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失敗しない値上げのタイミングとは?顧客離れを防ぐ3つの鉄則を解説

投稿日:2025年9月9日 /

更新日:2025年9月9日

失敗しない値上げのタイミングとは?顧客離れを防ぐ3つの鉄則を解説

原材料費の高騰などを背景に値上げを検討する際、最大の懸念は「顧客離れ」ではないでしょうか。本記事では、その不安を解消し、むしろ顧客満足度を高める値上げの秘訣を解説します。結論、成功の鍵は「タイミング」「伝え方」「価値向上」という3つの鉄則にあります。顧客をがっかりさせるNG行動から、業種別の最適なタイミング、納得感を醸成する伝え方まで、明日から実践できるノウハウを網羅し、失敗しない価格改定の実現をサポートします。

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目次

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顧客離れを招く値上げのタイミングとNG行動

値上げは、事業を継続し成長させるために不可欠な経営判断です。しかし、そのタイミングや方法を一つ間違えると、大切なお客様の信頼を失い、深刻な顧客離れ(チャーン)を引き起こす引き金になりかねません。特に、顧客心理を無視した一方的な価格改定は、SNSなどでの批判やブランドイメージの低下に直結するリスクをはらんでいます。

まずは、絶対に避けるべき値上げのタイミングとNG行動を具体的に見ていきましょう。

予告なく突然値上げする

顧客にとって最も不快なのが、何の前触れもなく、ある日突然価格が上がっているケースです。これは顧客に対する「不意打ち」であり、裏切られたという感情を抱かせる最悪の行動と言えます。特に、月額課金制のサブスクリプションサービスや、定期的に利用するサービスの場合、顧客は自身の予算計画の中で利用を続けています。事前の告知がなければ、その計画を一方的に崩されることになり、企業への不信感が一気に高まります。

例えば、ある日スーパーに行ったらお気に入りの商品の値段が上がっていた、請求書を見て初めてサービスの料金改定に気づいた、といった経験は誰にでもあるでしょう。このような「ステルス値上げ」とも呼ばれる行為は、短期的な利益は得られるかもしれませんが、長期的に顧客との信頼関係を著しく損なうため、絶対に避けるべきです。

値上げの理由が不明確または不誠実

顧客は、値上げそのものに反対しているわけではありません。納得できる理由があれば、多くの場合、理解を示してくれます。問題は、その理由が曖昧であったり、不誠実であったりする場合です。「なぜ値上げするのか?」という顧客の当然の疑問に対して、真摯に答える姿勢がなければ、「会社の都合だけ」「便乗値上げだ」というネガティブな印象を与えてしまいます。

以下に、顧客の不信感を招く不誠実な理由の例を挙げます。

NGな理由の伝え方顧客が抱く印象
「諸般の事情により」何も説明していないのと同じ。何か隠しているのではないかと疑念を抱く。
「昨今の経済状況を鑑み」具体性がなく、どの企業でも言えること。自社の努力不足を棚に上げているように聞こえる。
「業界の動向に合わせて」他社に追随しただけの「便乗値上げ」と捉えられ、主体性のない企業だと思われる。

価格改定の背景には、原材料費の高騰、人件費の上昇、物流コストの増加、あるいはサービス向上のための設備投資など、具体的な要因があるはずです。正直に、そして具体的に理由を伝える誠実さが、顧客の納得感を得るための鍵となります。

サービスの質を落として値上げする

これは顧客離れを招く行動の中でも、最も致命的な過ちです。価格が上がる一方で、提供されるサービスの品質や商品の内容量が低下する、いわゆる「シュリンクフレーション」や「実質値上げ」は、顧客にとって「二重の裏切り」に他なりません。

顧客は「価格」と「価値」のバランスを常に見ています。値上げによって支払う金額が増えるのであれば、少なくとも同等、あるいはそれ以上の価値が提供されることを期待します。それにもかかわらず、サービスの質が低下すれば、そのバランスは完全に崩壊します。

  • 飲食店:値上げしたのに、食材のグレードを下げたり、一皿のポーションを小さくしたりする。
  • 商品:価格は据え置き、または値上げしたのに、内容量を減らす。
  • サブスクリプションサービス:月額料金を上げたのに、サポート体制を縮小したり、これまで利用できた機能を制限したりする。

