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中小企業のフィンテック活用術|経理業務を効率化する具体策

投稿日:2025年7月23日 /

更新日:2025年7月24日

中小企業のフィンテック活用術|経理業務を効率化する具体策

人手不足や煩雑な経理業務にお悩みの企業にとって、課題解決の鍵はフィンテック活用にあります。本記事では、クラウド会計や請求書発行サービスなど、中小企業が明日から実践できるフィンテックの具体的な活用術を業務別に解説。導入を成功させるためのステップや注意点も網羅しており、バックオフィス業務の効率化と生産性向上を実現する方法がわかります。

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目次

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その経理業務まだ手作業?中小企業が抱える課題とは

「月末になると請求書の発行と入金確認に追われる」「大量の領収書を一枚ずつ台紙に貼り、Excelに手入力している」「担当者が休むと経理業務が完全にストップしてしまう」…もし、このような状況に心当たりがあるなら、それは貴社が成長の機会を逃しているサインかもしれません。

多くの中小企業では、限られたリソースの中で日々の業務を回すことに精一杯で、旧態依然とした経理業務の非効率性が見過ごされがちです。

しかし、その「手作業」こそが、見えないコストを発生させ、企業の成長を阻害する大きな要因となっているのです。ここでは、多くの中小企業が直面している経理業務の具体的な課題を深掘りしていきます。

人的リソース不足と業務負荷の増大

中小企業が抱える最も根深い課題の一つが、人的リソースの制約です。大企業のように経理専門の部署を設けることが難しく、一人の担当者が経理・総務・労務などを兼任する「一人バックオフィス」状態も珍しくありません。このような状況は、様々なリスクと非効率を生み出します。

属人化による業務停滞リスク

特定の担当者だけが業務の進め方や特殊な処理方法を把握している状態、いわゆる「業務の属人化」は、中小企業にとって非常に大きな経営リスクです。その担当者が急な病気で休んだり、退職してしまったりした場合、業務プロセスがブラックボックス化しているため、他の誰も対応できず、請求漏れや支払い遅延といった致命的な問題に直結します。引き継ぎを行おうにも、マニュアルが整備されておらず、口頭での説明に頼らざるを得ないため、情報の伝達漏れや誤解が生じやすいのも深刻な問題です。

単純作業に追われるコア業務への圧迫

経理業務には、請求書の作成・封入・発送、領収書の整理と入力、入金確認の消込作業など、多くの定型的な単純作業が含まれます。これらの作業に多くの時間を奪われることで、担当者は本来注力すべき業務に時間を割けなくなってしまいます。本来、経理担当者は月次決算を早期化し、そのデータをもとにした経営分析や資金繰りの改善提案など、企業の意思決定に貢献する「コア業務」を担うべき存在です。しかし、日々の単純作業に忙殺されることで、企業全体の生産性向上や経営改善の機会が失われているのです。

コストと時間の非効率性

手作業を中心とした経理業務は、目に見えるコストだけでなく、目に見えない多くのコストと時間を浪費しています。これらの非効率性は、企業の利益を確実に圧迫していきます。

紙文化がもたらす直接的・間接的コスト

請求書や領収書などを紙で運用することは、多くのコストを発生させます。紙代、プリンターのインク代、郵送費、ファイルやキャビネットといった備品代などの「直接的コスト」はもちろんですが、それ以上に深刻なのが「間接的コスト」です。必要な書類を探し出す時間、ファイリングする手間、法律で定められた期間保管するためのスペース代、そして最終的に廃棄するための労力。これらは全て、本来であれば生み出す必要のないコストです。

表:紙ベースの経理業務におけるコスト例(月間)
項目手作業(紙ベース)の場合ペーパーレス化した場合
用紙・印刷代約5,000円0円
郵送費(切手代・封筒代)約10,000円0円
保管コスト(ファイル・スペース代)約3,000円ほぼ0円(クラウドストレージ代)
人件費(印刷・封入・発送・ファイリング作業)約30,000円(月20時間と仮定)約3,000円(月2時間と仮定)
合計約48,000円約3,000円

