再来店を促すクーポンやお得な情報を直接顧客に届けることも可能です。
キャッシュレス決済を導入することは、新たな顧客層にアプローチし、来店してくれた顧客との関係性を深め、継続的な売上を確保するための戦略的な一手と言えるでしょう。
現金管理の手間を削減し業務を効率化
店舗運営において、日々の現金管理は目に見えにくいコストと時間を奪う大きな負担です。キャッシュレス決済の導入は、この現金管理にまつわるあらゆる業務を劇的に削減し、店舗全体の生産性を向上させます。
毎日のレジ締め作業を想像してみてください。現金を数え、伝票と照合し、間違いがあれば原因を追跡する…この一連の作業には多くの時間と神経を使います。キャッシュレス決済比率が高まれば、扱う現金そのものが減るため、レジ締めは数分で完了し、計算ミスや違算金発生のリスクも大幅に低減します。また、釣銭のための小銭を常に準備したり、売上金を銀行へ入金しに行ったりする手間と時間、さらには防犯上のリスクからも解放されます。
以下の表は、現金のみの場合とキャッシュレスを導入した場合の業務の違いを比較したものです。
業務内容 | 現金のみの場合 | キャッシュレス導入後の場合 |
---|---|---|
会計時 | 現金の受け渡し、釣銭の計算と確認。時間がかかり、行列の原因に。 | 端末操作のみでスピーディーに完了。レジ回転率が向上。 |
レジ締め | 売上金の計算と照合に時間がかかる。違算金発生のリスクも。 | 現金が少ないため短時間で完了。データ上で売上が自動管理される。 |
釣銭準備 | 定期的な両替が必要。銀行に行く手間と手数料が発生。 | 釣銭の必要性が大幅に減り、両替の手間がほぼなくなる。 |
売上管理 | 手作業での記帳や入力が必要。ヒューマンエラーの可能性。 | 売上データが自動で記録・集計され、管理が容易になる。 |
このようにして創出された時間は、本来注力すべき接客品質の向上、商品ディスプレイの改善、スタッフの教育、新たな販促企画の立案といった、より付加価値の高い業務に充てることができます。業務効率化は、単なるコスト削減に留まらず、従業員の満足度向上と店舗の競争力強化に直結する、ビジネス成長の土台となるのです。
キャッシュレス導入で得られる5つのメリット
キャッシュレス決済の導入は、単に支払い方法が増えるというだけでなく、店舗運営の根幹に関わる多くの具体的なメリットをもたらします。日々の業務効率化から売上拡大、さらには新たな顧客層の獲得まで、その効果は多岐にわたります。ここでは、事業者がキャッシュレス決済を導入することで得られる5つの主要なメリットを、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
売上向上と機会損失の防止
キャッシュレス決済への対応は、直接的な売上アップに繋がる最も重要なメリットの一つです。現金払いのみの場合、顧客が「手持ちの現金が足りない」という理由だけで購入を諦めてしまう「機会損失」が日常的に発生しています。
例えば、アパレル店で気に入ったジャケットを見つけた顧客が、給料日前のために購入をためらうケースや、ランチ後のカフェで美味しそうなケーキを見つけたものの、小銭がなくて諦めるケースなどが考えられます。クレジットカードやスマホ決済が使えれば、こうした顧客を逃すことはありません。
さらに、顧客は所持金の上限を気にすることなく買い物ができるため、予定していなかった商品の「ついで買い」や、より高価な商品へのアップセルが期待でき、結果として顧客単価の向上に繋がります。高額商品を扱う店舗や、客単価を上げたいと考えているビジネスにとって、キャッシュレス対応は必須の戦略と言えるでしょう。
現金管理のコストとリスクを削減
日々の現金管理は、多くの事業者にとって目に見えないコストとリスクの温床となっています。キャッシュレス決済を導入することで、これらの課題を劇的に改善できます。
まず、閉店後のレジ締め作業にかかる時間が大幅に短縮されます。現金の計算、伝票との照合といった煩雑な作業が減ることで、従業員の残業代といった人件費の削減に繋がります。また、釣銭のための両替手数料や、売上金を銀行へ入金しに行く手間と時間も削減できます。
さらに、店舗に保管する現金が減ることで、盗難や強盗といった犯罪リスクを大幅に低減できます。従業員によるレジ金の不正や、釣銭の渡し間違いといったヒューマンエラーを防ぐ効果も大きいでしょう。以下の表は、現金管理とキャッシュレス導入後の業務を比較したものです。
項目 | 現金のみの場合 | キャッシュレス導入後 |