このような行為は、顧客満足度を著しく低下させ、最も離反に繋がりやすいパターンです。一度失ったブランドへの信頼を取り戻すのは極めて困難であり、企業の存続そのものを脅かす危険性があることを肝に銘じておく必要があります。

【鉄則1】最適な値上げのタイミングを戦略的に選ぶ

値上げの成否は、その「タイミング」が8割を占めると言っても過言ではありません。同じ値上げ幅であっても、タイミングを間違えれば顧客の反感を買い、致命的な顧客離れにつながる可能性があります。逆に、戦略的に最適なタイミングを選べば、顧客の納得感を得ながらスムーズに価格改定を完了させることが可能です。

ここでは、値上げを成功に導くためのタイミングの選び方を「自社のサイクル」と「市場の動向」という2つの軸から具体的に解説します。

自社のサイクルに合わせるタイミング

まずは、外部環境の変化だけでなく、自社の事業活動の節目を値上げの機会として捉える視点が重要です。顧客にとって値上げの理由が分かりやすく、ポジティブな変化と結びつけやすいタイミングを狙いましょう。

新商品やリニューアルのタイミング

最も顧客の理解を得やすいのが、商品やサービスを大幅にリニューアルするタイミングです。既存の商品をそのまま値上げするのに比べ、心理的な抵抗感が格段に低くなります。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 飲食店のメニューを全面的に刷新し、新メニューとして新しい価格で提供する
  • ソフトウェアに待望の新機能を追加するメジャーアップデートと同時に料金プランを改定する
  • 商品のパッケージデザインを一新し、内容量や原材料の質を向上させて価格を改定する

このように、価格改定が「価値の向上」とセットになっていれば、顧客は「良くなったのだから、価格が上がるのも当然だ」と納得しやすくなります。重要なのは、見た目だけの変更ではなく、顧客が明確にメリットを感じられる実質的なバージョンアップを行うことです。値上げを、ブランド価値をさらに高めるための絶好の機会と捉えましょう。

事業年度の切り替わりのタイミング

法人向けのサービス(BtoB)はもちろん、個人向けのサービス(BtoC)においても、事業年度や会計年度の切り替わりは価格改定に適したタイミングです。

多くの日本企業が4月を新年度の始まりとしているため、「4月1日からの価格改定」という告知は、顧客にとっても一種の「区切り」として受け入れられやすい傾向にあります。特に法人顧客の場合、新年度の予算策定のタイミングと重なるため、改定後の価格を来期の予算に組み込んでもらいやすくなるというメリットもあります。

このタイミングを選ぶ際は、顧客が予算計画を立てる時間を考慮し、2〜3ヶ月前には予告することが不可欠です。年度末の慌ただしい時期に突然告知すると、かえって心証を損ねる可能性があるため、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。

市場の動向に合わせるタイミング

自社の都合だけでなく、市場全体や競合の動きを注意深く観察することも、最適なタイミングを見極める上で欠かせません。世の中の流れに乗ることで、値上げの正当性を補強することができます。

業界全体で値上げムードがあるとき

原材料費や原油価格の高騰、物流コストの上昇、最低賃金の引き上げなど、社会経済的な要因によって業界全体が値上げせざるを得ない状況になることがあります。ニュースなどで「〇〇業界で値上げが相次ぐ」といった報道がなされている時期は、絶好のタイミングです。

顧客自身も「仕方ない」という空気を肌で感じているため、値上げに対する心理的なハードルが大きく下がっています。自社だけが値上げするのではなく、市場全体の不可逆的な変化に対応するためである、という客観的な事実を伝えることで、顧客の理解をスムーズに得ることができます。

ただし、他社に追随するだけでは誠実さが伝わりません。「業界全体がこのような状況下にあり、弊社としましても企業努力だけではコスト増を吸収することが困難になりました」というように、自社の状況と結びつけて丁寧に説明することが重要です。

季節的な需要のピーク前

需要が一年で最も高まる「繁忙期」の少し前に価格を改定するのも有効な戦略です。例えば、夏休み前の旅行業界、年末商戦を控えた小売業界、新生活シーズン前の引越し業界などがこれにあたります。

需要が供給を上回る時期は、顧客の購買意欲が非常に高いため、価格が多少上昇しても購入に至る可能性が高い、つまり「価格弾力性」が低くなる傾向にあります。このタイミングを狙うことで、値上げによる販売機会の損失を最小限に抑えつつ、収益を最大化することが期待できます。

