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売上直結!CXマーケティングの始め方|顧客をファンにする体験設計とツール選定のコツ

投稿日:2025年8月17日 /

更新日:2025年8月17日

売上直結!CXマーケティングの始め方|顧客をファンにする体験設計とツール選定のコツ

CXマーケティングが重要な理由は、優れた顧客体験がロイヤルティを高め、LTV(顧客生涯価値)を最大化させるからです。本記事では、CXの基本から売上に直結する始め方5ステップ、顧客をファンに変える体験設計のコツ、目的別のおすすめツールまでを網羅的に解説。明日から実践できる具体的なノウハウが手に入ります。

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目次

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CXマーケティングとは|顧客体験を軸にした新しい戦略

CXマーケティングとは、製品やサービスの機能・価格といった要素だけでなく、顧客が企業と関わるすべて接点(タッチポイント)における「体験」を価値の中心に据え、中長期的な関係性を構築していくマーケティング戦略のことです。

具体的には、顧客が商品を認知し、興味を持ち、購入を検討し、実際に利用し、アフターサポートを受けるまでの一連のプロセス全体をデザインし、最適化することを目指します。これにより、顧客の満足度や信頼感を高め、最終的には企業の売上向上につなげます。

CX(カスタマーエクスペリエンス)の基本的な考え方

CX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス)は、日本語で「顧客体験」や「顧客体験価値」と訳されます。これは、顧客が商品やサービスに触れる中で感じる、物理的・感覚的な価値だけでなく、「嬉しい」「楽しい」「安心できる」といった感情的な価値を含む、すべての体験を指します。

例えば、カフェでコーヒーを購入するシーンを考えてみましょう。コーヒーの味や価格といった「機能的価値」はもちろん重要です。しかし、CXではそれだけにとどまりません。店員の丁寧な接客、清潔で居心地の良い店内、スムーズに使えるオーダーアプリ、購入後に届くお得なクーポンなど、顧客が体験するあらゆる要素がCXを構成します。これらの体験の積み重ねが、顧客のブランドに対する印象を形作り、「またこの店に来たい」という気持ちを育むのです。

なぜ今CXマーケティングが重要視されるのか

現代のビジネス環境において、CXマーケティングの重要性はますます高まっています。その背景には、主に3つの大きな変化があります。

  1. 市場の成熟とコモディティ化
    多くの業界で技術が進化し、製品やサービスの品質・機能・価格だけでは他社との差別化が非常に難しくなりました。このような「コモディティ化」が進む中で、顧客は単なる「モノ」ではなく、購入プロセスや利用時に得られる「特別な体験(コト)」を重視するようになっています。CXは、この「体験」という新たな価値基準で競争優位性を築くための鍵となります。
  2. 購買行動の変化とSNSの普及
    インターネットやSNSの普及により、顧客は購入前にオンラインで情報を収集し、口コミやレビューを比較検討することが当たり前になりました。企業からの一方的な情報発信よりも、他のユーザーによる評価(UGC:User Generated Content)が購買決定に大きな影響を与えます。優れた顧客体験はポジティブな口コミを生み出し、新たな顧客を呼び込む好循環を創出する一方、悪い体験は瞬く間に拡散され、ブランドイメージを損なうリスクもはらんでいます。
  3. サブスクリプションモデルの台頭
    月額課金制のソフトウェア(SaaS)や動画配信サービスに代表されるサブスクリプションモデルが普及し、「所有」から「利用」へとビジネスモデルがシフトしています。このモデルでは、一度購入してもらって終わりではなく、顧客に継続的に利用してもらうことが収益の柱となります。そのためには、購入後も含めた継続的な良い体験の提供が不可欠であり、顧客ロイヤルティを高め、LTV(顧客生涯価値)を最大化する上でCXの向上が極めて重要になるのです。

顧客満足度(CS)との違い

CXとよく混同される概念に「CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)」があります。両者は密接に関連していますが、その視点や時間軸に明確な違いがあります。CSはCXを構成する重要な要素の一つですが、CXはより包括的な概念です。

簡単に言えば、CSは提供したサービスに対する「答え合わせ」であり、CXは顧客との関係性を育む「物語作り」と言えるでしょう。CXは、顧客視点で、長期的・連続的な体験全体を捉える概念であり、この視点を持つことが、これからのマーケティング活動において不可欠です。

