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企業のDX化に必須!リスキリングの進め方や人材育成計画を解説

投稿日:2025年7月29日 /

更新日:2025年7月29日

企業のDX化に必須!リスキリングの進め方や人材育成計画を解説

DX化が進む現代、企業の持続的な成長にリスキリングは不可欠です。本記事では、リスキリングの重要性から、企業が導入するメリット、具体的な進め方を5ステップで解説します。成功のポイントや活用できる国の補助金、国内大手企業の成功事例も網羅。この記事を読めば、自社に合った人材育成計画を立て、変化の時代を勝ち抜く組織づくりのヒントが得られます。

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目次

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リスキリングとは?DX時代に不可欠な理由を解説

近年、ビジネスの世界で「リスキリング」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。事業環境が大きく変化する現代において、従業員のリスキリングは企業の持続的な成長に欠かせない重要な経営戦略と位置づけられています。

本章では、リスキリングの基本的な意味から、なぜ今これほどまでに重要視されているのか、その背景を詳しく解説します。

リスキリングの基本的な意味

リスキリング(Re-skilling)とは、直訳すると「スキルの再習得」を意味します。経済産業省では「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。

重要なのは、これが単なる「学び直し」ではないという点です。リスキリングは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化や新規事業への参入といった、事業戦略の大きな変化に対応することを目的として、既存の従業員が新たなスキルを習得するという、極めて戦略的な人材育成の手法です。変化の激しい時代において、企業が競争力を維持・強化するために不可欠な取り組みと言えるでしょう。

※参照:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―|経済産業省

リカレント教育やOJTとの違い

リスキリングは、「リカレント教育」や「OJT」といった他の人材育成手法としばしば混同されますが、その目的や主体には明確な違いがあります。それぞれの特徴を理解し、自社の目的に合った手法を選択することが重要です。以下の表で、それぞれの違いを整理しました。

 リスキリングリカレント教育OJT (On-the-Job Training)
目的企業の事業戦略に基づき、将来必要となる新しいスキルを習得する(DX推進、新規事業創出など)個人のキャリア形成のため、一度仕事から離れて大学などで学び直すことが主現在の業務遂行に必要なスキルを、実務を通じて習得する
主体企業が主導し、従業員が実践する個人が主導する企業が主導し、上司や先輩が指導する
学習内容AI、データサイエンス、プログラミングなど、今後必要となるデジタルスキルや専門知識個人の興味やキャリアプランに応じた幅広い学問・専門知識現在の担当業務に直結する実践的な知識や技術
就業との関係在職中に行うことが一般的一時的に離職・休職することが多い業務時間内に実務と並行して行う

このように、リスキリングは企業戦略と強く結びついており、従業員が働きながら未来の業務に必要なスキルを身につけるという点で、リカレント教育やOJTとは一線を画します。

リスキリングの重要性

では、なぜ今、多くの企業や政府がリスキリングの重要性を強調しているのでしょうか。その背景には、日本が直面する社会構造の大きな変化があります。

企業のDX化と深刻な人材不足

リスキリングが注目される最大の理由は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の急速な進展です。AIやIoT、クラウド、ビッグデータといった先端技術の活用は、もはや一部のIT企業だけのものではありません。あらゆる業界で業務効率化や新たな付加価値創出のためにDX化が必須となっており、これに伴い、従業員に求められるスキルも大きく変化しています。

しかし、多くの企業ではDXを推進できるだけのデジタルスキルを持った人材が圧倒的に不足しているのが現状です。新たに専門人材を採用しようにも、市場全体で人材獲得競争が激化しており、非常に困難な状況にあります。この「デジタル人材の不足」という深刻な課題を解決する有効な手段が、既存の従業員をリスキリングによって育成し、新たな役割を担ってもらうことなのです。自社の事業や文化を深く理解している従業員が新たなスキルを習得することは、外部から採用する以上に大きな戦力となる可能性があります。

政府(経済産業省)による後押し

リスキリングの重要性は、国策としても認識されています。政府は「人への投資」を成長戦略の柱の一つに掲げ、リスキリングを強力に推進しています。

特に経済産業省は、DX時代における人材育成の重要性を早くから提唱し、「デジタル時代の人材政策に関する検討会」などを通じて政策を具体化してきました。その結果、企業や個人がリスキリングに取り組む際の費用を支援する、多様な補助金・助成金制度が整備されています。