注意点として、繁忙期に便乗しただけの「足元を見た値上げ」と捉えられないよう、慎重なコミュニケーションが求められます。サービスの品質向上や、繁忙期に対応するための人員増強といった、顧客への提供価値向上につながる理由をセットで説明することで、納得感を醸成しましょう。

値上げタイミング別メリット・デメリット
タイミングメリットデメリット・注意点
新商品・リニューアル時価値向上とセットのため、顧客の納得感が最も得やすい。リニューアルに伴う開発・改修コストや時間がかかる。
事業年度の切り替わり経理処理がしやすく、法人顧客の予算策定に合わせやすい。十分な予告期間が必要。直前の告知は不信感を招く。
業界全体の値上げムード社会的な背景があり、値上げの正当性を主張しやすい。他社と同じ理由だけでは不十分。自社の言葉で説明する必要がある。
季節的な需要のピーク前需要が高いため、売上へのマイナス影響を最小限に抑えられる。便乗値上げと誤解されるリスクがあるため、伝え方に細心の注意が必要。

【鉄則2】顧客の納得感を醸成する誠実な伝え方

値上げの成否を分ける最大の要因は、タイミングそのものよりも「伝え方」にあると言っても過言ではありません。どれだけ最適なタイミングを選んでも、顧客への伝え方を誤れば、一瞬で信頼を失い、深刻な顧客離れを引き起こす可能性があります。逆に、誠実で丁寧なコミュニケーションを尽くせば、顧客の理解を得られるだけでなく、ブランドへの信頼やロイヤルティを一層深める機会にもなり得ます

ここでは、顧客の納得感を最大限に引き出すための、誠実な伝え方の3つのステップを具体的に解説します。

最低1ヶ月前からの段階的な告知

値上げは、顧客にとって決して嬉しいニュースではありません。だからこそ、「突然の発表」は絶対に避けるべきです。顧客が心の準備をしたり、予算の再検討をしたりするための時間的猶予を十分に提供することが、誠実な対応の第一歩です。告知期間の目安は、少なくとも「1ヶ月前」から。可能であれば、さらに早い段階から複数回に分けて情報を発信するのが理想的です。段階的な告知は、顧客の驚きや不信感を和らげる効果があります。

以下に、BtoCビジネスにおける段階的告知のスケジュール例と、それぞれの段階で伝えるべき内容をまとめました。

タイミング主な告知チャネル伝えるべき内容のポイント
1ヶ月〜2ヶ月前
(事前予告)
公式サイトのお知らせ、メールマガジン、SNS
  • 価格改定を検討している旨を予告する。
  • 背景にある社会情勢(例:原材料費の高騰)などに軽く触れる。
  • 具体的な価格や時期は未定でも良い。「〇月頃に価格改定を予定しております」といった形で伝える。
約1ヶ月前
(正式告知)
公式サイト、メールマガジン、SNS、プレスリリース、店頭POP
  • 改定日、対象商品・サービス、新旧価格を明確に提示する。
  • 価格改定の具体的な理由を、誠意をもって詳細に説明する。(後述)
  • 日頃の感謝と、今後のサービス向上への意欲を表明する。
1〜2週間前
(リマインド)
メールマガジン、SNS、店頭POP
  • 価格改定日が近づいていることを再度お知らせする。
  • 「現行価格でのご購入は〇月〇日まで」といった形で、顧客の行動を促す。
  • 問い合わせ窓口を案内し、顧客の疑問や不安に対応する姿勢を見せる。

特にサブスクリプションサービスやBtoBの継続契約の場合は、顧客が契約更新の判断をするために十分な時間が必要です。契約内容によっては、3ヶ月以上前からの告知が望ましいケースもあります。自社のサービス特性に合わせて、最適な告知期間を設定しましょう。

価格改定の背景を正直に伝える

顧客が値上げを受け入れるかどうかは、その理由に納得できるかどうかにかかっています。「諸般の事情により」といった曖昧な言葉で濁すのは最も不誠実な対応です。なぜ価格を上げざるを得ないのか、その背景を具体的かつ正直に、そして顧客視点で伝える努力が不可欠です