---|---|---|
レジ締め作業 | 売上金の計算と照合に時間がかかる | 現金分の計算のみで済み、大幅に時間短縮 |
釣銭の準備 | 毎日、多くの金種を準備する必要がある(両替手数料も発生) | 必要最低限で済む、または不要になる |
売上金の入金 | 定期的に銀行へ行く手間と時間がかかる | 自動で指定口座に入金されるため手間がゼロ |
盗難・紛失リスク | レジや金庫に多額の現金があり、リスクが高い | 保管現金が減り、リスクが大幅に低減 |
計算ミス | 釣銭の渡し間違いなどが発生しやすい | 金銭授受が減り、ヒューマンエラーを防止 |
顧客データのマーケティング活用
キャッシュレス決済を導入すると、決済代行会社が提供する管理ツールを通じて、貴重な販売データを取得・分析できるようになります。これは、感覚に頼りがちだった店舗運営を、データに基づいた科学的なアプローチへと進化させる大きなチャンスです。
例えば、以下のようなデータを簡単に可視化できます。
- 時間帯別の売上推移
- 曜日ごとの売上傾向
- 客層(年代・性別など ※サービスによる)
- リピート率や来店頻度
- よく一緒に購入される商品の組み合わせ
これらのデータを分析することで、「平日のランチタイムは女性客が多いから、ヘルシーなセットメニューを強化しよう」「土日の午後に売上が伸びるから、その時間帯に限定のタイムセールを実施しよう」といった、具体的なマーケティング施策を立案できます。勘や経験だけに頼るのではなく、データという客観的な根拠を持って戦略を立てることで、より効果的に売上を伸ばしていくことが可能になります。
店舗の衛生管理向上
新型コロナウイルス感染症の流行以降、消費者の衛生意識は格段に高まりました。特に飲食店や食品販売店、クリニックなどでは、衛生管理が店舗選びの重要な基準の一つとなっています。
キャッシュレス決済、特にクレジットカードのタッチ決済やQRコード決済は、顧客と従業員の間で現金の受け渡しが一切発生しない「非接触」の支払い方法です。不特定多数の人が触れる現金や硬貨を介さないため、ウイルスや細菌の接触感染リスクを低減できます。
物理的な接触を減らすことは、顧客に「この店は衛生的で安心だ」というポジティブな印象を与え、信頼獲得に繋がります。従業員にとっても安心して働ける環境を提供できるというメリットがあり、店舗全体のブランドイメージ向上に貢献します。
インバウンド顧客の取り込み
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、訪日外国人観光客の数は回復基調にあり、インバウンド需要は多くのビジネスにとって再び大きなチャンスとなっています。欧米やアジア諸国の多くは日本以上にキャッシュレス化が進んでおり、訪日客の多くは自国で使い慣れたクレジットカードやスマホ決済(Alipay+、WeChat Payなど)での支払いを望んでいます。
彼らにとって、現金しか使えない店舗は「買い物ができない不便な店」と映り、入店すらしてもらえない可能性があります。これは非常に大きな機会損失です。
クレジットカードはもちろん、海外で主流の決済サービスに対応することは、インバウンド需要を取り込むための最低条件と言っても過言ではありません。言葉が通じにくい海外での買い物において、スムーズに支払いを済ませられることは、観光客に大きな安心感を与えます。多様な決済手段を用意し、「Welcome」の姿勢を示すことが、インバウンド売上の最大化に直結します。
事前に確認したい3つのデメリットと対策
キャッシュレス決済の導入は、ビジネスに多くのメリットをもたらしますが、一方で事前に把握しておくべきデメリットも存在します。これらを理解し、対策を講じることで、スムーズな導入と安定した店舗運営が可能になります。ここでは、特に注意すべき3つのデメリットと、その具体的な対策について詳しく解説します。
決済手数料の発生
キャッシュレス決済を導入する上で、最も重要なコストが「決済手数料」です。お客様がクレジットカードやQRコードで支払いを行うたびに、売上金額の数パーセントが手数料として決済事業者に支払われます。この手数料は、ビジネスの利益を直接圧迫するため、料率を正確に把握しておく必要があります。
手数料の料率は、利用する決済代行会社や決済ブランド(Visa, Mastercard, PayPay, Suicaなど)、さらには事業者の業種によっても異なります。一般的に、個人経営の小規模店舗よりも、チェーン展開する大手企業の方が料率は低く設定される傾向にあります。
