従来型の人事施策の限界から生まれた「ウェルビーイング」重視の経営
――採用・教育・待遇などの人事施策の面で従来型の手法ではうまくいかなくなっている、と実感している企業が増えているようです。この背景には、どのようなことがあるとお考えですか?
飯田 日本の多くの企業では年功序列型の人事施策が主流でした。とくに重厚長大型の製造業では、この方法でうまくマネジメントできていたからです。仕事の現場でも経験年数の長い人が、その経験、つまり「勝ちパターン」に則って若い人を率いて仕事をしていればうまくいっていました。だから、製造業以外の中小企業でも、同じような人事施策を進めていたのです。しかし、それではうまく回らない、ビジネスでも負けてしまうケースが増えてきたために、そこで大手企業を中心に「年功序列型」から「実力主義」に変える動きが出てきました。
――その方針転換は2000年に入ったころから始まりましたね。必ずしも成功しているとは思えないのですが……。
飯田 一時的に「年齢、経験を度外視したオールスターチーム」を作って仕事を回しても、必ずしもうまくいくとは限らないことが分かってきました。そこで、「年功序列型」のチーム編成に戻る企業も出てきました。さらにいえば働く人たちの変化も大きく影響しています。これを理解できない企業は、「長く活躍し続ける人材」を獲得するのが難しくなってきたのだと思います。この段階がコロナ禍以前の日本企業の「人事施策の混迷」の実態だったのではないでしょうか。
――混迷から抜け出した企業は、「働く人たちの変化」にいち早く気づいたということでしょうか。
飯田 昨今、実力主義のなかで勝ち抜くよりも、副業をしたり、フリーランスになったりして実力を試したいという人も少なからずいます。つまり働き方に対するニーズが多様化しているわけです。「年功序列から実力主義へ」を歓迎する人もいますが、どうもそれだけが社員から求められているものではない、ということが明らかになったのですね。そこで海外の事例などを調べてたどり着いたのが「ウェルビーイング(well-being)」です。報酬はモチベーションを上げる要素の一つではありますが、それだけではなく肉体的、精神的、そして社会的にも健康で、幸せを感じられることも同じように重視されるのだと、多くの企業が気づき始めています。また「ウェルビーイング」はSDGsの8番目の目標である「働きがいも経済成長も」にも関連する考え方として、多くの人に注目されています。
――「ウェルビーイング」重視の経営にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
飯田 「ウェルビーイング」を推進して幸福度が高い社員は、そうでない人と比較して、「離職率が37%低い*1」「生産性が31%高く売上も37%も高い*2」「業務中の事故が70%低い*3」といった調査結果もあります。こうした結果を見ただけでも「ウェルビーイング」を充実させることが組織にとってどれだけ重要なのかがわかるはずです。従業員の幸福を考えない組織は企業間の競争からも取り残されていくことになります。
*1 Donovan, 2000 Do Happier Employees Really Stay Longer?:David Wyld Southeastern Louisiana University
*2 Lyubomirsky,King,Diener,2005
*3 ギャラップ,2016
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まず組織が何をめざしどんな人材を求めているのかを明らかにする
――社員の「ウェルビーイング」のレベルを向上させるにはどうすればいいのでしょうか?
飯田 具体的にどんなことをする、ということを考える前に、まず自社にとって社員の幸福とは何かを考え、1つの軸となるものを構築する必要があるでしょう。よく、「ウェルビーイング」向上のために全社員から意見を聞いて、それらを1つずつ実現させよう、というケースがありますが、これでは人事担当者など管理側が疲弊していくだけです。もちろん社員の意見を聞くことは大切ですが、まず組織が「自社の社員にとっての幸福はこういうものだ」ということを定め、それを軸にしてできることと、できないことを分けて実行に移していきます。そうすることで、その組織の風土に合った従業員が集まり、長く高いパフォーマンスを発揮し続けてくれる可能性が高まるはずです。
――軸を作るために、何かよい方法はあるのでしょうか?