CXとCSの主な違い
項目CX(顧客体験)CS(顧客満足度)
視点顧客視点(顧客が何を感じ、どう体験したか)企業視点(提供したサービスに満足したか)
時間軸長期的・連続的(認知から購入後までの一連のプロセス)短期的・スポット的(購入時や問い合わせ時など特定の接点)
評価対象感情的価値を含む体験全体(期待を超えた感動、共感など)機能や価格、接客などに対する期待値との比較
目的顧客ロイヤルティの醸成、LTVの最大化個別の課題発見、サービス品質の維持・向上

CXマーケティングがもたらす3つのメリット

CXマーケティングは、単に顧客を満足させるだけでなく、企業の持続的な成長を支える強力なエンジンとなります。優れた顧客体験を提供することは、具体的なビジネス上の利益に直結します。ここでは、CXマーケティングを導入することで得られる3つの主要なメリットについて、詳しく解説します。

顧客ロイヤルティ向上とLTVの最大化

CXマーケティングの最大のメリットは、顧客ロイヤルティを高め、結果としてLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化できる点にあります。LTVとは、一人の顧客が取引を開始してから終了するまでの期間にもたらす総利益のことです。

一度きりの取引で終わらせず、継続的に関係を築くことで、顧客は単なる購入者から企業やブランドの「ファン」へと変わっていきます。優れた顧客体験は、顧客の感情に訴えかけ、価格や機能だけでは測れない強い信頼関係と愛着(エンゲージメント)を育むのです。

ロイヤルティが高い顧客は、以下のような行動をとる傾向があります。

ロイヤルティの高い顧客の行動ビジネスへの貢献
リピート購入・継続利用安定した収益基盤を構築し、売上の予測が立てやすくなります。
アップセル・クロスセルより高価格帯の商品や、関連サービスを追加で購入してくれるため、顧客単価が向上します。
競合への離反防止多少の価格差や他社の新製品が登場しても、ブランドを信頼して選び続けてくれます。(チャーンレートの低下)

このように、CXマーケティングを通じて顧客との長期的な関係を築くことは、一人ひとりの顧客から得られる生涯価値を最大化し、安定した事業成長を実現するための最も確実な方法と言えるでしょう。

他社との差別化とブランド価値の向上

現代の市場では、技術のコモディティ化が進み、製品の機能や価格だけで他社と差別化を図ることが非常に困難になっています。このような状況において、CXマーケティングは強力な競争優位性を生み出します。

顧客は商品やサービスそのものだけでなく、それを知ってから購入し、利用するまでの一連の体験全体を評価しています。問い合わせへの迅速で丁寧な対応、パーソナライズされた提案、使いやすいウェブサイト、心地よい店舗空間、充実したアフターサポートといった「体験価値」は、他社が容易に模倣できない独自の強みとなります。

一貫して質の高い顧客体験を提供し続けることで、顧客の心の中に「このブランドなら安心」「この会社から買うと気分が良い」といったポジティブな感情が蓄積されていきます。これが、無形の資産である「ブランド価値」の向上に直結します。

結果として、企業は価格競争から脱却し、機能や価格といった「モノ」の価値だけでなく、感動や信頼といった「コト」の価値で選ばれる存在になることができるのです。

口コミによる新規顧客獲得コストの削減

CXマーケティングは、既存顧客の満足度を高めるだけでなく、効率的な新規顧客獲得にも大きく貢献します。期待を上回る素晴らしい体験をした顧客は、その感動を誰かに伝えたくなるものです。

特に、SNSやレビューサイトが普及した現代において、顧客自身が発信する情報(UGC: User Generated Content)の影響力は計り知れません。企業が発信する広告よりも、実際にサービスを体験した第三者からの「本音の口コミ」は、他の見込み顧客にとって非常に信頼性の高い情報源となります。

感動的な顧客体験がポジティブな口コミや紹介を生み出すことで、以下のような好循環が生まれます。

  1. 優れた顧客体験が「ファン」を生み出す

  2. ファンが自発的にSNSやレビューサイトで好意的な口コミを発信する

  3. その口コミを見た見込み顧客が、ブランドに興味・信頼を持つ

  4. 広告費をかけずに新規顧客を獲得できる

このように、ファンが「歩く広告塔」として機能してくれるため、多額の広告費を投下しなくても自然に新規顧客が集まるようになります。これは、企業のマーケティング活動における新規顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)を大幅に削減し、投資対効果(ROI)を劇的に改善させることにつながります。