決済方法別の手数料相場
以下は、一般的な決済方法ごとの手数料相場の目安です。導入するサービスを選ぶ際の参考にしてください。
決済方法 | 手数料率の目安 | 特徴 |
---|---|---|
クレジットカード決済 | 3.0% 〜 3.7%前後 | 最も普及している決済手段。信頼性が高いが、手数料はやや高め。 |
QRコード決済 | 1.6% 〜 3.0%前後 | 急速に利用者が増加中。比較的低い手数料率のサービスが多い。 |
電子マネー決済 | 3.0% 〜 3.5%前後 | 交通系ICカードなど少額決済に強い。手数料はクレジットカード決済と同水準。 |
対策:手数料を比較検討し最適なサービスを選ぶ
対策の基本は、複数の決済代行会社を比較し、自社のビジネスモデルに最も合ったサービスを選ぶことです。手数料が0.1%違うだけでも、年間の利益に大きな差が生まれます。また、期間限定で手数料が割引になるキャンペーンを実施している会社もあるため、導入タイミングも重要です。
注意点として、決済手数料をお客様に上乗せして請求する行為は、多くの加盟店規約で明確に禁止されています。発覚した場合は契約解除などのペナルティを受ける可能性があるため、手数料は必ず事業者側が負担するコストとして、価格設定や事業計画に織り込んでください。
導入コストと運用コスト
キャッシュレス決済の導入には、初期費用や月額の運用コストが発生する場合があります。これらのコストを事前に把握しておかないと、想定外の出費につながる可能性があります。
主なコストは以下の通りです。
- 初期費用(導入コスト):決済端末(CAT端末やカードリーダー)の購入費用、設置費用など。
- 月額固定費(運用コスト):システムの利用料として毎月発生する費用。
特に、据え置き型の高機能な決済端末(CAT端末)を導入する場合、数万円から十数万円の端末代金が必要になることがあります。
対策:無料プランやキャンペーンを賢く活用する
近年、初期費用や月額固定費が無料の決済代行サービスが主流になっています。これらのサービスは、スマートフォンやタブレットに専用のカードリーダーを接続するだけで利用できるため、導入コストを大幅に抑えることが可能です。小規模事業者や初めてキャッシュレス決済を導入する店舗には、特におすすめの選択肢です。
また、多くの決済代行会社が「端末代金0円キャンペーン」や「キャッシュバックキャンペーン」を定期的に実施しています。こうしたキャンペーンをうまく活用することで、実質的な負担なく導入することも可能です。複数のサービスを比較検討し、自店の規模や運用スタイルに合った最もコストパフォーマンスの高いプランを選びましょう。
売上金の入金サイクル
現金商売の場合、売上は即座に手元の現金となりますが、キャッシュレス決済では売上がすぐに入金されるわけではありません。決済代行会社が売上金を一旦預かり、定められたサイクルで事業者の銀行口座に振り込む仕組みになっています。この「入金サイクル」が、ビジネスの資金繰りに影響を与える可能性があります。
例えば、入金サイクルが「月末締め・翌月末払い」の場合、月の初めの売上が現金化されるまでに最大で約2ヶ月かかることになります。このタイムラグにより、仕入れ代金や人件費、家賃などの支払いに充てる現金が不足し、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。
対策:自社の資金繰りに合った入金サイクルのサービスを選ぶ
キャッシュレス決済サービスを選ぶ際は、決済手数料だけでなく、入金サイクルと振込手数料を必ず確認しましょう。サービスによって入金サイクルは大きく異なり、主に以下のようなパターンがあります。
- 月1回
- 月2回
- 週1回
- 最短翌日入金
個人経営の店舗や、運転資金に余裕がない場合は、できるだけ入金サイクルの短いサービスを選ぶのが賢明です。また、指定の銀行口座(三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行など)を振込先に設定すると、振込手数料が無料になるサービスも多いため、自社が利用している銀行口座との相性も確認しておくと、無駄なコストを削減できます。一部のサービスでは、追加手数料を支払うことで入金を早める「早期入金オプション」も提供されていますので、緊急時の選択肢として把握しておくと安心です。
あなたのビジネスに合うのはどれ?キャッシュレス決済の種類と特徴