※上記は一例であり、企業の規模や取引量によって変動します。

ヒューマンエラーによる手戻りと信用の低下

人間が手作業で行う以上、入力ミスや計算ミス、転記ミスといったヒューマンエラーを完全になくすことは不可能です。請求金額の間違いは、取引先からの信用を大きく損なう原因となります。また、間違いが発覚した際には、原因の特定、修正、再発行、謝罪といった多大な「手戻り」のコストが発生します。たった一つのミスが、企業の評判と利益の両方にダメージを与える可能性があるのです。

経営判断の遅れと資金繰りの悪化

経理業務の非効率性は、バックオフィス内だけの問題にとどまりません。経営者による迅速かつ正確な意思決定を妨げ、企業の生命線であるキャッシュフローにまで悪影響を及ぼします。

リアルタイムな経営状況の把握が困難

手作業での経理では、月次の試算表が完成するのが翌月の中旬や下旬になることも少なくありません。これでは、経営者は常に「過去の数字」しか見ることができず、市場の変化やビジネスチャンスに対して迅速な打ち手を講じることができません。リアルタイムで自社の財政状況を把握できないことは、変化の激しい現代において大きなハンディキャップとなります。感覚的な経営から脱却し、データに基づいた的確な経営判断を行うためには、経理データの即時性は不可欠です。

資金繰りの可視化ができずキャッシュフローが悪化

「勘定合って銭足らず」という言葉があるように、帳簿上は黒字でも、手元の現金が不足して倒産に至る「黒字倒産」は、中小企業にとって常に隣り合わせのリスクです。手作業の経理では、売掛金の回収状況や支払いの予定をリアルタイムで一覧することが難しく、資金繰りの予測が立てにくくなります。いつ、いくら入金があり、いつ、いくら支払いが必要なのか。このキャッシュフローの全体像が見えないままでは、予期せぬ資金ショートに陥る危険性が高まります。資金繰りの正確な可視化は、安定した企業経営の土台そのものなのです。

課題解決の鍵はフィンテック活用にあり

人手不足やアナログな業務プロセスといった、多くの中小企業が直面する課題。これらの課題を解決し、企業の成長を加速させる鍵こそが「フィンテック」の活用です。バックオフィス業務、特に経理部門の生産性を飛躍的に向上させ、経営判断の迅速化をもたらす可能性を秘めています。

この章では、フィンテックの基本的な概念から、なぜ今、中小企業にフィンテックの導入が強く求められているのか、その背景を詳しく解説します。

そもそもフィンテックとは何か

フィンテック(FinTech)とは、「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語です。その名の通り、IT技術を駆使して、これまでにない新しい金融サービスや、既存の金融サービスをより便利にする仕組み全般を指します。スマートフォンアプリを使ったキャッシュレス決済や、インターネット上で完結する資産運用サービスなどが身近な例です。これまで金融機関が独占的に提供してきたサービスを、IT企業をはじめとする様々なプレイヤーが、より低コストで利便性の高い形で提供しているのが特徴です。

従来の金融サービスとフィンテックサービスの違いをまとめると、以下のようになります。

比較項目従来の金融サービスフィンテックサービス
主な提供主体銀行、証券会社、保険会社などの金融機関IT企業、ベンチャー企業、既存の金融機関など多様
サービス利用場所店舗窓口、ATM、電話などスマートフォンアプリ、Webサイトなどオンラインが中心
利便性営業時間に制約がある場合が多い。手続きが煩雑なことも。24時間365日利用可能。シンプルで直感的な操作性。
コスト各種手数料(振込手数料、口座維持手数料など)が発生しやすい。手数料が無料または低価格なサービスが多い。
データ連携限定的。他社サービスとの連携は少ない。API連携などを活用し、様々な外部サービスと柔軟に連携可能。

中小企業の経理業務においては、特に「データ連携」の側面が重要となります。銀行口座の入出金明細やクレジットカードの利用履歴などを、会計ソフトに自動で取り込むAPI連携の技術は、フィンテックが可能にした代表的な業務効率化の手法です。

中小企業にフィンテック活用が求められる背景

なぜ今、多くの中小企業でフィンテックの活用が急務とされているのでしょうか。その背景には、社会構造の変化や法改正といった、避けては通れない複数の要因が存在します。

深刻化する人手不足と生産性向上の必要性

少子高齢化に伴う労働人口の減少は、企業規模を問わず深刻な問題ですが、特にリソースの限られる中小企業にとっては死活問題です。少ない人数で事業を維持・成長させていくためには、従業員一人ひとりの生産性をいかに向上させるかが経営の最重要課題となります。手入力や目視での確認といった時間のかかる定型業務をフィンテックで自動化・効率化することは、人材をより付加価値の高いコア業務に集中させるための、最も効果的な打ち手の一つと言えるでしょう。