飯田 「企業の魅力因子4P」というのがあります。この4Pとは、Philosophy( 理念・目的)、Profession(仕事・事業)、People(人材・風土)、Privilege(特権・待遇)の4つです。それぞれのPについて自社の特徴や目指す方向などを整理して考えることで、「それらを達成することで社員の幸福度も向上する」ということになります。
――こうした軸を構築している企業の例があればおしえてください
政府が提唱する「新しい資本主義」では「人的資本経営」の重要性が指摘されています。「人的資本経営」では、人材を資本としてとらえ、上場企業では業績数字だけでなく人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と合わせて開示することが求められるようになりました。つまり幸福度が低い社員が増加し、人材という資本の質が低下することは、大きくいえばその企業の存在をも左右する要素になってきました。そうした意味で「ウェルビーイング」はますます影響力の高い要素なっているのです。
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適性検査クラウド ミキワメの資料請求はこちらこれからの「組織と人材のマッチング」には客観的に判断できるツールが必要
――ここまでお話をうかがって、人事施策にも新しい考え方が必要だということが分かりました。「優秀な人材」を集めて、あとは現場で教育して、という以外の方法が必要ですね。
飯田 例えば中途採用で有名企業の出身者を面接で採用したからといって、必ずしもいいパフォーマンスを発揮してくれるかどうかは分からない、ということはどんな人事担当者の方も分かっていると思います。まず、そもそも自社の風土や仕事の環境に合うかどうか、さらに継続的に高いパフォーマンスを出せるかどうかも分かりません。そのためにも、まず「企業の魅力因子4P」などを参考にした自社にとっての人材に関する軸を明確にして採用を実施することが重要でしょう。そして入社後も定期的に心理的な状態を把握して、問題があれば丁寧にケアしていくことがこれからは欠かせなくなってくるはずです。
――そうした場合に御社が展開する適性検査クラウド「ミキワメ」のようなサービスが役に立つわけですね
飯田 私どもが提供しているサービスは、簡単にいうと、採用候補者が活躍できる人材かどうかを見極めるためのものです。それを低価格で実施できます。例えば採用の基準があいまいで、面接だけで採用を決めていると、面接官の感覚で合否が決まってしまい、入社後にミスマッチが発覚して時間やコストをロスが生じてしまいます。「ミキワメ」では当社が顧客企業様の採用基準策定をお手伝いし、ツールの利用方法などもコンサルティングします。
――入社後のケアについてはどうでしょうか
飯田 「ミキワメ ウェルビーイング」というサービスを提供しており、社員のメンタル状態を可視化し、性格をもとにアドバイスすることが可能です。多くの場合、3カ月間メンタルの不調が放置されると回復するまでかなりの時間を要する状態、つまり休職、離職に至る可能性があるといわれています。「ミキワメ ウェルビーイング」は1カ月か2カ月に一度、2分のサーベイを行うことで「仕事への活力」「会社への愛着」「仕事内容」「人間関係」「業務負担」の5つの指標を可視化します。これにより、全社や各部署の状況に加え、サポートが必要な社員が「最優先ケア」「優先ケア」社員として表示され、手遅れになることを防ぐのです。また本人の性格にあった状態を改善するためのアドバイスを提供しますので、管理者の方にとっても適切なアクションを起しやすいはずです。
――こうしたサービスを利用する企業も増加しているようです。今後、企業の人事施策は大きく変わっていくと思われますか?
飯田 人材の採用・教育という面では、旧来の方法がまだまだ残っていくとは思いますが、同時に、人のパーソナリティを迅速にサーベイし分析、ケアを行っていく「パーソナリティテック」ともいうべき分野は今後ますます発展していくと思います。われわれもこれまで開発してきた技術をさらにブラッシュアップして、より多くの人に利用してもらいたいと考えています。少なくとも近い将来「社員の幸福を考えない企業なんてありえない」という考え方が定着していくと思います。
――貴重なお話、ありがとうございました。
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