キャッシュレス決済と一口に言っても、その種類は多岐にわたります。それぞれに特徴や強みがあり、導入にかかるコストや手数料も異なります。自社の業種、客層、店舗の規模などを総合的に考慮し、最適な決済方法を選ぶことが成功の鍵となります。ここでは、主要な3つの決済方法「クレジットカード決済」「電子マネー決済」「QRコード決済」について、その特徴とどのようなビジネスに向いているかを詳しく解説します。
クレジットカード決済
クレジットカード決済は、キャッシュレス決済の中で最も普及しており、信頼性の高い決済方法です。高額な商品やサービスにも対応できるため、幅広い業種で導入されています。国内外で利用者が多く、インバウンド需要を取り込む上でも欠かせない存在です。
主な国際ブランド
導入する際は、利用者の多い主要な国際ブランドに対応することが重要です。一般的に以下のブランドが「5大国際ブランド」と呼ばれています。
- Visa
- Mastercard
- JCB
- American Express
- Diners Club
これらに加え、中国で広く利用されている「銀聯(UnionPay)」に対応することで、インバウンド顧客の取りこぼしを防ぐことができます。
こんなビジネスにおすすめ
クレジットカード決済は、特に客単価が比較的高く、信頼性が重視されるビジネスに適しています。
- 飲食店:コース料理を提供するレストラン、居酒屋など
- 小売店:アパレル、家電量販店、家具店など
- サービス業:美容院、エステサロン、ホテル、旅館など
- オンラインストア(ECサイト):場所を問わず高額な取引が発生するため必須
電子マネー決済(交通系IC・流通系)
電子マネーは、専用カードやスマートフォンを決済端末にかざすだけで支払いが完了するスピーディーさが魅力です。特に少額決済に強く、顧客の利便性を高めることでレジの回転率向上に貢献します。
交通系ICカード
SuicaやPASMOに代表される交通系ICカードは、日々の通勤・通学で利用されているため保有者が非常に多く、幅広い年齢層に浸透しています。スピーディーな会計が求められる業種では、導入効果を特に実感しやすいでしょう。
- 主な種類:Suica、PASMO、ICOCA、Kitacaなど全国相互利用可能な10種類
- 向いているビジネス:コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストア、駅ナカの店舗、カフェ、タクシーなど
流通系電子マネー
大手スーパーやコンビニエンスストアなどが発行する電子マネーです。特定の企業グループで利用でき、独自のポイントプログラムと連携していることが多く、顧客の囲い込みやリピート利用の促進に効果的です。
- 主な種類:WAON、nanaco、楽天Edy、iD、QUICPayなど
- 向いているビジネス:スーパーマーケット、ショッピングモール内のテナント、ドラッグストアなど、特定の顧客層が頻繁に利用する店舗
QRコード決済(スマホ決済)
QRコード決済は、利用者のスマートフォンアプリを使って支払いを行う方法で、近年急速に利用者を増やしています。導入ハードルが比較的低く、独自のキャンペーンによる集客効果も期待できるため、特に小規模事業者からの人気が高い決済方法です。
2つの決済方式
QRコード決済には、店舗の運営スタイルに合わせて選べる2つの方式があります。
- ユーザースキャン方式(MPM):店舗が提示したQRコードを利用者が自身のスマートフォンで読み取り、金額を入力して決済する方式です。店舗側はQRコードを印刷して設置するだけで始められるため、初期費用を抑えて手軽に導入したい小規模店舗に向いています。
- ストアスキャン方式(CPM):利用者が提示したスマートフォンのQRコード・バーコードを、店舗側が専用端末やPOSレジで読み取って決済する方式です。会計がスムーズで、POSシステムとの連携により売上管理が容易になるため、レジの回転率を重視するチェーン店や中規模以上の店舗に適しています。
こんなビジネスにおすすめ
若年層をターゲットにするビジネスや、初期投資を抑えたい事業者にとってメリットが大きい決済方法です。
- 小規模な飲食店・小売店:個人経営のカフェ、雑貨店、パン屋など
- 移動販売・イベント出店:キッチンカー、フリーマーケットなど、固定のレジ設備がない場合
- 若者向けサービス:ファッション、エンターテイメント施設など
ここまで紹介した各決済方法の特徴を、以下の表にまとめました。あなたのビジネスに最適な決済方法を選ぶための参考にしてください。