岸田政権が「個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる」と表明したことも、この流れを象徴しています。こうした政府による強力な後押しは、企業にとってリスキリングに着手する絶好の機会であり、今取り組むべき経営課題であることを示していると言えるでしょう。

企業がリスキリングを導入するメリットとデメリット

リスキリングは、単なる従業員研修のトレンドではありません。企業の持続的な成長と競争力強化に直結する重要な経営戦略です。しかし、導入を成功させるためには、その光と影、つまりメリットとデメリットの両側面を正確に理解し、自社の状況に合わせた計画を立てることが不可欠です。

ここでは、リスキリングが企業にもたらす具体的な効果と、導入時に直面しうる課題について詳しく解説します。

リスキリング導入による4つのメリット

企業が戦略的にリスキリングを導入することで、単にスキル不足を補うだけでなく、組織全体に多岐にわたる好影響をもたらします。ここでは、代表的な4つのメリットを掘り下げていきましょう。

生産性の向上とイノベーションの創出

リスキリングの最も直接的なメリットは、従業員のスキルアップによる生産性の向上です。例えば、AIやRPA(Robotic Process Automation)といったデジタルツールを全社的に導入しても、従業員がそれを使いこなせなければ意味がありません。リスキリングを通じて従業員のデジタルリテラシーを高めることで、定型業務の自動化やデータに基づいた迅速な意思決定が可能になり、組織全体の生産性が飛躍的に向上します。

さらに、新たな知識やスキルは、既存の業務知識と化学反応を起こし、イノベーションの起爆剤となり得ます。これまでになかった視点から業務プロセスを改善したり、新しい商品やサービスのアイデアが生まれたりするなど、企業の新たな価値創造につながる可能性を秘めています。

人材採用コストの削減と定着率の改善

現在、特にDXを推進できる高度な専門スキルを持つ人材は、採用市場において激しい獲得競争が繰り広げられており、採用コストは高騰し続けています。外部からの採用に頼るのではなく、既存の従業員を育成する「内製化」に舵を切ることで、高額な採用コストや採用にかかる時間を大幅に削減できます。

また、企業が従業員のキャリア開発や成長に投資する姿勢は、従業員のエンゲージメントやロイヤリティを高める上で極めて効果的です。自身の市場価値が高まることを実感できる環境は、優秀な人材の離職を防ぎ、人材の定着率(リテンション)改善に大きく貢献します。

変化に対応できる組織体制の構築

市場やテクノロジーが目まぐるしく変化する現代において、企業が生き残るためには、変化に迅速かつ柔軟に対応できる組織能力が求められます。リスキリングは、従業員一人ひとりが継続的に学び、自らをアップデートしていくマインドを醸成する絶好の機会です。

この取り組みが全社的に浸透すれば、組織全体に「学習する文化(ラーニングカルチャー)」が根付きます。これにより、将来新たな技術が登場したり、事業環境が大きく変化したりしても、組織全体でしなやかに対応できるレジリエント(強靭)な体制を構築できます。

従業員のエンゲージメント向上

リスキリングは、従業員のエンゲージメント(仕事に対する熱意や貢献意欲)を高める効果も期待できます。「会社が自分の成長を支援してくれている」という実感は、従業員の満足度と企業への帰属意識を大きく向上させます。

新しいスキルを習得することで、担当できる業務の幅が広がり、より挑戦的な役割を担えるようになるなど、社内でのキャリアパスが明確になります。従業員のキャリア自律を後押しし、個人の成長と企業の成長を連動させることで、従業員はより主体的に業務に取り組むようになり、組織全体の活性化につながります。

リスキリング導入のデメリットと注意点

多くのメリットがある一方で、リスキリングの導入には相応の課題や注意点も存在します。これらのデメリットを事前に把握し、対策を講じることが、プロジェクトを頓挫させないための鍵となります。

以下の表は、主なデメリットと、それに対する具体的な対策をまとめたものです。

デメリット・課題具体的な対策・注意点
コストと時間の負担

学習プログラムの導入費用や、従業員が学習に充てる時間の人件費など、金銭的・時間的コストが発生します。特に中小企業にとっては大きな負担となり得ます。

【対策】
国や地方自治体が提供する補助金・助成金制度(人材開発支援助成金など)を積極的に活用しましょう。また、eラーニングやマイクロラーニングを導入し、隙間時間を活用して効率的に学べる環境を整えることも有効です。業務時間内での学習を制度として認め、全社的に推進することが重要です。