CXマーケティングの始め方|5つのステップで解説

CXマーケティングは、思いつきや単発の施策で成功するものではありません。顧客を深く理解し、理想の体験を設計し、継続的に改善していく体系的なアプローチが不可欠です。ここでは、成果に繋がるCXマーケティングを実践するための具体的な5つのステップを、順を追って詳しく解説します。

ステップ1|現状把握と課題の可視化

CXマーケティングの第一歩は、自社の顧客体験(CX)が現在どのような状態にあるかを客観的に、そしてデータに基づいて把握することから始まります。主観や思い込みを排除し、顧客が実際に何を感じ、どこに課題を抱えているのかを正確に可視化することが、全ての土台となります。

現状把握のためには、定量的データと定性的データの両面からアプローチすることが重要です。

  • 定量的データの収集
    顧客体験を数値で測る指標を活用します。代表的なものにNPS®(ネット・プロモーター・スコア)、CSAT(顧客満足度スコア)、CES(顧客努力指標)などがあります。これらの指標を定期的に計測し、時系列での変化やセグメントごとの比較を行うことで、全体的な傾向と課題をマクロな視点で捉えることができます。
  • 定性的データの収集
    数値だけでは見えてこない、顧客の具体的な感情や背景を理解するために、定性的な「顧客の声(VOC)」を収集します。アンケートの自由記述欄、顧客インタビュー、SNS上の口コミ、レビューサイトの投稿、コールセンターの応対履歴など、あらゆるチャネルから生の声を拾い集め、分析します。
  • 社内ヒアリング
    顧客と直接接点を持つ営業、カスタマーサポート、店舗スタッフなど、現場の従業員からのヒアリングも欠かせません。彼らは日々顧客と向き合う中で、データには現れない貴重なインサイトや課題認識を持っています。

これらの情報を統合し、「顧客はどの接点で満足し、どの接点で不満やストレスを感じているのか」を明確に洗い出し、取り組むべき課題の優先順位を決定します。

ステップ2|ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成

現状の課題が明確になったら、次に「誰の、どのような体験を改善するのか」を具体的に定義します。そのために有効なフレームワークが「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」です。

ペルソナの作成

ペルソナとは、ステップ1で収集したデータに基づいて作り上げる、架空の理想的な顧客像です。年齢、性別、職業、居住地といったデモグラフィック情報だけでなく、価値観、ライフスタイル、情報収集の方法、抱えている悩みやニーズといったサイコグラフィック情報まで詳細に設定します。ペルソナを具体的に設定することで、チーム内で「顧客」に対する共通認識を持つことができ、施策の方向性がブレにくくなります。

カスタマージャーニーマップの作成

カスタマージャーニーマップとは、ペルソナが商品を認知してから購入し、利用後のファンになるまでの一連のプロセスを旅(ジャーニー)に見立て、その各段階での顧客の行動、思考、感情、そして企業との接点(タッチポイント)を時系列で可視化したものです。

このマップを作成することで、顧客がどのタッチポイントでどのような体験をしているのか、そしてどこに課題(ネガティブな体験)が潜んでいるのかを一目瞭然で把握できます。まずは現状(As-Is)のカスタマージャーニーマップを作成し、課題を洗い出しましょう。

カスタマージャーニーマップ(As-Isモデル)の例
ステージ顧客の行動思考・感情タッチポイント現状の課題
認知SNS広告で商品を知る。検索エンジンで情報収集する。「こんな商品があるんだ、便利そう」「でも本当に効果あるのかな?」SNS、検索エンジン、比較サイト広告の情報が断片的で、商品の魅力が伝わりきっていない。
検討公式サイトで詳細を確認。口コミサイトで評判をチェックする。「良さそうだけど、価格が少し高いな…」「他の商品とどう違うんだろう?」公式サイト、口コミサイト、ブログ記事他社製品との違いが分かりにくい。利用者の具体的な声が少ない。
購入ECサイトで購入手続きを行う。「入力項目が多くて面倒だな」「送料はかかるのか…」ECサイト購入フォームが複雑で離脱しやすい。送料が最後の画面で表示され、がっかりする。
利用商品が届き、使い始める。不明点をサポートに問い合わせる。「使い方が直感的じゃないな」「サポートの電話がなかなかつながらない…」商品本体、取扱説明書、カスタマーサポートオンボーディングが不十分。サポート体制が脆弱で、問題解決に時間がかかる。
推奨特に何もしない。「商品はまあまあだけど、人に薦めるほどではないかな」なし感動体験がなく、ファン化に至っていない。ロイヤルティを高める施策がない。