決済方法 | 主な特徴 | 決済手数料の目安 | 導入ハードル | 向いている業種 |
---|---|---|---|---|
クレジットカード決済 | ・普及率が高く信頼性も高い ・高額決済に対応可能 ・インバウンド需要に強い | 3.0% ~ 3.8%程度 | 中(加盟店審査あり) | 飲食店、小売店、サービス業、ECサイトなど幅広い業種 |
電子マネー決済 | ・少額決済に強く会計がスピーディー ・レジの回転率が向上 ・交通系と流通系がある | 3.0% ~ 3.5%程度 | 中(専用端末が必要) | コンビニ、スーパー、駅ナカ店舗、カフェ、ドラッグストアなど |
QRコード決済 | ・導入コストが低い場合がある ・若年層の利用者が多い ・キャンペーンによる集客効果 | 0% ~ 3.0%程度 | 低~中(方式による) | 小規模店舗、飲食店、移動販売、イベント出店など |
4ステップで簡単 キャッシュレス決済の導入手順
「キャッシュレス決済の導入は手続きが複雑で難しそう」と感じていませんか?しかし、実際には決済代行会社を利用することで、驚くほど簡単な4つのステップで導入が可能です。決済代行会社とは、複数のクレジットカード会社や電子マネー、QRコード決済事業者との契約・手続きを一本化してくれるサービスのことです。ここでは、個人事業主や中小企業のオーナー様がスムーズに導入を進められるよう、具体的な手順を詳しく解説します。
ステップ1:導入する決済ブランドとサービスを選ぶ
最初のステップは、ご自身のビジネスに最適な決済ブランドと、それらを取りまとめる決済代行会社を選ぶことです。この選択が、今後の売上や業務効率に大きく影響するため、慎重に検討しましょう。
選定のポイントは以下の通りです。
- ターゲット顧客層:あなたのお店の顧客は、どの決済方法をよく利用するでしょうか?若年層が多いならQRコード決済、ビジネスパーソンや観光客が多いならクレジットカードやタッチ決済が好まれる傾向にあります。
- 事業の業態:実店舗での対面決済がメインか、イベント出店など屋外での利用があるか、あるいはオンラインストアでの決済が必要かによって、選ぶべき端末やサービスは異なります。
- 各種コスト:導入時にかかる初期費用、毎月の月額固定費、そして決済ごとに発生する決済手数料を比較検討します。特に決済手数料は長期的なコストとなるため、料率をしっかり確認しましょう。
- 入金サイクル:売上金が自社の口座に振り込まれるまでの期間です。キャッシュフローを重視する場合は、入金サイクルが短いサービスを選ぶことが重要です。
- サポート体制:導入時の設定サポートや、万が一のトラブル発生時に電話やメールで迅速に対応してくれるかどうかも、安心して運用するための大切なポイントです。
これらのポイントを踏まえ、Square(スクエア)、STORES 決済(ストアーズ決済)、Airペイ(エアペイ)といった複数の決済ブランドを一括で導入できる決済代行サービスを比較検討することをおすすめします。
ステップ2:決済代行会社へ申し込む
利用したい決済代行会社が決まったら、公式サイトの申し込みフォームから手続きを進めます。申し込みは多くの場合オンラインで完結し、5分から15分程度で入力が完了します。手続きをスムーズに進めるために、必要な情報を事前に準備しておくと良いでしょう。一般的に必要となる書類は以下の通りです。
個人事業主の場合 | 法人の場合 | |
---|---|---|
申込者情報 | 氏名、住所、連絡先などの基本情報 | 法人名、法人番号、本店所在地、代表者情報など |
本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど | 代表者の本人確認書類(運転免許証など) |
事業確認書類 | 開業届、直近の確定申告書、青色申告承認申請書など | 登記簿謄本(履歴事項全部証明書、発行から3ヶ月以内) |
店舗・事業情報 | 店舗名(屋号)、店舗住所、ウェブサイトURL、取り扱い商材の情報、店舗の内外観がわかる写真など | 店舗名、店舗住所、ウェブサイトURL、取り扱い商材の情報、店舗の内外観がわかる写真など |
振込先口座情報 | 売上金の入金を受け取る銀行口座情報(本人名義または屋号付き口座) | 売上金の入金を受け取る銀行口座情報(法人口座) |
※必要書類は決済代行会社や申し込むサービスによって異なる場合があります。詳細は各サービスの公式サイトで必ずご確認ください。
ステップ3:加盟店審査を受ける