学習効果のばらつき

従業員の学習意欲、ITリテラシー、役職などによって、学習の進捗やスキルの習熟度に差が生まれやすいという課題があります。

【対策】
画一的なプログラムではなく、個々のレベルや目指すキャリアに合わせた複数の学習コースを用意しましょう。学習の進捗をサポートするメンター制度の導入や、従業員同士が教え合う学習コミュニティの形成も、モチベーション維持と知識の定着に効果的です。

通常業務との両立の難しさ

日々の業務に追われる中で、従業員が学習時間を確保することは容易ではありません。現場の管理職の理解が得られず、形骸化してしまうケースも少なくありません。

【対策】
経営層がリスキリングの重要性を繰り返し発信し、全社的な取り組みであることを明確にすることが不可欠です。その上で、管理職を巻き込み、学習期間中の業務分担の見直しや一時的な人員補充など、現場の負担を軽減する具体的な支援策を講じる必要があります。

育成後のミスマッチや離職リスク

時間とコストをかけてスキルを習得させても、そのスキルを活かせる業務や役職が社内になければ、従業員の不満が高まり、より良い条件を求めて転職してしまうリスクがあります。

【対策】
リスキリングは「研修して終わり」ではありません。スキル習得後のキャリアパスを明確に提示し、学んだスキルを実践できるプロジェクトや部署へ計画的に配置することが極めて重要です。また、習得したスキルや貢献度を公正に評価し、昇進や昇給に反映させる人事評価制度の見直しもセットで検討しましょう。

【5ステップで解説】企業におけるリスキリングの進め方と人材育成計画

リスキリングを成功させるためには、場当たり的な研修を実施するのではなく、経営戦略に基づいた計画的なアプローチが不可欠です。ここでは、企業がリスキリングを導入し、着実に成果を上げるための具体的な5つのステップを、人材育成計画の観点から詳しく解説します。

ステップ1:経営戦略と現状スキルの可視化

リスキリングの第一歩は、自社の「現在地」と「目的地」を正確に把握することです。まず、自社の中期経営計画や事業戦略を再確認し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて「何を成し遂げたいのか」「どのような事業価値を創出したいのか」というゴールを明確にします。

次に、そのゴール達成のために必要なスキルと、現在従業員が保有しているスキルの現状を可視化します。このプロセスは「スキルアセスメント」と呼ばれ、以下のような手法が用いられます。

  • スキルマップの作成:部署や職種ごとに必要なスキル項目を洗い出し、従業員一人ひとりの保有スキルをレベル別にマッピングします。
  • アセスメントツールの活用:客観的な指標でITスキルやデジタルリテラシーを測定できる外部ツール(例:GAIT、ITSS-Plusなど)を利用します。
  • サーベイ(アンケート):従業員自身に保有スキルや学習意欲について自己申告してもらう形式です。
  • 上長との1on1ミーティング:日々の業務を通じて把握している部下のスキルや強み、課題をヒアリングします。

これらの手法を通じて、目指すべき理想のスキルセットと現状との差分、すなわち「スキルギャップ」を特定することが、効果的なリスキリング計画の基盤となります。

ステップ2:育成すべき人材像とスキルの定義

ステップ1で明らかになったスキルギャップを基に、「誰に」「どのようなスキルを」「どのレベルまで」習得してもらうのかを具体的に定義します。全従業員に画一的なプログラムを提供するのではなく、事業戦略上の重要度や緊急度に応じて、育成ターゲットと習得スキルに優先順位をつけることが重要です。

まず、DX推進に不可欠な人材像(ペルソナ)を定義します。例えば、以下のような人材像が考えられます。

  • DX推進リーダー:部門を横断してDXプロジェクトを牽引できる人材
  • データサイエンティスト:事業データを分析し、経営判断に資するインサイトを抽出できる人材
  • クラウドエンジニア:自社のサービス基盤をクラウド環境で設計・構築・運用できる人材
  • UI/UXデザイナー:顧客視点でデジタルサービスの使いやすさを設計できる人材
  • 全社的なデジタルリテラシー向上:特定の専門家だけでなく、全従業員がデータやツールを当たり前に活用できる状態を目指す

次に、定義した人材像ごとに必要なスキルを、具体的なスキル名や資格名、ツール名まで落とし込みます。この際、単なるテクニカルスキルだけでなく、課題解決能力やコミュニケーション能力といったビジネススキルも併せて定義することが、実務での活躍につながります。