ステップ3|理想の顧客体験(CX)の設計

現状のカスタマージャーニーマップで課題を特定したら、次はその課題を解決し、顧客に「こうあってほしい」と願う理想の体験(To-Be)を設計します。単に不満を解消するだけでなく、顧客の期待を超える「感動」や「喜び」をどこで提供できるかを考えることが、CX設計の肝となります。

各タッチポイントの課題に対し、「どうすればもっとスムーズになるか?」「どうすればもっと心地よくなるか?」「どうすれば感動を生み出せるか?」といった視点で、具体的な改善策をブレインストーミングします。

例えば、ステップ2の表の「購入」ステージの課題「購入フォームが複雑」に対しては、「Amazon PayやApple Payを導入し、1クリックで購入できるようにする」といった具体的な解決策を考えます。さらに、「購入完了画面で、商品の使い方ワンポイントアドバイス動画へのリンクを表示する」といった期待を超える工夫を加えることで、理想のCXに近づけていきます。

このプロセスを経て、現状(As-Is)のマップを理想(To-Be)のカスタマージャーニーマップへと昇華させていきます。このTo-Beマップが、今後の施策の設計図となります。

ステップ4|各タッチポイントでの施策立案と実行

理想のCX(To-Beマップ)が完成したら、それを実現するための具体的な施策に落とし込み、実行に移します。設計図を実際の建築物にしていくフェーズです。

To-Beマップの各タッチポイントで定義された「理想の体験」を実現するために、どのようなアクションが必要かを洗い出します。Webサイトの改修、コンテンツの作成、新たなツールの導入、オペレーションの変更、スタッフのトレーニングなど、施策は多岐にわたります。

ここで重要なのは、施策ごとに「担当部署・担当者」「KPI(重要業績評価指標)」「実行スケジュール」「予算」を明確にした実行計画を立てることです。CX向上は、マーケティング部門だけでなく、営業、開発、カスタマーサポートなど、複数の部署が連携して初めて実現できます。部門横断のプロジェクトチームを組成し、全社的な協力体制を築くことが成功の鍵を握ります。

例えば、「サポートの電話がつながりにくい」という課題に対しては、カスタマーサポート部門が中心となり、「FAQコンテンツを充実させて自己解決を促す(Webチームと連携)」「チャットボットを導入して一次対応を自動化する(システム部門と連携)」といった施策を計画・実行します。

ステップ5|効果測定と改善(PDCA)

施策を実行したら、それで終わりではありません。CXマーケティングは、一度きりのプロジェクトではなく、継続的な改善活動です。実行した施策が本当に顧客体験の向上とビジネス成果に繋がったのかを定量的に測定し、その結果を元に次のアクションへと繋げるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回し続けることが不可欠です。

Check(効果測定)
ステップ1で設定したNPS®やLTV、解約率といった指標を再び測定し、施策実行前後でどのような変化があったかを比較・分析します。A/Bテストなどを活用して、どの施策がどの指標にどれだけ貢献したのかを可能な限り特定します。

Action(改善)
測定結果から得られた学びをもとに、改善策を考えます。効果のあった施策は、さらに磨きをかけたり、他の領域へ横展開したりします。一方で、期待した効果が得られなかった施策については、その原因を分析し、アプローチを修正して再度試みます。

このPDCAサイクルを粘り強く回し続けることで、顧客体験は継続的に磨かれ、企業の競争優位性は確固たるものになっていきます。顧客の期待や市場環境は常に変化するため、立ち止まることなく改善を続ける姿勢こそが、CXマーケティングを成功に導く最も重要な要素なのです。

顧客をファンにする体験設計のコツ

CXマーケティングを成功させるためには、単に施策を点として実行するのではなく、顧客の感情に寄り添い、記憶に残る一連の「体験」を意図的に設計することが不可欠です。顧客が「この企業(ブランド)のファンで良かった」と感じる瞬間を創出することが、長期的な関係構築に繋がります。