伝えるべき要素は、主に以下の4つです。

  1. 値上げの直接的な原因
    「原材料費が〇%高騰」「物流コストの上昇」「円安による仕入れ価格への影響」など、可能な範囲で具体的な数字や社会情勢を交えて説明することで、説得力が増します。自社だけでは抗えない外部要因であることを伝えるのがポイントです。
  2. これまでの企業努力
    すぐに値上げに踏み切ったのではなく、「業務効率化や経費削減など、社内努力を重ねてまいりましたが」といった一文を加えることで、価格維持のために尽力してきた姿勢が伝わり、顧客の理解を得やすくなります。
  3. 品質維持・向上のためという必然性
    値上げは、サービスの品質を維持し、今後さらに向上させていくために必要な経営判断であることを強調します。「現行価格のままでは、従来の品質を維持することが困難な状況」であることを正直に伝え、値上げが顧客への価値提供を続けるための最善策であることを理解してもらいましょう。
  4. 感謝とお詫び
    まず、日頃ご愛顧いただいていることへの感謝を伝えます。その上で、顧客に負担を強いることへのお詫びの気持ちを真摯に表明することが、信頼関係を維持するために極めて重要です。

これらの要素を盛り込み、誠意ある文章を作成することが、顧客の納得感を醸成する鍵となります。

日頃の感謝と今後の展望を表明する

値上げの告知を、単なる「値上げのお知らせ」で終わらせてはいけません。これは、顧客との関係性を再確認し、未来への期待感を共有する絶好のコミュニケーション機会です。価格改定の理由を説明した後には、必ず日頃の感謝の気持ちと、値上げによって実現可能になる「今後の展望」をセットで伝えましょう

例えば、以下のようなポジティブなメッセージを発信します。

  • 「今回の価格改定により生まれる余力を、新商品の開発や研究に投資し、お客様の期待を超える体験をお届けしてまいります。」
  • 「より一層のサービス品質向上に努め、スタッフの研修制度を充実させることで、これまで以上に快適な時間をご提供することをお約束いたします。」
  • 「お客様からいただいた声を反映し、〇〇機能の追加やサポート体制の強化を実現してまいります。」

このように、値上げが結果的に顧客への提供価値の向上に繋がることを具体的に示すことで、顧客は「自分たちのための値上げなのだ」と感じ、価格改定を前向きに捉えやすくなります。「これからも、このブランドを応援し続けたい」と思ってもらうことがゴールです。単なる価格変更の通知ではなく、顧客への感謝と未来への約束を伝えることで、厳しい局面を乗り越え、より強固な信頼関係を築いていきましょう。

【鉄則3】価格以上の価値向上を顧客に約束する

値上げは、顧客にとって直接的な負担増となります。その負担感を上回る「メリット」や「付加価値」を提示できなければ、顧客離れは避けられません。重要なのは、値上げを単なる「コスト増加分の転嫁」で終わらせず、「サービスをさらに良くするための投資」と位置づけ、顧客に還元する姿勢を示すことです。価格改定を機に、顧客満足度をさらに高めるための具体的な3つのアプローチをご紹介します。

既存サービスの品質をさらに向上させる

最も基本的かつ重要なのが、提供しているサービスや商品の「質」そのものを向上させることです。顧客が日頃から利用しているサービスのクオリティが目に見えて上がれば、価格改定への納得感は格段に高まります。値上げの理由が原材料費の高騰など外部要因であったとしても、「その分、もっと良いものを提供します」という明確なメッセージが伝わります。

品質向上は、業種によって様々な形で実現できます。大切なのは、顧客が「確かに良くなった」と実感できる具体的な変化を示すことです。

表1: サービス品質向上の具体例
業種品質向上の具体策
飲食店・より高品質な食材への切り替え(例:国産ブランド豚、契約農家の有機野菜)
・人気メニューのレシピ改良やボリュームアップ
・店内環境の改善(清掃の徹底、BGMや照明の見直し)
小売・ECサイト・商品の梱包をより丁寧・高品質なものに変更
・配送スピードの向上(翌日配送エリアの拡大など)
・商品の素材や製造工程に関する情報開示を充実させる
コンサルティング・レポート内容の分析をより詳細にし、具体的なアクションプランを追加
・面談や打ち合わせの時間を延長
・業界の最新動向をまとめた独自レポートを定期的に提供

こうした地道な改善の積み重ねが、「この価格でも、このクオリティなら満足だ」という顧客の信頼を勝ち取るための土台となります。

新機能や限定特典を追加する

既存サービスの品質向上に加え、新しい価値を提供することも非常に効果的です。値上げと同時に新機能や特別な特典を追加することで、顧客の不満を「新しい体験への期待感」へと転換させることができます。これは特に、サブスクリプションサービスや会員制ビジネスにおいて強力な一手となります。