働き方改革とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

政府が推進する働き方改革やDXの流れも、フィンテック活用を後押ししています。テレワークの導入を検討しても、請求書や領収書が紙ベースでオフィスに保管されていては、経理担当者は出社せざるを得ません。クラウド型のフィンテックサービスを導入すれば、場所に縛られることなく経理業務を遂行でき、多様な働き方に柔軟に対応できます。これは、単なる業務効率化に留まらず、従業員満足度の向上や優秀な人材の確保にも繋がる重要な取り組みです。

避けて通れない法改正への対応

近年、経理業務に関連する法改正が相次いでおり、これへの対応は全事業者にとって必須です。特に大きな影響を与えるのが「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」です。

  • 電子帳簿保存法(電帳法):2024年1月から、メールやWebサイトからダウンロードした請求書や領収書などの電子取引データは、紙に出力して保存することが認められず、電子データのまま所定の要件を満たして保存することが義務化されました。
  • インボイス制度:適格請求書発行事業者は、税率ごとに区分した消費税額などを記載した「インボイス」の発行・保存が求められます。これにより、請求書の作成や受け取った請求書の確認・保存業務がより煩雑になっています。

これらの複雑な法制度に手作業だけで正確に対応し続けるのは、非常に困難であり、多大な時間と労力を要します。各法制度に対応したフィンテックサービスを導入することは、もはや「選択肢」ではなく、コンプライアンスを遵守し、業務を円滑に進めるための「必須要件」となりつつあります。

迅速な経営判断を支える経営状況の可視化

変化の激しい現代において、ビジネスチャンスを掴み、リスクを回避するためには、自社の経営状況をリアルタイムに把握し、迅速な意思決定を行うことが不可欠です。しかし、従来の経理手法では、月次決算が締まるまで正確な業績を把握できないケースが少なくありませんでした。フィンテック、特にクラウド会計ソフトを導入すれば、銀行口座のデータが日々自動で取り込まれ、売上や経費の状況がダッシュボードなどでリアルタイムに可視化されます。正確な最新の財務データに基づいたスピーディーな経営判断は、中小企業の競争力を大きく左右する要素となるのです。

【業務別】中小企業のフィンテック活用具体策

中小企業のバックオフィス業務は多岐にわたりますが、その多くはフィンテックの活用によって劇的に効率化できます。ここでは、日々の業務を「会計」「請求」「経費精算」「決済」「資金調達」の5つの領域に分け、それぞれにおける具体的なフィンテック活用術と、それによってもたらされるメリットを詳しく解説します。

会計業務を効率化するフィンテック活用

企業の根幹をなす会計業務は、最もフィンテック活用の恩恵を受けやすい領域の一つです。手作業による入力や計算ミスは、月次決算の遅延や経営判断の誤りを引き起こす原因となります。フィンテックを活用することで、これらの課題を解決し、正確かつ迅速な会計処理を実現します。

クラウド会計ソフトの導入

クラウド会計ソフトは、インターネット環境さえあればいつでもどこでもアクセスできる会計システムです。従来のインストール型ソフトとは異なり、法改正への対応も自動で行われるため、常に最新の状態で利用できます。

最大のメリットは、銀行口座やクレジットカードとの連携による取引データの自動取得と自動仕訳機能です。これにより、手入力の手間が大幅に削減され、ヒューマンエラーを防止できます。経営者はリアルタイムで損益状況や資金繰りを把握でき、迅速な意思決定に役立てることが可能です。

代表的なクラウド会計ソフトの比較
サービス名主な特徴向いている企業
マネーフォワード クラウド会計連携できる金融機関やサービスの数が豊富。会計だけでなく、請求書や経費精算などバックオフィス全体をカバー。幅広い業務をまとめて効率化したい企業。
freee会計簿記の知識がなくても直感的に操作できるUIが特徴。請求書発行から消込までがスムーズ。経理の専門知識がない経営者や個人事業主。
弥生会計 オンライン老舗会計ソフトのクラウド版。シンプルな機能と手厚いサポート体制で、初心者でも安心して利用可能。初めてクラウド会計を導入する企業。