ここでは、顧客を熱狂的なファンに変えるための体験設計における3つの重要なコツを、具体的な手法とともに解説します。

VOC(顧客の声)を収集し分析する

優れた顧客体験の設計は、顧客を深く理解することから始まります。その最も重要な情報源が「VOC(Voice of Customer)」、すなわち顧客の生の声です。企業側の思い込みや仮説ではなく、顧客が実際に何を感じ、何を求めているのかを直接知ることで、的確な改善アクションに繋げることができます。

VOCは、顧客体験の現状を映し出す鏡であり、理想の体験へと導く羅針盤です。アンケートやSNS、コールセンターのログなど、様々なチャネルから能動的・受動的にVOCを収集し、分析する体制を構築しましょう。

収集方法種類具体的な手法
能動的収集(アクティブ)企業側から積極的に働きかけて収集する方法
  • Webアンケート(購入後、問い合わせ後など)
  • NPS®(ネットプロモータースコア)調査
  • ユーザーインタビュー、グループインタビュー
  • モニター調査
受動的収集(パッシブ)顧客が自発的に発信する情報を収集する方法
  • SNS(X(旧Twitter)、Instagramなど)の投稿やコメント
  • レビューサイトや口コミサイトの投稿
  • コールセンターや問い合わせフォームへの連絡内容
  • 営業担当者が顧客から直接ヒアリングした内容

収集したVOCは、テキストマイニングツールなどを活用して定量的に分析し、頻出するキーワードやポジティブ・ネガティブな感情の傾向を把握します。さらに、個別の意見を定性的に深掘りすることで、顧客の潜在的なニーズや不満の根本原因(ペインポイント)を特定できます。これらの分析結果を、WebサイトのUI/UX改善、製品・サービスの品質向上、サポート体制の強化など、具体的な施策に反映させることが重要です。

感動を生むピークエンドの法則を応用する

顧客体験のすべてを完璧にすることは、現実的に困難であり、多大なコストがかかります。そこで活用したいのが、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが提唱する「ピークエンドの法則」です。

この法則は、人はある出来事の記憶を、感情が最も高ぶった瞬間(ピーク)と、一連の体験の最後の瞬間(エンド)の印象で判断する傾向がある、というものです。つまり、顧客体験全体の満足度は、ピークとエンドの体験をいかに印象的なものにするかに大きく左右されるのです。

この法則をCXマーケティングに応用し、顧客とのタッチポイントの中で、意図的に「感動のピーク」と「満足のエンド」を設計しましょう。

ピークの設計例

  • 購入時:ECサイトでの購入時に、予想より早く商品が届く。梱包が非常に丁寧で、手書きのサンクスカードが添えられている。
  • 利用時:レストランで予約時に伝えたアレルギー情報が全スタッフに共有されており、安心して食事を楽しめる。記念日であることを伝えたら、サプライズでデザートプレートが提供される。
  • サポート時:問い合わせに対して、迅速かつ的確な回答が得られるだけでなく、関連する便利な情報までプラスアルファで教えてくれる。

エンドの設計例

  • 購入後:商品発送の連絡だけでなく、商品到着後にも「使い心地はいかがですか?」といったフォローメールが届き、丁寧なチュートリアル動画が案内される。
  • 店舗退店時:会計後、出口までスタッフが見送りに来てくれ、「またお越しください」と笑顔で声をかけてくれる。
  • サービス解約時:解約手続きが非常にスムーズで分かりやすい。最後に「これまでご利用いただきありがとうございました」と感謝を伝えられ、嫌な気持ちにならずに終われる。

すべての体験を平均的に向上させるのではなく、リソースを集中させて感動的なピークとエンドを創出することが、効率的に顧客ロイヤルティを高める鍵となります。

パーソナライズされたコミュニケーションを設計する

不特定多数に向けられた画一的なメッセージは、もはや顧客の心に響きません。顧客は、自分を一人の個人として認識し、「自分だけのために」カスタマイズされた特別な対応を求めています。「One to One」のコミュニケーションを通じて、「自分は大切にされている」と顧客に感じてもらうことが、ファン化を促進する上で極めて重要です。