特典を設計する際は、顧客が「自分は特別扱いされている」「このサービスを使い続けるメリットがある」と感じられるような工夫が求められます。

表2: 新機能・限定特典のアイデア
アプローチ具体策の例
新機能の追加・【SaaS】利便性を高める新機能の実装、他社ツールとの連携強化
・【フィットネスジム】新しいトレーニングマシンの導入、オンラインレッスンプログラムの開始
会員ランク・ステージ制の導入・利用期間や金額に応じてランクが上がり、特別な割引や限定コンテンツが利用できる仕組みを作る
限定コンテンツ・イベント・長期契約者限定のオンラインセミナーや交流会への招待
・新商品や新サービスを一般公開前に試せる先行体験の機会を提供
ロイヤルティプログラム・値上げ後も継続利用してくれる顧客に対し、次回利用できる特別なクーポンやポイントを付与する

値上げによる顧客離れ(チャーンレート)を抑え、むしろ顧客エンゲージメントを高めるためには、こうした「価格以上の何か」を戦略的に提供することが不可欠です。

顧客へのサポート体制を強化する

安心してサービスを使い続けられる環境を提供することも、価格に見合う価値の一つです。特に、高価格帯の商材や専門的な知識が必要なサービスにおいて、手厚いサポートは顧客の継続利用を決定づける重要な要素となります。問い合わせへの迅速な対応や、顧客一人ひとりに寄り添った丁寧なフォローは、価格以上の安心感と信頼感を生み出します。

サポート体制の強化は、単に人員を増やすだけでなく、仕組みやツールを見直すことでも実現可能です。

表3: 顧客サポート体制強化の具体策
観点具体策の例
問い合わせ対応の改善・サポート窓口の営業時間を延長(例:平日夜間や土日対応の開始)
・チャットボット導入による24時間365日の一次対応
・問い合わせへの平均応答時間の目標設定と公開
情報提供の充実・オンラインマニュアルやFAQ(よくある質問)ページを全面的に見直し、より分かりやすく充実させる
・サービスの活用方法を解説するウェビナーを定期的に開催
個別対応の強化・高額プランの契約者向けに専任のカスタマーサクセス担当者を配置
・定期的なオンライン面談による利用状況のヒアリングと改善提案

充実したサポート体制は、顧客が抱える不安や疑問を解消し、長期的な信頼関係を築くための生命線です。目に見えにくい部分だからこそ、ここに投資する企業の姿勢は顧客に高く評価され、価格改定への納得感を強力に後押しします。

【業種別】値上げタイミングの考え方

ここまでは、値上げのタイミングに関する一般的な鉄則を解説してきました。しかし、最適なタイミングは業種によって特性が大きく異なります。自社のビジネスモデルに合った、より具体的な値上げの考え方を理解することが成功の鍵を握ります。

本章では、「飲食店」「美容室・サロン」「サブスクリプションサービス」の3つの業種に焦点を当て、それぞれの値上げタイミングの考え方を深掘りします。

飲食店の場合

飲食店は、原材料費や光熱費、人件費といったコストの変動が直接経営に影響を与えやすい業種です。そのため、値上げは避けて通れない経営判断となりますが、顧客の価格に対する敏感さも高いため、タイミングと伝え方が極めて重要になります。

メニューの大幅リニューアル時

最も顧客の理解を得やすいのが、メニューを大幅にリニューアルするタイミングです。新メニューの投入や、既存メニューの品質向上(例:国産食材への切り替えなど)と同時に価格改定を行うことで、顧客は「単なる値上げ」ではなく「価値の向上」と捉えやすくなります。グランドメニューの刷新は、価格を見直す絶好の機会と言えるでしょう。

季節メニューの切り替え時

旬の食材を使った季節限定メニューを導入するタイミングも有効です。例えば、夏メニューから秋メニューへ切り替える際に、一部の定番メニューの価格も調整します。季節の変わり目はメニューが変わるのが自然であり、その流れの中で行われる価格改定は、顧客に受け入れられやすい傾向があります。

店舗改装や設備投資の後

「お客様により快適な空間を提供するため、内装をリニューアルしました」「最新の厨房設備を導入し、より迅速な提供が可能になりました」といった、顧客体験の向上に直結する投資を行った後のタイミングも説得力があります。投資によって提供価値が向上したことを明確に伝えられるため、価格改定の正当性が高まります。