銀行口座やクレジットカードとのAPI連携

API(Application Programming Interface)連携は、クラウド会計ソフトの核となる技術です。これにより、各金融機関のシステムと会計ソフトが安全に直接つながり、入出金明細や利用履歴といったデータを自動で取得できます。従来のように、インターネットバンキングにログインして明細をダウンロードし、会計ソフトにインポートするといった手間は一切不要になります。

この連携により、売掛金の入金確認や消込作業も半自動化され、経理担当者の負担を大幅に軽減します。クレジットカードの利用明細も自動で取り込まれるため、経費の計上漏れを防ぐことにも繋がります。

請求業務を効率化するフィンテック活用

請求書の作成、印刷、封入、郵送、そして入金確認と消込。請求業務には多くの手作業が伴い、時間とコストがかかります。特に毎月多くの請求書を発行する企業にとって、この業務の効率化は喫緊の課題です。

クラウド請求書発行サービスの利用

クラウド請求書発行サービスを導入すれば、これらの煩雑な作業をオンライン上で完結させることができます。テンプレートに沿って入力するだけで請求書を簡単に作成でき、ワンクリックでメール送付や郵送代行が可能です。

さらに、2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)にも標準で対応しているサービスが多く、フォーマットを気にすることなく法令に準拠した請求書を発行できます。作成した請求書データは会計ソフトと連携させることで、売掛金の計上から入金消込までを自動化し、請求管理全体の生産性を飛躍的に向上させます。

代表的なサービスには「Misoca」や「MakeLeaps」、「請求管理ロボ」などがあり、自社の発行枚数や必要な機能に応じて選ぶことができます。

経費精算を効率化するフィンテック活用

従業員の立て替えた経費の精算は、申請者、承認者、経理担当者の三者にとって手間のかかる業務です。領収書の糊付けや申請書の作成、承認のための押印リレー、そして経理担当者による確認と仕訳入力など、多くの非効率が潜んでいます。

クラウド経費精算システムの導入

クラウド経費精算システムは、経費精算にまつわる一連のプロセスをデジタル化し、効率化するツールです。従業員はスマートフォンのカメラで領収書を撮影するだけで、OCR(光学的文字認識)機能が日付や金額、支払先を自動でデータ化-mark>してくれます。交通費も、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードをリーダーにかざすだけで利用履歴が取り込まれ、申請の手間が格段に減ります。

申請から承認までのワークフローはすべてオンラインで完結するため、テレワーク中でもスムーズに処理が進みます。承認されたデータは会計ソフトに連携され、仕訳が自動で作成されるため、経理担当者の入力作業はほぼ不要になります。また、電子帳簿保存法に対応したサービスを選べば、ペーパーレス化を推進し、領収書の保管コストや管理の手間も削減できます。

決済業務を効率化するフィンテック活用

現金中心の決済業務は、レジ締め作業の負担や釣銭間違いのリスク、さらには防犯上の懸念など、多くの課題を抱えています。顧客の支払いニーズが多様化する現代において、キャッシュレス決済への対応は不可欠です。

キャッシュレス決済サービスの導入

キャッシュレス決済サービスを導入することで、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済といった多様な支払い方法に一つの端末やシステムで対応できます。これにより、現金を持たない顧客の販売機会損失を防ぎ、顧客満足度の向上に繋がります

売上データは自動で集計・管理されるため、日々のレジ締め作業が大幅に簡略化されます。また、現金管理に伴う盗難や紛失のリスクを低減できる点も大きなメリットです。売上金は指定した口座に自動で振り込まれるため、資金繰りの見通しも立てやすくなります。「Airペイ」や「STORES 決済」、「Square」といったサービスは、比較的安価な手数料で導入できるため、中小企業や小規模店舗でも利用しやすくなっています。

資金調達を多様化するフィンテック活用

中小企業にとって、資金調達は事業継続・成長のための生命線です。しかし、従来の金融機関からの融資は審査に時間がかかり、担保や保証人が必要となるケースも少なくありません。フィンテックは、こうした資金調達の選択肢を広げ、より迅速で柔軟な方法を提供します。