パーソナライズを実現するには、CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用した顧客データの収集・分析が不可欠です。購買履歴、サイト閲覧履歴、年齢、居住地、興味関心などのデータを基に顧客をセグメント分けし、それぞれの顧客に最適な情報や体験を提供します。

チャネルパーソナライズ施策の具体例
メールマガジン
  • 顧客の名前を件名や本文に挿入する
  • 過去の購入商品に関連する新商品やセール情報を案内する
  • 誕生月に特別なクーポンを送付する
  • カートに商品を入れたまま離脱した顧客にリマインドメールを送る(カゴ落ち対策)
Webサイト/ECサイト
  • ログイン後、顧客のステータス(例:ゴールド会員様)を表示する
  • 過去の閲覧履歴や購入履歴に基づいたおすすめ商品をトップページに表示する
  • 居住地に合わせて最寄りの店舗情報を表示する
LINE公式アカウント
  • アンケート機能で顧客の好みを把握し、セグメント配信を行う
  • 実店舗の会員情報とID連携し、来店時に使えるクーポンを配信する
アプリ
  • 顧客がよく利用する機能やカテゴリーへのショートカットを設置する
  • 位置情報を活用し、店舗の近くに来た顧客にプッシュ通知でお得な情報を知らせる

ただし、過度なパーソナライズは、顧客に「監視されている」といった不快感やプライバシーへの懸念を抱かせる可能性があります。あくまで顧客にとって有益で心地よいと感じられる範囲で、適切な距離感を保ちながらコミュニケーションを設計することが成功の秘訣です。

CXマーケティングを加速させるツール選定のコツ

CXマーケティングを成功に導くためには、戦略や設計だけでなく、それを実行・効率化するためのツール活用が不可欠です。しかし、多種多様なツールが市場に溢れる中で、「どのツールを選べば良いかわからない」「高機能なツールを導入したものの使いこなせない」といった失敗も少なくありません。

重要なのは、ツール導入を目的化せず、自社の課題解決と理想の顧客体験実現という目的を達成するための「手段」として捉えることです。ここでは、ツール選定で失敗しないためのポイントと、目的別のおすすめツールを具体的に解説します。

ツール選定で失敗しないための3つのポイント

やみくもにツールを探し始める前に、以下の3つのポイントを必ず押さえましょう。これらを明確にすることで、自社にとって本当に必要なツールが見えてきます。

  1. 目的と解決したい課題を明確にする
    まず、「なぜツールが必要なのか」「ツールを使って何を達成したいのか」を具体的に定義します。「顧客アンケートを効率的に収集・分析したい」「Webサイト上での顧客行動に合わせてアプローチを変えたい」「顧客ごとのLTVを可視化してロイヤルティ向上施策に繋げたい」など、目的が具体的であるほど、必要な機能やツールの種類が絞り込めます。目的が曖昧なままでは、不要な機能が多い高価なツールを選んでしまい、コストだけがかさむ結果になりがちです。
  2. 既存システムとの連携性(API連携など)を確認する
    多くの企業では、すでにSFA(営業支援システム)や会計ソフト、ECカートシステムなど、何らかの基幹システムやマーケティングツールを導入しているはずです。新たに導入するCXツールがこれらの既存システムとスムーズに連携できるかは極めて重要です。データが分断されてしまうと、かえって運用が複雑になり、部門間の連携も滞ってしまいます。API連携が容易か、あるいはCSVでのデータ入出力がスムーズに行えるかなど、データ分断を防ぐための連携仕様を必ず確認しましょう。
  3. 社内の運用体制とベンダーのサポート手厚さを考慮する
    高機能なツールを導入しても、使いこなせる人材や運用するリソースがなければ宝の持ち腐れです。自社の担当者のITリテラシーや、ツール運用に割ける工数を現実的に見積もりましょう。その上で、ベンダーが提供するサポート体制も重要な選定基準となります。導入時の初期設定サポート、操作方法に関するトレーニング、課題解決のためのコンサルティングなど、自社の状況に合わせてどこまで手厚いサポートが必要かを検討し、最適なパートナーとなるベンダーを選びましょう。

目的別おすすめCXマーケティングツール

ここでは、CXマーケティングの各フェーズで役立つツールを「VOC収集・分析」「MA・CRM」「NPS調査」の3つの目的に分けてご紹介します。それぞれのツールの特徴を理解し、自社の目的に合ったものを選びましょう。