ステップ3:リスキリングの具体的な学習プログラム設計

育成すべき人材とスキルが明確になったら、それらを習得するための具体的な学習プログラムを設計します。従業員の学習効果を最大化するためには、多様な学習方法を組み合わせ、学びやすい環境を整えることが不可欠です。学習方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、対象者や習得スキルの特性に応じて最適なものを選択しましょう。

主な学習方法とその特徴
学習方法メリットデメリット
eラーニング/オンライン研修時間や場所を選ばずに学習できる。自分のペースで繰り返し学べる。コストを抑えやすい。モチベーション維持が難しい場合がある。実践的なスキルの習得には限界がある。
集合研修(対面/オンライン)講師や他の受講者と直接対話できる。グループワークを通じて実践的な学びが得られる。日程調整が必要。参加者の時間的・場所的制約が大きい。コストが高くなる傾向がある。
OJT (On-the-Job Training)実務を通じて直接スキルが身につく。学習内容が業務に直結するため定着しやすい。指導者のスキルや指導力に効果が左右される。体系的な知識の習得には不向きな場合がある。
社内勉強会/コミュニティ従業員同士で教え合う文化が醸成される。気軽に質問・相談できる。自発的な参加が前提となり、運営に工夫が必要。知識が社内に閉じてしまう可能性がある。

これらの学習方法を組み合わせ、学習目標、期間、評価方法などを盛り込んだカリキュラムを作成します。同時に、LMS(学習管理システム)を導入して学習進捗を一元管理したり、業務時間内に学習時間を確保する制度を設けたりするなど、従業員が安心して学習に取り組める環境整備も進めましょう。

ステップ4:学習プログラムの実行と伴走支援

設計したプログラムを実行に移す段階では、計画通りに進めるだけでなく、従業員のモチベーションを維持するためのサポート体制が極めて重要です。リスキリングは従業員任せにせず、組織として継続的にサポートする「伴走支援」が成功の鍵を握ります。

具体的な伴走支援の方法としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 定期的な1on1ミーティング:上長やメンターが学習の進捗状況を確認し、つまずいている点や悩みについて相談に乗ります。学習の目的を再確認し、キャリアプランと結びつけることで、モチベーション向上につなげます。
  • メンター制度の導入:少し先を歩む先輩社員をメンターとして配置し、技術的な質問だけでなく、学習の進め方やキャリアパスについて気軽に相談できる相手を確保します。
  • 学習コミュニティの活性化:学習者同士が情報交換したり、成果を共有したりできるオンラインの場(チャットツールや社内SNSなど)を用意します。仲間がいるという感覚が、孤独になりがちな学習の継続を支えます。
  • フィードバックの機会:学習の節目で、講師や上長から具体的なフィードバックを受ける機会を設けます。自身の成長を実感できることが、次の学習への意欲となります。

計画を実行するだけでなく、こうした人間的なサポートを通じて、従業員一人ひとりが前向きに学習を続けられる文化を醸成していくことが求められます。

ステップ5 効果測定と学習内容の定着

リスキリングの最終ステップは、「学びっぱなし」で終わらせず、スキルの実践と評価を結びつけて学習効果を最大化することです。投じたコストや時間に見合う成果が出ているかを測定し、得られた知見を次の施策に活かすPDCAサイクルを回していきます。

効果測定は、以下の3つの段階でKPI(重要業績評価指標)を設定すると分かりやすくなります。

効果測定のKPI設定例
測定段階KPIの例
学習段階(研修直後)研修の受講率・修了率、理解度テストのスコア、受講者満足度アンケート
行動変容段階(実務)学習したツールの利用率、新しい業務プロセスの実践率、資格取得者数、関連プロジェクトへの貢献度
業績貢献段階(事業成果)生産性向上率、コスト削減額、開発リードタイムの短縮、新規サービスの創出件数、顧客満足度の向上

測定結果を分析し、プログラム内容や支援体制の改善を継続的に行います。さらに重要なのが、学んだスキルを定着させるための「出口戦略」です。学習したスキルを活かせるプロジェクトへ意図的にアサインしたり、新たな職務や役割を与えたりするなど、実践の機会を積極的に提供しましょう。将来的には、習得したスキルや会社への貢献度を人事評価や報酬制度に連携させることで、従業員の自律的な学習意欲をさらに引き出すことができます。