オンライン融資とクラウドファンディング

フィンテックを活用した新しい資金調達方法として注目されているのが、「オンライン融資」と「クラウドファンディング」です。

  • オンライン融資(トランザクションレンディング)
    日々の会計データやECサイトの売上データといった事業データをAIが分析し、企業の信用力を判断して融資を行うサービスです。決算書や事業計画書だけでは評価しきれなかった事業の将来性を評価し、オンライン完結でスピーディーに、無担保・無保証人で融資を受けられる可能性があります。急な資金需要にも対応しやすいのが特徴です。
  • クラウドファンディング
    インターネットを通じて不特定多数の人々から少額ずつ資金を集める仕組みです。新商品開発や設備投資などのプロジェクトを公開し、その魅力やビジョンに共感した支援者から資金を募ります。融資とは異なり返済義務のない「購入型」や「寄付型」は、資金調達と同時にテストマーケティングやPR、ファン獲得ができるという大きなメリットがあります。「Makuake」や「CAMPFIRE」などが代表的なプラットフォームです。

これらの新しい資金調達手段は、従来の銀行融資を補完するものとして、中小企業の資金繰りを力強くサポートします。

中小企業がフィンテック活用を成功させるための導入ステップ

フィンテックサービスの導入は、単にツールを入れれば成功するわけではありません。自社の課題に合わないサービスを選んだり、社内の準備が不十分だったりすると、かえって業務が混乱し、コストだけがかさむ結果になりかねません。ここでは、中小企業がフィンテック活用を成功に導くための、具体的な4つのステップを解説します。

ステップ1:業務課題の洗い出しと目標設定

最初のステップは、現状を正確に把握することです。「何となく効率化したい」という曖昧な目的では、最適なサービス選定はできません。まずは、経理業務をはじめとするバックオフィス業務のどこに、どのような課題があるのかを徹底的に洗い出しましょう。

具体的には、経理担当者や関連部署の従業員にヒアリングを行い、以下のような点を可視化します。

  • 特に時間のかかっている作業は何か(例:請求書の作成と郵送、領収書の糊付けと入力)
  • 手作業によるミスや手戻りが発生しやすい業務は何か(例:転記ミス、入力漏れ)
  • 業務が特定の担当者に依存している「属人化」は起きていないか
  • 紙の書類が多く、保管や検索に手間がかかっていないか

課題を洗い出したら、次に「フィンテックを導入してどうなりたいか」という具体的な目標を設定します。このとき、測定可能な目標(KPI)を立てることが重要です。漠然とした目標ではなく、数値で効果を測れるようにしましょう。

課題と目標設定の例
業務領域現状の課題導入後の目標(KPI)
経費精算従業員の申請から経理の承認、振込までに平均10日かかっている。紙の領収書の管理が煩雑。経費精算にかかる時間を平均3日に短縮する。ペーパーレス化率を100%にする。
請求業務毎月50件の請求書を手作業で作成・郵送しており、月に10時間かかっている。請求書発行にかかる時間を月2時間以内に削減する。発行から入金確認までを自動化する。
会計業務銀行の入出金明細を手入力しており、月次決算の締めが翌月20日になっている。銀行口座連携により手入力をゼロにし、月次決算を5営業日で完了させる。

このように課題と目標を明確にすることで、導入すべきフィンテックサービスの要件が自ずと見えてきます。

ステップ2:導入するフィンテックサービスの選定

ステップ1で設定した目標を達成できるサービスを選定します。世の中には多種多様なフィンテックサービスが存在するため、自社に最適なものを見極めることが成功の鍵となります。以下の比較検討ポイントを参考に、複数のサービスを比較しましょう。

フィンテックサービス選定の比較検討ポイント
項目チェックする内容
機能自社の課題解決に必要な機能が過不足なく備わっているか。将来的な事業拡大にも対応できるか。
コスト初期費用、月額料金、従量課金などの料金体系は予算に合うか。費用対効果は見込めるか。
操作性ITに不慣れな従業員でも直感的に操作できるか。無料トライアル期間で使い勝手を確認することが重要。
サポート体制導入時の設定サポートや、トラブル発生時の問い合わせ窓口(電話、メール、チャット等)は充実しているか。
セキュリティ金融情報を扱うため最重要項目。データの暗号化、二段階認証、アクセス制限機能、情報セキュリティに関する認証(ISMS認証など)の有無を確認する。
連携性現在利用している会計ソフトや給与計算ソフト、銀行口座などとAPI連携できるか。