飲食店の値上げタイミング別ポイント
タイミングメリット注意点
メニューリニューアル時価値向上とセットで伝えやすく、最も納得感を得やすい。メニュー開発や印刷物の刷新にコストと時間がかかる。
季節メニューの切り替え時定例的な変更のため、値上げが目立ちにくい。一度に大幅な値上げをすると、リピーターに気づかれやすい。
店舗改装や設備投資後明確な理由付けができ、顧客満足度の向上も期待できる。投資コストを回収できる範囲での、慎重な価格設定が求められる。

美容室・サロンの場合

美容室やエステサロンなどの店舗型サービスは、技術や接客といった「人」が提供価値の中心です。顧客との信頼関係がリピート率に直結するため、一方的な値上げは失客のリスクを高めます。顧客との関係性を維持しつつ、適正な価格へ改定するためのタイミングを見極める必要があります。

新技術・新メニューの導入時

新しいトリートメントや最新の施術機器などを導入するタイミングは、価格体系を見直す好機です。高付加価値の新しい選択肢を提供することで、顧客は「サービスの選択肢が増えた」と感じます。その流れで、既存メニューの価格を「技術維持・向上のため」として改定すると、スムーズに受け入れられやすくなります。

スタイリストのランクアップ時

スタイリストが昇格し、「トップスタイリスト」「ディレクター」といった肩書きに変わるタイミングで、指名料を改定したり、施術料金にランク別の価格を設定したりする方法です。技術力の向上という分かりやすい理由があるため、顧客は納得しやすいでしょう。これは、店舗全体の値上げではなく、個々のスタッフの成長に合わせた価格設定として有効です。

繁忙期を避けた閑散期の告知

美容業界では、3月や12月が繁忙期にあたります。顧客が殺到する時期の値上げは、混乱を招きやすく不満にもつながりかねません。そこで、比較的予約が落ち着いている閑散期(例:2月や6月)に余裕をもって告知を行い、次の繁忙期に向けて新価格を浸透させていくという戦略が考えられます。

サブスクリプションサービスの場合

月額課金や年額課金でサービスを提供するサブスクリプションモデルは、継続利用が前提です。そのため、価格改定は解約(チャーン)に直結する非常にデリケートな問題です。顧客が「払い続ける価値がある」と判断できるタイミングと理由が不可欠です。

大規模な機能アップデート・コンテンツ追加時

値上げを正当化する最も強力な理由は、サービスの価値が明確に向上することです。ユーザーが待ち望んでいた新機能の実装、サーバー増強によるパフォーマンスの大幅改善、動画配信サービスにおける独占配信コンテンツの大量追加など、誰の目にも明らかな価値向上があったタイミングがベストです。値上げの発表と同時に、そのアップデートがもたらす顧客へのメリットを具体的に示しましょう。

料金プランの改定・新プラン追加時

既存プランを単純に値上げするのではなく、料金プラン全体を再設計するのも有効な手段です。例えば、以下のような方法が考えられます。

  • 既存プランを値上げし、さらに高機能な上位プランを新設する
  • 既存プランは価格を据え置き、一部機能を制限した安価な新プランを設ける
  • 利用量に応じた従量課金プランを導入する

顧客に選択肢を与えることで、一方的に値上げを強制されたという印象を和らげることができます。

既存ユーザーへの猶予期間を設ける

サブスクリプションサービスの値上げで特に重要なのが、既存顧客への配慮です。例えば、「新規契約のお客様は本日より新価格となりますが、現在ご利用中のお客様は、次回の契約更新まで(あるいは、今後3ヶ月間は)旧価格のままご利用いただけます」といった経過措置を設けることで、長年の利用者の不満を和らげ、解約率の上昇を抑制する効果が期待できます。

まとめ

本記事では、顧客離れを防ぎ、失敗しない値上げのタイミングと3つの鉄則を解説しました。結論として、値上げ成功の鍵は「戦略的なタイミング」「誠実な伝え方」「価格以上の価値提供」にあります。予告なく値上げしたり、理由が不透明だったりすると顧客の信頼を失います。

原材料費の高騰などが避けられない今だからこそ、これらの鉄則を丁寧に実行し、顧客との関係を強化しながら事業を成長させましょう。

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