申し込みが完了すると、決済代行会社および各決済ブランドによる加盟店審査が行われます。この審査は、事業者が実在し、法律や各社の規約に則って適切に事業を運営しているかを確認するために不可欠なプロセスです。
審査では、主に以下の点がチェックされます。
- 申し込み情報に虚偽や不備がないか
- 事業内容や取り扱い商材が、公序良俗に反していないか、また各決済ブランドの加盟店規約に違反していないか
- (オンラインストアの場合)特定商取引法に基づく表記がウェブサイトに正しく掲載されているか
審査にかかる期間は、申し込む決済ブランドの種類や数によって異なります。一般的にQRコード決済は審査が早く数日程度、クレジットカード決済は1週間から数週間かかる
キャッシュレス導入にかかる費用
キャッシュレス決済の導入を検討する上で、事業者が最も気になるのが「費用」ではないでしょうか。導入にはいくつかのコストが発生しますが、どの決済サービスを選ぶかによって、その負担は大きく変わります。ここでは、キャッシュレス決済の導入にかかる費用の内訳と相場を詳しく解説します。事前に費用構造を正しく理解し、自社の規模や業態に合った最適なプランを選びましょう。
初期費用と月額固定費
キャッシュレス決済の導入コストは、大きく分けて「初期費用」と「月額固定費」に分類されます。しかし近年、多くの決済代行サービスがこれらの費用を無料にするプランを提供しており、個人事業主や中小企業でも気軽に導入できる環境が整っています。
決済端末の購入費用(初期費用)
クレジットカードや電子マネーの決済に必要となるのが専用の決済端末です。端末の種類は、スマートフォンやタブレットに接続して使うコンパクトなカードリーダー型から、レシートプリンターが内蔵された据え置き型まで様々です。
多くのサービスでは、導入キャンペーンなどを利用することで端末代金が無料または割引になるケースが増えています。例えば、Airペイは条件を満たすことでカードリーダーを無償で貸与するキャンペーンを、Squareは特定の期間にキャッシュバックキャンペーンを頻繁に実施しています。
一方で、多機能な据え置き型端末(stera terminalなど)は通常7万円以上の費用がかかりますが、月額料金プランに加入することで実質0円になる場合もあります。導入したい決済方法や店舗の運用スタイルに合わせて、最適な端末を選びましょう。
月額固定費(ランニングコスト)
月額固定費は、システムの利用料やアカウントの維持費として毎月発生する費用です月額固定費が0円となっているサービスでは、売上がない月には費用が発生しないため、スモールビジネスにとって大きなメリットとなります。
一方、月額の固定費がかかるサービスもあります。ただし、このようなサービスは決済手数料が比較的安く設定されていたり、端末の修理・交換保証や販促支援アプリが利用できたりと、月額費用に見合う付加価値が提供されることが特徴です。店舗の売上規模や求める機能に応じて、月額固定費の有無を判断することが重要です。
決済手数料の相場
決済手数料は、キャッシュレス決済の売上が発生するたびに支払う必要のある、最も重要なランニングコストです。売上金額に対して一定の料率(パーセンテージ)で計算され、入金時に売上から差し引かれます。この手数料率は、利用する決済サービスや決済ブランド(クレジットカード、電子マネー、QRコード)によって異なります。
一般的に、決済手数料の相場は売上金額の1.5%〜3.74%程度です。わずかな料率の違いでも、売上規模が大きくなるほど負担額に大きな差が生まれるため、慎重に比較検討しましょう。
これらの費用以外にも、売上金が指定口座に振り込まれる際の「振込手数料」が発生する場合があります。多くのサービスでは特定の金融機関を指定すると無料になったり、振込サイクルによって手数料が変動したりします。決済手数料だけでなく、振込手数料や入金サイクルといった運用面のコストと利便性も総合的に比較し、自社のキャッシュフローに合ったサービスを選択することが、キャッシュレス決済導入を成功させる鍵となります。
まとめ
本記事で解説したように、キャッシュレス決済の導入は、販売機会の損失を防ぎ売上を伸ばすだけでなく、現金管理の手間を省き業務を効率化するため、現代のビジネスに必須です。手数料などの注意点もありますが、クレジットカードやQRコード決済など、自社の事業規模や顧客層に合ったサービスを選べば、メリットは大きいでしょう。この記事を参考に、キャッシュレス化への第一歩を踏み出し、ビジネスの成長を加速させましょう。