リスキリングを成功させるための重要なポイント

リスキリングは、単に研修プログラムを導入するだけで成功するものではありません。計画倒れや「やりっぱなし」に陥り、効果が出ないケースも少なくありません。ここでは、企業がリスキリングを成功に導き、持続的な成長を実現するために不可欠な3つの重要なポイントを詳しく解説します。

経営層のコミットメントと明確なビジョンの共有

リスキリングの成否を分ける最大の要因は、経営層の強いコミットメントです。従業員は経営層の姿勢を敏感に感じ取ります。経営層がリスキリングを単なるコストや一過性のブームとして捉えていると、その雰囲気は必ず現場に伝わり、「やらされ感」が蔓延してしまいます。

成功のためには、経営トップが自らの言葉で、なぜ今リスキリングが必要なのか、それによって会社はどのような未来を目指すのかというビジョンを情熱をもって語り続ける必要があります。これは、全社集会や社内報、動画メッセージなど、あらゆるチャネルを通じて繰り返し発信することが重要です。

また、ビジョンを語るだけでなく、具体的な行動で示すことも不可欠です。リスキリングに必要な予算やリソースを十分に確保し、従業員が業務時間を割いて学習に集中できる環境を会社として保証する姿勢を見せることで、従業員は安心して新しいスキルの習得に取り組むことができます。リスキリングは人事部任せの施策ではなく、経営戦略そのものであるという認識を全社で共有することが、成功への第一歩となります。

従業員の自律的な学習を促す企業文化の醸成

リスキリングの主役は、あくまで従業員一人ひとりです。会社から強制される学習では、真のスキル定着やモチベーション向上は期待できません。従業員が「自分のキャリアのために学びたい」「新しいスキルを身につけることは面白い」と感じ、自律的に学習に取り組むような企業文化を醸成することが極めて重要です。

そのためには、心理的安全性が高く、失敗を恐れずに挑戦できる環境が不可欠です。「知らないことは恥ずかしいことではない」「新しい挑戦を歓迎する」というメッセージを明確に打ち出し、学び続ける姿勢そのものを評価する仕組みが求められます。具体的には、以下のような施策が有効です。

施策のカテゴリ具体的な施策例期待される効果
学習時間の確保業務時間内に学習専用の時間を設ける(例:週に2時間など)。
学習休暇制度の導入。
学習が「業務外の負担」ではなく「業務の一環」となり、学習へのハードルが下がる。
心理的安全性の確保上司や同僚が学習内容についてオープンに話し合える1on1ミーティングの実施。
失敗事例を共有し、そこから学ぶ文化の醸成。
質問や相談がしやすくなり、挑戦への不安が軽減される。
コミュニティの形成同じスキルを学ぶ従業員同士の社内SNSグループや勉強会の設置。
メンター制度の導入。
孤独感をなくし、仲間と切磋琢磨することで学習意欲が持続する。
動機付けの仕組みスキル習得者や学習成果を社内で表彰する制度。
学習履歴や取得スキルを可視化できるシステムの導入。
学習の成果が認められることで、達成感やさらなる学習意欲につながる。

学んだスキルを実践できる機会の提供

リスキリングにおける最大の落とし穴は、「学習しただけで終わってしまう」ことです。研修で知識をインプットしても、それを実際の業務で活用する機会がなければ、スキルは定着せず、やがて忘れ去られてしまいます。これでは、投じた時間とコストが無駄になるだけでなく、「せっかく学んだのに使う場所がない」という従業員のモチベーション低下を招いてしまいます。

リスキリングの計画段階から、学んだスキルをどのように業務で活かすのか、具体的な「出口戦略」を設計しておくことが不可欠です。例えば、データ分析スキルを学んだ従業員には、マーケティング部門のデータ分析プロジェクトに参加させたり、営業実績の可視化ダッシュボード作成を任せたりするなど、意図的に実践の場を提供します。

さらに重要なのは、実践の場を提供して「やりっぱなし」にしないことです。新しいスキルを業務で使う際には、誰でも戸惑いや困難を感じるものです。上司やメンターが定期的に進捗を確認し、適切なフィードバックやサポートを行う「伴走支援」がスキルの定着を大きく左右します。そして最終的には、習得したスキルやそれによる業務貢献を人事評価や処遇に適切に反映させることで、学習から実践、そして評価までの一連のサイクルが完成し、リスキリングは企業文化として根付いていくのです。