複数のサービスで迷った場合は、無料トライアルやデモを積極的に活用し、実際に操作感を試してみることを強く推奨します。カタログスペックだけではわからない、自社業務との相性を見極めることができます。

ステップ3:スモールスタートで効果を検証

最適なサービスを選定できたら、いよいよ導入です。しかし、ここで焦って全社一斉に導入するのは避けるべきです。準備不足のまま全社展開すると、現場が混乱し、かえって業務効率が悪化するリスクがあります。

まずは特定の部署やチーム、特定の業務フローに限定して試験的に導入する「スモールスタート」を推奨します。

スモールスタートのメリットは以下の通りです。

  • リスクの最小化:問題が発生しても影響範囲を限定できる。
  • 効果測定の容易さ:小規模な範囲で導入効果(時間削減など)を正確に測定しやすい。
  • 課題の早期発見:本格導入前に運用上の課題や改善点を見つけ出すことができる。
  • 社内への心理的ハードル低下:成功事例を作ることで、他の従業員の導入に対する抵抗感を和らげることができる。

例えば、「経理部と営業部の経費精算のみ」で3ヶ月間クラウド経費精算システムを試行し、ステップ1で設定したKPI(例:精算時間の短縮)が達成できるかを検証します。この期間中に、試行した従業員から使い勝手や改善点についてフィードバックを収集し、本格導入に向けた準備を整えましょう。

ステップ4:社内への定着と運用ルールの見直し

スモールスタートで効果が確認でき、本格導入の目処が立ったら、最後のステップとして全社への展開と定着化を進めます。フィンテックツールは導入して終わりではありません。全従業員が正しく活用し、業務に定着させて初めて効果が最大化されます。

定着化のために、以下の3つのポイントを徹底しましょう。

  1. 丁寧な社内周知と研修の実施
    なぜこのツールを導入するのか、導入によって従業員や会社にどのようなメリットがあるのかを経営層から丁寧に説明し、協力を仰ぎます。また、全利用者を対象とした操作説明会や研修会を実施し、使い方に関する不安を取り除きます。分かりやすい操作マニュアルを作成し、いつでも参照できるようにしておくことも重要です。
  2. 明確な運用ルールの策定
    誰が、いつ、どのようにツールを使うのか、承認フローはどうするのかといった具体的な運用ルールを策定し、全社で共有します。ルールが曖昧だと、形骸化したり、人によって使い方が異なったりして混乱の原因となります。トラブル発生時の連絡先や対応手順なども事前に決めておくとスムーズです。
  3. 継続的なフィードバック収集と改善
    一度決めたルールが未来永劫最適とは限りません。導入後も定期的に従業員から利用状況や改善要望などのフィードバックを収集し、より使いやすい形に運用ルールを見直していく姿勢が大切です。ツールの活用度が低い部署があればヒアリングを行い、課題解決をサポートするなど、継続的なフォローアップが定着の鍵を握ります。

これらのステップを一つひとつ着実に実行することで、フィンテック活用を成功に導き、企業の生産性を飛躍的に向上させることが可能になります。

フィンテック活用で注意すべきポイント

フィンテックサービスは、中小企業の経理業務を劇的に効率化するポテンシャルを秘めていますが、その導入には慎重な検討が不可欠です。メリットばかりに目を奪われ、準備不足のまま導入を進めてしまうと、かえって業務が混乱したり、思わぬトラブルに見舞われたりする可能性があります。ここでは、フィンテック活用を成功に導くために、導入前に必ず確認しておきたい3つの注意点を具体的に解説します。

セキュリティ対策は万全か

フィンテックサービスを利用するということは、企業の財務情報や取引先情報といった機密性の高いデータをクラウド上で管理することを意味します。そのため、何よりも優先すべきなのがセキュリティ対策です。万が一、情報漏洩やサイバー攻撃の被害に遭えば、金銭的な損害だけでなく、企業の社会的信用を大きく損なうことになりかねません。