VOC収集・分析ツール

VOC(Voice of Customer:顧客の声)は、顧客体験を改善するための最も重要なインプットです。アンケートやSNS、コールセンターのログなど、様々なチャネルから集まる顧客の声を効率的に収集・分析し、課題発見や施策のヒントを得るために活用します。

VOC収集・分析ツールの比較
ツール名主な特徴どのような企業におすすめか
見える化エンジン国内最大級のソーシャルメディア分析ツール。X(旧Twitter)やブログ、レビューサイトなど幅広い媒体からVOCを収集・分析。テキストマイニング機能が強力。SNS上の評判や口コミを重視し、市場全体のトレンドやインサイトを把握したい企業。
MopinionWebサイトやアプリ内に、デザイン性の高いフィードバックフォームを簡単に設置可能。特定のページや行動をトリガーにアンケートを表示できる。WebサイトやアプリのUI/UX改善を目的とし、ユーザーのリアルタイムな声を手軽に収集したい企業。
Visible Thread顧客からの問い合わせメールやアンケートの自由回答といったテキストデータを分析。頻出する単語や課題を可視化し、FAQの改善や応対品質の向上に繋げる。コールセンターやカスタマーサポート部門を持っており、応対ログを分析してサービス改善に活かしたい企業。

MA・CRMツール

MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)は、顧客情報を一元管理し、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを実現する、CXマーケティングの中核を担うツールです。顧客の属性や行動履歴に基づいたアプローチを自動化し、LTV(顧客生涯価値)の向上を目指します。

MA・CRMツールの比較
ツール名主な特徴どのような企業におすすめか
KARTEWebサイトやアプリ上の顧客行動をリアルタイムに解析し、「個客」の状況に合わせたポップアップやチャットなどを即座に実行できる。Web接客に強み。ECサイトやWebサービス事業者など、オンラインでの顧客体験をリアルタイムにパーソナライズしたい企業。
HubSpotMA、CRM、SFA(営業支援)、CMS(コンテンツ管理)などの機能が統合されたプラットフォーム。無料プランから始められ、企業の成長に合わせて拡張可能。インバウンドマーケティングをこれから始めたい、またはマーケティングから営業、サポートまでを一気通貫で管理したい中小〜大企業。
Salesforce Marketing Cloud Account Engagement (旧Pardot)世界No.1のCRMであるSalesforceとの連携が強力。特にBtoBマーケティングに必要な機能が豊富で、見込み客の育成から商談化までを効率化する。すでにSalesforceを導入している企業や、リード(見込み客)の質を重視するBtoB企業。

NPS調査ツール

NPS®(ネット・プロモーター・スコア)は、「この企業(製品・サービス)を親しい友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問を通じて顧客ロイヤルティを測る指標です。NPS調査ツールは、この調査を効率的に実施し、結果を分析して改善アクションに繋げるために役立ちます。

NPS調査ツールの比較
ツール名主な特徴どのような企業におすすめか
NPX ProNPS調査に特化しており、シンプルな操作性と分かりやすいダッシュボードが魅力。アンケートの作成・配信から分析までをスムーズに行える。初めてNPS調査を導入する企業や、まずはシンプルにNPSの計測と定点観測を始めたい企業。
EmotionTech CXNPS調査に加え、カスタマージャーニーマップと連携した体験分析や、従業員満足度を測るeNPS調査も可能。CX向上に向けた多角的な分析ができる。NPSを軸に、顧客体験の全体像を可視化し、根本的な原因分析と改善まで踏み込みたい企業。
Qualtrics CoreXMNPSだけでなく、あらゆる体験データ(X-data)を収集・管理・分析するための高度な機能を備えたプラットフォーム。複雑な調査設計や統計分析に対応。グローバル展開している大企業や、専門の分析チームがあり、NPSを他の経営指標と統合して高度な体験管理(XM)を行いたい企業。

※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

まとめ

本記事では、CXマーケティングの重要性から具体的な始め方、体験設計のコツまでを解説しました。CXは顧客満足度(CS)とは異なり、顧客とのあらゆる接点での体験価値を高め、ファン化を促進する戦略です。これによりLTV向上や他社との差別化が実現し、企業の持続的な成長に繋がります。

まずは現状把握から始め、顧客一人ひとりに向き合うことで、売上に直結する理想の顧客体験を設計していきましょう。

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