リスキリングに活用できる国の補助金・助成金制度

リスキリングの導入にはコストがかかりますが、国が提供する補助金や助成金を活用することで、企業の負担を大幅に軽減できます。ここでは、DX推進や人材育成に役立つ代表的な制度を3つご紹介します。自社の目的や状況に合わせて、最適な制度の活用を検討しましょう。

人材開発支援助成金

厚生労働省が管轄する「人材開発支援助成金」は、従業員のキャリア形成を促進するために、職務に関連した訓練を実施する事業主を支援する制度です。複数のコースがありますが、特にリスキリングと関連が深いのが「人への投資促進コース」です。

このコースは、デジタル化や脱炭素化(GX)といった成長分野で活躍できる人材を育成するための訓練を強力に後押しするもので、計画的な人材育成に取り組む企業にとって非常に有効な選択肢となります。

人材開発支援助成金(人への投資促進コース)の概要
項目内容
対象となる訓練の例
  • DX・デジタル人材育成(AI、IoT、クラウド、データサイエンスなど)
  • グリーン・カーボンニュートラル分野の人材育成
  • 海外も含む事業展開に関する訓練
  • 定額制の研修サービス(サブスクリプション型)の利用
主な助成内容
  • 経費助成:訓練にかかった経費の一部(eラーニング、外部講師への謝礼、受講料など)
  • 賃金助成:訓練時間中の従業員の賃金の一部
助成率・助成額(一例)

【経費助成】

  • 中小企業:75%
  • 大企業:60%

【賃金助成(1人1時間あたり)】

  • 中小企業:960円
  • 大企業:480円

※助成率や助成額は訓練内容や企業の規模によって変動します。

活用のポイント事前に「職業訓練計画」を作成し、管轄の労働局へ提出する必要があります。計画に基づいた体系的な訓練であることが重要です。

IT導入補助金

経済産業省(中小企業庁)が管轄する「IT導入補助金」は、中小企業・小規模事業者が業務効率化や売上向上のためにITツールを導入する際の経費を一部補助する制度です。リスキリングそのものを直接の目的とはしていませんが、DX化の過程で活用できる場面があります。

例えば、新たな会計ソフトや顧客管理システム(CRM)、勤怠管理システムなどを導入する際に、そのツールを従業員が使いこなすための研修費用やサポート費用が補助対象となる場合があります。あくまでITツールの導入が主目的であり、その付帯サービスとして研修が含まれる、という位置づけです。

IT導入補助金の概要(リスキリング関連)
項目内容
対象となる事業者中小企業・小規模事業者など
補助対象となる経費の例
  • ソフトウェア購入費、クラウド利用料
  • 導入関連費(コンサルティング費用、導入設定、マニュアル作成など)
  • ITツール活用に関する研修費用や保守サポート費用(※一部の枠・類型に限る)
活用のポイントリスキリング単体での申請はできません。ITツールの導入とセットで検討する必要があります。また、あらかじめ認定された「IT導入支援事業者」と連携して申請手続きを進めるのが一般的です。

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業

経済産業省が推進するこの事業は、企業が直接申請する補助金とは少し異なります。在職者が自らの意思でキャリア相談やリスキリング、さらには転職までを目指すプロセスを、国が認定した民間事業者が一体的に支援するという枠組みです。

企業としては、この制度を従業員に周知し、キャリア自律を促す福利厚生の一環として活用することが考えられます。従業員が主体的にスキルアップすることで、結果的に企業の競争力強化に繋がります。

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業の概要
項目内容
支援の対象者企業に在籍する正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど
支援内容
  • キャリア相談:専門のキャリアコンサルタントとの面談
  • リスキリング:デジタルスキルなどを学べる講座の提供
  • 転職支援:希望者への求人紹介や面接対策などのサポート
費用補助上記のサービスを利用する際、リスキリング講座の受講費用などの最大70%(上限額あり)が補助されます。
企業側の活用メリット従業員の自律的な学習意欲を高め、キャリア自律を支援する企業文化を醸成できます。また、企業が直接的な費用負担をせずとも、従業員に質の高い学習機会を提供できる点が大きな魅力です。

まとめ

本記事では、企業のDX化に不可欠なリスキリングの重要性や具体的な進め方を解説しました。深刻化するIT人材不足に対応し、企業が持続的に成長するため、リスキリングはもはや必須の経営戦略です。明確なビジョンと計画のもとで導入すれば、生産性向上やイノベーション創出に繋がります。

本記事で紹介したステップや国の補助金制度も参考に、自社の人材育成計画を推進していきましょう。

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