サービスを選定する際には、提供事業者がどのようなセキュリティ対策を講じているかを厳しくチェックする必要があります。具体的には、以下の項目を確認しましょう。

チェック項目確認内容の具体例
通信・データの暗号化WebサイトのURLが「https://」で始まるSSL/TLSに対応しているか。データベースに保存されるデータ自体が暗号化されているか。
不正アクセス対策二段階認証(多要素認証)に対応しているか。特定のIPアドレスからのみアクセスを許可する「IPアドレス制限機能」があるか。
第三者認証の取得情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格である「ISMS(ISO/IEC 27001)」や、個人情報の適切な取り扱いを証明する「プライバシーマーク」などを取得しているか。
サーバーの管理体制データセンターの場所や、24時間365日の監視体制が整っているか。災害時などのバックアップ体制はどのようになっているか。

また、サービス側の対策だけでなく、社内でのセキュリティ意識を高めることも同様に重要です。パスワードの定期的な変更や使い回しの禁止、アクセス権限の適切な設定といった基本的なルールを徹底し、従業員へのセキュリティ教育を継続的に実施しましょう。

導入と運用のコストを把握する

フィンテックサービスの導入は、業務効率化による人件費削減や生産性向上といったリターンが期待できますが、当然ながらコストが発生します。目先の料金だけでなく、導入から運用までにかかるトータルコストを正確に把握することが重要です。

コストは大きく分けて「初期費用」と「ランニングコスト」に分類されます。それぞれの内訳を事前に確認し、費用対効果を慎重に見極めましょう。

コストの種類主な費用の内訳確認のポイント
初期費用(イニシャルコスト)・登録料、契約料
・システムの設定費用
・既存データからの移行作業費
・操作研修の費用
無料トライアル期間があるか。初期設定のサポートはどこまで無料か。データ移行は自社で行う必要があるか。
運用費用(ランニングコスト)・月額または年額の基本利用料
・利用ユーザー数に応じたID追加料金
・データ容量の追加料金
・オプション機能の利用料
料金プランは自社の規模や利用頻度に適しているか。将来的な事業拡大に合わせてプラン変更が柔軟にできるか。

特に注意したいのが、料金表には現れない「隠れたコスト」です。例えば、新しい業務フローに慣れるまでの従業員の学習時間や、一時的な生産性の低下もコストとして認識しておく必要があります。これらのトータルコストと、経理業務の工数削減によって得られる人件費削減効果や、迅速な経営判断が可能になることによる利益向上といったリターンを天秤にかけ、総合的に投資価値を判断することが成功の鍵となります。

従業員へのサポート体制を整える

どんなに優れたフィンテックサービスを導入しても、実際にそれを使う従業員が活用できなければ意味がありません。特に、これまで手作業での経理業務に慣れ親しんできた従業員や、ITツールに苦手意識を持つ従業員がいる場合、新しいシステムの導入は大きなストレスとなり、社内から反発が生まれる可能性もあります。

こうした事態を避けるためには、導入目的の共有と、手厚いサポート体制の構築が不可欠です。なぜこのサービスを導入するのか、導入によって従業員の負担がどのように軽減されるのかといったメリットを丁寧に説明し、前向きな協力を得られるように努めましょう。

具体的には、以下のようなサポート体制を整えることが有効です。

  • 社内担当者の設置:気軽に質問や相談ができる担当者を決め、窓口を一本化する。
  • 研修会・勉強会の実施:サービス提供事業者が開催するセミナーに参加したり、社内で定期的な勉強会を開いたりして、操作方法を学ぶ機会を設ける。
  • マニュアルの整備:サービス公式のマニュアルだけでなく、自社の業務フローに合わせた簡易的なオリジナルマニュアルを作成する。
  • ベンダーサポートの確認:導入するサービスのサポート体制(電話、メール、チャットなど)が充実しているか、レスポンスは迅速かなどを事前に確認しておく。

新しいツールの定着には時間がかかります。導入初期は思うように業務が進まないこともあるかもしれませんが、焦らず、従業員の不安に寄り添いながら、会社全体で活用を推進していく姿勢が重要です。

まとめ

中小企業にとって、フィンテック活用は経理業務の効率化に留まらず、経営課題を解決する強力な手段です。人手不足が深刻化する現代において、クラウド会計やキャッシュレス決済といったサービスは、生産性を向上させ、企業の持続的成長を支える基盤となります。本記事で紹介した導入ステップと注意点を参考に、まずは自社の課題解決に向けた第一歩を踏み出しましょう。

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